最終話:やっぱ最後はこの面子で
翌日の昼前、最初期のメンバーたちがナナシ村に勢ぞろいする。自宅のリビングに集まってくると、各自が座り慣れた席についていった。
と、誰からともなく会話が始まり――
私も飲み物を配りながら、みんなの話に耳を傾けていく。
「このメンバーだけで集まるのも久しぶりですね」
「たしか日本へ帰還する直前の……あれ以来じゃないです?」
椿と桜、異世界に来て初めて出会ったのがこのふたりだった。最初の出会いが彼女たちでなければ、果たして村人を増やす選択をしたかも怪しいところだ。
「あんとき、何の話をしたんだっけ?」
「えっとね……。日本がファンタジー化してるとか、学生村長が悪さしてるとか、たしかそんな感じの?」
冬也と夏希、ふたりとの出会いは村の初防衛戦がキッカケだった。出会い方こそ最悪だったが、今では欠かせない存在となっている。冬也と夏希のおかげで、村はずいぶんと賑やかになったんだ。
「にしても大陸の統一とか……ほんとに上手くいくのかなー」
「統一自体は可能、でもその後の統治は問題だらけだと思う」
春香と秋穂、ふたりを洞穴で見つけたときは本当に驚かされた。もしこの出会いがなければ、村がここまで大きくなることはなかっただろう。医療の充実や街への進出など、村が飛躍したのはこのふたりのおかげだ。
「んで村長、今日はそれが議題なんだろ?」
「ああ、そのとおりだ。まずはこの面子で話をしたくてな」
話が本題に流れたところで、今後の施策について語ることに――。私も席につき、みんなの顔を見渡しながらゆっくりと説明をはじめる。
「知ってのとおり、もう間もなく女神の神託が下される。国境がなくなり、国同士の戦争はなくなると思っている」
たとえかりそめの平穏だとしても、当分の間は続いていくだろう。少なくとも、私たちが死ぬまでは安泰だと考えている。女神の力が強まった以上、余程のことがない限りは揺るがないはずだ。
「だが今回の件は規模が大きいだろ? もし協力するとなれば、当然、他国とも絡むことになる。今までのような傍観者ではいられない」
「だから女神には協力しない、そういうことか?」
「いや、むしろその逆だ。協力するメリットのほうが大きいと思ってる」
現地人の勧誘はもちろんのこと、いろんな街を見て回ったり、様々な異世界体験が可能となる。なにせこっちには女神がついているのだ。邪険に扱われるとは考えにくい。
「じゃあなにが問題なんだ? 村長の好きにすりゃいいじゃんか」
「ああ、もちろん最後の決断は私が下すよ。でもそのまえに、みんなの心境を聞かせて欲しいんだ」
「あー、このメンバーを集めたのはソレが理由か」
「最近この手の話をしてなかったし、ちょうどいい機会だと思ってな」
現状に対する不満だとか、これからの目標みたいなもの。それを聞いた上で、どこまで関わるかを思案したい。無茶ぶりなのは百も承知で、パッと思いつくことを聞きかせてくれ。そうみんなに伝えていった――。
「んー、わたしは日本を中心に活動したいかなぁ。今の環境には大満足だけど、とことん有名になるのも面白そうじゃない?」
真っ先に口を開いたのは夏希だった。アイドルスキルを利用して、世界中の人を魅了するつもりみたいだ。「結果的には村の印象も良くなるし、一石二鳥でしょ?」なんてことを語っている。
実に彼女らしい考えだし、実際、達成してしまいそうなのが恐ろしいところだ。もちろんいい意味で。
「私も日本で活躍したいかな。ナナーシアの村は、今の規模で収まらないと思うから」
夏希に続いた秋穂は、村の全国展開を視野に入れているようだ。そのための基盤づくりに貢献したいらしい。いずれは世界にも手を出すべき。と、そんな感じのことを力説していた。
「べつに世界征服をしたいんじゃないよ。世界がファンタジー化したときを想定してるだけ」
なるほどたしかに、そうならないとは言い切れない。私たちが知らないだけで、世界でも同じような現象が起きることも――。いや、すでに起きている可能性だってある。
「じゃあ冬也くんも一緒かな? それとも彼女ふたりを置いて異世界に行っちゃう?」
冬也をからかいながら、春香が冬也の腕をつついている。ちなみに自分は目標なんてないし、毎日が楽しければそれでいいと話していたよ。そんなあっさりしているところが実に春香らしい。
「オレはやっぱ冒険がしたいかな。王国とか獣人国を巡ったりして、もっとファンタジーっぽいことをしてみたい。できれば村長も一緒に――」
たしかに、ケーモスの街以外は一度も行ったことがない。私も興味があるし、そろそろ体験してみたいと思っていたところだ。冒険者ギルドに乗り込んで、自称ベテラン冒険者にも絡まれてみたい。
「あ、なら私も一緒に行きたいですね。まだ知らない魔法の技術、もしかしたら魔導書なんかがあったりして?」
「やっぱ桜さんもそう思います? オレも強くなるヒントがあるんじゃないかと――」
