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異世界村長【書籍発売中】  作者: 七城
第1部 『異世界村長編』
86/252

第86話:隆之介-ep.1

<ケーモスの街-日本商会支部>

会長室にて



「隆之介様、領主に依頼していた勇者一行との面談ですが、明日の午前に決まりました」

「わかった。予定どおりお前も同席しろ。『真偽眼』のスキルは常に発動させておけよ」

「はい、仰せの通りに」



 今から10日前、ケーモスの街に勇者を名乗る者が突如出現。首都にいたオレはすぐにケーモスへと向かった。連合議会の一員となり、いよいよ計画も最終段階に……そう思った矢先の知らせだった。


 連合議会の議員どもは、かなり前からオレのスキルで傀儡も同然。なぜかドラゴの野郎と魚人の女には効かなかったが……なんと都合の良いことか、両方とも議員を辞職する気らしい。


 この世界に来てからというもの、なんでも思いどおりに事が進んでいる。我ながら惚れぼれするような立ち回りだった。最近は運すらも味方についたようで、すこぶる気分がいい。


 思い起こせば転移初日、


 たまたま教会の前にいたのも、天運がオレにある証明だったのかもしれない――。




◇◇◇


「うわっ、なんだ今の! ってか、さっきまでコンビニにいたよな……何がどうなってんだ?」


 休日を返上して仕事に駆り出されたオレは、営業先近くのコンビニ前で、車のシートを倒してスマホをイジっていた。


 トイレに行こうと車のドアを開けたとき――。急に目の前が真っ白になり……次の瞬間には見たこともない場所に座り込んでいたんだ。周囲には車もないしコンビニもない。というか……。


「そもそもここ、どう見たって日本じゃないだろ……」


 目の前には中世風の街並みが広がっている。舗装された道路もなけりゃ、建物もずいぶんと風情のある感じだ。大通りを行き交う馬車や、獣耳を生やした人々が往来している。


「って獣人に中世って……。おいおいおい、オレ、異世界転移しちゃったんじゃね?」


 携帯小説でよく読んでた異世界ファンタジーもの、今いるのはまさにそれとしか思えない場所だった。


 オレも異世界に行って無双してぇなー、なんて考えたことは一度や二度ではない。そんな夢のような世界に、まさか本当に来るハメになるとは……。


「っ! そうだステータス! 能力とかスキルとか確認しないとっ」


 異世界転移と言えばステータス、特別なスキルや加護を貰えるのがお決まりだ。そう考えたオレはすぐさま路地裏に入り、アレやコレやと、考えうる全てを試した。


 ……だけど結局、何もわからないまま終わってしまう。



 そんなとき、教会らしき場所から出てきた獣人たちの会話が聞こえてきた。そいつらの話では、教会でステータスの確認ができるらしい。しかも無償で――。


 オレはすぐに教会へ駆け込み、礼拝堂の中にいたシスターにお願いした。


「あら、人族の方とは珍しい。――もちろん種族を問わず利用できますので安心してください。お祈りは初めてですか?」

「あ、はい。この女神像に祈ればいいんですよね? んで、あなたにその結果を伝える、と」

「ええ、それが決まりとなっております。ちなみに私には『真偽眼』のスキルがありますので、虚偽の申告はかないませんよ?」


 どうやら、ステータスを無償で確認する代わりに、その情報を教会で一括管理するシステムらしい。だがこれで、スキルやステータスが存在することも確定したわけだ。


 なにはともあれ、自分の能力がわからないことには埒が明かない。そう思って祈りを捧げてみる。


 するとどうだろう。


 頭の中に自分のステータスが浮かび上がってきたんだ。


===============

隆之介 Lv1

職業:詐欺師

スキル:精神干渉Lv1(0/3)

他者の精神に干渉して従属させる

※自身より高位な存在には干渉不能

※自傷行為を強要することは不可能

※自衛能力を阻害することは不可能

<発動条件>

1.対象を目視する

2.対象に接触する

3.対象の名を発する

===============


 なんてこった……。異世界に来たと思ったら詐欺師になっていた。


(なんでだ? オレは真っ当な営業職だったぞ? そりゃあ、たまにサボってはいたけど……)


 だが少なくとも、詐欺まがいのことなんて一度もしたことがない。はじめはそんなことを考えていたが、スキルの項目を見てすぐに頭を切り替えた。


(なんだか小難しい制約はあるけど……。要するにコレ、洗脳できちゃうってことだろ? こんなの最強スキルじゃないか!)


