表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界村長【書籍発売中】  作者: 七城
第1部 『異世界村長編』
87/252

第87話:隆之介-ep.2

<ケーモスの街-日本商会支部>

会長室にて



「これはこれは勇者殿、この度は無理を言って申し訳ない。私は日本商会の会長を務める隆之介です」

「はじめまして、僕は勇人と言います。僕自身大した力もないので、かしこまらずお願いします」

「んん……そうか、ならそうしよう。お連れの皆さんも初めまして、どうぞよろしく」


 勇者の後ろに控えた女性たち、彼女らが興味なさそうな感じで返答する。


(こんなに女をはべらせやがって……。イケメン勇者に美女だらけのハーレムとは、実にけしからんヤツだ)


 オレも30にしては若く見えるほうだし、顔だってそこそこ良い部類だ。だがこの勇人ってヤツは別格。誰が見ても超絶イケメンだった。それだけに余計悔しさを感じている。


 気を取り直し、ひとりひとりと握手を交わしながら自己紹介を交わしていく。もちろん、こいつらを従属させるためだ。


 だがしかし、勇者の持つ『状態異常耐性』と『勇者の威光』のせいなのか、誰にも効くことはなかった。こいつらが街に来たときから把握してたけど……。


 こんな耐性まであるとは、さすがは勇者と言ったところか。こうなったら自力で引き込むしかない。


「今日来てもらったのは他でもない。同じ同郷として、何か力になれたらと思ってね。まずは友好を深めることから、ってさ」

「それはありがたいです。街に来たばかりでまだ何もわかりません。アドバイスしてもらえると助かります」

「もちろんだよ。こう見えても私、全ての街に支店を構えていてね。――そうそう最近、連合議会の議員にも選ばれたんだ。そういう方面からも、かなり融通してやれると思う」

「だけど……なぜ初対面の僕たちにそこまで? 隆之介さんにメリットがないですよね?」


(こいつ、ズケズケ聞きやがって。お前はもっとうやまえよ! ったく、ここの領主も何やってんだ。もっとオレの立場を叩き込んでおけよな、ほんと使えねぇ)


「ああ、なにも無償でってわけじゃない。私のもとで働いてくれたらいいな、と考えているんだよ」

「働くって、具体的には何をさせるつもりなんでしょうか」


 勇者に聖女に剣聖となれば、その存在だけで人族に対するけん制になる。オレの配下として働かせてやるつもりだ。それをオブラートに包んで説明してやると――。


「それは戦争に加担しろということですか? でしたら僕たちはご遠慮したい。できれば平穏に暮らしたいので」

「まあ待て、そう結論を急ぐなよ。もちろん今すぐって事じゃない。時が来れば協力を仰ぎたいって意味だよ。これは議会の総意でもある」


 もちろん嘘だが、オレの決定は議会の総意みたいなもんだ。


「そうですか……。もし協力しなかった場合、僕たちにペナルティは?」

「どうだろうね。もちろん私がなんとかするけど、他の議員からは干渉があるかもしれない。なにせ勇者だし」

「僕の……僕たちの願いは、この街で穏便に暮らすことです。まだここに来て間もないですし、いきなり戦争と言われても困ります」


 気取っているのか臆病なのか、どちらにせよ協力する気はないようだ。このまま話していても無駄だと思い、外堀から埋めていくことにした。


「後ろの彼女たちはどうなのかな。私のもとにいれば、この世界でも最上級の生活を約束するよ? 欲しい物もなんだって手に入る。もちろん戦争なんて最終手段だ。まだ起きるかもわからない絵空事だよ」


 私の問いかけに、「最上級だって!」とか「どんな物でも?」なんていう声がボソボソと聞こえてきた。どうやら一定の興味は引けたようだ。


「仮に街で自活するにしろ、何かとお金が必要だろ? これだけの人数を養うのはかなり厳しいと思うんだけど……みんなはどう考えてる?」

「みんなで働けばなんとかなるっしょ!」

「そ、そうだよねー。なるなるー」

「それは甘いと思うよ。多くの日本人が転移してきたせいで、働き口も少ないんだ。まあ、うちの店ならなんとかなるけどね」

「じゃあ、隆之介さんのお店で働かせてもらえば良いよね! 勇人たちは冒険者やればいいしさ!」

「あ、それ名案かもー!」

「「わたしたちも賛成!」」


 女たちは厚かましいが、流れ自体はよくなってきた。手元にさえ置いておけば、あとはこっちのものだ。そう思っていたんだが……。


「みんな、ちょっと待って欲しい。何でも頼り過ぎるのは良くないと思うんだ。まずは持ち帰ってじっくり話し合おう。――隆之介さん、考える時間を頂いてもいいでしょうか?」


