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異世界村長【書籍発売中】  作者: 七城
第1部 『異世界村長編』
89/252

第89話:小さな村人

異世界生活187日目



 自身初となる異世界ダンジョンを経験した次の日、ナナシ村に新たな命が誕生した。


 農業を担当していた兎人の女性がついに産気づき、無事に出産。小さなウサ耳を生やした双子の赤ちゃんが産声を上げたのだ。


 ――――


 私がそれに気づいたのは、まだ夜も明けてない早朝のこと。


 まだ寝ているにも関わらず、いつもの電子音のようなアナウンスが頭に響いてきた。こんな時間に聞こえるとは予想外、びっくりして布団から飛び起きる。


(おいおい、寝てるときでもお構いなしか……マジで心臓に悪いぞ)

 

 アナウンスは頭に直接聞こえるので、寝ぼけていようが関係ない。その内容は記憶に刷り込まれていた。今回の解放条件は『子孫繁栄』だったので、子どもが生まれたんだな、とすぐに理解した。


 そのまま起き上がりモニターでステータスを確認する。


=================

啓介 Lv58

職業:村長 ナナシ村 ★☆☆

ユニークスキル 村Lv9(96/2000)


『村長権限』『範囲指定』『追放指定』

『能力模倣』『閲覧』『徴収』

『物資転送』『念話』

『継承』<NEW>

忠誠度が90以上の村人に能力を継承することが可能となる

※継承した能力は抹消される。ただし、継承者の死亡もしくは能力を返還した場合は再使用可


村ボーナス

★ 豊穣の大地

この地に生きるものは病気にかからず、生命維持に好影響を受ける。

※解放条件:初めての収穫、生命の誕生

☆☆ 万能な倉庫

村内に倉庫を設置できる。サイズは村人口により調整可能(品質劣化なし)。※解放条件:初めての建築と備蓄

☆☆☆ 女神信仰

村内に教会を設置できる。適正のある村人に職業とスキルを付与、ステータス閲覧可能※解放条件:大地神への祈り

=================



(スキルは『継承』か。なるほど、子孫に受け継いでいけるってことね。これはいいのが来てくれたぞ)


 村人上限が倍の二千人に増えているが、ここにはもう触れなくていいだろう。やはり目玉は『継承』スキルだ。


 念話と同様、忠誠90以上の村人が対象らしい。子ども限定とも表記されてないので年齢制限はなさそう。能力を全て継承してから死ねば、村の維持は可能となったわけだ。


 信用できる村人に一部の能力を渡せば、そのぶん自分の動きも身軽になる。いざとなれば、能力を返してもらえるみたいだし、かなりお手軽に使えそうな気はする。忠誠度の制限があるから裏切りの心配もない。


(あとでいろいろ試してみよう。ってまずは母子の様子を見に行かないと)


 とはいえ、産後で疲れてるところに村長が現れたら……、変に気を使わせてしまうだろう。『豊穣の大地』の恩恵もあるし、余程がない限り大丈夫なはずだ。そう考え、もう少し後で行くことにして二度寝を決め込む。




◇◇◇


『村長、もう起きているだろうか?』


 朝になり、起きようと思っていたところにラドから念話が入る。


 と、案の定出産の報告だった。母子ともに健康で、村長に見てほしいとの要望があったそうだ。


 快く承諾し、ちゃっちゃと着替えて兎人の家へ向かう。


「朝からすまない。どうしても村長に抱いて欲しいそうだ。できれば名付けもお願いしたいが……構わないだろうか?」


「「お願いします。私たちの子に、村長の祝福を授けて下さい!」」


(……抱くのはもちろんいいけど、名付けはちょっとハードルが高いだろ。それに祝福ってなんだよ……)


 いきなり重大なことを頼まれて混乱する。が、めでたい場で空気を悪くするのも忍びないので、必死に頭を回して正解を導き出す。


「ふたりともおめでとう、私もとても嬉しいよ。――そして安心してくれ。ナナシ村は大地の女神に祝福されているんだ。名付けは親が決めるといい。そして教会へ行き、女神さまに感謝を捧げにいこう」

「なるほど、女神さまに……ですね。わかりました、村長がおっしゃるなら間違いありませんものね」

「ああ、ささやかながら私からも祝福させてもらおう。村に生まれたふたつの希望を抱かせてもらえるかな?」

「はい! ありがとうございます!」


 咄嗟に女神さまを引き合いにだしてしまったが……まあ許してくれるだろう。それに実際、『豊穣の大地』という祝福を受けてるのも事実、感謝の気持ちだって嘘じゃないのだから。


