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異世界村長【書籍発売中】  作者: 七城
第1部 『異世界村長編』
73/252

第73話:桜の無茶修行


「冬也くん、僕のほうが格下だ。最初から全力で行かせてもらうよ!」


 そう言い放った勇人は、光のオーラを全身に纏って冬也に飛び込んでいった。


(え、何その光……かっこいいな!)


 全身に光を纏った勇人は、もの凄い速度で間合いを詰める。私もレベルだけは高いのでなんとか目で追えているが、まるでバトルアニメを見ているような感覚に陥っていた。


 それに相対する冬也は、勇人の動きがしっかり見えているのか、剣を正眼で構えたまま微動だにしない。勇人の放った連撃をものともせず、華麗にいなす冬也。すかさず勇人があとずさりして間合いを取りなおした。


「くっ、ならこれで!」


 光のオーラを剣にも纏わせると、振るった剣から輝く斬撃が飛んでいく。それも二連撃で交差するように……。


 さすがに避けるしかないだろうと思った。が、冬也はそれでも動かない。飛来する斬撃に合わせて剣を振り、あっさりと相殺してしまった。


 勇人の攻撃はなおも止まらず、ふたたび斬撃を飛ばしたあと、自らも突っ込んで剣を打ち合っていった――。


(すっげぇなおい……)


 ふたりの動きは、常人のそれを大きく逸脱している。打ち合うたびに火花が散るのも実に格好よかった。あまりの凄さに呆けてしまい、幼稚な感想しか出てこない。


「はぁはぁ、はぁ……」

「ふー、緊張した」


 時間にしてものの数分、


 あっという間の出来事だったが、濃密なバトルもようやく一区切りついたようだ。


「ふぅ、やっぱりすごいよ冬也くん。オークとの死闘が稚拙に思えるほど、圧倒的な強さを感じたよ」

「オレもこんなに緊迫したのは初めてです。勇人さんの潜在能力、とてつもないですよ」

「でもまだとっておきを隠してるんだろ?」

「そこはご想像にお任せします」

「いやいいんだ。今の僕ではそれを引き出すに至ってないからね」

「――じゃあ、もう一戦いきますか!」

「ああ! よろしく頼む!」


 たいした休みもなく、元気に二回戦へ突入していく。


 相変わらず激しい動きなんだが、ふたりは笑みを見せている。好敵手に出会えて喜んでいるようだった。……その戦いには、余人が入る隙なんてどこにもなく、ふたりだけの空間がそのあともしばらく続いていった――。




