第73話:桜の無茶修行
「冬也くん、僕のほうが格下だ。最初から全力で行かせてもらうよ!」
そう言い放った勇人は、光のオーラを全身に纏って冬也に飛び込んでいった。
(え、何その光……かっこいいな!)
全身に光を纏った勇人は、もの凄い速度で間合いを詰める。私もレベルだけは高いのでなんとか目で追えているが、まるでバトルアニメを見ているような感覚に陥っていた。
それに相対する冬也は、勇人の動きがしっかり見えているのか、剣を正眼で構えたまま微動だにしない。勇人の放った連撃をものともせず、華麗にいなす冬也。すかさず勇人があとずさりして間合いを取りなおした。
「くっ、ならこれで!」
光のオーラを剣にも纏わせると、振るった剣から輝く斬撃が飛んでいく。それも二連撃で交差するように……。
さすがに避けるしかないだろうと思った。が、冬也はそれでも動かない。飛来する斬撃に合わせて剣を振り、あっさりと相殺してしまった。
勇人の攻撃はなおも止まらず、ふたたび斬撃を飛ばしたあと、自らも突っ込んで剣を打ち合っていった――。
(すっげぇなおい……)
ふたりの動きは、常人のそれを大きく逸脱している。打ち合うたびに火花が散るのも実に格好よかった。あまりの凄さに呆けてしまい、幼稚な感想しか出てこない。
「はぁはぁ、はぁ……」
「ふー、緊張した」
時間にしてものの数分、
あっという間の出来事だったが、濃密なバトルもようやく一区切りついたようだ。
「ふぅ、やっぱりすごいよ冬也くん。オークとの死闘が稚拙に思えるほど、圧倒的な強さを感じたよ」
「オレもこんなに緊迫したのは初めてです。勇人さんの潜在能力、とてつもないですよ」
「でもまだとっておきを隠してるんだろ?」
「そこはご想像にお任せします」
「いやいいんだ。今の僕ではそれを引き出すに至ってないからね」
「――じゃあ、もう一戦いきますか!」
「ああ! よろしく頼む!」
たいした休みもなく、元気に二回戦へ突入していく。
相変わらず激しい動きなんだが、ふたりは笑みを見せている。好敵手に出会えて喜んでいるようだった。……その戦いには、余人が入る隙なんてどこにもなく、ふたりだけの空間がそのあともしばらく続いていった――。
◇◇◇
それぞれが交流を深めていく中、
そろそろお昼時となったので、一旦休憩にして昼食の準備をはじめた。米や野菜をふんだんに使って、楽しい昼食会が開催されていく。
「みんなどう? だいぶ打ち解けた感じだけど、こっちに不手際があれば教えて欲しい」
「えー、なんもないよ。ねぇみんなー!」
「夏希ちゃんもいい子だし、椿さんもやさしいお姉さんで素敵だよねー」
「わたし年下なのに、皆さんすごく丁寧に接してくれるから嬉しいです!」
「くぅー、夏希ちゃんいい子過ぎるー」
職人同士の交流も順調みたいだ。
「勇人、午後からは模擬戦にいれてよ! 私だって三人と戦いたいんだからな!」
「ああ、わかってるよ立花。つい盛り上がっちゃってさ……ごめんね」
「まだまだ時間はあるよー。わたしも秋ちゃんも、立花ちゃんとやりたいしね!」
「うん、私ももっと戦いたい」
「じゃ、じゃあ葉月も加わろう、かな」
「それがいいよ、戦える聖女とか最強。一緒にがんばろう」
こちらも仲良くやってるようだ。美味しいごはんを食べながら、色んなところで会話に花が咲いている。
とそんな中、午前中姿を見なかった桜と杏子さんのいるほうへ――。
「じゃあ、ゆ……は……して……だね」
「ええ、わた……も……そん……ないわ」
なにやらコソコソと会話をしている。内容は聞き取れないが……思い悩んでいる感じではないようだ。
「ふたりとも、何を話してるんだい?」
「うわっ、びっくりしたー」
「あ、啓介さん。どうも……」
「ごめん、聞いちゃいけなかったか」
「いえいえ、そんなこと無いですよ。ちょっとしたお悩み相談とか、そんな感じかな?」
「桜さんが親身になって聞いてくれたので助かってますよ」
なんの相談なのかは気になるが……問い詰めるべきではない気がした。ひとまず、相談ができるほど仲が深まったと、前向きに捉えておいた。
「杏子さん、私も昼から魔法研究に参加していいかな?」
「もちろんですよ。異世界のことも話したいですし、是非来てください」