「ふたりとも、とてもかわいいね。この子たちが大きくなるまで、私も頑張らないとな」

「村長のおかげで、安全な居場所と豊かな生活に恵まれています。我らも村のために精一杯働きますので!」


 兎人の部族に子が生まれると、族長が抱き上げ名付けをするという風習がある。今回は村の代表である私にお願いしてきたらしい。名付けは勘弁してほしいけど……子を抱き上げ幸せを願うくらい、いつでも大歓迎だった。



 やがて朝食の時間となり、集まって来た村人たちも次々と祝いの言葉を述べる。小さな村人の誕生を、喜び分かち合っていた。


 ちなみに、『豊穣の大地』の効果で「生命維持に好影響を受ける」というのがある。出産時にも影響するだろうとは思っていたんだけど……。


 なんと出産直後にも関わらず、母親は平気で動き回っていた。


 しっかり休むよう言い聞かせたが……あの調子だと明日にでも作業に戻りそうだった。周りのみんなもずいぶん気にしていたし、秋穂なんかは、何度も何度も治癒魔法をかけていたよ。


 兎人の両親は申し訳なさそうにしていたが、秋穂の真剣な態度にはとても喜んでいる。



◇◇◇


 自由時間となった昼過ぎ、村人たちは生まれた子どもの様子を見に行ったり、祝いと称して酒盛りをしたりで楽しそうにしている。


 そんなお祝いムードの中、私と椿は自宅にこもり『継承』能力の検証をしていた――。



「ダメか。だろうとは思ったけど残念……」

「さすがに、なんでもアリになっちゃいますもんね。仕方ないですよ」


『私がコピーしたスキルを継承できないか』


 それを試して、見事に玉砕したところだった。十中八九、無理だとわかっていたけど、検証しない訳にはいかない。


 もしこれが成功してしまったら、村のみんなに能力を付与し放題になる。それこそ、村人全員が勇者並みのチート持ちになるところだった。


「じゃあ次だ。とりあえず『物資転送』を椿に継承する。継承した分、私のスキルレベルが下がるかの検証だ」

「はい、お願いします」


 椿に宣言してから自分の能力を渡すイメージをする、のだが……。


「できた……のか? 私にはなんの感覚もないけど、椿はどう?」

「いえ、とくに何も。アナウンスみたいなのもありませんし、心身にも変化はないです」

「一度モニターで確認してくれるか?」

 

================  

椿 Lv27

村人:忠誠99

職業:農民

スキル 農耕Lv4

土地を容易に耕すことができる。

農作物の成長速度を早める。

農作物の収穫量が増加する。

農作物の品質が向上する。


継承スキル:物資転送<NEW>

村の敷地内限定で、事前に設定した位置間で物資の転送が可能となる。※生物転送不可

================


「あ、表示されてますね」

「なるほどね、こんな感じになるのか」


 続いて私も確認してみると、『物資転送』能力がしっかり消えていた。ただ、スキルレベルは9のまま維持されている。継承し過ぎてスキルレベルが下がり、拡張できる敷地が減る、みたいな心配はないようだ。


「啓介さん、私も能力を試してみたいんですけど、いいですか?」

「うん、たぶん鉱山の倉庫には物資があるはずだから、そこからこっちへ送ってみようか」

「ではさっそく行きましょう!」


 珍しく乗り気な椿は、駆け足で万能倉庫へと向かう。私もそれを追いかけると、到着して早々に『物資転送』を試していた。


 ガラガラッ、ゴトッ


「お、うまくいったようだ。ってあれ? やり方なんて教えたっけ?」

「以前教えてくれましたよ、忘れたんですか?」

「そうだっけ? そう言われるとそんな気もするけど……まあいっか。んじゃ、しばらくそのまま所有しててね」

「え、いいんですか?」

「継承の能力を見たときから、椿に渡そうと思ってた。物資の移送も任せられて私も助かる、ぜひとも任せたい」

「っ! はい!」



 この能力を『安心して』渡せる相手は椿しかいない。彼女への信頼はもちろんのこと、常に村にいるから身の安全も保障されている。付け加えるなら、総合管理も任せられる人物だからだ。



「まあ、まだ死ぬ気はないからね。お互い協力しながら運営していこう」 

「そう簡単に死なれては村のみんなが……いえ、私が困ります」

「ありがとう、うれしいよ」

「じゃあ、赤ちゃんのところへ行きましょう。私も早く見たいです!」

「そうだね、すぐにいこう」


 細かい検証は後回し、


 椿とふたりで小さな村人のところへ駆け寄っていった――。





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