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戦後モラトリアム紀行  作者: 鐘白
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1949年4月 上野

 夕暮れ時の上野公園。まだ肌寒く、桜も満開ではないが、花見客で大いに賑わいをみせている。


 そんな人混みの中、安藤ハジメは、「漢文の予習、数学の復習と追試対策に英文の和訳と…あー、何かあったけど…」と、課題をブツブツと呟きながら歩いていた。


 彼は、後継ぎを戦争で喪った安藤家の養子として、駒込にある本家へと3月末に金沢から移って来た。そして、上野公園付近に位置する高等学校2学年へ編入し2週間ほど過ぎたところである。

 陰鬱で礼儀に煩い本家での生活、ついていけない授業。息が詰まる日々である。そんな彼の少ない気晴らしが、下校時に不忍池に立ち寄り、漫画を読む事だった。


 「休むか、よっこらしょっと」

 鞄を置き、桜の木の根元に腰を下ろした。丁度、不忍池と空襲で焼けた弁天堂跡が遠目に見える場所だった。それらに目もくれずハジメは、家や学校にバレないよう、こっそり鞄の奥底に隠し、持ち歩いている、『のらくろ二等卒』を取り出した。表紙をめくり、その世界に没頭した。

 

 夕日が傾き、台詞が読み辛くなってきた頃、向かい側から、騒がしい声が聞こえてきた。

 

 糊の付いたズボンに、磨き上げられた靴を確認した。任務終わりであろう、若い米兵達である。仲間と楽しげに語りながら、酒も混じり、大声で笑いあっていた。

 ハジメは一瞥し、別に珍しいものではないな、と思った。


 しかしながら、その集団の中に一人だけ、異質な存在をハジメは見つけた。

 彼は、ズボンを膝までたくし上げ、ボロの草履を履いていた。そして、その顕になった脹脛は泥まみれ、手にはカメラを携えている。

 その草履の主を見るため、漫画本と共に、顔を上にあげた。

 その男は、他の米兵と変わらないくらいの上背にジャケットを羽織り、明るい艶のある茶髪といった容姿で、二十歳そこそこ程度の一般的な米兵であった。両手にはカメラを携えている。

 その時、突然その男が振り向き、ハジメにカメラを向けると、すかさずシャッターを切った。カシャリ、と軽い音が鳴った。

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