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異世界村長【書籍発売中】  作者: 七城
第1部 『異世界村長編』
96/252

第96話:各国の情勢

異世界生活201日目


 昨日、念願の転職を果たした秋穂は、みんなと共にダンジョンへ向かっていった。


 メリナードや護衛のふたりも戻り、ラドたちに交じってダンジョンへ挑んでいる。



 実はここ一週間、獣人領や人族領の情報をある程度聞くことができていた。ドラゴたちは相変わらずダンジョン皆勤賞だ。話をするのは夕食のときくらいだが、それでも大まかな情勢は掴めている。



 まずは、ドラゴとマリアが退任したあとの議会について。


 新たに議長となったのは虎人のタイガンという人物で、ドラゴ曰く、正義感が強く人望もあり、連合軍の総指揮を執っていた傑物らしい。個人の武力もさることながら、その指揮能力や人心掌握の面でも優秀なんだと語っていた。


 虎人族は男女問わず、ほとんどの者が軍に所属していて、連合軍の主力を担う種族だ。それに次ぐ二番手は狼人族、三番手は猿人族で、この三種族だけで全軍の6割に達する。



 各種族の人口比率を多い順に並べると、猿人、虎人、狼人、狐人、羊人、熊人、犬人、猫人、鼠人、兎人、魚人、竜人の12種族。


 大昔は、犬人や猫人、それに鼠人や兎人の人口が多かったのだが……。人族との戦争により、人口比が逆転して今の現状となる。



 首都ビストリアを領土の中心として、北西に猿人領、北に虎人領、北東に狼人領が存在し、この3つの領が対人族への防壁を担っている。また、首都の南西には狐人領、南東に混成種族領があり、村が交易をしているケーモスは、この南東に位置する主要な街だった。


 ケーモス領以外の4つの領は、その領を治めている種族が人口の大半を占めている。とはいえ、長い年月の間に、他の種族も各地に移り住んでおり、代表する種族がその領を独占しているという訳ではない。


 種族間の交流も盛んで、「ここ100年、目立った種族間抗争が起きたことはない」と、ドラゴが教えてくれた。


 12種族のなかでも、兎人族は各領の森でひっそりと生活していて、その人口はかなり少ない。また、魚人族については他大陸からの漂流者集団だし、竜人族に至っては、ドラゴ一家だけが『竜の里』から下りてきている状態。



 話が脱線してしまったが、今の議会は竜人と魚人を除く10種族に、日本人族? の隆之介が加わった11名となったわけだ。


 そんな中、やはり気になるのは日本人奴隷の所有者だ。今までは、議長であるドラゴが所有していたわけなんだが……。今回は新議長のタイガンではなく、隆之介に移譲されたのだ。


 これはどう考えても異常なこと。ドラゴやマリアも言っていたが、議員たちが精神支配を受けているとしか思えない。そうでもなければ、奴隷の所有権を渡すのはもとより、議員に選出するはずがないからだ。


 現在、獣人領で生きている日本人の数は約一万五千人、そのうち日本人奴隷の数は約六千人もいる。


 その生殺与奪権を手に入れた隆之介は、そう遠くないうちに次の一手を打つだろう。無難に富国強兵を目指すのか、無謀に宣戦布告するのかは不明だけど、早々に敗北するのだけは勘弁してほしいところだ。



 もうひとつ気になるのは、


 最近街で騒がれている『オークの出現』について。


 これは昨日聞いたばかりの情報なんだけど、どうやら街近郊の森にオークが出現するようになったらしい。しかもケーモスの街だけでなく、首都やほかの領でも同様の現象が起きている。


 東の森やダンジョンは別として、今まで地上にオークが湧いたことは一度たりともなかった。幸いにも、街が襲撃されたという報告はないようだけど、抗う術を持たぬ者には恐怖でしかないだろう。



「啓介さん、お昼の用意ができてますよ。今日は新作に挑戦してみたので、良かったら一緒に食べましょ」

「お、もうそんな時間か。椿の新作となれば急いでいかないとな! この前のも美味かったからなぁ」


 あれこれ考えているうちに、いつの間にか昼になっていたようだ。


 椿お手製のパンは村のみんなにも大人気だから、無くなっちゃう前に早くいかなければ――。



◇◇◇

 

