第30話:税率100%
異世界生活43日目
あれからさらに5日が経ち――。
昨日の時点で6軒全ての家が完成した。家具や寝具はまだないが、自分たちだけの空間がある。それだけでも安心できたのだろう。朝から楽し気な雰囲気だった。
「やっぱり、家が建つと村っぽい雰囲気が出ますねー」
桜が笑顔を向けながら話し出す。
「最初の頃は毎日必死だったけど――、ようやくここまで来たんだなあって、しみじみ感じてます」
「それもこれも啓介さんのお陰ですね。この近くに転移できて、本当に運が良かったと思っています」
椿も、転移したての頃を思い出しながらそう話している。
「違う場所だったら、私も椿さんもとっくの昔に死んでましたね。仮に街まで行けたとしても、どうなったかは怪しいものです」
「それを言うなら、オレたちもそうだよな。出会いかたは最悪だったけど、この村に住めて良かったよ」
「うんうん、ホントに紙一重の出会いだったねー。村長に感謝感謝!」
冬也や夏希も、あの集団にいたままならヤバかったと、口を揃えて言っていた。と、そんなことを語らいながらも、賑やかな朝食が終わり、昨日決めたことを再確認する。
「さて明日のことなんだが、メンバーはラド含め兎人5名とする。村からの交易品は、芋と織布と魔物の素材、それに転移者の所持品でいく」
転移者の物については、市場に出回っている場合にのみ売るように言ってある。希少価値がありすぎて、変なことに巻き込まれるのを防止するためだ。
「ああ、我々も準備できている。弓や槍もあるし、ゴブリン程度なら余程の集団でもない限りは大丈夫だ」
「そうか、でもなるべく戦闘は避けてくれよ。無理だけはするな」
「わかっておるよ、我らにはこの耳がある。危険は避けて行くさ」
この村に逃げてきたときは、大人数だったし子供もいた。が、今回は大人のみだし、機動力も全然違うだろう。
「それに万が一があっても、娘のロアとルドルグがここに残っている。だから何も心配はない」
「そっか――。では手筈通りに明日の夜明けに出発、そのあと兎人の集落を経由して街へ頼む」
「遠回りで慎重にいくからな。行きで2日、街で1日、帰りで2日は見ておいてくれ」
最優先は塩の確保、その次に釘と調理具、余裕があれば麦や果物をお願いしてある。
「ほかに話しておくことは何かあるかな?」
少しの沈黙の後、椿が話し出した。
「明日の件とは関係ありませんが――」
「いいよ、何でも言って欲しい」
「収穫物や購入品などの村の財産。これらの所有権を、きちんと決めた方がいいと思います」
「村の共有財産だと不都合があるってことかな?」
「はい。今はまだいいですが、人口が増えてくるにつれて不満の原因になると考えています」
不公平感がでてくるってことか。たしかに、作業によって労力も変わってくる。そういうこともあり得るかもしれない。
「詳しく説明してくれないか」
「はい。人口が増えて家も増えると、各家庭で食事を作ったり道具を揃えたりになると思うんです」
「まあ、将来的にはそうなるよな」
「村には通貨の流通はありません。作業も完全に分担されてません。細かく均等に支給するのも難しいと思います。――そして、所有権を曖昧にしたままだと、労力の差や不公平を感じる人が必ず現れます」
やはりそういうことか。椿の言いたいことは理解したが……具体的な対処法を聞いてみると――。
「この村で得た物は全て村長の所有物とします。それを村長の権限で分配する形を執るんです」
「意味は分かるし効果もありそうだけど、なんか独裁的過ぎないかな?」
「やることは今とそんなに変わりませんよ。所有権をハッキリさせることが目的ですから」
「ふむ、みんなはこの提案をどう思う?」
皆の顔を見渡して意見を乞うと、桜はウンウンと納得顔で頷いており、ラドは沈黙、冬也と夏希は難しい顔をしていた。そのあとしばらく考えていると夏希とラドが、
「なんか良くわかんないけど、村長に権限を集めるのは……いい考えだと思うかなー?」
「我らも、村長が所有権を持つのは当然だと思うぞ。正直、それが当たり前だと思っていた。異論はない」
「そうか、冬也はどうなんだ?」
「ん-、椿さんが言いたいのってさ。村長に不満の矛先を持ってけば、村人同士の争いが起きにくい。そういうことかな?」
「ええ、冬也君の理解で合っているわ。村人同士のいざこざが一番厄介なの。村長は信用してるけど、アイツのことは気に食わない。なんてことにならない為の提案です」
「ふむ……」
「村の規模が大きくなる前に、この方針を定着させたくて進言しました」
なるほどたしかに、私に不満を集めたほうが、忠誠度があるおかげで管理もしやすいか。それにみんなも納得しているようなので、椿の提案を採用することにした。
『ユニークスキルの解放条件<村の徴税制度>を達成しました』
『能力が解放されました』
『敷地の拡張が可能になりました』
村の制度を決定したところで、唐突にいつものアナウンスが聞こえてきた。――のだが、徴税制度もなにも……税率100%なんだが、こんなんでも達成したことになるんだろうか?
