表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界村長【書籍発売中】  作者: 七城
第1部 『異世界村長編』
90/252

第90話:竜人の家族

異世界生活192日目



 兎人の双子誕生から5日後、


 もうまもなく、村にドラゴ一家が到着する予定だった。少し前にメリナードから念話が入り、街を飛び出していったことを知らせてくれたのだ。


 飛び出してってのは、文字どおり、家族全員で飛行しながら向かっているという意味である。障害物のない空の移動、それに竜人の飛行速度が加われば、さして時間はかからないはず。


 以前ドラゴが来訪したとき、その圧倒的な飛行能力を目にしたので間違いないだろう。



 連合議会についてだが、議長に就任したのは、虎人族の族長タイガンという人物に決まったらしい。てっきり隆之介がなるもんだと思ってたよ。


 自分は影から操るつもりなのか、ほかの思惑があるのかは不明。ただ、日本人奴隷の所有権は隆之介が引き継いでいる。まあ、村に被害がない限りは正直どうでもいい。


 私と村が最優先だということは、ドラゴにも魚人のマリアにも徹底してある。それを承知で移住を決断したんだと考えている。仮に獣人領で何かが起こり、情にほだされるようなら……問答無用で追放するつもりだ。


「啓介さん、あの人たちじゃないです?」


 椿が指さすほうを見ると、上空に4つの人影が確認できた。向こうも私に気づいたようで、滑空しながら手を振って答えている。


 私と椿も結界際まで歩いていき、いよいよご対面と相成った。



「啓介殿、久しぶりじゃの!」

「ドラゴも元気そうでなによりだよ」

「この日が来るのを待ち望んでいたからの! っとすまんすまん、これが儂の家族じゃ」


 ドラゴの隣には若い女性とふたりのこどもが――。3人とも勇ましそうな印象を受けていた。


「初めまして、ドラゴの妻ドリーよ。こっちは息子のドルト、そして娘のドレス、魔物狩りならウチらに任せて下さいね」

「ドルトです! 歳は16、戦闘には自信があるんでよろしく!」

「わたしはドレスよ、わたしたち双子なの。ああ、ちなみにわたし、ドルトより強いから、そこのところよろしく」


(おい、なんだこの戦闘民族、自己アピールがひど過ぎるだろ……)


 鑑定の結果、忠誠度は問題ないようだった。さっきの発言はともかくとして、そこそこ高い数値を示している。


「まあ、なんだ。たくましい家族だね?」

「すまん啓介殿、どうやらわかっとらんようじゃ……」

「え? なにが?」


 思わせぶりなことを言うドラゴだったが、なんのことだかサッパリわからない。そんな彼は、少し落胆した様子でこどもたちを見ていた。


「お前たち、目の前にいる男の力量がわからんか? 強き者には敬意を持って接する、そんなこともできんとは情けないぞ」

「しかし父上、この人どう見ても強そうには……」

「ドルトの言うとおりだわ。覇気も感じとれないし、とても父様のおっしゃるようには思えません」

「上辺だけ見ているようでは、いつか足を掬われるぞ。お前らより強い者など、世にはいくらでもいると言うのに」


(うわー、この状況って……。主人公に舐めてかかり、真の実力を知って驚愕、改心して尊敬しちゃうという展開まんまじゃん)


「啓介殿、ひとつ儂と手合わせ願えんかの。こやつらにお主の実力を見せてやってくれんか?」


(ほらきた、やっぱそういう流れかよ!)


