ヤンギャル校門を蹴る!
西暦に代る新しい暦が制定されて今年でちょうど30年。
その西暦が使われていた時代の末期には、人種、性別・宗教・政治・イデオロギーの対立に、不足する食糧・エネルギー、自然災害に第三次世界大戦の引き金に成りかねない大きな戦争、そして感染力が非常に強い疫病の蔓延によって世界規模で人や物の移動が制限され、経済に深刻なダメージを被って国家間に大きな軋轢を生み、何より世界の人たちの気持ちが深く沈んでしまったのである。
そんな閉塞感に包まれていた世界的な声に答える形で、2000年と少し使っていた西暦が改号されることとなった。
計画の発表から西暦の終了と、そして新世紀の始まりに至るまで、世界各地で執り行われた各種イベントや、セレモニーなどは新時代の幕揚けとして世界は熱狂的に盛り上がったが、その程度で全世界の抱えた多くの問題が解消されるわけもなく、騒ぎが収まってしまえば結局旧西暦と同様のギスギスとした世の中と、混沌として煩わしく面倒くさい日常が、今日も明日も明後日もずっと続いていくのだろう……と、誰もが思いながら日々を暮らしていた。
時に地球暦0030年5月初旬。
「おはよー」
「おはよー!」
「昨日も見た?」「見た見た!1時間に5つぐらい見た!すっごく綺麗だった!」
GWが明けて、今年入った新入生……つまり僕らみたいなのは早めに連休気分を抜かなければいけない、そんないつもの朝の、いつもの登校風景の、最近の話題はもっぱらイリーガルな天体ショーの話が中心。2~3週間ぐらい前から大規模な流星群が観測されていたのだ。
かく言う僕も、最近はそういう時間にヒマさえあれば夜空を見上げてる口。昨日も、ほんの20分見てただけで4つも見ることが出来た。寒い季節は終わっているので、外に出て天体観測をするにはちょうど良いこの時期。
ぞろぞろと同じ方向へ歩いているたくさんの生徒たちの中のJK二人が続ける流星群の観測話を聞くとはなしに聞きながら、少し登りになっている学校までの道を歩く。
「でも不思議だよねー、どういう流星群なのかまったくわからんないんだってね?」
「そんなこともあるんだね!」
「ひょっとして、もっと大きな流星がたくさん降ってくる前触れとか!」
「まさかーーwww」
……まさかね……?
そう、実はこの流星群がどういう由来のものなのか、まだよくわかっていないそうだ。TVやSNSで天文に詳しい人が解説してくれるのを見るが、結局よくわからないという説明ばかりなのだ。最近は宇宙への打ち上げコストが随分下がって、観測しやすい時期に人工流星群を発生させるイベントの開催を目指しているらしいけど、それとはまた違うものらしい。
それにしても騒ぎになってきたのが2、3週間前だから入学式があった頃にはもう始まってたんだろうか。
……と、そんなちょっとした天体イベントが始まったほぼ同じ頃にこの州立 神杜北高校に入学した高校一年の芹沢 甲太郎は思う。一ヶ月経ってやっと学校に慣れてきた所。
この高校の偏差値と中学二年までの成績を思えば場良く入学できたものだと思う。一ヶ月経って学校までの長大な坂道にもようやく慣れてきたけど、いまだにこの通学路を通えていることが本当なのかとか疑ってしまうぐらい、現実感がまだない。
そんなことを考えていると、もうすっかり聞き慣れた声が背後から聞こえてきたので振り返る。
「よっ、おはよう甲太郎!お前も見てたか?」
「ああ、うん、おはよう疾斗」
声の主は早乙女 疾斗。入学式直後の出席番号順で決められた席順で前の座席だったので仲良くなった
「と言っても、ちょっとだけだけどなー」
「俺も見てたわー」
しかし、昼間でも流れ星見えないかな……?昼夜関係なく流れてるはずだし……そんな事を思いながらまた目を凝らして空を眺めてみるが……さすがに見えない。
「……日が昇っても流星観測してる?」
「ああ、うん、まぁ、一応昼間でも流れてるんだよな?それなら見えないかな?と思って」
「わからないけど、さすがに昼間だと見えないんじゃないか?夜でも視界のどこかに流れたのが見えるぐらいだから、よっぽど視力が良くて天気の条件も良くないと無理じゃないかな」
「そっかぁ。まぁそうだよな」
二人して上を見上げつつ、学校までの長い坂道を登っていく。5月のだいぶ厳しくなってきた日差しを遮る街路樹の木陰がありがたい。
