P16 静観と無力感
「あと10分で着くぞ?ってあれ、寝てんのか。」
すっかり暗くなった夜道を運転する。
オレは車を慣れた道を走らせながら一瞬澄を見やる。
疲れたように静かに眠っている。
終始難しい顔で考え事をしていたようだ。
『澄と伊織、それから、メイちゃんにもちょっかい出さないように!…あとこれ、オソロね。学園祭で付けてきてね。』
「……うーん。」
帰り際シズに釘を刺されてしまって、何も言えないのがもどかしい。
伊織は実際初対面だったが、むかしの澄によく似ていた。母親そっくりと言ったところか。
でもお兄ちゃんです、と無駄なことを口走りたくなったが、我慢した。
今のアイツにないまの生活がある。乱しても困るだけだろう。
メイも今日は終始浮かない顔だった。
『家族を恋愛対象として見た事ありますか?変なことですか?』
オレを信頼してくれているのか本気で相談してきたときはどうしようかと悩んだものだ。
家族に恋愛感情ね……。
可愛いとは思う。そういう人もいると聞いたことはある。
だが、俺は妹を恋愛対象、もっと言うなら性的な対象として見ることはやはり無い。
もし見てしまっているのなら『発作』が出てしまうからだ。断言して言えるだろう。
だが、悩んで抱えて苦しむ姿は何とかしてあげたかった。
彼女にとっては想は心を救ってくれた人なのだから。
俺は少々メイに世話をやきすぎているかもしれない。
だが、俺が相談を聞くようになってからはメキメキと成績が上がった。
彼女はもっと自分の力を信じるべきだ。
そして問題の澄だが、恐らくはメイとの事で喧嘩でもしたのだろう。
想とのニセモノの恋人。それは彼女にとっては許せないものだ。
想の澄と修司を想う気持ち。
なんとしてでも修司との関係を崩したくない澄の気持ち。
「どれも応援したいんだけどな。」
結局どこから間違えたなんてことは無い。
彼女達が自ら選択したのだから。
だが、オレは個人的に修司が悪い一端をしめていると感じる。
シズの提案は間違ってはいなかった。
想の気持ちに整理をつかせること。
澄の男性経験・修司への目を養うこと、しっかりと修司と距離を詰めること。
簡単にだが、こんなところは整理できたように思える。
実際本人たちが承諾したことだしな。その辺の思いもあったのだろう。
「ふぅ。着いたぞ。おつかれ、澄。」
「んあ?あ、ありがとう」
俺は車を停め、澄を起こした。
寝ぼけてぼけーっとする澄。
笑みがこぼれるが、俺の中でどうしようもない無力感が襲った。
全部知ってる俺は、知っているのに何も出来ないなんて。
だが、手を出すことで悪くなる、間違える。
それは分かっているんだ。
それでも俺は見守ることだけは絶対にやめない。
見届けて、いつか求められた時は背中を押すんだ。
いつもシズにしているように。
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