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異世界村長【書籍発売中】  作者: 七城
第1部 『異世界村長編』
98/252

第98話:いざいざ、東の森へ!

異世界生活209日目

 オークの捜索開始から8日経過


 まずは結論から先に言おう。


 ナナシ村の西側。大森林の中には、ただの一匹たりともオークは存在しなかった。



 予定していた調査期間を延長し、「これでもかっ!」と言うくらい調べ上げたんだが……全て異常なし。オークの痕跡すら見つからず、昨日の時点で捜索を打ち切っていた。


 7日間にもおよぶ大捜索の成果は、かなり以前に死亡したと思われる日本人の遺品が、十数か所で発見されたことくらいだ。


 あとは、兎人の住処だったもうひとつの集落を結界で囲み、いざという時の避難場所にしたこと。それと、村から街までの交易路に隣接するかたちで、幅10mの結界を張ったことだった。



 連日の捜索による疲労を考慮し、今日一日は村の休日にしている。今は主要メンバーが食堂に集まり、オーク出現についての話し合いをしているところだ。



「結局、オークの影すら見つかりませんでしたけど、村周辺の森だけがこんな状態なのはなぜなんでしょうね」

「ドラゴたちの意見だと、ここら一帯は元々大山脈だったから、今でも大地神の加護により守られているってことらしい」

「我らが感じる竜気の質からしても、特別な領域であるのは間違いないでのぉ」

「それって、東にあるダンジョン近辺でも感じます? あの辺りになると、大山脈跡からは少し外れていると思うんですけど」

「うむ。ダンジョンのある場所でも、ここと同質の竜気を感じておる。どころか、竜気の濃度でいえば、奥に行くほど濃くなっておるぞ」

「なるほど、だから村長の結界スキルも発動するんですね」


 言われてみればたしかにそうだ。森がずっと続いているので気にもしてなかったけど、大山脈の東側では何の支障もなく敷地を拡張できている。


 街のほうで結界が張れないのも、竜気(魔素)の質が原因のようだ。


「だけどさ。川を挟んで東側には、昔からオークがいたわけでしょ? なんで東側だけそんな状態なのかしら」


 春香の意見はもっともで、私もここ数日、ずっとそのことが引っかかっていた。


「ケーモスの街だと、ダンジョン15階層を攻略した日以降に、オークの目撃情報が出始めたんだよね?」

「ああ、それは間違いないらしい」

「でもわたしたち、15階層の攻略どころか、ボス部屋にすら踏み入ってないわよ?」


 大捜索初日に、ドラゴの伝手でケーモス領の情報収集を頼んでいた。


 ケーモスの街の冒険者ギルドによると、15階層のボス攻略を達成した日から、オークを目撃するようになったらしい。他の領地やアマルディア王国のことはまだわからない。


「あの、ちょっといいですか。これは想像でしかないんですけど……」

「杏子、何か思いついたんなら遠慮なく言ってくれ」

「東の森にオークが昔からいる理由ですが――」


 杏子に何か考えがあるようで、その内容とは次のようなものだった。



 ケーモスの街では15階層のオークキングを討伐したら、地上にもオークが湧いた。この理論でいくと、5階層ボスのホブゴブリンを倒したことで、5階層までにいた魔物が地上に湧くようになったとも考えられる。


 5階層程度、どのダンジョンでも大昔から攻略されてるはず。それなら、現代でゴブリンや大猪などの魔物が当たり前のように地上にいても、誰も不思議には思わない。


 そんな状況が続いていたところに、有能なスキルを持った日本人が転移してきた。そして、本来なら攻略されるはずのない階層まで到達してしまい、結果的にオークの地上進出を許してしまった。


 東の森でも同様に、ダンジョン15階層を大昔の誰かが攻略して、地上にオークが溢れたのではないか。


 ただ昔は、大山脈により大陸の西と東が完全に分断されていたので、西から侵入するのは不可能。とすると、はるか昔には大陸東側にも文明があり、とある種族が繁栄していた可能性がある。


