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異世界村長【書籍発売中】  作者: 七城
第1部 『異世界村長編』
30/252

第30話:税率100%


異世界生活43日目


 あれからさらに5日が経ち――。


 昨日の時点で6軒全ての家が完成した。家具や寝具はまだないが、自分たちだけの空間がある。それだけでも安心できたのだろう。朝から楽し気な雰囲気だった。


「やっぱり、家が建つと村っぽい雰囲気が出ますねー」


 桜が笑顔を向けながら話し出す。


「最初の頃は毎日必死だったけど――、ようやくここまで来たんだなあって、しみじみ感じてます」

「それもこれも啓介さんのお陰ですね。この近くに転移できて、本当に運が良かったと思っています」


 椿も、転移したての頃を思い出しながらそう話している。


「違う場所だったら、私も椿さんもとっくの昔に死んでましたね。仮に街まで行けたとしても、どうなったかは怪しいものです」

「それを言うなら、オレたちもそうだよな。出会いかたは最悪だったけど、この村に住めて良かったよ」

「うんうん、ホントに紙一重の出会いだったねー。村長に感謝感謝!」


 冬也や夏希も、あの集団にいたままならヤバかったと、口を揃えて言っていた。と、そんなことを語らいながらも、賑やかな朝食が終わり、昨日決めたことを再確認する。



「さて明日のことなんだが、メンバーはラド含め兎人5名とする。村からの交易品は、芋と織布と魔物の素材、それに転移者の所持品でいく」


 転移者の物については、市場に出回っている場合にのみ売るように言ってある。希少価値がありすぎて、変なことに巻き込まれるのを防止するためだ。


「ああ、我々も準備できている。弓や槍もあるし、ゴブリン程度なら余程の集団でもない限りは大丈夫だ」

「そうか、でもなるべく戦闘は避けてくれよ。無理だけはするな」

「わかっておるよ、我らにはこの耳がある。危険は避けて行くさ」


 この村に逃げてきたときは、大人数だったし子供もいた。が、今回は大人のみだし、機動力も全然違うだろう。


「それに万が一があっても、娘のロアとルドルグがここに残っている。だから何も心配はない」

「そっか――。では手筈通りに明日の夜明けに出発、そのあと兎人の集落を経由して街へ頼む」

「遠回りで慎重にいくからな。行きで2日、街で1日、帰りで2日は見ておいてくれ」

 

 最優先は塩の確保、その次に釘と調理具、余裕があれば麦や果物をお願いしてある。


「ほかに話しておくことは何かあるかな?」

 

 少しの沈黙の後、椿が話し出した。


「明日の件とは関係ありませんが――」

「いいよ、何でも言って欲しい」

「収穫物や購入品などの村の財産。これらの所有権を、きちんと決めた方がいいと思います」

「村の共有財産だと不都合があるってことかな?」

「はい。今はまだいいですが、人口が増えてくるにつれて不満の原因になると考えています」


 不公平感がでてくるってことか。たしかに、作業によって労力も変わってくる。そういうこともあり得るかもしれない。


「詳しく説明してくれないか」

「はい。人口が増えて家も増えると、各家庭で食事を作ったり道具を揃えたりになると思うんです」

「まあ、将来的にはそうなるよな」

「村には通貨の流通はありません。作業も完全に分担されてません。細かく均等に支給するのも難しいと思います。――そして、所有権を曖昧にしたままだと、労力の差や不公平を感じる人が必ず現れます」


