第９７話：オーク大捜索開始
異世界生活２０２日目
翌日、村人を総動員して調査を開始。
戦闘職を中心に、レベル25以上の者は全員参加させている。
総勢80人を16組のパーティーに分け、各班には忠誠90以上の者を必ず配置した。念話での定期報告を徹底させ、私は司令塔の役割を担う。
「それじゃあみんな、今日と明日の２日かけて、まずは森の北半分を探索するぞ。決して無茶はしないこと、班ごとに一定の距離を保ち、各班の兎人は常に聴覚強化を頼む。では出発！」
「「「おおー！」」」
調査団に号令をかけつつ、私自らも移動を始める。ラドたちの元集落まで行き、そこを拠点にするつもりだ。
不測の事態に備え、交易路に並列させるカタチで結界を張っていく。こうしておけば、調査団がどこにいても逃げ込めるはずだ。
一時間ごとに定期連絡をさせ、オークを発見した場合には、それを全ての班に伝える。もし上位種に出会ったら即撤退、高レベルの者たちによる再編成をする計画だった。
◇◇◇
「そろそろ昼になるが、今のところは問題ないようじゃの」
「ああ、遭遇する魔物も今までと変わらない」
「ここは大山脈があった土地。獣人領や人族領とは別物と考えて良い」
「でも実際に確認してみないと……どうにも気になって仕方ないんだ」
集落に到着した私は、ドラゴとドリーの三人で野営の準備をしていた。戦闘能力が高く空も飛べるふたりを、緊急時の増援として集落へ残している。何かあればすぐに駆け付けてもらう手筈だった。
今は軽めの昼食を摂りながら、オークの発生原因について三人で話し合っているところだ。
「オークが最初に発見された頃って、街や首都では何か起きなかったか？」
「うむ。その頃だと……儂がこの村へ視察に来ていたな」
「まさか、ドラゴが原因だったり？」
「っ、何でそうなるんじゃ！」
「ごめんごめん、言ってみただけだよ」
人族領でも同じ現象が起きてるし、彼のせいなわけがない。
「あなた、そういえばその頃ってアレじゃない？ 首都にいる日本人冒険者がダンジョンの15階層を突破したって騒いでたわよね」
「おお！ たしかにそうじゃ。史上初となる15階層制覇。その報告をギルド長から受けておった」
そんなことは初耳だった。でもＳランク冒険者だっているのに、今まで突破されなかったのは変だ。そう聞いてみたものの――。
「Ｓランクは少数しかおらん。なんでも、15層攻略には冒険者100人で挑んだらしい。討伐には成功したが、かなりの犠牲もでたそうじゃ」
「うへぇ、まるで軍隊だな。ちなみにボス部屋にいた魔物は？」
「うむ。オークキングを筆頭にして、ジェネラルや上位種の大集団だった。ギルド長からはそう聞いておる」
「それって冬也たちに話してあるのか？」
「当然じゃ。ダンジョンに挑んでおる連中には詳しく説明してある」
あら、知らなかったのは私だけか……。今後はもう少し関わっていかないとダメだわ。ちょっと反省。
「こじつけかもしれないけど、15階層制覇が――もっと言うと、オーク種族の王を討伐したこと。それが原因じゃないか？」
「まあ、時期的には合致しておる」
「なあドラゴ。他の街とか、アマルディア王国について調べられないかな。攻略階層とオーク出現の関連性も含めてさ」
元議長の伝手があれば、結構なところまで調べられるはず。頼り過ぎはよくないが背に腹は変えられない。それほど重要な案件だと思っている。
「とはいえ議会は信用ならん。ひとまずギルドに掛け合ってみよう。じゃが人族領のことは……しかたない、あヤツに頼むか」
「伝手があるならぜひお願いしたい」
「ならばメリマス殿に念話を繋いでくれるか？ 街におる知人経由ですぐに頼んでおこう」
「助かるよ」
すぐメリマスに念話して、諸々の事情を伝えた。すでに街でも噂になっているらしく、メリマスも情報を集めているそうだ。
「他に何か思いつくことはないか？」
「そうじゃのぉ。関係あるかはわからんが、儂の議長退任と隆之介の加入が決まったのも同時期じゃな」
「日本商会が関わってる可能性もある……のか？ まさか、魔物まで操る能力だったりしてな」
「春香嬢の上位鑑定ならば、詳しく知ることも可能じゃろうが……」
「できることなら、隆之介の能力も把握しておきたいな」
「王国でも同じ現象が起きておるし、隆之介の線は薄いじゃろ」
たしかに、仮に魔物を支配する能力だとしても、こんな同時多発的に発動できるとは思えない。隆之介のスキル自体は気になるが、オークとの関連性は低いだろう。
「ところで村長よ。まさか我らのダンジョン攻略も中止する、なんてことは言わんじゃろな？」
「まだわからん、今後の状況次第だ」
「あらそういえば……」
「ドリー？ 何か思いついたのか？」
「いえね。大森林の東って、オークが地上に湧いてるわよね。しかもずいぶん昔から。それって何でなのかなって」
「あ、ほんとだ。ドリーたちが獣人領に降りて来た時には、もうそういう状況だったんだよね？」
「ええ、わたしたちの知る限りではもっと以前からのはずよ」
議会の記録にもそれらしい記述はないようだが、東の森にいるオークも関係してるかもしれない。
（今はまだオーク程度だからいいけど、さらに強力な魔物が出てきちゃったら大変だ。わかる範囲でいいから、原因究明を続けていこう）
結局その日、オーク発見の報告は一度たりともなかった。
いつも見る魔物の数やその動向、偏りなんかもなく、「普段の森と何も変わらない」と皆が言っていた。
何もないならそれでいいし、もし見つかっても結界がある。とにかく徹底的に調べつくして、事実確認をするのが先決だ。
