第41話:いざ東の森へ
村の食糧品を集落で引き渡すことが決まり、鍛冶施設のことやベリトアの住居の話に移った。
「ベリトア、村に住居と鍛冶場を作ろうと思うんだが、何か希望はあるかな。妥協せずに何でも言って欲しい」
「ならば遠慮なく。――まず、作業スペースは広く取りたいです。とくに作業台の配置も含めて、ルドおじさんとキッチリ話し合って決めたいですね。それと鍛冶場の隣には、素材保管用の小屋も必要です。住居は作業場兼用でお願いします」
「わかった。ルドルグ、その辺はベリトアの注文通りで頼むよ」
「おうよ。……だがそうなると、一度街に行って今の作業場を見ないとダメだな。今度の交易には儂もついてくぞ」
「色々持ってくる道具もあるだろうし、少し人数を増やさないとだな」
「村長、人選は私に任せてくれ。商会との交渉も含め、しっかり役目を果たしてくる」
鍛冶道具はどれも重量があるだろうし、できれば一度に全て運んでしまいたい。交渉に関しては、ラドならば安心して任せられる。私のほうからお願いしたいくらいだ。
「さて、そろそろ昼だ。昼食も兼ねてベリトアの歓迎会をしようか」
「わぁ! 早速アレが食べられるとはっ」
村の芋がよほどお気に入りのようだ。ベリトアの反応を見ていると、街で噂になっているのも分かった気がした。
昼食に集まって来た村のみんなにベリトアを紹介する。何人かは街で面識があるし、ベリトアが小さいときから知っている者もいたようで、すんなりと周りに溶け込んでいた。
そんななか、冬也と春香がこの世界の武具について興味津々で聞いている。のだが……当の本人は話しそっちのけで芋を頬張っていた。
なお今回は、女性陣による秘密会議は開催されなかった。どうやらベリトアは、要注意対象に認定されなかったようだ。結局その日は、新しくできた集会所に泊まってもらい、2日後の朝に街へと向かって行った。
◇◇◇
異世界生活70日目
ベリトアたちが街へと出発して4日目
今日は朝から、オークがいる東の森に侵入していた。なぜそんな危険を冒しているか、話は前日にさかのぼる。
「啓介さん、提案があります。東の森での魔物狩りについてです」
「お、桜と春香か。オークを発見して以来、一度も偵察すらさせてなかったけど、目的は?」
「村の住人のレベルアップです」
桜たちの提案はこうだった。
ナナシ村の存在が発覚してちょっかいを出される前に、自分たちの強化をしたい。魔物狩りや開拓など、村の外で襲われた際に、余裕をもって対処できるようにする。これが最大の目的だと主張していた。
東の森ではまだオークしか見ていないが、それ以上に強力な魔物がでるらしい。もし倒すことができればレベルアップも早いだろう。
「目的も理由もわかるけど、危険も多いだろ? なにか具体的な案でもあるのか?」
「はい。北の山脈にしたように、東の森へも結界を広げて欲しいんです」
「穴の罠で倒すってことか? たしかオークを見たのは、村から1~2kmくらいの場所だったよな」
現在残している敷地拡張は、10m幅なら6kmほど。目的の狩場まで延ばしても余裕がある。
「始めのうちは結界頼りになりますけど、レベルが上がれば私たちだけでも倒せると考えてます」
「まあ、そうだな」
「それにさ、うちらがレベルアップすれば、村長も『徴収』で上げられるでしょ。村の生存率もそのぶん上がるよ?」
「そうか……。よし、わかったよ」
桜たちの提案は村全体を考慮した良策だ。まずは調査から始めよう、となって現在に至る――。
◇◇◇
「まだ魔物の姿はありませんね……」
「結界内は安全だけど初めての狩場だ。みんな警戒は怠るなよ」
万全の体制で挑もうと決まったので、調査には日本人全員と土魔法使いのロアも連れてきている。
村から2kmほど歩いただろうか。少し離れたところに単独行動のオークを発見。春香がすかさず鑑定をかけた。
「対象名はオーク、レベル23。スキルは『怪力』で力に上方補正がかかるみたい」
「よし、このままギリギリまで近づく。結界の外には出るなよ」
全員が戦闘態勢に入りながらオークの方へ進むと、相手もこちらに気がついた。
「フゴァァ!!!」