「旨かったぁ、ごちそうさま! ってか、つい欲張って食べ過ぎた……」

「あんなに食べたらそうなりますよ」

「しっかし、初期のころに比べたら、ほんと豪勢になったよなぁ」

「最初の頃なんて、生野菜とシリアルでしたもんね」

「冷蔵庫は止まっちゃったし、ガスも電気も使えないし……」


 いまでこそ不便を感じないが、あの当初は色々と大変だった。それを思えば村の文明もかなり発展している。


「あ、そういえば電化製品とか自宅に置きっぱなしですけど、そのままにしていいんですか? まあ、今更ですけど……」

「今度おりを見て片づけるか。万能倉庫なら劣化しないもんな」

「はい、そのときは声をかけてください。私も手伝いますので」

「わかった。まあ、気が向いたらそのうち片づけよう」



 新作パンを食べ過ぎてしまい、椿と別れたあとも食堂で動けずにいた。


 そのまましばらく項垂れていると、椿と入れ違いでマリアが食堂に入って来る。どうやら少し遅めの昼食タイムのようだった。



「あら村長。だらしない恰好しちゃって、どうしたの?」

「あー、ちょっと食べ過ぎてね。そう言うマリアは今から昼飯?」

「ええ、各家庭の水番とか、お風呂の入れ替えを終えてきたところよ」

「そっか、おつかれさま」

「折角だし、話し相手になってくれる?」

「お、そういうことなら人族領の話を聞かせて欲しいかも」

「知ってることで良ければね。まあ、大体のことは伝えたと思うけど」


 マリアの言う通り、ある程度のことはこれまでにも聞いていた。


 人族領との交易は、随分前からかなり減っており、とくに食料品のやり取りは皆無と言っていいほど。その他の物品にしても、それぞれの行商人がたまに来る程度だった。


 とはいえお互いの外交官は、月に一度の割合で訪問している。完全な鎖国状態ではないのだが、両国ともに食糧不足が目立ち、内部情報の流出には過敏になっている。


 連合議会の見解では、「大規模な戦争を起せるほどの余裕は人族側にも無い」ということらしい。



 それと、両国に住んでいる日本人についてだが、国境を超えることは固く禁止されていた。人族の王も獣人の連合議会も、日本人の職業やスキルを利用して自国の発展を図ろうとしている。国境での検閲も厳しく実施されているようだ。


 そんな中、議会が送った密偵や、たまに訪れる行商の情報も入っている。


 人族の国『アマルディア王国』


 ここにいる日本人の総数は、なんと驚きの8万人。そのうち、市民権を得た者が5万人で、残りの3万は奴隷堕ちしていた。


 アマルディア王国においても、反抗する者や国の方針に従わない日本人は容赦なく奴隷堕ちさせている。転移初期の頃は、各地で暴動まがいの事件が起き、その対処に奔走していたらしい。


 逆に従順な者とか、国で生活することに積極的な者には、かなりの自由を与えている。すっかり馴染んでいる日本人も相当数存在していた。


 このことからも、国主導による召喚とか、大規模な隷属計画の線はなさそうだった。



「なあ、アマルディア王国でもオークが出現してるの?」

「ええ。そのせいで、国同士の交流もさらに少なくなったわ。街道でオークに襲われたら全滅だもの」

「だけどなんで急に? 川の東に行かない限り、一度も見たことないぞ?」

「それはわからないけど……最初に発見したのは15日ほど前のはずよ」


 とある冒険者パーティーが、こことは別の森で発見したらしい。ちなみに首都では、もっと以前から見つかっていた。


 議会としても、最初は見間違えだと考えた。派遣した調査団の報告により、ようやく最近になって存在を確定したようだ。いくつかの報告によると、オークが森から出ることはなく、うろつくだけだったらしいが……。


「念のために村近くの森も調査しなきゃな。場合によっては、街までの道も結界を張ったほうがいいかもしれん」

「アタシたちが村に来た時も見かけなかったし、大丈夫なんじゃない?」

「私は心配性なんだ。念には念を入れて、明日から徹底的に調査するぞ」


 オークが出現した理由も気になるけど、まずは村の安全確保が先だ。


 オークならともかく、上位種に遭遇すればさすがに逃げ切れないだろう。交易や移民の受け入れなんかもあるしね。


 思い立ったらすぐ行動。


 明日からの探索に向け、計画を立てるおっさんだった。






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