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異世界村長【書籍発売中】  作者: 七城
第1部 『異世界村長編』
40/252

第40話:鍛冶職人のベリトア


異世界生活60日目


 異世界へ来て2か月が経過した。ちょうど1か月前、ラドたち兎人族と出会ったのを思い出す。


 村の人口が一気に増え、住居の建設もはかどるようになり、そのぶん忙しくなったが、村の中は賑やかで心地よい日々を送れている。春香と秋穂の二人も、魔物狩りを中心に良く働いているし、貴重なスキルを持っているのでありがたい。


 

 そんな状況のなか、ラドたちが3度目の交易へと向かっていった。今度帰ってくるときには、街の鍛冶職人を連れてくる予定だ。おととい街から戻って、またすぐの再出発となったが、ラドたちは「名誉ある任務だ!」といって息巻いていた。


「おーい村長! どんどん運ばないと桜さんに追いつかないぞ!」

「ああすまん、ちょっと考え事してた」

「頭使うのもいいけど、手もちゃんと動かせよなー」


 くっ、冬也のヤツ……。夏希と同居するようになってからというもの、やたらと気合が入ってやがる。実に羨まけしからん。


 街の動向にも変化が見え始め、交易路の開拓を優先して進めている。椿と兎人の子供三人には農作業を、ルドルグと夏希たち四人に集会所兼宿舎の建築を任せ、他は全て交易路作りに着手していた。


 総勢17人での作業は、それはもう凄いスピードで進んでく。桜が水魔法で木をなぎ倒し、兎人たちが枝打ちをする。それを私と冬也と春香の3人で次々に運んでいくと――。


 そのあとを追うように、ロアの土魔法で切り株周りの土を(へこ)ませ、根を取り除いていく。除去した根や枝はそのまま森へ放置し、とにかく先へ先へと道を伸ばしていった。


「南のほうから大猪が来ます!」


 索敵役の兎人が魔物を感知すると、その姿が見えた瞬間には誰かに倒されていく。もう大猪程度なら恐怖する者もいないし、むしろ肉が手に入って喜んでいるくらいだ。伐採の音やみんなの気配により魔物も集まって来やすい。が、慌てることなく対処して開拓を進めていった。



 その後の数日間も、とくに事件が起こることもなく順調に開拓が進み、ラドたちの帰還の日を迎えた――。




◇◇◇


異世界生活65日目


 本日は2度目となる稲の収穫日。開拓作業を中断して全員で稲刈りをしていた。昨日、集会所がついに完成を迎えたので、ルドルグたち建築班もみんなと一緒に稲刈りに精をだしている。


「椿、今回の収穫量はどんな感じ?」

「前回よりも確実に増えてます! 育成も順調ですし、病気なんかの心配もありませんよ」

「大丈夫とわかってても、街の様子を聞いた後だとどうしてもな」

「全く問題なさそうですよ。麦の栽培にもそろそろ取り掛かる予定です」

「おおー、それは楽しみだ。そう言えば椿、日本にいるときはパン屋で働いてたんだよね?」

「はい、小麦が収穫できたらさっそく挑戦してみます!」

「パンと言えばさ、この世界では製粉とか発酵はどうしてるのかな? そのへんもラドに調べといてもらわないと」


 そんな会話をしながら稲刈りをしていると、大工のルドルグが近づいてきた。うさ耳がピンと立っているので、聴覚強化で何かを聞いているみたいだった。


「長よ、ラドたちが村の手前まで来てるぞ。鍛冶屋のヤツも一緒だとよ」

「お、じゃあ出迎えにいこうか。鍛冶場や住居の話もあるし、ルドルグも一緒に来てくれ」

「よしわかった、儂も久しく顔を見とらんからな。丁度ええわい」


 私たちが村の結界に到着する頃、ちょうど向こうも姿を見せた。交易路が開けてきたから、そこそこ離れていても確認できるようになっていた。


「村長、いま帰ったぞ!」

「みんなおかえり、荷運びが終わったらしっかり休息をとってくれよ」


 ほかの兎人たちにも労いの言葉をかけると、ラドともう1人を残して村へ入っていく――。



「村長さんはじめまして、私は熊人族のベリトアです」

「ご丁寧にどうも、私が村長の啓介です。我々はあなたを歓迎します、ようこそナナシ村へ」


 熊人族のベリトアは、今年で18歳になる女性だった。ピョコっと見える熊耳を今もピクピクさせている。熊人と言っても、身長も低くスラッとしていた。

 なんでも個人差があるらしく、女性はそんなにゴツくないんだと。鍛冶師と聞いて、ついついドワーフを連想していたので、見た目のギャップに驚いている。


(まさかこんなに若い女性だったとは……)


