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異世界村長【書籍発売中】  作者: 七城
第2部 『日本でも村長編』
251/252

第251話:平穏な日々

 あれからの7日間、魔王関連の事後処理は滞りなく進んだ。


 世界統一のことはさておくとして、帝国の街は元の状態に戻っている。避難していた人たちも、以前と変わらない暮らしを再開した。


 今日はその話題も交えながら、聖理愛と打ち合わせをしているところだ。ふたりで遅めの朝食をとりつつ、村で他愛もない会話を続けていた。



「――で、村の生活にはもう慣れたか?」

「ええ、あなたとの同棲はとても楽しいわ」

「なるほど、その調子なら大丈夫そうだな」


 あの事件以降、聖理愛と希望はナナシ村に移り住むことになった。いまは自宅で寝泊まりしながら、私たちと共同生活をしている。もちろん椿や桜もいるし、いかがわしい行為にも発展してない。


 被害の後遺症もないようで、いつもの彼女らしい態度に安堵する。それは希望も同じで、今日もダンジョンへと出かけていったよ。


「希望のアレも、この調子で治るといいんだけどな」

「ドラゴさんのことがとても気に入ってるみたい。昨日の夜も楽しそうに話していたわよ」

「そうか、なら期待できそうだ」


 希望は対人恐怖症をなんとかするため、ドラゴの部下として配属している。まずは模擬戦から始めて、少しずつ克服できればと考えているところだった。


 彼女の相手ができるのはドラゴほか数名しかおらず、ふたりともダンジョンが大好物。しかも根っからの戦闘狂とくれば、気が合うのも納得がいくというもの。


「ねえ、私だって頑張ってるわよ?」


 あざとく上目遣いをする聖理愛。さっきの同棲発言もそうだが、村へ来て以来、少しずつ大胆になっていた。


 彼女はたしかに魅力的だ。理知的で素敵な女性だと思っている。それでも恋愛感情は湧いてこないし、むやみに手を出すつもりもなかった。


「ああ、杏子からも聞いてるよ。それに帝国のほうも順調みたいだな」

「ちょっと、スルーするのやめてくれるかしら?」


 そんな彼女は杏子の参謀を務めながら、帝国とのパイプ役を任せている。帝国には彼女を慕うものが多いし、獣人国とのつながりもある。まさにうってつけの存在だ。


 この数日間に、帝国が保護した日本人4万人は日本へ送り返している。死んで無いので記憶は残っているけど、職業やスキルは誰も所持していない。なお日本に戻った後のことは、政樹たち対策室に丸投げだ。


 それともうひとつ。以前からいた日本人10万のうち、半数の5万人が日本への帰還を希望、こちらも一緒に帰還した。その大半は生産職で、戦闘職の者はほとんど残る選択をしている。


 なにせ2年以上も異世界で暮らしているのだ。中にはそんな人生を選ぶヤツもいるだろう。日本のダンジョンが消滅したことも、それを後押ししていた。


『今後、日本へ帰れる保証はない。今回を逃せば帰れないぞ』


 と、残った者に対して忠告したのだが……定住の意思は固かったよ。仮に帰りたくなったとしても、そう簡単に引き受けるつもりはない。便利屋として利用される気は更々ないからね。



 そんな諸々を思い返していると――、


「ねえちょっと、聞いてるの?」

「すまんすまん、なんだっけ」

「……あまり邪険にするなら、また啓ちゃんって呼ぶわよ?」

「おいそれは反則だろ。もうあんな目に合うのはこりごりだぞ……」


 おとといの晩、私の呼び方のことでひと悶着あったばかりだった。


 主人公を奪い合う展開ならマシだったんだが……。40過ぎのおっさんには耐えがたい呼び名の数々を――いや、この話はやめておこう。思い出すだけで恥ずかしくなる。


「ならもう少し大事にして欲しいわ」

「わかった、わかったから! もうあだ名の話はやめてくれ……」

 

 とまあこんな感じで、脱線しまくりの打ち合わせが続いていった――。




◇◇◇


 その日の午後、昼食を済ませた私は久しぶりに日本へと戻った。魔王の出現から数えると、実に16日ぶりの帰還となる。


 ここ最近は魔王関連の対応に追われて、日本のことは任せっきりだった。情報こそ仕入れていたが、自分が何をやっていたのかすら忘れている始末。村で椿と話しているうちに、ようやく記憶が蘇ってきた。


「そういえばコレを撮った直後だったな」


 異世界難民の救助声明、それを再生しながら当時の状況を思い出す。ちなみに動画の再生数は、億単位まで伸びている。


「タイミングが良かったんでしょうね。いまや啓介さんは英雄ですよ」

「アイドルスキルの効果もありそうだな」


 動画投稿から2週間もしないうちに、10万人近い日本人が帰ってきたのだ。実績だけをみれば、当然そういう扱いにもなるだろう。まあ、なかには懐疑的な人もいるけどね。大多数の人からは高評価を受けていたよ。


 異世界に魔王が現れたことも、大勢の日本人が操られたことも、すでに世間では知れ渡っている。その中には著名人もいたりして、連日テレビで取り上げられた。


 それに加えて、最近発表した魔石関連のこと。これもイメージアップに大きく貢献している。魔石の取引価格を引き下げ、安定的な供給を確約したんだ。


「魔石の独占問題、こちらも狙いどおりです。早めに動いて正解でした」

「まったくだ。いい提案をしてくれたよ」

「半値にしても莫大な収益が残りますからね。村の運営には支障ありません。というか、とてもじゃないけど使いきれません」


 ただし、提供するのは国内で消費する分だけ。海外への持ち出しは堅く禁じ、破った場合は一切の流通を取りやめる。と、建前の上では宣言している。

 

 実際問題、海外に流れることはわかりきっている。流出を防ぐ手段はないし、あらさがしをする意味もない。世間にさえバレなければ、あとは自由にしてくれたらいい。


「あと気になるのは、村人募集に関することくらいかな」

「再開の声が日に日に強まっています。けどその予定はない、と?」

「ああ、異世界のことがあるしね。椿も女神から聞いてるだろ」

「大陸の統一化……またひと悶着ありそうな気がしています」

「まあ、女神の方針だから仕方ない。悪い事ばかりでもないしね」


 女神の話を聞く限り、統一自体は実現すると思っている。あの世界における信仰心は、それほどに強固なもの。女神が現世に降臨してしまえば、成功は約束されたも同然だ。


 あとはどの程度関与するか、そこが焦点となってくる。無理のない範囲で立ち回りつつ、見返りをガッツリもらう。そういう立ち位置で協力できればと思っていた。


「みんなの都合が良ければ、明日にでも話し合いたいが……」

「いいですね、メンバーはどうします?」

「んー、べつに全員集めてもいいんだけど……いや、やっぱ初期の面子だけにしとこうか」


 メンバーにこだわりはなかったが、なんとなくそう思ったんだ。


 椿と桜、冬也と夏希、そして春香と秋穂。


 村の基盤を作った先駆者たち、彼ら彼女らの本音が聞きたかったのかもしれない。


「では明日の朝、場所はナナシ村の自宅にしましょう」

「ああ、よろしく頼むよ」





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