(おい、お前は何様のつもりだ! 「僕は勇者様だぞ」ってか? これだけ譲歩してやってんのにありえねぇ)


「もちろんだとも、じっくり話し合って決めてほしい。――ただ、私も忙しい身だからね。出来れば早めに返事を貰いたいところかな」

「わかりました。なるべく早く返事ができるように相談します」

「ああ、いい返答を期待してるよ」


 まあ、種は撒いておいた。あとは裏で手をまわしてドン底に追い込み、そっちから懇願させてやる。


「悪かったね。いきなりこんな話をするつもりじゃなかったんだ。嫌な気分にさせてたら申し訳ない」

「いえ、ご厚意はありがたいです。お気になさらず」

「そうか――。話は変わるけど、勇人くんたちのこれまでを聞かせてもらってもいいかな?」

「ええ、構いませんよ。僕らは最初――」


 さっきまでの話で少し警戒させてしまったかと思ったが、そのあとは割と気さくな感じでお互い雑談に入っていった。話の途中で、大森林にあるというナナシ村の話題になると、勇者の顔が今日一番の笑顔に変わる。


 日本人のおっさんが村長だというのは聞いていたが、「せっせと作った米や芋なんかを売っているモノ好きなヤツら」程度の認識だった。


 議長からの報告でも、戦力はたいしたことないし、人口だって100人にも満たない小規模な集団だ。今後も多少増えたところで、今のオレにとっては無害、むしろ食糧源として利用してやる。


 なにをとち狂ったのかドラゴも村に移住するらしいが、いくら個の力が強くても、争いとなればモノを言うのは数だ。老兵ごとき、へんぴな村で隠居してればいい。


 大人しく食糧を提供しているうちは放置で問題ない。まあ、村のおっさんのことを嬉々として語る勇者はうっとおしいが……、機嫌も良くなったんだからヨシとしよう。


「なるほど、今まで大変だったんだね。まあ、これからは協力してやっていこうじゃないか。同じ日本人なんだし、いつでも相談に乗るよ」

「はい、僕たちもじっくり生活基盤を整えていこうと思います」


(馬鹿が! オレの下につかない限り、そんな未来は絶対来ないっての)


「ああ。君たちの明るい未来を応援するよ」



 ――――



 別れの挨拶をおえると、勇者たちはそそくさと帰っていった。こちらに何かを要求するわけでもなく、無関心って態度がイライラする。


「おいミザリー、オレはすぐに首都へ戻る。ヤツらの返答次第では、徹底的に邪魔をしてやれ。平穏? じっくり? そんなことは絶対に許すな」

「はい、かしこまりました」

「息のかかった商会や宿屋、冒険者ギルドにも伝えておけ」


 街のどこにいようが関係ない。宿屋も武器屋もダンジョンも、朝から晩まで苦難を与え続けててやる。


「隆之介様。仮に全員ではなくとも、一部の者だけでも引き込みますか?」

「ああもちろん、とくに女どもはな。金とをつぎ込んで篭絡させてやれ。最悪、勇者の泣きっ面が見れるだけでも十分だ」

「ではそのように致します。状況は逐次報告いたしますので」

「ハハッ、どん底に堕ちた勇者が目に浮かぶぞ!」




 勇者と話すまでは、オレの配下にしてコキ使ってやろうと思っていたんだが……。あの様子だと、こちらになびくことはまずない。

 だったら勇者を孤立させてしまうのが得策だ。剣聖と聖女さえ何とかすれば、他の女たちを寝返らせるのはそう難しくはないはず。


 ハーレム作って余裕ぶってるみたいだが、それもここまでだ。慕われていた女たちに裏切られたら、さぞ悔しいことだろう。絶望してどこぞに消えてしまえば、オレに危害がおよぶ心配も皆無だ。


(残念ながらこの世界の主役はお前じゃない。オレこそが主人公となるべき存在なんだからな)



 ――もうまもなく、この国がオレのモノになる。議長さえ交代させてしまえば、あとは思うがまま動かせる。


 勇者、お前はせいぜい落ちぶれながら、オレの華々しい人生に嫉妬してればいいのさ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