賢者の魔法には興味があるし、桜の調子も気になっていた。ぱっと見、結構いい感じの雰囲気みたいだが……。
「かなりいい線まで掴めたので、期待してて下さいね!」
「お、そうなのか。そりゃ楽しみだ」
「はい! ではまた後ほどー」
私が去ったあとも、春香と椿を呼んでなにやら話し込んでたけど……きっと女性にしかわからない悩みでもあるんだろう。おっさんはそっと見守るに限るので、これ以上関わるようなことはしない。
午後からも武者修行を再開――
私も魔法について教えてもらったり、模擬戦に無理やり参加させられたりと、四苦八苦しながら半日を過ごしていった。
「じゃあみんな、また一週間後くらいに顔をだすから元気でな」
「はい、皆さんもお元気で。また会いましょう!」
彼らと相談の末、今回からは結界を解除せず、そのまま維持することになった。
交流も深まり、相手の戦闘力も把握している。敵対することはないだろうけど、万が一への対処だって可能だ。十二分な成果を残して帰路についた。
◇◇◇
村に帰って早々、みんなが教会へと直行していく。やはり修行の成果が気になって仕方ないみたいだ。順番に祈りを捧げていくと――、
一番最後、桜の番になってアナウンスが聞こえた。彼女は泣きながら大はしゃぎで喜んでいる。それを見た私も、思わずもらい泣きしそうになっていた。
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桜 Lv46
村人:忠誠99
職業:魔導士<NEW>
スキル:水魔法Lv4
念じることでMPを消費して威力の高い攻撃する。飲用可 形状操作可 温度調整可
スキル:氷魔法Lv1<NEW>
念じることでMPを消費して氷を出すことができる
スキル:火魔法Lv1<NEW>
念じることでMPを消費して火を出すことができる
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「桜、おめでとう」
「っ、ありがとう啓介さん!」
「こんなに早く成果がでるとは……日ごろの積み重ねが効いたんだろうな。ほんとに良かった」
「この一歩を踏み出せたのは啓介さんのお陰ですよ。途中で腐らなくて良かったー、ああぁ、嬉しい!」
喜びを全身で表現している桜には、『魔導士』の職業と『氷魔法』『火魔法』が新たに発現していた。さっきチラッと試したら、水を氷にも変質できたし、お湯を沸騰させて気化させることにも成功していたよ。
「ところでさ。氷魔法はわかるんだが、火魔法はどうして発現したんだろう。水とは全く逆の属性だろ?」
「えっとですね……。絶対に怒らないで聞いてくださいよ」
「ん? まあわかった。教えてくれ」
「杏子さんに火魔法を使ってもらったんです」
「それで? 別に怒ることじゃないだろ?」
実際に発動するところを見に行ったんだから当然だろうに、それの何を怒ると言うのか理解できないでいると……。
「火魔法を、私に向かって何度も使ってもらったんです。全身に水の膜を張ってましたけど、ほぼ全身火だるま的な?」
「おいおい! 体は大丈夫なのか!?」
「火力は抑えてもらいましたし、同時に葉月さんが『聖なる祈り』を発動させてくれました。痛みや外傷もありません」
「にしたって……いや、やめとこう。桜の覚悟をとやかく言うのは違うな」
「ありがとう啓介さん、わかってくれて嬉しい」
相当な無茶をしたようだが、本人の決意を否定する気はない。
(……なるほど、午前中葉月さんを見なかったのはこういうことか)
「忠誠度も上限になったし、上級職にもなれました。これで私も次の段階に進めましたよ!」
「ああ、桜には転移当初からずっと世話になってたからな。俺も本当に感謝してる。なにより報われて嬉しいよ」
「これからも頼りにしてくださいね」
「ああ、もちろんだ」
忠誠度うんぬん関係なく、お互いの信頼関係が深まった気がしていた。
その日の夕飯どき、
さっそく新魔法お披露目会がおこなわれる。村のみんなから尊敬と畏怖の念を集めており、賢者さながらに崇められた。子どもたちも興味津々、桜の周りをとり囲んでいたよ。
今回は桜だけが昇格したけど、他のみんなも素直に祝っていた。そして次こそは自分が、と意気込んでいる。
まあ早く報われてほしいけど、桜のような無茶修行は勘弁願いたい。




