表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界村長【書籍発売中】  作者: 七城
第1部 『異世界村長編』
84/252

第84話:結界石と魔鉄

異世界生活177日目

 勇者が街に行った翌日



「どうだ夏希、俺の直感も大したもんだろ?」

「直感って……。たまたまでしょ?」

「いいや違うね! 俺の内なる本能がそうしろと叫んでたんだ!」

「はいはい、すごいです素晴らしいです」


 親子ほどの年齢差相手に、全力でマウントを獲ろうとするおっさんはここです。ここにいますよー。



 ――それは今日の午前中。


 昨日の一件を申し訳なく思い、性懲りもなく鍛冶場に顔を出したときに始まる。



「やあみんな、昨日は悪かったな」

「お、村長。丁度いいところに来てくれた」

「どうしたベアーズ?」

「ちょっとコレを鑑定してくれないか」


 そう言って渡されたのは、昨日私が壊した結界石だった。


「……それはいいけど、何かあるのか?」

「この結界石、本当に壊れたんだろうか。別に点滅が収まっただけで、色もそのままだし亀裂が入ったわけでもないだろ?」

「言われてみれば、まあたしかに」

「だから一度鑑定してみよう、ってな」

「よしわかった。さっそくやってみるよ」


 『能力模倣』は1日に1回しか変更できない。とはいえ、このあと何かやる予定もない。さっそく鑑定をコピーして試してみることになった。


===============

『結界宝珠』


珠内の魔素を消費して簡易結界を自動展開

※特殊な製法により結界石の魔素が安定した状態の宝珠

===============



「なんてこった……。こいつ、壊れてなんかなかったんだ! ていうか、凄い代物に変化してるぞ」

「ほんとか? 早く教えてくれよ村長」

「うむ、鑑定結果は『結界宝珠』だ。結界を自動で展開してくれるらしい」

「なんだって!? そりゃトンデモない逸品じゃないか!」


 こんな感じでまさかのお宝に化けていた。思わず気を良くした私は夏希にダルがらみをしていたのだった。



「それで村長、昨日あのとき何をやったんだ? そこが肝なんだ。よく思い出してくれ」

「え? そう言われてもな……。手に取ってコロコロ転がしただけ、だったような……?」

「おいおい、そんな訳ないだろ。魔力を込めたとか、スキルを使ったとか、何かあるだろう!」


 そんなこと言われても、あのときは本当に何の気なしに触ってただけだ。注釈には『特殊な製法により』とあるけど、皆目見当がつかない。


「やっぱりたまたまじゃないですか。本能が? 叫んでた? いやぁ、さすがは村長ですね。プププッ」

「くっ、みんなには言うなよ夏希」

「さあ? なんのことでしょうかね。これは今日の夕食が楽しみですー」

「……すまんかった。つい調子に乗りました」

「まあ冗談はさておき、わたしとしては、村長の『敷地拡張』能力が要因だと思いますよ」

「と、いうと?」

「村長の敷地拡張は、同時に結界も展開する能力です。素材の名称も結界石ですし、どう考えても親和性は高いでしょう」


 言われてみればたしかに――、原理自体は私のものと同じに思える。浮かれすぎて気づかなかった……。


「敷地が固定されるときのように、結界の点滅が収まるのと同じ状態になった。そう考えるのが妥当だね」

「はあー、たいしたもんだ。すごい説得力あるわそれ」

「ここまで説明してくれればなぁ。わたしも感心したんですけどねー」


 それについては返す言葉もないので、余計な反論はしない。


 続けて夏希が、「残りふたつの結界石でも試してみましょう」となったので、石を握って敷地を固定するイメージをしてみた。


 すると見事に明滅が収まり、鑑定でも『結界宝珠』へと変化していた。


「過程はともかく、これで結界石の利用方法が判明しましたね」

「ああ、効果のほどは検証してみないとだけど、説明文からしてもかなり良さそうな代物だな」

「そのへんは冬也たちに実戦で試してもらいましょうよ」

「そうだな。帰ってきたらさっそく渡そう」


 ダンジョン班、とくに近接職なら敵の攻撃を受ける頻度も高い。検証するには打って付けだ。



「なあ村長、物は試しだ。ちょっとコレにもやってみてくれないか?」


 なにかを思いついたのか、ベアーズが大小さまざまな魔石を渡してくる。結界石同様、魔石にも反応があるかもしれない、そう付け加えていた。


 魔石を受け取った私は、とりあえず自分の魔力を込めてみる。と言っても、やり方もわからないので適当にイメージしてみるだけだが……。

 

