第42話:村ボーナス☆☆☆
異世界生活72日目
オーク討伐から2日が経過
今日の昼前、ラドとベリトアたちが村に戻って来た。みんな満載の荷を背負っており、さすがに疲れた表情をしていた。
「みんなお疲れ様。まずは荷物を置いて休憩してくれ」
「ああ、今回は荷物が多くてな……。お言葉に甘えて休ませてもらおう」
さすがのラドにも疲労が見える。
「村長! ラドおじさんたちのお陰で、必要なものは全部運んでくることができました!」
「それは良かったけど――、ベリトアは割と元気そうだな?」
「……まったく、熊人の体力には恐れ入るよ。ベリトアのヤツ、これでも1番重い荷を運んで来たんだぞ」
「体力には自信がありますからね! お芋ちゃんも待ってますし!」
「もうすぐ昼になる。好きなだけ食べてくれればいいさ」
ベリトアは疲れよりも芋のことで頭がいっぱいのようだった。
昼食を終えて2時間ほど経った頃、ラドやルドルグと一緒にベリトアが報告にやって来た。パッと見た感じだと表情もスッキリしている。3人とも芋のおかげだと言っているが、本当かどうかは良くわからない。
「三人とも休憩はもういいのか? なんなら報告は明日でもいいんだぞ」
「儂はもう平気じゃ、そんなヤワな鍛え方はしとらんわ。なぁラドよ」
「ああ、私も大丈夫だ。今回の報告を聞いてほしい」
そう言ったラドが順に説明を始めた――。
鍛冶道具の運搬は無事に終わり、今回は金属素材も持ち運んできたそうだ。どうやらこれが疲れの原因だったらしい。
村の鍛冶場建設についても、街でしっかりと打ち合わせた。そのための特殊素材なんかも抜かりなく購入した、とルドルグからも報告があった。
相変わらず街の食糧生産は改善されておらず、慢性的に主食が不足がちになっている。逆に、武具や金属素材の価格は下がっており、安定供給されたことで街の冒険者たちは喜んでいるそうだ。
「周辺ダンジョンでの魔物狩りがさらに活発になった影響でな、低階層の魔物素材は軒並み底値になっている」
「なるほど。ついでに魔物の肉が獲れるから、食糧難、とまではいってないわけか。主に麦や芋なんかの主食が不足していると……」
「そうだ。まあ村で育てた芋の場合、主食というより、贅沢品として扱われているがな」
ラドが苦笑しながらそう答えると、隣ではベリトアもウンウンと頷いていた。
「ああ、あとな。日本人冒険者の情報を酒場で聞いたぞ」
「お、それは気になるね。どんな感じ?」
「酔ってる連中の話だからどこまで本当かはわからん。が、レベルが20を超えて、オークを倒したと自慢していた」
街には整った環境とダンジョンがあるんだ。レベルが20あってもおかしい話ではない。
「ほぉ、ダンジョンの中にもオークが出てくるのか」
「ダンジョンの6層から出てくるらしい。4人パーティーで2匹を同時に相手した、と誇らしげに話していたよ」
「なるほどな。街の日本人たちはかなりレベルが高い。そう思ったほうがよさそうだ。貴重な情報だよ、助かる」
「うむ。それで肝心かなめ、商会との交易なんだが―――」
ラドの話によれば、商会との交渉は上手くいったらしい。2週間後に集落へ来ることになっている。今回の取引量は大きめの篭に40杯分、それを20人近くで、2回に分けて持ち帰るんだと。
「取引価格はどうなんだ? 人気と言っても所詮は食品だ。そこまで高くはないよな」
「そんなことはない。何度も言うがあの味は最高だ。商会長も、地位の高い方に人気があると絶賛していたぞ」
「そこまで価値があるのか……。それで、製錬の魔道具には手が届きそうなのか?」
「さすがに1回の取引分では無理だ。だが、その次ならば十分に購入可能だぞ。商会にも、魔道具を抑えてくれるよう頼んである」
たった2回の取引で購入できるとはありがたい。その程度の売却分で、貴重な魔道具が購入できるというなら万々歳だ。
「それは朗報だな。魔道具の入手について、商会は何か勘ぐったりしてないかな」
「いや、向こうも商売だ。こちらは品質の良い食糧の取引先でもある。独占したいほどの商材。それを持っている相手に無茶はせんよ」
「上辺だけでも大人しいなら良いんだ。いずれはバレることだしな」
「一応言い訳として、日本人の農耕スキル持ちが集落にいると伝えてあるぞ。収穫時期に辻褄が合わんからな」
前回の話し合いで、商会にそう伝えるように指示してある。全てを隠していては余計に怪しまれるだけだ。
「ああ大丈夫だ。そもそも製錬の魔道具を欲しがる時点でおかしいしな」
「そうだな。そこはもう開き直るしか無かろうよ」
そのあとは、2週間後の取引に向けての運搬計画をして報告会はお開きとなった。
