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異世界村長【書籍発売中】  作者: 七城
第1部 『異世界村長編』
99/252

第99話:パワーレベリング

 村を出発した私たちは、ひとまず東のダンジョンに到着していた。



「村長、無理をするなよ」

「ああラド、そっちこそな。留守の最中、みんなのことを頼む」

「我らに任せておけ。こちらもしっかり鍛えておくぞ」


 あとのことをラドに託し、結界を延ばしながら北に向かって進んでいく。ダンジョン組とはここでお別れだ。



 この世界の主な水源は、大山脈から流れる川だ。ここ東の森でも、大山脈から海に向かって川が流れているはず。まずはそれを目標に探索を開始した。


 人が生きていくためには、安定した水源の確保が必須だ。飲み水は当然として、農業から工業に至るまで、文明の発展には必ずと言っていいほど重要な条件となる。


 この東の地で生活する人々がいるのだとしたら、その生活圏は川の近くにあると考えるのが妥当だろう。



「ひとまず、今日はひたすら北に向かって進むぞ。寄って来たオークも、放置せずしっかり倒していこう」

「儂がひとっ飛びして、上空から探してもいいが?」

「もちろんそれも視野に入れてる。けどせめて数日、様子をみてからにしよう。迂闊に結界の外へ出て、どんな化け物に襲われるかもわからん」

「うちの村長は真に心配性よのぉ」

「あせらずじっくり行こう。急ぐ理由なんて何ひとつ無いんだ」


 仮に獣人領でオークが暴れようが、村には大して影響ない。「新たな発見ができれば儲けもの」くらいの気持ちで挑めばいいのだ。


 そんな感じで私たち七人は、周囲を確認しながらゆっくりと北進していった――。




◇◇◇


 かれこれ3時間ほど歩き続けたが、今のところは目立った変化もなく、たまに現れる魔物も通常のオークばかりだった。人がいる痕跡もないし川も見つからない。


 唯一の変化と言えば、森に生えている木々の間隔が、少しずつ広くなったことくらいか。と言っても劇的にではなく、多少まばらになってきたかな、という程度だった。


「みんな、そろそろ昼にしよう」


 陽もだいぶのぼってきたので、『物資転送』を使って食事を村から転送する。



「しっかし、村長様さまだよな。いつでも出来たてが食えるなんてさ」

「ホントにありがたいですよ。野営経験の少ない私たちにとって、これがあるのと無いのじゃ大違いです」

「村との繋がりも感じられますし、この上ない安心感がありますな」

「椿さん、私と桜さんのためにお魚料理も入れてくれてる。嬉しい」


 村からの食事に感謝しつつ、すぐに動ける程度の軽食を摂り、移動を再開する。



 午後からも順調に進んでいくのだが……。結局、然して目立った発見も無いまま初日の探索は終了となった。


 野営の準備もおわり、今は焚火を囲んで雑談中。パチパチと音が響くなか、温かい食事をいただいている。


「初日の収穫はゼロだったな。まあそんな簡単にはいかないか」

「今日一日で進んだ距離は、概ね20kmでしょうか。この調子だと、想定より早く終わってしまいそうですね」

「何の発見もないまま、どんどん進んだだけだしな」


 レベルアップのおかげで、一日中歩きまわっても全然疲れない。七人もいれば、誰かしらが話しているので、精神的な疲労も少なかった。こうして旨い食事も摂れるので、ストレスも感じなかった。


「それにしましても、『徴収』能力は凄まじいものですね。今日一日で、自分の体が全く別人のように感じられます。歩いている最中も、ずっと変化し続けていて……なんとも不思議な感覚でした」


 と、そんなことをしみじみ語るメリナード。実は今日の出発前、彼に『徴収』能力を継承していたのだ。


 メリナードにはずっと街での仕事をさせていた為、ダンジョンに入ったのもつい最近、この中でひとりだけ低いレベルだった。


 普通ならおいそれと渡せる能力ではないが、彼の忠誠は既に上限の99、名実ともに信用のおける立場にいる。ならせめて、「オークに引けを取らない程度」にはレベルを上げさせようと、継承に踏み切ったのだ。