 やはりそういうことか。椿の言いたいことは理解したが……具体的な対処法を聞いてみると――。


「この村で得た物は全て村長の所有物とします。それを村長の権限で分配する形を執るんです」

「意味は分かるし効果もありそうだけど、なんか独裁的過ぎないかな?」

「やることは今とそんなに変わりませんよ。所有権をハッキリさせることが目的ですから」

「ふむ、みんなはこの提案をどう思う?」


 皆の顔を見渡して意見を乞うと、桜はウンウンと納得顔で頷いており、ラドは沈黙、冬也と夏希は難しい顔をしていた。そのあとしばらく考えていると夏希とラドが、


「なんか良くわかんないけど、村長に権限を集めるのは……いい考えだと思うかなー?」

「我らも、村長が所有権を持つのは当然だと思うぞ。正直、それが当たり前だと思っていた。異論はない」

「そうか、冬也はどうなんだ?」

「ん-、椿さんが言いたいのってさ。村長に不満の矛先を持ってけば、村人同士の争いが起きにくい。そういうことかな?」

「ええ、冬也君の理解で合っているわ。村人同士のいざこざが一番厄介なの。村長は信用してるけど、アイツのことは気に食わない。なんてことにならない為の提案です」

「ふむ……」

「村の規模が大きくなる前に、この方針を定着させたくて進言しました」


 なるほどたしかに、私に不満を集めたほうが、忠誠度があるおかげで管理もしやすいか。それにみんなも納得しているようなので、椿の提案を採用することにした。



 『ユニークスキルの解放条件<村の徴税制度>を達成しました』


 『能力が解放されました』


 『敷地の拡張が可能になりました』


 村の制度を決定したところで、唐突にいつものアナウンスが聞こえてきた。――のだが、徴税制度もなにも……税率100%なんだが、こんなんでも達成したことになるんだろうか?



 朝食後、すぐにステータス確認に向かった。ほかのみんなは朝食前に済ませてたらしい。私一人で向かおうとしていたら、なぜか椿と桜もついて来る。なんだろうと不思議に思いながらも、3人で居間に到着した。


=================

啓介 Lv5

職業:村長 ナナシ村 ☆☆

ユニークスキル 村Lv6(19/200)

『村長権限』 『範囲指定』 『追放指定』

『能力模倣』 『閲覧』

『徴収』<NEW>

村人が得た経験値の一部を徴収できる。

0%-90%の範囲で設定可能

村ボーナス

☆  豊かな土壌

☆☆ 万能な倉庫

================= 


 村スキルがLV6に上がり、新たな能力『徴収』を獲得した。のだがまず先に――、


「二人ともどうしたんだ? もう自分の確認は済ませたんだろ?」

「啓介さん、ごめんなさい。実はさっきのやり取り、桜さんと事前に打ち合わせしていたんです」

「ん? 所有権の話のことか?」

「はい。あの提言ですが、ある意図があって話しました」

「と言うと? わけがわからん」


 頭にはてなを浮かべていると、今度は桜が話し出す。


「前に、村スキル解放条件の話をしたじゃないですか? それってほぼ全部、村に関連するイベントのクリアが達成条件だと思いましてね」

「うん、続けて?」

「さっきは所有権と表現しましたが。実際、村長が村人から全部徴収するってことですよね。税率100%で」

「言ってる意味は分かるよ。徴収とか徴税って、村に関するイベントっぽいもんな」

「そうなんです。そして予想通りの徴収スキルが出てきた、と」


 なるほどそういうことか。なんか唐突に切り出してきたから、ずっと不思議に思ってたんだ。


「なんか椿にしては強気な提案だなー、って少し驚いてた」

「気を悪くさせたならごめんなさい」

「いやいや、責めてるんじゃないよ。気に病む必要はないから安心して」

「啓介さんから言い出すと、完全に独裁者発言ですからね。それもあって椿さんに提言してもらったんですよ」

「そっか、よくわかったよ。――にしても上手くやったもんだな、素直に感心してる」

「そうでしょうそうでしょう、ならば本題のスキルにいきましょう!」


 ドヤ顔の桜を横目にステータスを見やる。


==============

『徴収』

村人が得た経験値の一部を徴収できる。

0%から90%の範囲で設定可能

==============


 徴収できる有効範囲がわからないが、もし制限がないのであれば、村にいながらにしてレベルがどんどん上がるわけだ。


 いろいろ試してみたが、徴収率の設定は何度でも変えられた。画面上で操作する必要はなく、念じるだけで数値が変わったのも確認した。


「なあこれさ、戦える村人がもっと増えたらすごくないか? 戦闘技術は身につかないにしても――。俺、相当強くなっちゃうぞ……」

「すご過ぎですよ! それでも、啓介さんが死に難くなるなら問題ありません。バンバン徴収していきましょう!」

「はい、私もそう思います。どんどん搾り取りましょう!」

「おい二人とも言い方な?」


 どこぞの悪代官みたいなセリフを吐く二人だった――。


「よし、次は敷地拡張の確認に行こうか」


「「はい!」」








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