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異世界村長【書籍発売中】  作者: 七城
第1部 『異世界村長編』
59/252

第59話:新たな能力、平原を添えて


 椿の忠誠度が上限に達したことにより、ユニークスキルの解放条件を満たした。実に、47日ぶりとなる待望のスキルアップだ。


 足早に居間へと到着した私たちは、期待を込めてモニターに触れる。


「じゃあ椿、確認するよ」

「はい」


=================

啓介 Lv42

職業:村長 ナナシ村 ☆☆☆

ユニークスキル 村Lv8(72/1000)<NEW>

『村長権限』『範囲指定』『追放指定』

『能力模倣』『閲覧』『徴収』『物資転送』

『念話』<NEW>

忠誠度が90以上の村人との念話が可能になる


村ボーナス

☆   豊かな土壌

☆☆  万能な倉庫

☆☆☆ 女神信仰

=================



「「おおー!」」


 表示されたその内容に、思わず声がでた。


 それもそのはず、『念話』と言えば、念じるだけで意思疎通がとれる超便利スキルというのが定番だ。

 スマホもネットもないこの世界で、遠く離れた人同士が会話できるというのは計り知れない価値がある。既に、主要なメンバーの忠誠度は90を超えているし、もしダンジョンや街でも通じるのであれば最高だった。



『椿、聞こえてるか』


 さっそく椿に念話を試すと、一瞬ビクッとしながらも返答がくる。


『はい、とても不思議な感覚です。耳からではなく頭に直接聞こえる、とでも表現したらいいでしょうか』

『あ、そういえばさ。アナウンスもこんな感じに聞こえてくるよ』

『そうなんですね』


 念話の確認もできたので、ひとまず通常の会話に戻す。


「いやー、これは便利だわ。ダンジョン組にも試してみようかな」

「戦闘中だと危険、かも?」


 私も椿もダンジョンに潜った経験が無いからいまいちピンとこない。


「……やめとくか。こんなことで怪我でもさせたら目も当てられん」

「ですね、村にいる夏希ちゃんなら大丈夫なのでは?」


 夏希なら、今日も工房で家具作りをしているはず。余程のことが無ければ大丈夫だろう。


『夏希、夏希聞こえるか? 私だ、啓介だ』


 何度か問いかけてみるのだが、返答はない。


『今、新しく覚えた能力で話しかけてる。聞こえたなら頭で念じて答えてみてくれ』


 ――すると、ようやく気の抜けた声が聞こえてきた。


『あーあー、聞こえますかー。こちら夏希、現在は鍛冶工房にいますどーぞー』

『さっき私のスキルレベルが上がったんだ。敷地拡張もあとで試すからその時は手伝ってくれよな』

『りょうかいでーす』


 なんとも適応が早いことで……。大して驚きもせず、普通に返してきやがった。もう少し慌ててくれてもいいのに……なんか悔しい。


「夏希とも念話できたよ。ダンジョン組への確認はまた後日にしよう」


 そう椿に話しかけたら、彼女は自分のステータスを確認しているところだった。忠誠度の数値を指さし、こちらを見つめている。


「なんだかとても誇らしく、清々しい気分です」

「なんたって最高値だ。これ以上なく安心できるよ」

「とっても嬉しいです」

「――よし、次は敷地拡張を検証しにいこう! なっ!」

「でもその前に昼食の時間ですよ。検証はそのあとにされては?」

「あ、そうだよね。わかりました」


 どうやら浮かれているのは私だけのようで……少しだけ冷静になった。




◇◇◇


 椿に促され、村のみんなで和気藹々とお昼ごはんを食べている。新規加入者の顔色もまずまずのようでほっとしていた。


 午後からは基本自由行動、どうせならばと村にいる皆にも敷地拡張を見てもらうことにした。新しく入った村人もいるし、いざというときに驚かないための配慮である。同時に、村長としての能力を誇示して忠誠度を高める、という目的もあった。


 昼食を続けながら、忠誠度が90以上の面子を見回す。椿と夏希、ルドルグとベリトア、それにメリナードがいる。メリマスもギリギリだが、たぶん超えていると思う。


『みんな、聞こえているかな』


 複数の指定した人に対し、同時に伝達できるかをこころみる。


『今、私の念話能力で話しかけている。このことは当分秘匿したいから声には出さないようにしてくれ』


 対象にした全員が私のほうを向いた。どうやら上手くいったみたいだ。


『村長、これってわたしの声も他のみんなに届いてるのかな?』

『あ、そうだよな。――みんな、夏希の声も聞こえてるか? 頭で念じればいいだけだから答えてくれ』


 そう問いかけると、ほかのみんなも次々に話し始める。どうやら全体通話みたいなことも可能らしい。


(ひょっとすると、村人同士でも念話が可能なのか?)