「そういや今度、天文学部が流星の観測会やるんだって。学校に泊まれるってなんかいいよな」
「確かに。昼の雰囲気しか知らないもんな」
「しかも、屋上でやるんだって」
「マジで!?屋上ってどこから入るのかすらも知らないわ……というかあそこって上がれるんだ……」
「ああオレ、入学して校内を探検した時に行ったことあるよ?東側の渡り廊下の先にある階段の一番上。今日の昼にでも見に行ってみる?鍵かかってるからただの行き止まりだけど」
「行く行く!」
そんな話をしながら長い坂道を抜けて校門が近くなると、大声で大ケンカしている声が聴こえて来た。実はこれも入学してから毎朝のことになってしまっている。
「……だから寝癖だって言ってんだろっ!」
「そんな綺麗な寝癖になるわけないだろ!」
「私の寝癖は綺麗なんだよ!」
「それにお前、染めてるだろ!」
「これは地毛だよ地毛!」
「制服もきっちり着ろ!だらしないだよ!」
「ちゃんと着てるだろ!」
やり取りは更にヒートアップしてどんどん激しくなっていく。
「だいたい、外見が乱れてるから心も生活も乱れるんだ!親の顔が見t」
「んだとテメェ、もっぺん言ってみろ!親は関係ねぇだろ!!」
「今日もまた飽きもせずに良くやってんなー」
「毎日毎日ね……」
実は、揉めてるのは同じクラスの竜崎 美晴。と、生活指導の田中先生。竜崎の方は今にも殴り掛かりそうな勢いだけど、さすがに先生を殴るわけにはいかないようで、イライラしながら校門の門扉をガシャンガシャン蹴りながら騒いでいる。
他の先生は入学からの一ヶ月で諦めたようだが、生活指導の先生だけが諦めずに頑張っている。でも、それももうすぐ諦めるんじゃないかな……と思っている。
「お前、竜崎と同じ中学だったんだろ?」
「ああ、うん、そうだったけど……中学の時とは別人みたいに変わってたけどね……」
実は彼女とは家が比較的近所で子供の頃は一緒に良く遊んだ仲。……だったのだけど、一般的な子供社会が小学校へ上がる辺りから男女の文化は徐々に分かれていくのと同様に、昔少し遊んだぐらいの距離感になっていく。ただ、それでも何度か誕生日会なんかに呼ばれたことはあるけど、それも3~4学年まで。小学高学年から中学ではクラスが一緒になることもなかったし、中学2年の半ばから不登校になって、3年ではほとんど学校に来てなかったそうだ。
そして高校に入って5~6年ぶりに同じクラスになって、高校デビューした彼女にはじめて会ったのだけど、小学校の頃の印象からはすっかり変わっていてかなり驚いた。
髪は茶髪に染めて、その昔になんとか巻とか言われてたようなパーマをかけてて、ピアスも何ヶ所か開けてたり、化粧もばっちり毎朝してきて、緑と黄色のカラコンに、付けまつげを付けたバチバチの鋭い目つきで周りを威嚇している。当然、化粧禁止(多少は黙認されてる部分もあるけど)だったりパーマを当てるのも禁止だし、それ以外も色々校則違反を犯しているのだけど、他の教師は怖いからスルーしている。
体格は高1にしてはかなり発育が良くて、制服が合ってないのか胸の辺りがぱっつんぱっつん。いつボタンが弾け飛んでも驚かない。
かと思えば、スカートは織り込んで極限まで短くしてる子が多いのに、正規の長さで穿いていてたり、そんな割にはかなり成績は良かったりして、それはそれで微妙に浮いていたりしてよくわからない。
つまり、高校デビューでギャル……というか、不良とかヤンキーとかそういう方向に進化を遂げていたのだ。たぶん、名前を憶えてなければ同じ女子とは思えなかったと思う。
そんなギャーギャー、ガシャンガシャンと朝から騒がしいやり取りを横目に見ながら他人の振りをして通り過ぎる。君子危うき似近寄らず。
……だったのだが……
今更ですけど、ちょくちょく後書きに裏話?とかイメージやメモとか追加していきたいと思います。
最終13万文字の内、12万文字ぐらい完成した状態でうpしはじめたのですけど、サブタイなんてまったく考えてなかったのでまずそこから躓いたのでしたw
そこでかなり困ったのですが、この作品のコンセプト「五体合体するスーパーロボットのガンダム」に立ち戻っての一話『ガンダム大地に立つ』っぽいタイトルにしました。