◇◇◇


 それぞれが交流を深めていく中、


 そろそろお昼時となったので、一旦休憩にして昼食の準備をはじめた。米や野菜をふんだんに使って、楽しい昼食会が開催されていく。



「みんなどう? だいぶ打ち解けた感じだけど、こっちに不手際があれば教えて欲しい」

「えー、なんもないよ。ねぇみんなー!」

「夏希ちゃんもいい子だし、椿さんもやさしいお姉さんで素敵だよねー」

「わたし年下なのに、皆さんすごく丁寧に接してくれるから嬉しいです!」

「くぅー、夏希ちゃんいい子過ぎるー」


 職人同士の交流も順調みたいだ。


「勇人、午後からは模擬戦にいれてよ! 私だって三人と戦いたいんだからな!」

「ああ、わかってるよ立花。つい盛り上がっちゃってさ……ごめんね」

「まだまだ時間はあるよー。わたしも秋ちゃんも、立花ちゃんとやりたいしね!」

「うん、私ももっと戦いたい」

「じゃ、じゃあ葉月も加わろう、かな」

「それがいいよ、戦える聖女とか最強。一緒にがんばろう」


 こちらも仲良くやってるようだ。美味しいごはんを食べながら、色んなところで会話に花が咲いている。



 とそんな中、午前中姿を見なかった桜と杏子さんのいるほうへ――。


「じゃあ、ゆ……は……して……だね」

「ええ、わた……も……そん……ないわ」


 なにやらコソコソと会話をしている。内容は聞き取れないが……思い悩んでいる感じではないようだ。


「ふたりとも、何を話してるんだい?」

「うわっ、びっくりしたー」

「あ、啓介さん。どうも……」

「ごめん、聞いちゃいけなかったか」

「いえいえ、そんなこと無いですよ。ちょっとしたお悩み相談とか、そんな感じかな?」

「桜さんが親身になって聞いてくれたので助かってますよ」


 なんの相談なのかは気になるが……問い詰めるべきではない気がした。ひとまず、相談ができるほど仲が深まったと、前向きに捉えておいた。


「杏子さん、私も昼から魔法研究に参加していいかな?」

「もちろんですよ。異世界のことも話したいですし、是非来てください」


 賢者の魔法には興味があるし、桜の調子も気になっていた。ぱっと見、結構いい感じの雰囲気みたいだが……。


「かなりいい線まで掴めたので、期待してて下さいね!」

「お、そうなのか。そりゃ楽しみだ」

「はい! ではまた後ほどー」


 私が去ったあとも、春香と椿を呼んでなにやら話し込んでたけど……きっと女性にしかわからない悩みでもあるんだろう。おっさんはそっと見守るに限るので、これ以上関わるようなことはしない。


 午後からも武者修行を再開――


 私も魔法について教えてもらったり、模擬戦に無理やり参加させられたりと、四苦八苦しながら半日を過ごしていった。


 

「じゃあみんな、また一週間後くらいに顔をだすから元気でな」

「はい、皆さんもお元気で。また会いましょう!」


 彼らと相談の末、今回からは結界を解除せず、そのまま維持することになった。


 交流も深まり、相手の戦闘力も把握している。敵対することはないだろうけど、万が一への対処だって可能だ。十二分な成果を残して帰路についた。

 


◇◇◇


 村に帰って早々、みんなが教会へと直行していく。やはり修行の成果が気になって仕方ないみたいだ。順番に祈りを捧げていくと――、


 一番最後、桜の番になってアナウンスが聞こえた。彼女は泣きながら大はしゃぎで喜んでいる。それを見た私も、思わずもらい泣きしそうになっていた。

 

================

桜 Lv46

村人:忠誠99

職業:魔導士<NEW>

スキル:水魔法Lv4

念じることでMPを消費して威力の高い攻撃する。飲用可 形状操作可 温度調整可

スキル:氷魔法Lv1<NEW>

念じることでMPを消費して氷を出すことができる

スキル:火魔法Lv1<NEW>

念じることでMPを消費して火を出すことができる

================



「桜、おめでとう」

「っ、ありがとう啓介さん!」

「こんなに早く成果がでるとは……日ごろの積み重ねが効いたんだろうな。ほんとに良かった」

「この一歩を踏み出せたのは啓介さんのお陰ですよ。途中で腐らなくて良かったー、ああぁ、嬉しい!」


 喜びを全身で表現している桜には、『魔導士』の職業と『氷魔法』『火魔法』が新たに発現していた。さっきチラッと試したら、水を氷にも変質できたし、お湯を沸騰させて気化させることにも成功していたよ。


「ところでさ。氷魔法はわかるんだが、火魔法はどうして発現したんだろう。水とは全く逆の属性だろ?」

「えっとですね……。絶対に怒らないで聞いてくださいよ」

「ん? まあわかった。教えてくれ」

「杏子さんに火魔法を使ってもらったんです」

「それで? 別に怒ることじゃないだろ?」


 実際に発動するところを見に行ったんだから当然だろうに、それの何を怒ると言うのか理解できないでいると……。


「火魔法を、私に向かって何度も使ってもらったんです。全身に水の膜を張ってましたけど、ほぼ全身火だるま的な?」

「おいおい! 体は大丈夫なのか!?」

「火力は抑えてもらいましたし、同時に葉月さんが『聖なる祈り』を発動させてくれました。痛みや外傷もありません」

「にしたって……いや、やめとこう。桜の覚悟をとやかく言うのは違うな」

「ありがとう啓介さん、わかってくれて嬉しい」


 相当な無茶をしたようだが、本人の決意を否定する気はない。


(……なるほど、午前中葉月さんを見なかったのはこういうことか)


「忠誠度も上限になったし、上級職にもなれました。これで私も次の段階に進めましたよ!」

「ああ、桜には転移当初からずっと世話になってたからな。俺も本当に感謝してる。なにより報われて嬉しいよ」

「これからも頼りにしてくださいね」

「ああ、もちろんだ」


 忠誠度うんぬん関係なく、お互いの信頼関係が深まった気がしていた。



 その日の夕飯どき、


 さっそく新魔法お披露目会がおこなわれる。村のみんなから尊敬と畏怖の念を集めており、賢者さながらに崇められた。子どもたちも興味津々、桜の周りをとり囲んでいたよ。


 今回は桜だけが昇格したけど、他のみんなも素直に祝っていた。そして次こそは自分が、と意気込んでいる。


 まあ早く報われてほしいけど、桜のような無茶修行は勘弁願いたい。











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