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異世界村長【書籍発売中】  作者: 七城
第1部 『異世界村長編』
95/252

第95話:三人だけの秘密

異世界生活200日目

 


 15階層のボス部屋を発見してから、今日でちょうど一週間が経過した。


 魚人族の加入により南の海での漁業が本格始動して、食卓にも毎日のように海産物が並ぶ。新鮮な海の幸に加えて魚人の調理技術も素晴らしく、またひとつ、村の生活が豊かになったと実感している。魚介類が大好きな桜と秋穂は、その喜びも人一倍だったよ。



 そんな中、今日の夕方になって秋穂が念願の転職を果たした。実はこの一週間、秋穂はダンジョンへは同行しておらず、毎日村に残ってクラスアップのための試行錯誤をしていたのだ。 


 あれは七日前、ボス攻略の計画をみんなで決めたあとのことだ。



 ――――



 夕食をおえて自室に戻り、寝るまでの時間をのんびり過ごしていた。


 リビングでくつろいでいると、秋穂が部屋に入ってくる。なにやら思いつめた表情を浮かべて、私を見つめながら立ち尽くしていた。


「そんなとこに突っ立ってないで、まあ座れよ。果実水でも出すから」

「……うん」


 明らかにいつもと違う雰囲気だった。どちらかといえば、落ち込んでいるというよりは、意を決して何かを伝えようとしている感じか。


 向かい合って座ったあとも、しばらく沈黙が続き……やがて秋穂が語りだす。


「村長、お願いがあります。『模倣』の能力を私に貸してください。少しの間だけでいいんです」

「なるほど、一時的に譲渡してほしいってことか」

「派生職を手に入れるために、村の人たちのスキルを試したいんです」

「そう思い至った理由を教えてくれる?」

「みんなの発現傾向からして、他者のスキルを体験したり、色々な職種を経験することが条件だと思うんです。もちろんそれだけじゃないと思うけど……かなり正解に近いと考えてます」

「それでスキルをコピーして実体験したいってわけか」


 彼女の理屈はよくわかるし、私もそれに近い結論を出している。模倣を使っていろいろ試せば、派生職への近道になるだろう。


「まだ転職してないのは私と椿さんだけです。椿さんは転職しなくても、自らの努力で村に大きく貢献してます。だけど私は……」

「貢献できてないと?」

「役に立ってる、とハッキリ言いきれる自信はないです。それと正直、みんなに置いて行かれることに焦ってます」


 秋穂の言葉に嘘はないし、焦る気持ちも共感できる。回復職はどうしても戦果が現れにくい。それもあって、余計にそう思ってしまうのだろう。


「秋穂に能力を譲渡するのは構わない。だがそれは、秋穂の忠誠度が高いからだ。漠然とした信頼感とか心情的な理由、ましてや同情でもない。そこは理解してるか?」

「ちゃんとわかってます。とくに『模倣』能力の重要性と危険性もわかった上でお願いしてます」

「そうか、ならさっそく継承するぞ」

「っ、ありがとうございます!」


 そこを理解してるなら良いだろう。ぶっちゃけ忠誠度という絶対指標が無ければ、おいそれと他人に渡せたか怪しいが……。なんにしても、考え抜いた上での決断だというのは伝わっていた。



「よし、これで移ったはずだ。まずは私の村スキルをコピーしてみろ」

「え? 流石にそれはマズいんじゃ……。気持ちはすごく嬉しいけど」

「何言ってんだ、どうせやるなら徹底的にやれ。ユニークスキルの経験となれば、かなり有効な感じがするだろ?」

「……ですよね。村長ありがとう――あ、」

「どうした? 念じればいいだけだぞ。今日はまだ一回もコピーしてないから使えると思うけど」

「いえ、違うんです。村スキルはコピーできないって言われました」


 村スキルをコピーしようとした瞬間、頭の中にアナウンスが流れてきたらしい。『能力の元となるスキルは模倣できません』という内容だった。


 まあ考えてみれば、村スキルをコピーできちゃったらマズいわ。それをまた継承し続けることで、誰にでも無限にスキルを渡せてしまう。そんなシステムの抜け穴をつくみたいなこと、さすがに不可能だった。


「だったら、杏子の『全属性魔法』はどうだ? ユニークスキルだからダメってことはないはず。少なくとも私は以前にコピーできたぞ」

「全属性魔法……あ、できたかも?」

「一日1回しか変更できないから、何をコピーするかも事前に計画しよう」

「あの、それなら考えがありまして――」


 秋穂の中では、すでに構想が出来上がっているようだ。


 そのあとは自分の試したいことや転職への持論なんかを説明してくれたよ。思いつきでここへ来たわけじゃなく、とことん悩み、さんざん考えた末に、最終手段として私に頼みに来ていた。


