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異世界村長【書籍発売中】  作者: 七城
第1部 『異世界村長編』
77/252

第77話:用水路の開通式

異世界生活166日目


 昨日、視察団が帰還して、村にもまた平穏な時が訪れていた。ちなみにメリナードも、議長たちに随行して街に戻っている。


 今日は村の全休日、水路の開通式を行っていた。昨日のうちに、桜たちによる水路建設が竣工したのだ。今まさに、放流を開始するところだった。



『村長、そっちの準備はいいか?』

『おう、いつでも大丈夫だ』

『じゃあ水門を開くぞー!』


 水路の上流にいる冬也、彼の合図とともに放流がはじまった。村の中心部では、大人から子どもまで様々な種族が集まっている。


「みんな、もうすぐ流れてくるぞー!」


「「「おおおー!」」」


 と、すぐに勢いよく水が流れ込んできた。土魔法でガチガチに固めてあるので、水路が削られることない。澄んだ川の水が流れている。


「そんちょー、はいってもいーい?」

「わたしもはいりたーい」

「ぼくもー」

「いいぞ、流されないようにな」

「わたしも入っちゃおー!」

「じゃああたしも! えいっ!」


 喜んで川に入っていく子どもたち。それに交じって、夏希と春香も勢いよく飛び込んでいく。それに釣られたのか、ほかの獣人たちもゾロゾロと続いていった――。


 小さな子どもが入っても、せいぜい腰まで浸かるくらいか。さすがに母親が支えているけど、流れもそこまで速くないし、まあ大丈夫だろう。それに村の要所には、流され防止用の鉄格子が設置してある。そのまま下流に流され、海まで行っちゃうような事態にはならんはずだ。


「おおー、いい感じじゃん!」

「お、冬也おつかれ。そっちも問題なかったか?」

「ああ、どこも異常なしだ」

「――じゃあみんな、今日は一日休みだ。作業をするなとは言わんが、今日くらいはほどほどにしとけよー!」

「「はーい!」」

「村長のご厚意で、今日は朝からお酒も解禁よー! 飲みたい人は食堂までいらっしゃーい!」


「「うおおおおっ!」」

「「よっしゃああ!」」


 飲酒解禁の宣言に、野太い声が村に響く。


 村のあちこちで輪ができており、村人全員が和やかな時間を満喫していた。……まあごく一部、ハメをはずし過ぎる者もいたが……今日は無礼講なので誰のお咎めもナシだ。



「啓介さんも入ってみれば良かったのにー、気持ちよかったよー?」

「まあ、俺はいいよ。……村長としての威厳もあるし」

「あー、ひょっとして水が怖いとか?」


 普段は酒を飲まない私だったが、皆に誘われたのもあり、今日ばかりは宴会に参加していた。今は春香と桜、椿の三人と一緒に、卓を囲んでお酒を楽しんでいる。


「昔、ちょっとな……」

「なになにー? 教えてよー」

「……小さい頃、田舎の川で溺れかけてさ。それ以来、川に入ると足がすくんじゃって……」

「あ、そういえば私と椿さんの三人でいた頃も……。水浴びするとき、啓介さんだけは川に入ってませんでしたね」

「たしかに……。アレは一緒に入るのが恥ずかしいんじゃなくて、川に入るのが怖かったんですね」

「正直、ビビってるのを隠すので精一杯だったよ。二人の裸を見るどころではなかったな」


 と、つい本音が漏れてしまった。


「え? そんな入浴イベントがあったの?」

「っ、あったけど! 俺は何も見てないぞ」

「クンクンっ、これはいかがわしい匂いがしますぞっ」

「おい春香、飲み過ぎじゃないのか? あんまり絡んでくるなよ」


 過去のトラウマを披露したまではいいが、余計なことまで口走ってしまい、春香が執拗に問いただしてくる。彼女は完全に出来上がっているようだ。


「そもそもさ、こんないい女が三人もいるのに、未だに手を出さないっておかしくない?」

「それはそう! あの時の話し合いから結構たつけど、まだ誰からも報告はないしね」

「それは追々って話しただろ……」

「もしかしてそういうのに奥手とか。椿ちゃんはどう思う?」


(お、椿なら上手にかわしてくれそうだ)


「私ですか? ……そうですね。思わせぶりな態度だけして、何もしてこないのなら、とんだ腑抜け野郎ですね」

「え、椿? ……え?」

「誠実に接しているうち――自然の流れで、というならまあ及第点はあげましょう」

「椿さん、きっついこといいますねー!」

「いいねー! もっとやれー」


 どうやら椿と桜もかなり仕上がっているようだ。普段の椿からは想像もできないような、辛辣な言葉を耳にしてしまった。


「俺ももう40、所かまわずがっつくようなお年頃じゃないわけ」

「それを人は言い訳と言うんです」

「…………」

 

 私がしょんぼりしていると、見るに見かねた桜が助け舟をだす。


「んんっ、年齢の話が出たから言うけど、啓介さんて最初に会った時より若く見えますよね?」

「お、そりゃ嬉しいな」

「健康的な生活と食べ物が要因かもしれませんね。……あとは、魔素の影響とか、『豊穣の大地』の効果かも?」

「なんにしろ、若く見えるってのは嬉しいもんだな。そういうみんなは、何か変化を感じたりしてるのか?」

「ん-、肌の張りなんかは良いですね」

「あたしもとくにケアしてない、ていうか美容品もないから出来ないけど。髪も肌もいい感じかもー?」

「私も同じですね」

「そうか……。やっぱり何かしらの好影響を受けてるんだろうな」


 上手く話題が逸れ、ホッとしているところに――。


「こういう時は、みんなキレイになったね、って言うもんでしょー!」

「いやいや、そのセリフこそ思わせぶりだろ」

「チッ、バレてたか」

「おかしな方向に誘導するなよなぁ……」



 これ以上ここにいると、どんな地雷を踏むかわからない。頃合いを見て、ほかのシマにいる男性陣たちのほうへと立ち去る。まあ、そこでも色々はやし立てられたけど……野郎同士ならなんてことはない。



◇◇◇


 結局その日は、宴会が夕飯の時間までなだれ込み、どんちゃん騒ぎのまま一日が過ぎていった。



 それはそうと、議長来訪の後日談なのだが――。


 今日の昼頃、メリナードから念話がきて、議長一行は早々に首都へと向かっていった。そう知らせてくれたよ。しかもドラゴは、自分だけ先に飛んで帰ってしまったらしい。


 なんでも、「自分の家族に大事な話をしなければならぬ」と言い放ち、アッという間にいなくなってしまったそうだ。当然、側近や護衛たちは大慌て、全力疾走で追いかけたんだと。

 

 ……まあ、国のトップのすることに誰がとやかく言えるはずもなく、護衛の任を果たせなかったヤツらも、それに対するお咎めはないだろう。



 それと昨日、ドラゴが帰ったあとに気づいたんだが……。


 北の大山脈に住むという竜の存在について、鉱山を掘り進めても大丈夫なのかを聞いてもらったんだ。そしたらドラゴは、「その程度のこと、偉大なる竜は気にも留めぬ」と即答していたよ。


 竜の逆鱗に触れる、なんて行為ではないみたいだった。



 人族領のことや、北の勇者たちの動向はもちろん気になる。けれどまだしばらくは、戦争までの猶予がありそうだ。


 しかるべき時に備え、今は村の発展に力を注ぐのが一番大事だろう。












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