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異世界村長【書籍発売中】  作者: 七城
第1部 『異世界村長編』
72/252

第72話:みんなの武者修行

異世界生活163日目



 次の日、夜明けとともに準備を開始。


 日本人メンバー全員で、南の勇者たちのもとへと向かっていた。


 中途半端な時間に行くと、向こうの連中とすれ違うかもしれない。そう考え、勇人たちが出かける前に押しかけようという魂胆だった。


 先ぶれを斥候のレヴに頼んでも良かったのだが……。見知らぬ顔を見せると向こうを警戒させるかもしれない。それならばいっそのこと、早朝に着いた方がいいのでは、とみんなで話し合って決めたのだ。



「みんなで一緒に行動するの、久しぶりで楽しいねー!」

「何言ってんだよ夏希、昨日も水路作りで一緒だったろ?」

「冬也くん、無粋なこと言っちゃダメよー」

「はい冬也。減点1ね」

「えぇ……」


(冬也のヤツ、適当に合わせときゃいいのに……。こういうところはまだまだだな)


 みんながダンジョンへ出かけるなか、夏希はいつも村にいるのだ。こうやって何かやるのが嬉しいのだろう。


「おい村長! 手が止まってるぞ!」

「お、そうか? すまんすまん」


 そんな私は、荷馬車の運転をしているところだった。隣にいる冬也から御者の指導を受けている。


「もっと手綱に集中っ。馬に意志を伝えないと意味ないぞ。――ったく、もっと集中しろよな」

「ちょっと冬也、村長に当たるなんて情けないよ!」

「ちがっ、俺は指導をだな……」


 冬也は毎日、ダンジョンへ向かう際の御者をしていて、今ではいっぱしの運転技術を身に着けていた。ラド師匠曰く、とてもスジが良く馬との相性も抜群らしい。イライラを私に向けていたが……この程度は可愛いもんだ。甘んじて受け入れてやろうではないか。


 と、その後も道中を楽しみながら――やがて現地へと到着した。




◇◇◇


 おそらく朝食の支度をしているのだろう。砦の中からは煙が立っていた。


 早くから押しかけたけど、既に起きているみたいでホッとする。誰かしらはいるようなので、ひとまず声をかけてみることに――。


「おーい、朝早くすまん。私だ、啓介だー」


「「おはようございまーす」」


 私たちが声をかけると、中から物音が――。すぐ出迎えてくれたので、結界を固定してから中へ入っていった。



「今日は日本人メンバーを連れて来たんだけど、大丈夫かな?」

「ええ、もちろん。皆さん歓迎しますよ」

「ありがとう。じゃあ、中で自己紹介させてもらおうかな」

「お邪魔しまーす!」

「どうもどうもー!」


 早朝からお邪魔したにも関わらず、勇人も他のみんなも暖かく迎え入れてくれた。当然、私たちの持ってきた支援物資が目当てだろうけど……少なくとも悪い感情は持ってないようだ。