 洗脳系といえば、強奪とかコピー能力に並んでチートなスキルだ。「これさえあれば無双できる」と、そんなことばかり考えていた。


「お祈りは終わったようですね」


(しまった……この女には嘘をつけないんだった。詐欺師なんて職業、ましてや洗脳系のスキルを持ってるなんて知れたらヤバいだろ……)


「あ、ありがとうございます。――そういえば名乗りもせず申し訳ない。私は隆之介といいます、もしよろしければあなたのお名前をお聞きしても?」


 こうなったらこの女で試してやる。そう考えたオレは、お礼と称して名前を呼びながら握手を交わした――。


 するとその瞬間、『この女を従わせた』という感覚がオレの中に湧いてきたのだ。なんていうか、お互いのパスが繋がったって感じか。とにかく良くわからんが、成功した確信だけはあった。


「お、おいミザリー、今からオレの言うことは絶対だ。今後はオレのためにしっかり働けよ?」

「はい隆之介様、かしこまりました」


(いいぞいいぞ! ちゃんと効いてる!)


「オレの職業は『商人』だ。スキルは『カリスマ』にでもしておけ」

「カリスマ……? 初めて耳にするスキルです。それより職業とは何のことでしょうか?」


 どうやらここの住人たち、ステータスの中に職業という項目は無いらしい。ひょっとすると、転移してきたオレだけが持つ特性なのかもしれない。


「めんどくさいな……。とにかく商人で登録しとけ。カリスマはアレだ。人々を統率する能力が高い、って感じでいいだろ?」

「そうですか……。隆之介様がおっしゃるならそれに従います」



 そんなことより、まずは能力の確認が先だ。従属させた相手は、いったいどこまで言うことを聞くのか。それを試すため、オレは欲望のままに指示をしていった。


 のだが――


 正直言って『無念』のひと言だった。


 まずはなんといっても、ムフフな展開は壊滅だったこと。多少は言うことも聞くけど、直接的な行為はまるでダメ。完全な洗脳状態じゃないらしく、相手もちゃんと拒否してきやがった。


 自傷行為も拒否するし、オレが殴るフリをしても、しっかり身を守ろうとする。ただ、普通の指示や命令には従うので、手駒としては十分利用できるんだろう。


(洗脳ハーレムは無理そうだな……)


 そんなことを考えている内に、チラホラと教会に来る日本人の姿が――。オレと同じように、どこかで情報を仕入れたんだろう。訪れる者の顔は期待でいっぱいだった。


(ていうか、オレ以外にも来てるヤツがいたのかよ)


 数日経ってから判明したことだが――、


 この世界に転移してきたのはオレと数名、どころか千人以上はいるようだ。その大半が集められ、街の練兵場で保護されている。なかには暴れるヤツもいて、その場で殺されていたらしい。




◇◇◇


 それからのオレは、街の有力者を次々と従属させていった。


 最初は3人までしかできなかったが、スキルレベルが上がると上限も増えてくれたよ。街でも有名な商会長を従属させて、『日本商会』なるものを立ち上げることに成功する。


 ただし、領主には手を出していなかった。いきなり無茶をすれば、必ずどこかでバレる。焦ることはないし、じっくり基盤を作っていけばいい。



 その後、有能なスキルを持った日本人を従属させ、商会の成長も目覚ましいものとなっていく。日本人は全員、スキルを知るために教会へ連れてこられる。ミザリーに報告させることで簡単に選別できた。


 日本商会のあおりを受け、疲弊していく店も数多くあった。が、そんなことはどうでもいいことだ。いざとなっても、街にいるほとんどの権力者はオレの意のままだ。お咎めを受ける心配もなくどんどん勢力を伸ばし――、


 やがては首都ビストリアへと進出した。



 スキルレベルも4まで上昇、今では100人まで従属させることが可能だ。首都はもちろん、主要な5つの街にも支店を置いた。当然、そこの支店長は従属済みだし、主要な店員も手駒で固めている。


 そしてついには、連合議会の議員どもを従属させ、オレ自らも議員の仲間入りを果たした。たった半年でここまで成り上がったんだから、オレの才気も大したもんだろう。


(次はドラゴから隷属権を奪うことだな)


 好都合なことに、ドラゴ自ら議長を退任するらしい。後任の議長を適当に選んで、ドラゴが所有している隷属権をオレに移譲させればいい。実に簡単なことだ。


 議会特製の首輪は、とても強力な隷属効果がある。ほぼなんでもありだし、主人の命令には絶対に逆らえない。転移したての頃は、日本での倫理観が邪魔して吹っ切れなかったが……。この世界の制度として認められているなら話は別だ。


 金と権力がある今なら、奴隷はいくらでも買える。だが同じ日本人であり、有能なスキル持ちとなればオレが扱ってこそだろう。中にはオレ好みの女もいるはずだ――。



「さぁて、まずは明日だ。勇者たちを取り込んで、それが無理なら力を削ぐ。今さら現れたヤツなんかに邪魔されちゃ敵わんからな」

「もう隆之介様に盾突く者はいませんよ」

「それはそれ、これはこれだ」


 せっかく異世界に来たんだ。好きなようにやらせてもらおうじゃないか。



 こうして、オレの成り上がり人生は続いていくのであった。






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