 にわかには信じがたいが、大陸東には魔族が住んでいるという噂もある。強力な魔物の存在により、滅ぼされてしまったのではないか。



「――なるほどな。その理論なら、東のダンジョンで15階層を制覇しても、今までと変わりないことになる」

「もっと深い階層を攻略して、別の種族を解放しちゃうと危ないかも」

「ドラゴに聞きたいんだけどさ。議会の記録とか、竜人族の言い伝えなんかで、そういった類のことは受け継がれてないのかな」

「儂の知る限りではないのぉ。偉大なる竜ならば、あるいは何か知っているやもしれんが……今となっては聞く手立てもない」

「ふむ。上位種まで現れると困るが、普通のオークだけなら問題はない、か……。でも、なんか不安だなぁ」


 地上にいるゴブリンにしても、通常種しか見たことがない。大森林だけでなく、獣人領でもそれは同じで、ファイターやアーチャーはダンジョンでしか見かけないという。


 かといって、オークも同じとは限らない。キングやらジェネラルがうようよ湧くようになったら、それこそ大惨事だ。


「なあ村長。東の森を調査してみないか? オレもボスには興味あるけど、不用意に手を出すのはまずそうだ」

「いい考えだと思うけど、冬也たちのレベルアップはいいのか?」

「既にある程度までは上がってるぞ。それに東の森を探索すれば、何か新しい発見があるかもしれない。未知のままにするより、ある程度把握しておいた方が絶対良いと思う」

「私も冬也くんの意見に賛同します」

「そうか。冬也と桜がそう言うなら、私に異論はないよ。オークに関する情報収集も時間がかかるだろうし、その間に探索してみよう」



 こうして、東の森を探索することが決まり、調査団とダンジョン探索班の編成会議に移行していった。





◇◇◇


異世界生活214日目


 村会議から5日後、班編成や野営の準備も整い、いよいよ今日から調査を開始する。


 調査団のメンバー選出には様々な意見が飛び交ったが、最終的には少数精鋭部隊を編成するに決まった。


『最大戦力で挑むべきでは?』


 という意見もあったが、ある程度の人員は残すに至ったのだ。



 今回調査団に選ばれたのは、冬也、桜、春香、秋穂の日本人メンバーと竜人のドラゴ、それに羊人のメリナードだ。そこに私を含め、7人のパーティーで挑む。


 冬也は村の最高戦力だし、桜の水魔法や春香の上級鑑定、秋穂の治癒魔法やメリナードの空間収納も外せなかった。


 私は結界を張る役目があるし、いざという時の『模倣』能力もある。ドラゴは戦力として申し分なく、なにより貴重な飛行能力を有している。


 人数こそ少ないが、能力的には申し分のない編成だった。



 杏子やロア、ラドたち戦士団には、引き続きダンジョンでレベルアップに励んでもらう。調査期間は最大でも2週間と決めているので、その間に戦力アップをさせる計画だ。


 現在、敷地拡張できる距離は約60kmほどある。徒歩での探索だし、途中寄り道をすることを考えれば、1日で進む距離はせいぜい15kmほど、場合によってはもっと短いかもしれない。


 今回は、ダンジョンがある場所から北に向かって調査する予定で、結界もその都度固定しながら進むつもりだ。


 大陸の規模に比べれば、今回の調査範囲はわずかなものかもしれない。けれど、何もないことが判明するだけでも十分な成果だと思っている。



「じゃあ椿、あとのことは頼む。遠慮しなくていいから、いつでも念話を入れてくれよ」

「はい、お任せください。温かい食事はいつでも出せるよう準備しておきますから、気を付けていってらっしゃい」

「楽しみにしてるよ。行ってきます」


 捜索先で物資転送の位置を固定する必要があるため、椿に渡した『物資転送』能力も返還させている。


「冬也も無理しないでね。わたし待ってるから……」

「お、おう……無事に帰って来るさ」

「なんちゃって。秋ちゃんも頑張って!」

「うん、なっちゃん行ってくるね!」



 異世界に来て初めてとなる大冒険に、期待と不安を抱きながら村を出発した――。






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