オークが雄たけびを上げ、ノシノシと向かってきた。手には大きな棍棒を持っていて、なかなかに凶悪な面構えをしている。先制攻撃すべきなんだが、結界の強度を確かめないと今後に不安が残る。全員いつでも動ける体制でオークを待ち構えた。
「しばらく結界を殴らせるからな。手を出すのはそのあとだ」
オークにも結界は見えているはずだが、そんなことも構わず突進してくる。そして当然――、
「ンゴァ!?」
結界に突撃したオークは、間抜けな悲鳴をあげて怯んだ。が、大したダメージも無いようで、そのまま怒り狂って結界を殴りだした。「ドガン! ドゴン!」と音はでかいが、結界には傷一つ付いていない。
「村長、全然大丈夫そうだぞ。……そろそろ良いんじゃないか?」
「そうだな、桜は水魔法で足を、冬也は結界から出すぎないようにな」
冬也が剣を突き出して注意を引き、その隙に桜のウォーターバレットがオークの両膝を穿つ。
「フガァァァ!」
オークの顔が苦痛でゆがみ、バランスを崩して転倒する。
「念のため腕もやっときますよ!」
転倒して動けない状態のオークに向けて、桜が次々と水魔法を放っていく。四肢を何箇所も貫かれ、完全に身動きが取れないオーク。
「トドメは春香がやってくれ」
私に指示された春香が結界の外に出て、オークの喉元に何度も剣を突き込んだ。……しばらく待つとオークの体が黒い霧となり、魔石と肉を残して消えていった。
「おおー! やっぱり結界があると全然違いますねー!」
「魔物とレベル差があっても一方的に攻撃できちゃうもんねー」
「剣も魔法も効いてたな。――それで春香、みんなのレベルはどうだ?」
「啓介さん、全員レベルアップしてますよ。狙いどおりです!」
みんなのステータスを確認してもらうと、この場にはいたが、戦闘に全く参加してなかったメンバーもレベルが上がっていた。とくにレベルの低かった秋穂は2つ、夏希や椿に至っては一気に3つも上昇している。
「倒した魔物の魔素を吸収してレベルアップ。この説が濃厚になりましたね。しかもパワーレベリング可能なパターンです!」
「ああ、でももう一度くらいは試しておきたい」
その後も30分ほど周囲を探索、計2匹のオークを倒すことができた。初回同様、2回とも全員がレベルアップを果たしたので、この仮説は正しいだろうと結論付けた。あまり奥まで行き過ぎると、対処できないほど強力な魔物がいるかもしれない。そう思い、村から3km進んだところで敷地を固定することにした。
「予想以上の結果だったわね」
「でもわたし、何もしてないからちょっと申し訳ないかも?」
村で夕飯の準備をしている最中、桜と夏希がそんな会話をしていた。
「そんなの気にすんな。そのぶん村に貢献すればだろ?」
「そうですよ。私たちは生産力で貢献してきましょう!」
冬也や椿が言うように戦闘職じゃなくとも、レベルアップの恩恵を受ければ作業効率がグンと上がる。そもそもそんなこと言い出したら、私なんて『徴収』も使っているわけだし、完全に寄生状態だ。
「桜とロアの遠距離魔法があれば、穴を掘る必要もなさそうだ」
「不用意に結界外へ出なければ大丈夫です。ただ、編成はどうしましょうね? 交易路や建築のこともありますし」
「一気にあれもこれもは無理だ。魔物狩りは一班だけにして、交代しながらやろう」
話し合いの結果、春香と桜のペア、冬也とロアのペアをそれぞれ班の中心にして、何名かを引き連れて狩ることになった。ただ秋穂には、万が一の治療のために毎回参加をお願いした。
魔物狩りの方針も決まり、いよいよお待ちかねのオーク肉実食会となった。さすがはファンタジー好きだけあって、オーク肉に対する忌避感よりも、味のほうにみんなの興味はあるようだ。
「んんー、最っ高!」
「おいしー!」
「オーク肉うますぎだろ!」
「お肉も旨くてレベルも上がるとか……。オークって最高ですね!」
格上狩りが上手く行って、レベル上げの指針もできた。戦わずとも村人の戦力を上げられる。さらに旨い肉も入手できるとあれば、これ以上の成果はないだろう。
※オーク肉はオークの肉ではありません。中身は普通の豚肉です。鑑定結果でも「日本で見る豚肉と同じ」と表記されております




