P17 初恋と嫉妬
お兄ちゃんのことを好きになったのは、出会って暫く経った頃だ。
私はママのDVの影響で、人の裏の性格というものに恐怖を抱くようになった。
毎日人が見ていない所での暴力。だが、外では優しいママ。その影響による普段とのギャップ。
意味がわからなくった。
どっちが現実で、どっちが本物で。
でも、ある時気がついてしまった。
どちらとも現実であるということ。
どうしようもなく私を邪魔としか思っていないあの瞳。
悲しいまでに私はママに必要とされていなかった。
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日に日にエスカレートしていたママの暴力。
近所からの苦情と偶然早くパパが帰宅したことで、発覚した。
ママから離れることが出来てパパと暮らすようになった。
痛めつけられることはなくなった。
でも、我慢していたモノに限界が来たのだろう。
わたしは引きこもるようになった。
だから中学校はろくに行ってない。
このままではいけない。何度も思ったが、周りが何を思っているのか怖くなった。
なら、私なんていなくてもいいのでは無いか。いない方が、幸せなんじゃないか。そう思った。
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「パパも誰か好きな人見つけたら?私のせいで大変でしょ。」
何気ない一言だった。
引きこもりの娘のために、仕事して家事しての毎日。
申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
大量に渡されていたバレンタインチョコが視界に入ったからかもしれない。
私はそんなことを口にした。
「娘のために頑張ってるんだ。苦だと思ったことは無いよ。ママのことは俺にも責任の一旦はあるからね。」
「ふーん。そ。でも良い人いたら、私に遠慮しないでね。」
「いいのか?」
「逆に気を遣われる方が嫌。私に干渉しないなら気にしない。」
「そっか、ありがとうな。」
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それからパパはすぐに『天竺』さんと仲良くなった。
同じ職場だったらしい。子育ての話やお互いにシングルのために話すうちに仲良くなったと言う。
天竺さんには息子がいて、私と歳が近いということで連れてきた。
名前を『天竺想』といった。
高校生の男で、スポーツが出来そうな見た目で好青年と言った感じだった。
「あ、どうも!」
「ども。」
私は適当に返して、部屋にこもる。
悪い人では無いのだろう。
だけれど、何もかもを持っているようで正直イラついた。
美人なお母さんにさやかな笑顔。
私は対称的で暗くて、父親に何でもやって貰ってる。
恥ずかしい、悔しい、そんな気持ちでいっぱいだ。
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結婚するという話が出るのは思ったよりも早かった。
私は「好きにしたらいい」と一言だけパパに伝え、部屋に籠る生活が続いた。
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「たまには一緒に食べないか?」
パパはいつもご飯を4人で食べることを勧めてくれた。
正直新しい美人なお母さん、かっこいいお兄ちゃん。
悪い気はしていなかった。
ただ、私自身を受け入れて貰える自信がなかった。
「後で食べる。置いておいて。」
「そっか、気が向いたら来いよ?」
「ん」
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布団にこもり暗い部屋で過ごす。
「……さすがにお腹すいたな」
わたしは深夜リビングに向かい、ラップしてあったご飯を冷たいまま口に運ぶ。
「……。」
冷たくてあまり美味しくない。
「お、起きてたのか。」
私は話しかけられると思っておらず、ビクンと飛び上がる。
「あ、わり。俺、想。驚かせて悪いな。」
「……なに?」
寝巻きに着替えた想はニコッと微笑んでくれる。
なんでこんな時間に起きているの。
早くどっか行って欲しい。
私髪ぐちゃぐちゃだし。
「あっためた方が美味いぞ?それ。」
「レンジ使うのめんどい。」
「そっか、なら仕方ないな。」
「なに?早く寝れぱ?」
想は微笑みながら私の向かいの席に座る。
ニコニコと笑っていて気持ち悪い。
「いやさ、やっと話せたなって。」
「……あっそ。」
「いきなり他人と同居することになってさ、嫌かなって思ってたんだ。でもさ、受け入れてくれたじゃん。……干渉しないならいいってさ。」
「……だから、話しかけないでよ。放っておいて。まじきもい。」
「急に押しかけちゃってごめんな、それだけちゃんと話したかったんだ。」
「あっそ、部屋戻りなよ。だるいから。」
「あと一つだけ。俺も干渉しないし、家だと思って暮らす。だからお前もそうしろ。こんな時間に飯食うな。お前の家なんだから、好きに過ごせ。」
「そういうの、だるいし、キモイ。それを干渉って言うの。あーもう!」
いい人ぶったお節介に苛立ちを隠せず、わたしはテーブルを叩いて部屋に戻ろうとする。
だが、我慢できず怒鳴ってしまう。
「兄貴顔すんなよ!!!血なんて繋がってないだろ!!!」
刹那。私の腕を想は掴み、真剣な眼差しで見つめてくる。
「なに?怒ったの?だったら、ごめんなさいね!でもわたしはそういうのめんどくさいの!放っておいて!!!住むなら勝手にすれば?迷惑かけてないじゃん!これが私のリズムなの!!!」
「なんだよ思ってること言えるじゃん!!!」
「はい?」
「お前もったいねえよ!!そんな強気でいれるなら、大丈夫だな!!」
「はああああっ!?まじきもい!離して!!!」
「おっとわりい!なんだか、話せて嬉しくってよ!!そうか!こういうのがダメなんだな!わかった!やめる!!これでいいな?」
「なんにもわかってない!!!!」
私の怒号に想は嬉しそうに微笑むと手を離す。
この人マジでなんなの?
「あ!もう怒られたからそのまま勢いで言うな!めっちゃ可愛い妹できて嬉しいぞ!!!気が向いたらまた一緒にご飯食べよーな!!!」
「ぜんぜっん!嬉しくないんだから!!!!食べるわけないでしょ!!!気持ち悪いんだよ!!!」
「あっははは!だよな!でも、待ってるから!!!いっぱい話そうな!!!」
「くたばれ!変態!!!」
わたしは感情が良くわから無いまま、赤面して部屋に戻る。
勢いに任せてベッドに横になるが、私は何故か不思議と笑っていた。
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ひとには裏の顔がある。
外は怖い。
私なんて必要とされていない。
そんな常識が崩れたからだ。
きっと、どんなに強い言葉をぶつけても微笑むあの姿にもう私は恋をしてしまっていたのかもしれない。
だって、お兄ちゃんのくれる言葉はどれも裏がなかったから。
どこまでも嘘が苦手で、私を必要としてくれた。
空気なんて読まずに、私にぶつかってくれた。
わたしの恐怖心はどこかへ少しづつ、消えていった。
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だからこそ、私は。
澄を許すことなんてできない。
人を愛すること、人を信じること、人を想うこと。
それは普通で、だけどいちばん難しいこと。
人の影ほど怖いものは無い。
人に必要とされない想いは辛いもの。
同じように恋する気持ちと振り向いて貰えない気持ちは計り知れない。
お兄ちゃんにしたことを澄は味わうべきなんだ。
嘘はいちばんやっては行けない。
人を傷つけるから。
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私は澄とお兄ちゃんが付き合った時。
確かに嫉妬した。
でも、本当は。
『良かったねお兄ちゃん。』そう心から思っていた。
嫉妬するより、私の好きな人が幸せになるんだと嬉しかったんだ。
私の想いはずっと胸に秘めておこうと。
でも、お兄ちゃんはずっと苦しんでいたんだ。
私なら絶対にそんな思いはさせない。
私の中で秘めていた想いが爆発した。