 村人同士で念話が可能ならば、その利便性はさらに増すのだが――。


 いろいろ試してみた結果。まず、椿や夏希のほうから私に念話を送ることはできた。そして私を交えた場合のみ、村人同士でも念話が可能。村人同士だけでの念話はできない、ということだった。


『村長経由で伝達できるだけでも、とてつもない価値がございます。これは公にされない方がいいでしょうね』

『だな、皆もそのつもりで気をつけてくれ』


『『『はい(わかった)』』』


 通信手段が手紙くらいしかない世界。即時の情報伝達はなによりの武器になる。その価値は、秘匿することによりさらに高まるだろう。



◇◇◇


 ひとしきり検証したところで昼食も終わり、久しぶりに解放された敷地の拡張を確認する。皆を引き連れて村の南端へと歩いていくと、

 

「村長。結界の先20mほどの所に、人らしき者が1名潜伏しています」


 結界の近くまで来たところで、斥候のレヴからそう報告を受けた。


『メリナード、今の聞こえてたよね。悪いけどウルガンとウルークに協力して欲しいんだけど』

『わかりました。多少の傷は負わせても構いませんか?』

『ああ、死なない程度であれば問題ない』


 二人はすぐに私の両隣へと待機してくれた。警戒する素振りをまったく見せず、自然な感じを装っている。


「今から結界を拡張する。周囲の木々が一斉に消えるから、そのタイミングで制圧してくれるか?」

「問題ありません。無傷で拘束が難しい場合はご了承ください」


 ふたりと小声でやり取りをしたあと、村のみんなにも声をかける。


「それじゃあみんな、今から結界を拡張するよ。とくに危険はないけど、びっくりさせたらごめんね」


 そう前置きしてから結界を限界まで拡張する。見渡す限りの広大な範囲の森が一瞬にして消えた。――と同時に、ウルガンとウルークが駆け出してく。対象は木の高い所にいたようで、突然の変化に対応できず、落下して地面に伏している状態だ。


 ドサッと音がした頃には対象の目前まで距離を詰めていた。倒れている男に接触すると、即座に両足の腱を切る。そのまま流れるような動きで男を組み伏せ、ロープで手足を拘束、周囲を警戒していた。


「こんな感じで、結界を拡張するときは周囲の木々が消えちゃうんだ。拡張するときはなるべく事前に言うつもりだけど、突然の場合も驚かないようにね」


 村人たちは、目の前に見える広大な更地にも驚いていたが……どちらかと言えば、突然起こった拘束劇が気になっているようだった。


「結界の中はもちろん安全だし、周囲にあんなのが居てもほらこの通り」

「村長、これは素晴らしい。ここまで広大な土地が確保できるとなれば、村もさらに発展して豊かになることでしょう」


 状況が呑み込めずに呆けている一部の村人たち。メリナードがすぐさま大げさにフォローを入れてくれた。


「みんなも知っての通り、結界の中には村人以外、人も魔物も入ってこれない。武器も魔法も弾いてくれるからね」


 先人たちの落ち着いた態度を見て、新規の村人もようやく冷静になる。


「今はまだ拡張しないけど、村の発展に繋がるよう計画していく予定だ」


 捕縛した獣人を放置したまま、夏希たちに手伝ってもらいながら計測を始めた。


 正方形で拡張をした結果、1辺の距離はなんと1kmにも及んだ。面積に換算すると、今までの3倍以上は広くなる計算だ。もはやここまでくると何に例えて良いのかもわからない。「森の中に突然、どこまでも続く平原が出現した」……そんな漠然とした表現しかできなかった。



◇◇◇


 しばらくして村のみんなも立ち去り、周囲に人がいなくなる。折角のお披露目だったが、予期せぬ出来事が起こったせいで若干微妙な空気になってしまった。


「さて村長、どうされますかな?」


 念のため、斥候のレヴには近くで警戒をさせている。が、この場に残っているのは私とメリナード、それに護衛の二人だけだ。


「とりあえず身元を吐かせよう。そのあと、ちょっとした検証を手伝ってもらうつもりだ」


 いま私たちがいるは村の南側。以前襲撃者が来た際に掘った穴がある。これを使って、とある検証をするつもりだった。


「さてまずは『鑑定』っと、レベルは25でスキルはなしか。ちなみにこれはどれくらいの強さなの?」

「街基準でいえば、D級の冒険者程度。単体でオーク1匹をなんとか倒せるくらいだと思います」

「その割には、見つかったときの対処も杜撰だったよね?」

「まさか森が一瞬で消えるなんてこと、普通は予想できません。我らでも、知っていなければ対処は遅れるでしょう」


 元冒険者だったウルガンが言うので、この場はそういうものかと思って話を進めていく。


「それで、あなたはどこの誰?」


 ずっと沈黙している相手に向かって、そう問いかけた。





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