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異世界村長【書籍発売中】  作者: 七城
第1部 『異世界村長編』
33/252

第33話:転移者100万人?


異世界生活50日目



 帰還予定から遅れること2日、昼前にラドたち全員が戻ってきた。何があったのかはわからないが、ひとまず無事だったことに安堵する。


「村長、遅れてすまない。街の状況を把握するのに少々手間取った」

「そんなことはいい、無事に戻ってくれて嬉しいよ。おつかれさま」


 村の皆で出迎え、有志の無事を喜びあっている。


「ちょうど昼にするところだ。休みながら食事をとって欲しい。報告はその後でいいから、とにかくゆっくりしてくれ」

「買ってきた品はどうする? 倉庫に保管しておけばいいか?」

「ああ、それはこっちでやっとくよ」


 急ぎの報告もないようなので、昼食のあともしばらく休息をとってもらう。ラド以外の兎人たちは、今日1日そのまま休ませることにした。



 荷物整理や在庫管理、その他諸々の作業を終え――。たっぷり3時間ほど過ぎたころ、主要メンバーを集めて村会議を開くことになった。

 

「改めてご苦労だったなラド。早速だが兎人の集落について頼むよ」

「そうだな。結論から言うと、全員ここへの移住を希望している。これだけ安全に暮らせる場所だからな。既に我々がいたこともあり、集落を離れることにも未練はないと言っていた」


 どうやら無事に賛同を得られたようだ。


「それとな……。村長は敢えて聞かないのだろうが、ひとつだけ言わせてくれ」

「ああ」

「我らが匿ってもらったとき、他に行く当てはないと私は言った。もう1つの集落に逃げれば、襲ってきた日本人がまた来るのではと考えたのだ」

「だと思ったよ」

「私はそれを隠して頼ったのだ……」


 兎人族は、同族をとても大事にする種族だと前に聞いたことがある。きっと他の部族に迷惑を掛けたく無かったのだろう。


「ラド、何も問題ない。全ては忠誠度が語っているよ。兎人族に対して疑いの気持ちは全くないからな」

「すまん……どうしても今のうちに話しておきたかったのだ」

「――さて、ラドもスッキリしただろうし、いつ頃くるのかを聞こう」

「そう、だな。明日、向こうに二人ほど送る。荷物は纏めているだろうから、3日後にはこちらへ到着すると思う。10人全員だ」

「そうか、良くやってくれた。忠誠度のルールは守ってもらうが、できれば全員受け入れたいよ」


 上手く事が運べば、これで村人が29人になる。労働力もさらに増え、今よりも村の生活が安定すると思う。


「じゃあ次に、交易の成果を頼む」

「高値で売れたのは芋と布だ。日本人の所持品も、まずまずの値で買い取ってもらえたぞ。ただ魔物の素材は……かなり値崩れしていたな」


 ラドの言うように、素材については二束三文だった。大蜘蛛の糸だけ値上がりして、ほかは底値に近かったらしい。


「購入したのは塩と釘、これは運べるだけ買ってきた。ほかにも、調理具と数種類の果物、麦や香辛料も少し購入した」

「ずいぶん買ったんだな。そんなに良い値で売れたのか?」

「ああそうなんだ。それこそ、芋なんかは奪い合うように売れたぞ。それに布もかなり需要が高かった」


 芋については、現地で調理して試食させたらあっという間に売り切れたらしい。奪い合うようにってのも比喩じゃなかったようだ。


「ああそれと、防水用の樹液も買ってきたぞ。浴槽に使えるんじゃないかと思ってな。ダンジョン産の質の良いものが安く買えたのだ」

「え、ダンジョンがあるんですか!」

「すげぇ! 異世界っぽくなって来たな!」


 ダンジョンというワードを聞いて、夏希と冬也が食いついてきた。あれやこれやとラドに質問攻めを始めてしまう。


「おいちょっとまて、そういうのは後で盛り上がってくれ。それでラド、芋や布が高値の理由はなんなんだ?」

「それについては、街の様相とも関わってくる。それも含めて報告したいがいいか?」

「ああ、もちろんだ。できるだけ詳しく教えてくれ」

「それを話す前に、まずはこれを見てくれ。冒険者ギルドに依頼して、文書にして貰ったんだ。我々は文字があまり得意ではないのでな……」


 今度は『冒険者ギルド』の存在を知り、数名が大きな反応を示す。が、華麗にスルーを決め込んで話を続ける。


「依頼料は多少かかったが詳しく纏めてある。内容は読み上げてもらって確認済だ。ただ……村長らに読めるだろうか?」


 ラドが渡してきた文書を広げると、そこにはこの世界の文字が書かれていた。そしてその文字に重なるように……日本語としても見えている。


「はいでましたっ! 異世界翻訳ー!」

「なるほどなるほど。文字が重なってても違和感がない不思議、さすが異世界ファンタジーよね!」

「……ラド大丈夫、読めるようだ。皆もちゃんと内容を見てくれよな」


 夏希と桜が大いに盛り上がっているが、もう突っ込むだけ無駄なので放置しておく。ギルドの発行した文書を要約すると、以下のような内容が記してあった――。


 私が転移した日の同時刻、日本人と名乗る大勢の男女が突如として現れた。何の前触れもなく、街のあちこちに現れたらしい。年齢は15歳から50歳までと、のちの報告で判明した。男女比はほぼ均等で、子供や老人は1人もいなかったそうだ。