朝食後、すぐにステータス確認に向かった。ほかのみんなは朝食前に済ませてたらしい。私一人で向かおうとしていたら、なぜか椿と桜もついて来る。なんだろうと不思議に思いながらも、3人で居間に到着した。
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啓介 Lv5
職業:村長 ナナシ村 ☆☆
ユニークスキル 村Lv6(19/200)
『村長権限』 『範囲指定』 『追放指定』
『能力模倣』 『閲覧』
『徴収』<NEW>
村人が得た経験値の一部を徴収できる。
0%-90%の範囲で設定可能
村ボーナス
☆ 豊かな土壌
☆☆ 万能な倉庫
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村スキルがLV6に上がり、新たな能力『徴収』を獲得した。のだがまず先に――、
「二人ともどうしたんだ? もう自分の確認は済ませたんだろ?」
「啓介さん、ごめんなさい。実はさっきのやり取り、桜さんと事前に打ち合わせしていたんです」
「ん? 所有権の話のことか?」
「はい。あの提言ですが、ある意図があって話しました」
「と言うと? わけがわからん」
頭にはてなを浮かべていると、今度は桜が話し出す。
「前に、村スキル解放条件の話をしたじゃないですか? それってほぼ全部、村に関連するイベントのクリアが達成条件だと思いましてね」
「うん、続けて?」
「さっきは所有権と表現しましたが。実際、村長が村人から全部徴収するってことですよね。税率100%で」
「言ってる意味は分かるよ。徴収とか徴税って、村に関するイベントっぽいもんな」
「そうなんです。そして予想通りの徴収スキルが出てきた、と」
なるほどそういうことか。なんか唐突に切り出してきたから、ずっと不思議に思ってたんだ。
「なんか椿にしては強気な提案だなー、って少し驚いてた」
「気を悪くさせたならごめんなさい」
「いやいや、責めてるんじゃないよ。気に病む必要はないから安心して」
「啓介さんから言い出すと、完全に独裁者発言ですからね。それもあって椿さんに提言してもらったんですよ」
「そっか、よくわかったよ。――にしても上手くやったもんだな、素直に感心してる」
「そうでしょうそうでしょう、ならば本題のスキルにいきましょう!」
ドヤ顔の桜を横目にステータスを見やる。
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『徴収』
村人が得た経験値の一部を徴収できる。
0%から90%の範囲で設定可能
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徴収できる有効範囲がわからないが、もし制限がないのであれば、村にいながらにしてレベルがどんどん上がるわけだ。
いろいろ試してみたが、徴収率の設定は何度でも変えられた。画面上で操作する必要はなく、念じるだけで数値が変わったのも確認した。
「なあこれさ、戦える村人がもっと増えたらすごくないか? 戦闘技術は身につかないにしても――。俺、相当強くなっちゃうぞ……」
「すご過ぎですよ! それでも、啓介さんが死に難くなるなら問題ありません。バンバン徴収していきましょう!」
「はい、私もそう思います。どんどん搾り取りましょう!」
「おい二人とも言い方な?」
どこぞの悪代官みたいなセリフを吐く二人だった――。
「よし、次は敷地拡張の確認に行こうか」
「「はい!」」