「じゃあルドルグ、明日から鍛冶場の建設を頼む。ベリトアも要望を出しながら手伝ってくれよ」
「全て任せとけ! じっくり良いものを作ってやるわい!」
「私も頑張ります!」
◇◇◇
その日の夕方、風呂と夕飯を済ませた私は、寝る前にふと思い立ってステータスを確認した。レベルは16に上がっているが、ほかに変化はない。前にアナウンスを聞いたのはもう14日も前だっただろうか。
(スキル上限、ってことは無いと思うんだけど)
前に秋穂と話していた、街や領への昇格の可能性もあると思う。自分が強欲なのはわかってるが、なにも変化がないというのは少し寂しい。
とはいえ街の状況と比べたら、農作物の優遇だけでもありがたいことだ。『豊かな土壌』の効果でいくらでも作物が育つ。これがあるだけでも神に感謝するべきだろう。
(……って、何の女神さまに感謝すれば良いんだ? まあいいか。どの女神さまか存じませんが、村の恩恵に感謝します)
結局のところ、恩恵を受けてるこの土地の神に感謝を捧げてみる。
なんとなく気分も晴れ、そろそろ寝ようとしたときだった。さっきまで変化のなかったステータス画面に、村ボーナスの☆が増えていることに気がついた。
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啓介 Lv16
職業:村長 ナナシ村 ☆☆☆<NEW>
ユニークスキル 村Lv6(32/200)
『村長権限』 『範囲指定』 『追放指定』
『能力模倣』 『閲覧』 『徴収』
村ボーナス
☆ 豊かな土壌
☆☆ 万能な倉庫
☆☆☆ 女神信仰<NEW>
村内に教会を設置できる
適性のある村人に職業とスキルを付与、ステータス閲覧可能
※解放条件:大地神への祈り
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「大地神? この世界って太陽と月の2柱神じゃなかったっけ?」
この世界には、大地神なる女神もいることが判明してしまった。解放条件からして、さっきの土地神への感謝が引き金みたいだ。豊かな土壌や万能倉庫も、きっと大地の女神の恩恵なのだろう。
そしてなにより気になるのが――。適性ある村人に『職業とスキル』が付与されるという一文だった。
職業やスキルが取得できれば、作業効率や戦闘能力が大きく向上する。ひょっとしたら、魔法や特殊能力を与えられる村人だっているかも知れない。スキルアップでは無かったが、実に40日ぶりの村ボーナスに気持ちがたかぶる。
(すぐ試したい、今すぐにでも!)
しかしもう外は暗い……。仕方なく明日の朝一番で試すことにして布団に入った。が、アレコレ妄想ばかりしてしまい、しばらく眠れない夜となってしまった――。
◇◇◇
異世界生活73日目
翌日、いつものように村人全員で朝食を摂っているが、私はすでに村ボーナスのことで頭がいっぱいだった。
「食べながらで良いから聞いてくれ」
私の呼びかけに皆が顔を向ける。
「昨日の夜、新たな村ボーナスが発現した。どうやら、村に教会を建てられるみたいなんだ」
ざわざわと声はするが、そこまで驚いている者はいない。
「その教会の効果なんだが――、適性のある村人に『職業とスキル』が付与されるそうだ」
「「「!!!」」」
皆から歓声と驚きの声が湧きあがる。この世界には無い職業という特性。これについても、私たち日本人を見ているので村の皆も理解していた。
「これは『女神信仰』というのだが、解放条件は『大地神への祈り』だ。どうやらこの世界には大地の女神さまが存在するらしい」
「村長、我らも初めて聞く女神だ。おそらく獣人族も人族も、誰も知らないのではないかと思う」
兎人たちや熊人のベリトアも頷いている。
「昨日、この村の土地神に感謝したんだ。私にとっては、この豊かで安全な土地こそが一番の信仰対象だからな」
「大地の女神様がおられるなら、我らも祈らずにはいられないな」
「案外みんなと出会えたのも、女神の導きかもしれん」
それこそ、最初に転移してきたときから世話になっていた可能性もある。ユニークスキルや村の結界も、女神さまの力なのかもしれない。
「我らも大地の女神様に感謝しよう。まさにお導きだろう」
「でもいいのか? 獣人はたしか、月の女神を信仰してるって以前に聞いたような……不敬に当たらないのか」
「いや、我ら獣人は、日々の糧に感謝を込めて祈っている。それなら大地の女神様にこそ、多大なる感謝を捧げるべきだろう」
村の皆も賛同しているようなので、朝食後に教会を設置してさっそく祈りを捧げよう、と話が進んでいった。




