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異世界村長【書籍発売中】  作者: 七城
第2部 『日本でも村長編』
252/252

最終話:やっぱ最後はこの面子で

 翌日の昼前、最初期のメンバーたちがナナシ村に勢ぞろいする。自宅のリビングに集まってくると、各自が座り慣れた席についていった。


 と、誰からともなく会話が始まり――


 私も飲み物を配りながら、みんなの話に耳を傾けていく。


 

「このメンバーだけで集まるのも久しぶりですね」

「たしか日本へ帰還する直前の……あれ以来じゃないです?」


 椿と桜、異世界に来て初めて出会ったのがこのふたりだった。最初の出会いが彼女たちでなければ、果たして村人を増やす選択をしたかも怪しいところだ。


「あんとき、何の話をしたんだっけ?」

「えっとね……。日本がファンタジー化してるとか、学生村長が悪さしてるとか、たしかそんな感じの?」


 冬也と夏希、ふたりとの出会いは村の初防衛戦がキッカケだった。出会い方こそ最悪だったが、今では欠かせない存在となっている。冬也と夏希のおかげで、村はずいぶんと賑やかになったんだ。


「にしても大陸の統一とか……ほんとに上手くいくのかなー」

「統一自体は可能、でもその後の統治は問題だらけだと思う」


 春香と秋穂、ふたりを洞穴で見つけたときは本当に驚かされた。もしこの出会いがなければ、村がここまで大きくなることはなかっただろう。医療の充実や街への進出など、村が飛躍したのはこのふたりのおかげだ。

 

「んで村長、今日はそれが議題なんだろ?」

「ああ、そのとおりだ。まずはこの面子で話をしたくてな」


 話が本題に流れたところで、今後の施策について語ることに――。私も席につき、みんなの顔を見渡しながらゆっくりと説明をはじめる。

 

「知ってのとおり、もう間もなく女神の神託が下される。国境がなくなり、国同士の戦争はなくなると思っている」


 たとえかりそめの平穏だとしても、当分の間は続いていくだろう。少なくとも、私たちが死ぬまでは安泰だと考えている。女神の力が強まった以上、余程のことがない限りは揺るがないはずだ。


「だが今回の件は規模が大きいだろ? もし協力するとなれば、当然、他国とも絡むことになる。今までのような傍観者ではいられない」

「だから女神には協力しない、そういうことか?」

「いや、むしろその逆だ。協力するメリットのほうが大きいと思ってる」


 現地人の勧誘はもちろんのこと、いろんな街を見て回ったり、様々な異世界体験が可能となる。なにせこっちには女神がついているのだ。邪険に扱われるとは考えにくい。


「じゃあなにが問題なんだ? 村長の好きにすりゃいいじゃんか」

「ああ、もちろん最後の決断は私が下すよ。でもそのまえに、みんなの心境を聞かせて欲しいんだ」

「あー、このメンバーを集めたのはソレが理由か」

「最近この手の話をしてなかったし、ちょうどいい機会だと思ってな」


 現状に対する不満だとか、これからの目標みたいなもの。それを聞いた上で、どこまで関わるかを思案したい。無茶ぶりなのは百も承知で、パッと思いつくことを聞きかせてくれ。そうみんなに伝えていった――。


「んー、わたしは日本を中心に活動したいかなぁ。今の環境には大満足だけど、とことん有名になるのも面白そうじゃない?」


 真っ先に口を開いたのは夏希だった。アイドルスキルを利用して、世界中の人を魅了するつもりみたいだ。「結果的には村の印象も良くなるし、一石二鳥でしょ?」なんてことを語っている。


 実に彼女らしい考えだし、実際、達成してしまいそうなのが恐ろしいところだ。もちろんいい意味で。


「私も日本で活躍したいかな。ナナーシアの村は、今の規模で収まらないと思うから」


 夏希に続いた秋穂は、村の全国展開を視野に入れているようだ。そのための基盤づくりに貢献したいらしい。いずれは世界にも手を出すべき。と、そんな感じのことを力説していた。


「べつに世界征服をしたいんじゃないよ。世界がファンタジー化したときを想定してるだけ」


 なるほどたしかに、そうならないとは言い切れない。私たちが知らないだけで、世界でも同じような現象が起きることも――。いや、すでに起きている可能性だってある。


「じゃあ冬也くんも一緒かな? それとも彼女ふたりを置いて異世界に行っちゃう?」


 冬也をからかいながら、春香が冬也の腕をつついている。ちなみに自分は目標なんてないし、毎日が楽しければそれでいいと話していたよ。そんなあっさりしているところが実に春香らしい。


「オレはやっぱ冒険がしたいかな。王国とか獣人国を巡ったりして、もっとファンタジーっぽいことをしてみたい。できれば村長も一緒に――」


 たしかに、ケーモスの街以外は一度も行ったことがない。私も興味があるし、そろそろ体験してみたいと思っていたところだ。冒険者ギルドに乗り込んで、自称ベテラン冒険者にも絡まれてみたい。


「あ、なら私も一緒に行きたいですね。まだ知らない魔法の技術、もしかしたら魔導書なんかがあったりして?」

「やっぱ桜さんもそう思います? オレも強くなるヒントがあるんじゃないかと――」


 過去の賢者が残した文献、王国に隠された秘伝書、そんなものがあるかも知れないと睨んでいるようだ。やはりこのふたり、異世界への憧れがかなり強い。他国への関与にも積極的だった。