「春香、結局いくつ上がったんだ?」

「それがなんと、驚異の25アップだよ! もともと17だったから、現在はレベル42だね!」

「税率50%だったとはいえ、とてつもない上昇率だな」

「わたしたちやダンジョン班が倒した魔物の経験値、その半分がゴッソリ手に入る訳ですから。でも良かったですね、メリナードさんっ!」


 パワーレベリングの副作用もないようだし、空間収納持ちが強くなれば村の利益にも直結する。今まで村のために尽くしてくれたし、これくらいの恩恵があっても良いだろう。


「……皆さんには心から感謝を。正直に申しますと、とめどなく強化されていく自分に、歓喜して震えております」


 実力で手に入れた力じゃないことは、メリナード自身もじゅうぶん理解している。それでも冒険者が夢だった彼としては、この事実を本心から喜んでいるようだった。


「明日以降は税率を下げるけど、しばらくはそのまま所持しててくれ。15階層のボス戦に向けて強化しとこう」

「村長、ありがとうございます。このような機会は二度とありませんので、遠慮なくお預かりします」

「ああ、まだ街でも活躍してほしいからな。レベルが上がれば、私も安心して任せられるよ」

「この身を賭してでも……と言うと村長が嫌がりますね。自身も生き延びながら、村のために尽くしてまいります」


 実際問題、メリー商会の存在とメリナードのスキルは、超がつくほど貴重なのだ。そう簡単に死なれては困るし、彼を強化することのデメリットはなにもない。本人も前向きなので、今しばらく続けることに決めた。



 そうこうしている内に周囲も暗くなり、交代で夜番をしながら一夜を明かした。運がいいのか、魔物も夜は寝てるのか。夜の間に襲われることもなく、静かな時間が過ぎていった――。




◇◇◇


異世界生活215日目


 2日目の朝、温かい朝食を頂いたあと、手早く片づけをして探索を再開する。結界に突っ込んでくるオークを倒しながら、順調に歩を進めていくと――。


 ようやくひとつ目の発見があった。


 東のダンジョンから30km離れたところで、待望の川を見つけたのだ。


 その川の規模は、村近くの川とほとんど同じ。さして蛇行もしておらず流れも緩やか、いかにも人が利用し易そうに見えた。


「ついに見つけましたね。どうします? 上流に登るか下流に下るかですけど……」

「そうだな、まずは上流に行ってみよう」


 ここから西の大山脈までは5kmほどで着く。逆に下流である東側は、どこまで続いているかも不明だ。まずは大山脈までを調査して、何もなければ東に向かって川沿いを進むのが良さそうだ。


 みんなも賛同しているので、さっそく西に向かって結界を延ばす。


 川を挟みこむように拡げているため、進行方向の視野もしっかり確保できている。この状態なら、建造物や痕跡があればすぐにわかる。



 結界により周囲の木々も消え、見晴らしの良くなった道を川沿いに進んでいく――。


 が、これといった発見もないまま、ついには大山脈の岩肌が視認できるところまで来てしまった。


 相変わらず、見上げても頂上を確認できないほど高い。周囲に変わったものはなく、人の生活を連想させる物も確認できなかった。


 仕方なく引き返すことにして、もとの場所に戻ったところで野営の準備をする。



「はぁ、結局今日も空振りだったなー」

「おいおい村長、まだたったの2日だぞ? 弱音吐くの早すぎっ」

「そうですよっ。そんな簡単に見つかるなら、昔の調査隊がとっくに何か発見してますって」

「そうなんだけどさー。物語だと重要なものがすぐ見つかって、ポポンッと原因を突き止める、みたいな流れになるじゃん?」

「はあ? そんなわけないだろ……」


 冬也を含め、みんながあきれ顔をしながら私を見ている。


「もしかして村長。2日目にして、もう飽きちゃったとか……?」

「飽きてはないけど……やっぱ俺、こういうの向いてないのかもしれん」

「なんだそれ? 駄々こねた子どもかよ! こんな未知の冒険、早々できるもんじゃないぞ? オレなんか、昨日からワクワクしっぱなしだ」

「私もすごく楽しいです!」

「うんうん、わたしもー!」


 初めてダンジョンに行ったときもそうだったが、最初のうちは興奮してても、しばらくすると急に気持ちが覚めていた。


「なんか水を差して悪いな……。冬也の言うとおり滅多にない経験だし、明日には何か見つかるかもしれん。俺も気を入れなおして挑むよ」

「まったく……。村にいるときはものすごく頼れる存在なのに、外に出るとコレなんだよなぁ」

「まあ、それが村長らしさなのかも知れませんけどね」

「村での村長は恰好いいよ。私も凄く親身にして貰ったばかりだし、とても頼れる人だと思う」

「何でもこなす完璧な人間などおらんからの。こういう一面を見せるのも、また魅力のひとつじゃろうて」


 周りの空気を壊した上に、みんなにフォローまでさせるとは……。明日からは、ちゃんと気持ちを切り替えて捜索に挑もう。






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