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異世界村長【書籍発売中】  作者: 七城
第2部 『日本でも村長編』
249/252

第249話:決着

 食事が一段落したところで、いまだ未解決の問題に触れていく。


 魔王を閉じ込めたとはいえ、このまま放置しておくことはできない。あのまま成長させてしまえば、もう誰にも手出しできなくなる。



「みんなもわかってると思うが――」


 異世界の情報は、ネットなんかで日本中に知れ渡っている。となれば当然、教会の仕組みも知っているはずだ。すでに立ち寄っていると見たほうがいいだろう。


 そして飢え死にするまで放置すれば、職業やスキルを持った状態で日本へ戻ってしまう。そうなれば同じことの繰り返し。ともすれば、今の状況より悪化する可能性すらある。


 自衛隊の基地を乗っ取られたり、村を丸ごと占拠されると相当面倒なことになるだろう。


「じゃあ僕のスキルを使いますか?」


 ひととおりの説明をしたところで勇人が手を挙げて言った。


「いや、勇者の一撃はやめておこう。余計な火種を生むだけだ。ヘタすりゃ私たちが魔王扱いされるぞ?」

「たしかに……被害がデカ過ぎますよね」


 街を覆っている結界を解除、すぐさま『勇者の一撃』を放つ作戦だが……これは同時に街の壊滅を意味している。


 何万という難民を生み、帝国民の恨みを買ってしまう。「街が消えても仕方がないよね。魔王を倒してくれてありがとう!」なんてことになるはずがない。大多数の者たちは納得しないだろう。


 それどころか、不満の矛先を向けてくるのが目に見えている。


「結界を張ったまま、上空からぶっ放す手もあるが……」

「街はよくても、周囲は焼け野原ですよね」


 以前に検証したとき、勇者の一撃は結界に弾かれてしまった。


 通常の魔法ならば、すべて結界が吸収してしまう。だがあまりに威力が高いと……吸収が追い付かずに周囲へと拡散してしまうのだ。もし出力を抑えてなかったら、トンデモない事態になるところだった。


 上空500mからの超距離攻撃、考えられる手段はそれくらいしか思いつかない。ある程度の威力を備え、命中率も高い武器……たとえばライフルみたいな――。


 そう呟いたところで、夏希がとある提案をしてきた。


「ねえ、今こそアレの出番じゃない?」

「ん? アレってどれのことだ?」

「ずっと封印してた卓球セット……」


 最初は何のことかと思ったが、なるほどたしかに威力自体は申し分ない。魔力の込め方次第で距離も伸びそうだ。


「命中率さえ上げれたら、なんとかなりそうじゃない?」

「なるほど……だがどうやって」

「ライフルは無理でも、ボウガン程度なら作れると思うんだよね。日本にいけば構造もわかるしさ」


 それだと反発力が足りない気もするけど……まあそこは工夫次第か。試してみる価値はじゅうぶんにある。


「でも誰が狙うんだ? とてもじゃないけど、当てる自信はないぞ」

「そこが問題なんだよねー」


 なにせ標的は500mも先にあるのだ。ド素人が狙ったところで当たるわけがない。相当な技術、さもなければスキルでもないと――


「あ、うちにひとりいるわ。狙撃の名手が……」


 どうやらほかのみんなも気づいたらしい。政樹のスキルをコピーして、狙撃手は私が担当することになった。


  

 ――と、


 ここまで段取りが整った以上、その後の展開など知れていた。壮絶なラストバトルもなければ、どんでん返しがあるわけでもなかったよ。


 私に言わせれば、そんなものは準備不足の産物だ。自ら隙を作り、窮地を乗り越えるなんて芸当、物語の中だけでじゅうぶんだった。



 結局8日後の朝、魔王は跡形もなく消え去った――。

  

 唯一の見せ場といえば、3日目に魔王と接触したことくらいか。水や食糧を渡しに行ったら、妬みつらみの言葉をたくさんもらったんだ。そのおかげで、わずかに残っていた戸惑いも綺麗さっぱり消えてくれた。




◇◇◇

 

「でもやっぱり、スッキリしませんね」

「まるでこっちが悪者、みたいなことを考えちゃうよねー」

「村へ襲撃に来た人とか、帝国賢者のときもそうでしたけど……。どうしても後味が悪くて」


 村に戻って早々、桜と春香がそんな愚痴をこぼしている。やりきれない思いを感じているのか、食堂にいる面々も、似たような感想を言い合っていた。普段どおりにしているのは、私と冬也くらいなものだ。


「まあ、こればっかりは仕方ないさ」

「たしかにそうなんですけど……」


 相手がどのような人物であれ、こちらの都合で殺めたのは事実。自らのおこないを正当化しつつ、身勝手な後ろめたさを感じる。これくらいが丁度いい折り合いだと思っている。


 以前もそうだし今回の件についても、村への実害を未然に防げたからいいものの――。


『もし聖理愛や希望が殺されていたら?』


『大切な人がなぶり者にされたら?』


 罪悪感なんて悠長なこと、頭の片隅にもよぎらないはず。相手への憎悪だけが残り、復讐心に駆られる日々を送ることだろう。そんな結末を思えば、気持ちが晴れない程度のことは些細な問題でしかない。


「……啓介さんの言うとおりですね。私もふたりが無事でよかったです」

「ああ、ホントそれに尽きるわ」

 

 結果的には上手くいったものの、誰かひとりでも欠けていれば、魔王に対処するのは不可能だった。これもすべては、村人を増やし続けてきた成果だと思っている。


「さて、次は日本人の返還だ。聖理愛と希望にも手伝ってもらうぞ」

「ええ、任せてちょうだい」

「わたしも頑張ります!」





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