「私は今の暮らしに満足しています。毎日がとても充実していますので。これからも運営面で活躍して、皆さんの帰る場所を守りたいですね」


 そして最後となった椿。彼女が語りだすと、皆が聖母を見るような目で納得していた。いまや彼女は誰からも頼られる存在だ。私なんかより、よっぽど村長らしいことをしている。



 ひとまずここまでの話をまとめてみると、


 椿と夏希と秋穂、この3人は日本での活動を見据えているようだ。それに対して、冬也と桜は異世界寄りの思考か。春香はどちらでもないようで、臨機応変に動くと言っていた。


 それと女神への協力については、全員、かなり前向きな印象だった。


 積極的に関われば、そのぶん世界の動向を把握できるし、不測の事態にも先手を打てる。「あとは村長の意志次第でしょ」というところまで話が纏まっていた。

 


「もし変だと思ったら、遠慮なく突っ込んで欲しいんだけどさ」


 そう前置きをしてから自分の心情を語りはじめる。


「正直な話、そろそろ自由にしてもいいんじゃないか。多少の無茶は許されるんじゃないか。そんなことを思ってるんだ」


『女神の神格化と日本人の勧誘』


 目標だった2つを成し遂げ、日本でも村長としての地盤を確立した。それに加えて、魔王の討伐まで達成してしまったのだ。ここまで来た以上は、危険視するようなことも出てこないと考えている。


「もちろん命を賭けるつもりはないし、非道な行いをする予定もない。少しだけ痛い目に合いつつ、それ以上の快感を得られたら最高。っていう考えなんだが……どうだろう?」


 そろそろ無茶をしてみたり、欲望丸出しのファンタジーを楽しんでもいいんじゃないか。そんな気持ちが芽生えていることを伝えていった。


「全然いいんじゃないか? むしろそれくらいが普通の感覚だろ?」

「私もアリだと思いますよ。リスクのない冒険なんてあり得ませんしね」

「わたしなんか、今までもそんな感じだったよ?」


 まあ予想はしていたけど、冬也と桜は同意の意志を示している。春香もとくに異論はないようだ。「むしろ今ごろ?」みたいな感じだった。


「まあいいんじゃない? はっちゃける村長を見てみたいし?」

「たぶん村長の無茶なんてたかが知れてる。結局口だけで、無謀なことはできなさそう」

「あー、それわかる。なんだかんだ理由をつけて慎重派なオチね」


 と、今度は夏希と秋穂が好き放題に言ってくれた。自分でも思い至る節はあるし、キッパリと否定できないところがつらい。が、総じて否定的な感じでもないようだ。


 ただ唯一、椿だけは何も言わず仕舞いだったよ。目があった瞬間、静かに頷いたかと思えば、少しだけ笑みをこぼした。それを見た私も、なんとなく彼女の気持ちが理解できたんだ。



 結局そのあとも話は盛り上がり、積極的に女神を手伝うことに――。


 今までみたいな傍観者ではなく、自らトラブルに首を突っ込むスタイル。それが正しいのかはわからないが、面白そうなことだけは明白だった。



「んじゃま、大陸統一編、始めちゃいますか!」

「オレも賛成だ。どうせなら村人もゴッソリ引き抜こうぜ!」

「どうせなら全員村人にするべき。王を陰で操る村長、見てみたいかも」


 夏希の号令を合図に、冬也と秋穂が全力で乗っかっている。王様になる気はまったくないが、村人を増やすことには大賛成だ。


「日本人の比率がかなり増えましたし、異世界人とのバランスをとりたいところです」

「なら人族も引き込みたいかな。これで全種族がそろい踏みですよ」

「じゃあほかのみんなも呼んで、さっそく方針を決めよー!」


 今度は椿が、そして桜と春香も前向きに考えているようだ。というか、最後のセリフは私に残してくれないと……。


 気心の知れた面子が、何かを期待する目でこっちを見つめている。たぶん気の利いたひと言を待っているのだろう。



「まあ、どこに行っても俺は村長だ。次はどんな村を作るのか、みんなでじっくり決めていこう!」


 と、そんな締まらない言葉をかけながら、


 新たなステージへと動き出すおっさんたちであった――。




 第2部:日本でも村長編 完



 掲載をはじめてから9か月あまり。

 村長たちの躍進はまだ続きそうですが、ここでひと区切りとさせていただきます。


『大陸統一と村人誘致計画』

『海の外への進出』

『魔石を狙った世界の暗躍、やがて訪れる村長の魔王ムーヴ』


 などなど、面白そうな構想が練れましたら続きをと考えております。



 最後まで読み進めていただきありがとうございました。みなさまの応援に幾度も励まされ、ここまで続けることができました。


 読者さまの貴重な時間を頂いたことに感謝し、今後も励みたいと思います。皆様とまたお会いできることを心待ちにしております。


追記:現在、カクヨムのほうで新作を投稿しております。そのうち小説家になろうにも掲載するかもですが、もしよかったら覗いてくださいませ。



七城(nana_shiro)

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― 新着の感想 ―
[一言] 完結済となってるのを見てドキッとしましたが彼らの冒険は続く様で安心しました。 『魔石を狙った世界の暗躍、やがて訪れる村長の魔王ムーヴ』が面白そうです。 またの再会を楽しみに待ってます。
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