「ラドおじさんから話は聞いています。是非とも私を村の一員にしてください!」

「もちろんです。村に鍛冶職人が来てくれてとてもありがたい。早速ですが、この結界の中に入ってみてもらえますか?」


 村のルールなんかはラドから説明済み。まずは居住の許可を出してみて、村に入れるかを試す。向こうも事情は承知しているようで、意を決した様子で一歩を踏み出していた。


「っ、ラドおじさん! 入れましたよ!」


 無事に入れたことに大層喜んでいる。ラドもウンウンと頷いて笑っていた。


「今からべリトアも村の一員だ。村の鍛冶は任せたよ」

「もちろんです! 頑張りますよ!」

「お待ちかねの芋も、毎日たらふく食べれるからな。安心してくれ」

「あれが今日から、毎日毎晩食べられるなんて……夢のようです!」


 このまま立ち話もなんだと、自宅前の広場で続きを話すことにした。


「そうだ村長さん。コレ、村で使ってもらおうと思って!」


 ベリトアはそう言うと、特大の荷物をドンっと置いて並べだす。実はこの大荷物、村に来たときからずっと気になっていたんだ。その中には靴や胸当てなど、革製の防具がたくさんあって、鉄製の剣も数本でてきた。


「それにしてもすごい量だな。これをここまでひとりで運んできたの?」

「はい! 体力には自信がありますから!」


 さすがは熊人、見た目は小柄でも相当の力と体力があるみたいだった。見た目は華奢なのに、どこにそんな力が……。種族特性とかスキルの影響なんだろうか。


「すごく嬉しいけど、こんなに譲ってもらって大丈夫か?」

「ええ、もちろんです! どうせ街では売れませんしね」

「金属製の物はわかるが、革製品なんかも売れないのかな?」

「ええ、日本人の鍛冶スキル――アレはもう反則技ですよ! 鉄だろうが革だろうがお構いなしです」

「そっか……ありがたく受け取るよ」


 日本人のスキルはかなり優秀みたいだが、街の職人たちにはとんだ疫病神らしい。


 そのあとも鍛冶関連についての話を詰めていく。熊人のベリトアは革の加工が得意みたいで、金属製の武具なんかも、設備さえあれば作れると言ってた。この世界の鍛冶は、金属を熱する工程を魔道具で処理するらしく、親から譲り受けたものを街から持ってくる予定でいる。


「魔道具の触媒って、やっぱり魔石なの? それとも別のもの?」

「魔石ですよ。村にも魔石は結構貯めてあるって、ラドおじさんから聞いてます」

「大きさとかに指定はあったり?」

「大きいほうが燃費はいいけど、利用自体は小さくても問題ないです」


 ベリトアの説明だと魔石は大きければ大きいほど、含有する魔素が濃くなるらしい。結果的に、そのぶん燃費も良くなるんだと教えてくれた。


「鉱石からインゴットへ製錬するのも魔道具を使うのかな。もしそうなら、どれくらいの価値なのかも知りたいんだ」

「はい、製錬作業も専用の魔道具でやってますよ。値段はどうでしょう? 家1軒分くらいなのかな」

「うわー、じゃあ入手するのは無理だな」


 そんな資金、いまの村にはない。鉱脈があるだけに何とかしたい所なんだが……。


「そうでも無いんじゃないかな? 中古ので良ければそのうち市場に出回りそうですよ。しかも割と安くで」

「ん? あー、日本商会の影響ってこと?」

「そうです。今までは魔道具型の製錬炉を何台も使って製錬してました。でも、錬成魔法でポンポンと作っちゃうもんだから……。そっちで働いてた人も、かなり追い込まれてるのが現状ですね」

「なら可能性はあるか――。でも購入資金の調達がなぁ」


 資金繰りに頭を悩ませていると、今まで黙って聞いていたラドから提案があった。


「村長、そのことなんだが。街の商会と取引してはどうだろうか」

「商会って、例の日本商会のことか?」

「いや、我らが懇意にしている店だ。その商会から売れるだけ全部欲しいと、運搬込みでの打診があったのだ」

「んー、でもなぁ。村の場所を明かすのはもう少し先延ばししたい」

「そうだろうな。だから集落へ一旦運び出して、そこで受け渡してはどうだろう、と考えたんだが――」


 なるほど、引き渡しを集落で、か。それなら村とも距離があるし、見つかる可能性は低そうだ。交易路もまだ集落までは進んでいないからな。


「よし、その案でいこう。製錬炉の魔道具はなんとしても確保したい」

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