 街にいた数は約1千人、守備隊と冒険者により数日かけて一時収容される。それから20日間のうちに、街に集まって来た数も含め、計2千人が確認された。反抗する者は捕縛され首都に連行、もしくは処断された。


 現在、街にいる日本人の数は約1千人。冒険者を始め、農業や街の産業に従事している。街には比較的従順なものが残され、他は首都へ移送された。その者たちは、処刑もしくは奴隷として扱われている。


 ほかの街でも同様の現象が起きており、首都に集められた人数、最終的に1万5千人。そのうち6千人が首都で暮らすことを許可された。残り9千人のうち、3千人が処刑され、6千人が首都や街で奴隷となり強制労働させられている。


 日本人に共通することは2つ。全員スキルを持っており職業と言うものがステータスにあること。この世界に来る直前に、強烈な光を浴びたことだった。



「トンでもない人数が転移して来たんだな……。首都や街を含めると、2万人とかになるぞ」

「街や都市に辿り着けなかった人を含めたら……。しかもこれ、獣人族領だけの話ですよね?」

「途中で死んだ数のほうが圧倒的に多いだろうね。なあラド、人族領って、獣人領の何倍くらいの領土なんだ?」

「詳しくは知らないが、おおよそ5倍くらいだと思うぞ」

「5倍か……。たぶんこれ、百万人とか来てるんじゃないか? 大陸の西側だけでこの数だぞ」

「東側なんてほぼ全滅なんじゃ?」

「だろうな」


 大森林の東側は状況が不明だけど……そっちに転移した人がいれば、まず生きてはいないだろう。場所的に言えば、私たちはギリギリセーフの部類だった。もう少しズレてたら死んでいたところだ。


「話の規模が大き過ぎて、頭の整理が追いつきません」

「そうだな、ちょっと休憩しようか」

 

 ある程度は予想していたが、さすがに何十万規模の集団転移なんて……。あまりの規模と人数に、ここにいる全員が困惑していた。




◇◇◇


 休憩を済ませ――、


 ぞろぞろとみんなも戻ってきたが、どの顔もあまり思わしくない。そんな中で再び話が始まった。


「なんか考えちゃうことが多すぎて、未だに困惑してます」

「わたしも頭がパンクしそうだよー」


 他のメンバーも頭を悩ませていた。


「私も同じようなもんだけど、まずは自分の考えを聞いてくれ」


 あれやこれやと悩んでも仕方がない。そう切り替えて、村に関わることだけを拾い上げてみる。


「街や都市の対応が色々あって、危険なヤツは処刑されたか奴隷にされた。――で、わりと従順な人や、異世界ものをかじってるヤツなんかは、うまいこと保護されて暮らしだす」


 ここで一度言葉を区切り、


「街の外から来た人が、転移して20日までに収まった。まあ、中には隠れ住んでるのもいるだろうけど……。あと、東はこの際無視だ。人族領も現時点では情報がないから放置。ここまではどうだろう、少しはスッキリしたと思うけど」

「そうですね。なんとなくわかります」


 他の者もまばらに頷いて返してきた。


「突然すごい力を持てば、暴走するヤツが必ず出てくる。そいつらが何をやらかすか。その結果、この村にどう影響するかを考えたら良いと思う」

「なるほど、でもほかの問題は放置しちゃって大丈夫ですかね」

「わからん、大丈夫じゃないかもな」


「「「え?」」」


 全員、口をひらいて呆けている。


「でもさ、街と交易可能なうちは、結界があるし生きてられるだろ?」

「そりゃそうですけども……」

「転移者が何かやらかして街が封鎖。そうなる前に、塩などの必需品をため込んでおく。それなら数年は問題ないんじゃない?」

「「たしかに」」

「それだけの期間があれば、南の海にも手が出せるようになると思う。現実問題、いまの戦力では防衛はできても攻めるのは無理だ。なら、動けるうちに備えを万全にしておこう」

「それしかできないのは事実ですね」

「みんなもすぐに結論は出ないと思うし、良案も含めてまた明日続きを話そう」

 

 すぐに結論を出せるものではない。村会議を明日に持ち越すことにして打ち切った。






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