 しかしなんと、


 魔力を込めるイメージをした瞬間……今まで黒っぽかった魔石の色に変化が生じた。色が薄緑色に変わり、わずかに明滅した状態になったのだ。これはもしかして――、そう思い至り、敷地固定のイメージをしてみる。


 と、予想どおりに明滅が収まり、ただの魔石が『魔結石』という名称に変化した。


===============

『魔結石』


通常の魔石よりも、より純度の高い魔石

※魔石に大地の魔素を定着させて変質した状態

===============



「おおこれは……村長、ちょっと借りるぞ」

「おじさん、まさかそれを魔導炉に?」

「ああベリトア、これならもしかして……」

「っ、可能性は十分ありそう……。早くやってみましょうよ!」


 どうやら、この魔結石を使って『魔鉄』の熱処理を試すみたいだ。


「じゃあいくぞ……」

「うん」


 投入口に魔結石を入れると、すぐに魔導炉が起動する。私にはいつもと同じに見えるが……。ふたりに言わせると、炉の熱量が明らかに違うらしい。稼働にも問題がないようなので、続いて魔鉄を炉内に投入する――。


「おおお!」

「やりました!」


 投入した魔鉄が炉内の熱に反応、みるみるうちに真っ青に変化する。


「なあ、色が変じゃないか? 熱処理なんだから、普通は赤とか黄色っぽい感じになるよな」

「通常は、な。だがこれは未知の素材なんだ。当然、この程度の変化はあるだろうよ」

「……そうなのか?」


 ド素人にはよくわからんが、とにかく変化は起こっているのだ。一歩前進したのは間違いなかった。


「よしベリトア、このまま加工に取り掛かるぞ!」

「うん、まずは1本仕上げてみましょう!」

「悪いが村長、魔結石を量産してくれ! 1個でどれだけ稼働できるかわからんし、途中で切れたら困るからな」

「お、おう。任せとけ」


 魔鉄の加工に兆しが見え、俄然ヤル気をみせる鍛冶師のふたり。それを夏希が見守るなか、私は必死こいて魔石を加工していく。


 魔結石にするのは簡単で、途中で魔力切れになることもない。何個か作ってみたけど、失敗する気配もないので量産体制に入った。


 結局、ゴブリンが落とす小さな魔石だと、3分程度しか持たなかったよ。それがオークのものになると10分といったところか。かなり燃費は悪いが、途中で炉を止めるわけにもいかないので一心不乱に作り続けた――。



◇◇◇


 やがて夕方にさしかかり、


 結構な量の魔結石を消費しながら一振りの剣が完成した。



 その剣は、素人目でも違いがわかるほどの逸品だった。刀身が薄い緑色に煌めき、いかにも切れ味の良さそうな雰囲気を醸し出している。


「自分で言うのもなんだが、これは見事なもんだぞ。間違いなく今までで最高の出来だ」

「私もそう思います。これほどの物をたった半日で仕上げられるなんて……、普通じゃ考えられませんよ」


 たしかに剣を仕上げるとなれば、普通はもっと期間を要するのだろう。職業やスキルのおかげもあるけど、ふたりの手際はとても良かった。まさに職人技って感じで、見ているこっちも魅了されていたよ。


「ダンジョン組も戻ってきたし、結界石も含めてお披露目といこう」

「うんうん、内なる本能の話もしないとだし! 早くいきましょう!」

「夏希、それは内緒の約束だろ……」


 まさかホントに言わないよな?


 そう信じながら、みんなで食堂に向かうのだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