過去の賢者が残した文献、王国に隠された秘伝書、そんなものがあるかも知れないと睨んでいるようだ。やはりこのふたり、異世界への憧れがかなり強い。他国への関与にも積極的だった。
「私は今の暮らしに満足しています。毎日がとても充実していますので。これからも運営面で活躍して、皆さんの帰る場所を守りたいですね」
そして最後となった椿。彼女が語りだすと、皆が聖母を見るような目で納得していた。いまや彼女は誰からも頼られる存在だ。私なんかより、よっぽど村長らしいことをしている。
ひとまずここまでの話をまとめてみると、
椿と夏希と秋穂、この3人は日本での活動を見据えているようだ。それに対して、冬也と桜は異世界寄りの思考か。春香はどちらでもないようで、臨機応変に動くと言っていた。
それと女神への協力については、全員、かなり前向きな印象だった。
積極的に関われば、そのぶん世界の動向を把握できるし、不測の事態にも先手を打てる。「あとは村長の意志次第でしょ」というところまで話が纏まっていた。
「もし変だと思ったら、遠慮なく突っ込んで欲しいんだけどさ」
そう前置きをしてから自分の心情を語りはじめる。
「正直な話、そろそろ自由にしてもいいんじゃないか。多少の無茶は許されるんじゃないか。そんなことを思ってるんだ」
『女神の神格化と日本人の勧誘』
目標だった2つを成し遂げ、日本でも村長としての地盤を確立した。それに加えて、魔王の討伐まで達成してしまったのだ。ここまで来た以上は、危険視するようなことも出てこないと考えている。
「もちろん命を賭けるつもりはないし、非道な行いをする予定もない。少しだけ痛い目に合いつつ、それ以上の快感を得られたら最高。っていう考えなんだが……どうだろう?」
そろそろ無茶をしてみたり、欲望丸出しのファンタジーを楽しんでもいいんじゃないか。そんな気持ちが芽生えていることを伝えていった。
「全然いいんじゃないか? むしろそれくらいが普通の感覚だろ?」
「私もアリだと思いますよ。リスクのない冒険なんてあり得ませんしね」
「わたしなんか、今までもそんな感じだったよ?」
まあ予想はしていたけど、冬也と桜は同意の意志を示している。春香もとくに異論はないようだ。「むしろ今ごろ?」みたいな感じだった。
「まあいいんじゃない? はっちゃける村長を見てみたいし?」
「たぶん村長の無茶なんてたかが知れてる。結局口だけで、無謀なことはできなさそう」
「あー、それわかる。なんだかんだ理由をつけて慎重派なオチね」
と、今度は夏希と秋穂が好き放題に言ってくれた。自分でも思い至る節はあるし、キッパリと否定できないところがつらい。が、総じて否定的な感じでもないようだ。
ただ唯一、椿だけは何も言わず仕舞いだったよ。目があった瞬間、静かに頷いたかと思えば、少しだけ笑みをこぼした。それを見た私も、なんとなく彼女の気持ちが理解できたんだ。
結局そのあとも話は盛り上がり、積極的に女神を手伝うことに――。
今までみたいな傍観者ではなく、自らトラブルに首を突っ込むスタイル。それが正しいのかはわからないが、面白そうなことだけは明白だった。
「んじゃま、大陸統一編、始めちゃいますか!」
「オレも賛成だ。どうせなら村人もゴッソリ引き抜こうぜ!」
「どうせなら全員村人にするべき。王を陰で操る村長、見てみたいかも」
夏希の号令を合図に、冬也と秋穂が全力で乗っかっている。王様になる気はまったくないが、村人を増やすことには大賛成だ。
「日本人の比率がかなり増えましたし、異世界人とのバランスをとりたいところです」
「なら人族も引き込みたいかな。これで全種族がそろい踏みですよ」
「じゃあほかのみんなも呼んで、さっそく方針を決めよー!」
今度は椿が、そして桜と春香も前向きに考えているようだ。というか、最後のセリフは私に残してくれないと……。
気心の知れた面子が、何かを期待する目でこっちを見つめている。たぶん気の利いたひと言を待っているのだろう。
「まあ、どこに行っても俺は村長だ。次はどんな村を作るのか、みんなでじっくり決めていこう!」
と、そんな締まらない言葉をかけながら、
新たなステージへと動き出すおっさんたちであった――。
第2部:日本でも村長編 完
掲載をはじめてから9か月あまり。
村長たちの躍進はまだ続きそうですが、ここでひと区切りとさせていただきます。
『大陸統一と村人誘致計画』
『海の外への進出』
『魔石を狙った世界の暗躍、やがて訪れる村長の魔王ムーヴ』
などなど、面白そうな構想が練れましたら続きをと考えております。
最後まで読み進めていただきありがとうございました。みなさまの応援に幾度も励まされ、ここまで続けることができました。
読者さまの貴重な時間を頂いたことに感謝し、今後も励みたいと思います。皆様とまたお会いできることを心待ちにしております。
追記:現在、カクヨムのほうで新作を投稿しております。そのうち小説家になろうにも掲載するかもですが、もしよかったら覗いてくださいませ。
七城(nana_shiro)