 

◇◇◇


 特訓初日の『全属性魔法』から始まり、


『魔剣術』『竜闘術』『身体強化』と、毎日スキルを試しては教会へ、私と模擬戦をしては考察、その繰り返しの日々が続く。


 残念ながらそう簡単にはいかなかったが、それでもスキルを使用するという行為は、秋穂にとって貴重な経験となった。「もう少し、あと少しで何かが掴めそうだ」と前向きに取り組んでいる。

 


 そして今度は、ちょっと趣向を変えてみることに――。


 夏希の『技巧』スキルをコピーして、装備の装飾や家具の作成をしてみたんだ。今まで戦闘系スキルに偏っていたので、今度はクラフト系スキルを経験してみたのだが、どうやらそれが功を奏したらしい。


「秋ちゃんどう? モノ作りも結構いい経験になるっしょ!」

「うん、特殊効果がついたときの感覚が良いよね。あっ、きたかもっ、みたいな不思議な充実感がある」

「うんうん、あの瞬間がたまらないよねー」

「ありがとね、なっちゃん」

「良いってことよ! 時間はあるんだから、とことん挑戦しよっ。1年でも10年でも付き合うからね。諦めなんて言葉は、ずっと未来に投げとけっ!」

「うん!」


 ふたりのやり取りを見て、おっさんは不覚にもウルッときて感動していた。今日はアドバイスできることもないので、ただの見物人と化していたが、こういうのも悪くない。


「秋穂、そろそろ日も暮れる。教会に寄ってから明日の予定を詰めようか」

「村長も毎日ありがとう。でもお願い、もうしばらく手伝ってください」

「当たり前だ。秋穂の強化は村の強化、村の強化は私の安全だ。いくらでも付き合うから安心しろ」

「村長、それ40点! もうひとひねり欲しかったなぁ。ねー秋ちゃん」

「ぷっ。――でもなっちゃん、冬也の10点に比べたらかなりマシだよ」

「……お前ら容赦ないな」


 評価は辛口だったが、表情を見る限りはまんざらでも無さそうだ。



 秋穂とふたりで教会に行くと、いつものように祈りを捧げ始める。毎日毎日、悲しげな顔で振り返る秋穂だったが、そこはもう割り切るしかない。


 そんなことを考えながら彼女の様子を見ていると、


「っ、聞こえた! 聞こえたよ村長!」

「マジかよ! やったな秋穂!」


 他のみんなと同様、アナウンスが聞こえたらしい。「早く詳細を見たい!」と、うれし泣きしながら飛びついてくる秋穂。私も早く見たかったので、ふたりして自宅に駆け込む。



「ではいきます!」

「どんと来いっ!」


 気合を入れてモニターに触れる秋穂。そこには、新たな職業とスキルがバッチリ表示されていた。


================

秋穂 Lv51

村人:忠誠98

職業:巫女

スキル:治癒魔法Lv4

対象を目視することで、MPを消費して傷や状態異常、病気を治癒する

スキル:付与魔法Lv2

自然回復付与:継続して徐々に傷を治す効果

身体強化付与:継続して身体能力を強化する

※レベル上昇に伴い効果と継続時間が向上

================


「おお、巫女ときたか! それに付与魔法、しかもいきなりLv2!」

「目指してた戦闘系とは違うけど……集団戦で活躍しそうなスキルです!」

「さあ、夏希にも早く報告しにいこう。他のみんなももうすぐ帰ってくるだろうし、今日はお祝いするぞ!」

「村長、本当にありがとう。これで私も胸を張って頑張れる!」


 見事に転職を果たした秋穂は、すぐに夏希と合流して喜びを分かち合っていた。


 やがて夕食となり日本人メンバーが集まると、秋穂を囲んで誰からともなく祝いの言葉を述べている。彼女の表情はとても晴れやかで、秘めたる自信に満ち溢れた感じだった。




 ――と、ここからは私と秋穂と夏希だけの秘密話だ。


 三人でいたとき、「なんで巫女になったんだろう?」って率直な疑問を投げかけたんだ。


 そしたら――


「私、転移する直前まで巫女さんの衣装を着てたんです。撮影会が終わって着替えようとしたときに飛ばされたんで……。着替えの入ったバッグごと転移したので良かったですけど、たぶんその影響なのかも?」


 なんて裏情報を教えてくれた。


『なっちゃん以外は誰も知らないから、三人だけの秘密にしてね』


 そう念を押されたのが記憶に残った。ちなみにその衣装は、今も大事に保管してあるらしい。


 日和ったおっさんには、「それって何の撮影会なの?」なんてことまで聞く勇気はありませんでした。


 めちゃくちゃ気になるので、いつか聞いてみたいと思っている。






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