 勇人たちは朝食もまだだったので、パンや果物なんかを差し入れ、一緒に食べながら自己紹介に突入する。


 前回渡した分の米や麦なんかはとっくに無くなったらしく、私たちが来るのを今か今かと待ち望んでいた。と、女性陣がぶっちゃけていたよ。


「啓介さん……なんかすいません」

「いいんだ。正直に言ってくれるほどには打ち解けてきた。そう思ってるからね」

「ありがとうございます。僕もまた会えて嬉しいです!」


 当の勇者も満面の笑みでそう語っている。このぶんなら、良好な関係を続けていけそうだった。


「あれから変わったことは無かったかな?」

「変わったことですか……。あっ、オークを倒せるようになったので、おいしい肉には困らなくなりましたよ!」

「おー、それは良かった。今回は米も多めに持ってきたから、主食のほうも期待してくれ」

「ほんと、何から何まで……うっ」


 ちょっと涙目になりながら感謝してくる勇人。気持ちは嬉しいが、このまま泣かれても困るので話題を切り替える。


「みんなの自己紹介も終わったようだし、さっそく今日の本題に入りたいんだが、いいだろうか」

「本題、ですか?」

「ああ、実はな。勇人やみんなに、スキルや魔法の手ほどきをして欲しくてな。それでこんな早朝から押しかけてしまったんだよ、悪いな」

「来てくれたのは嬉しいですけど、手ほどきって……。僕たちが教えられることなんてあるんでしょうか?」

「もちろんだ。是非お願いしたい」

「そうですね……。じゃあお互い教え合うって感じでどうですか?」

「助かるよ。――おいみんな! 勇人の許可はもらったぞ。食べ終わったらそれぞれ指導してもらえよー」


 こうして桜は杏子さんとペアに。春香と秋穂、それに冬也は勇人に師事を仰ぐことになった。


 椿や夏希は、他の勇者メンバーを指導することになり、農耕や細工スキルの披露をしながら交友を図る。


「啓介さんはどうするんですか?」

「私はゆっくり荷下ろしでもしとくよ。それが終わったら、各所を覗かせてもらおうかな」

「なら僕も手伝いますよ!」


 意外と人懐っこい性格なのだろうか、なかなか離れようとしない勇人。


「いや、うちのみんなはもう待ちきれないみたいだ。気持ちは嬉しいけど、少しでも長い時間付き合ってくれると助かる」

「そういうことなら、こちらも精一杯やらせてもらいます!」

「杏子さんも、手の内を明かすのは嫌だろうけど……よろしく頼みます」

「いえ、大丈夫ですよ。啓介さんもあとで見に来て下さいね?」


 彼女の警戒もかなり薄れている。当初であった時とは別人のごとく親しみを覚えていた。


「お、それはありがたい。私も魔法に興味があるので、必ず見に行きますよ。異世界談義もしたいしね」

「はい、ではまたあとで」


 女性同士は割と早い段階で打ち解けていた。勇人がらみでちょっかいを出さない限りは上手くやってくれると思う。夏希と春香は少し心配だが、あのふたりもなんだかんだ空気を読むのはうまいからな。肝心なところでヘタはうたないだろう。



 みんなと別れた私は、持参した積み荷を砦に運んでいく。


 今回は米や麦などの食料や調味料、着替え用の服や靴を持ってきてある。ほかにも剣と防具、農耕道具や大工道具も用意してきた。


 与えすぎは良くない。それはわかっているが……。勇者一行をこの場所に留めて置きたいので、いろいろと運んできた次第だ。


「啓介さん、農具を持っていきますね」

「お、椿か。そっちもよろしく頼むよ」

「お任せください。夏希ちゃんともしっかり話したので大丈夫ですよ」

「村長ー、わたしもこの道具持ってくねー」

「ああ、夏希もよろしくな」

「りょーかい!」


 やがて荷運びも終わり、ひとまず砦で一息――。


 さっきこっそり鑑定結果を聞いたら、勇者たちのレベルが結構上がっていることを知った。非戦闘職の人も均等にレベルアップしているらしい。


(たぶん杏子さんの提案だろうな)


 最初に会ったときから実質的なリーダーは彼女だった。ここまで生きてこれたのは間違いなく杏子さんのお陰だろう。


「さてっと、どこから見に行こうかな」


 やることも無くなった私は、とりあえず勇人のいる場所へ向かう。



「フッ……ハッ!」

「はぁぁ!」

「くっ……」


 川沿いのひらけた場所へ行くと、勇人を相手にしている春香と秋穂がいた。どうやら模擬戦をやっているようだ。


 さすがは勇者というところか。レベルで劣る勇人の剣撃は、ふたりに全く引けを取らない。むしろ勇人が押しているように見えた。


 剣術スキルに身体強化、それに加えて直感のスキルも発動しているのだろう。レベルの上ではかなり格上、しかもふたりを相手に、全く怯むことなく剣を振っている。


「よぉ冬也、勇人はどうだ?」

「見ての通りだよ。まるで別次元だな」

「冬也から見てもそうなのか」

「ああ、次は俺とやる予定だけど……手加減の必要はないかもな」

「そこまでか……」


『まあもちろん、アレは抜きでの話な』


 アレとは当然、魔剣士スキルのことだ。口には出さず、念話で話しかけてきた。


『魔剣士のスキルありならどうだ?』

『今なら間違いなく殺れる。勇者のレベルが上がればわからんけど』

『そうか、まあ今回はうまく相手してくれ』

『わかってる。けどオレも勇者との戦闘で成長したい。ある程度は本気でやらせて欲しい』

『ああ、全てお前に任せる』


 冬也もまだまだ先を見ているようだ。


 普通は天狗になりそうなもんだが、そんな素振りはなく、貪欲に強くなろうとしていた。こういうところは見習うべきだし、素直に尊敬している。



「ふぅ、ありがとうございました」

「いやー、勇人くん強いね!」

「うん、いい経験になる」

「僕のほうこそ、いい勉強になりますよ」

「ねえ、あの時の動きだけどさ――」


 どうやら一回戦が終了したらしい。お互いを称えながら、しばらく模擬戦の考察をしていた。



 勇人のスキルにある『超回復』の効果だろうか。疲れも全く見せず、話しが終わったあと、すぐに冬也との模擬戦が始まる……。



「冬也くん、僕のほうが格下だ。最初から全力で行かせてもらうよ!」



 そう言い放った勇人は、光のオーラを全身に纏って冬也に飛び込んでいった――。





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