「嫌だよ、別に私の強さなんて関係ないし」

「ぬ? そこは普通、やれやれしょうがないな……となるところじゃろ?」

「そういうのは他に任せてるんでな。うちの戦闘班とでもやってくれ」

「そうか、いずれにせよ失礼した。どうかよろしく頼む」


 危うくバトル展開になるところを回避、すぐに結界の中へと誘ったんだけど――。


「え?」「あら?」


 どういうわけか、子ども2人は結界に阻まれてしまった。追放位置はすぐ隣にしてあるが……いま起こっている状況に混乱する。


「なんでだ? 忠誠度はじゅうぶん足りてるだろ?」

「啓介さん、先ほどのやり取りで下がってしまったのでは?」

「マジ? あんなことで下がるか普通……」

「この子たちにとっては、信用の大きな判断基準なんでしょうね……」

「すまんドラゴ、子どもたちは忠誠が足りないようだ。残念だが今すぐには村に入れん」


 信用の基準が戦闘力だなんてこと、夢にも思わなかった。さっき適当にあしらったのが失敗だったらしい。思いどおりに事が運ばず、正直ちょっとイライラしている。


「重ね重ね申し訳ない……」

「あたしからもお詫びを、ごめんなさいね」

「いや、別にいいけどさ。そんなことより、強さが信用の基準てのはちょっと困るぞ。ここで力を示しても、いずれ私のほうが弱くなれば……信用がまた落ちるってことだろ?」

「いや、それはない。これはあくまで気概の問題じゃ、さっきのは儂が煽ったのも悪かった」

「あ……なるほどね。竜人の矜持を踏みにじる行為だったのか。それは私も悪かったよ」


 この子たちが欲しているのは単純な強さじゃなく、戦いに対する意欲とかプライドみたいなものだったらしい。


 私の力は『徴収』で得た偽物だ。そんなものをひけらかすのは愚かな行為、そう決めつけていたんだ。だが今回は裏目に出てしまったらしい。

 

「よしわかった。手合わせするよ、もちろん本気でやらせてもらう」

「おお、それはありがたい!」

「どうせなら、当の本人たちとやりたいんだがどうだ?」

「願ってもない! 遠慮なく村長の力を示して欲しい」

「ふたりもそれでいいか?」

「「っ、ぜひに!」」


 ってことで、結局はお決まりの模擬戦が始まる。こんなことなら最初から受けときゃ良かったなと思いながら、ふたりと順番に向き合う。


 ここでヘタに手を抜けば、余計にややこしいことになる。そう考えた私は、ドラゴの竜闘術をコピーして万全の状態で挑むことにした。ふたりとのレベル差は20もあるし、単純なフィジカルだけでも負けることはない。




◇◇◇


「村長! ぼくが間違ってました!」

「あなたの実力、しかとこの身で受けました。心から尊敬しています!」


 過程はわかりきってるから省略するけど、思う存分、ボッコボコにしてやった。足腰立たないようにしてやると、案の定、ふたりして私を褒めたたえていたよ。


(やれやれ系は嫌いなのに……)


 イライラは解消したけど、気分は全然晴れなかった。他人の力で粋がるつもりは毛頭ないのだ。


「いやもうわかったから……。何度も言うけど、この力は全部借り物だからな。逆に言えば、ふたりが強くなればなるほど、私も力がついて安全に生きられるんだ。だから精進して村のために尽力してくれ」

「「もちろんです村長!」」


 さっき竜闘術をコピーしたので忠誠度は鑑定してないけど、ふたりは無事に村に入ることができていた。こんなので大丈夫なのかと、今後の不安は多少残るが……。もう後のことは知らん、なるようになれだ。



「はぁ。なんかもうお腹いっぱいだぞ……」

「啓介さん、おつかれさま」


 椿のねぎらいが心に染みる。


「ドラゴ、何はともあれ今日から三人も村人だ。奥さんもふたりも、村のためにしっかりやってくれ」

「うむ、啓介殿の真価をみれて儂も満足じゃ。今度は儂とも手合わせしてほしいもんじゃて」

「あ、だったらわたしも混ぜてよね」


 だめだこりゃ……この親にしてこの子在りだ。ここだけ見ると、ほんとに議長をやってたのか疑ってしまう。


「もうそれはいいから。それより女神さまに挨拶はいいのか? 本来、最大の目的はそれのはずだろう」

「そうであった。なにせ、長い人生の中で初めて迎えた儂だけの時間なのだ。ついつい欲が出てしまっての」

「まあわからんでもない。私も、議長時代の知識と経験は求めるが、議長としての責務を負わせるつもりはない。自分の得意分野で貢献してくれ」

「その言葉、ありがたく頂こう」


 重責から解放された反動もあるのだろう。しばらくすれば落ち着きそうだったので様子見を決め込んだ。



 少しだけ同情しながら、ドラゴたちと一緒に教会へと向かう。


 熱心な祈りを捧げたあとはステータス確認をして、竜人族の受け入れもようやく一段落ついた。三人とも、ちゃっかり職業を授かっていたのには笑ってしまったが――。


 これもひとえに、日々の鍛錬と意志の強さの賜物なんだろう。家族全員が『闘士』ってのも納得の結果だった。さして驚きもしなかったよ。


 まあ、戦力が強化されたのは間違いない。間違いないんだが……いろいろと厄介そうな気配がプンプンする。うちの戦闘班と合流したときのことを考えると、少し憂鬱な気持ちでいた。



 あっ、それはそうと


 ドラゴの持つ竜闘術、その中にある『竜の翼』なんだけどね。「私も空を飛べちゃうのか?」と試したんだが――


 残念ながら翼がないとダメだった……。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 毎日楽しませてもらってます。 あまり力になれませんが応援しています!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