第225話:胃薬をください
教会の設置からはや4日、あれからも毎日欠かさず配信をおこなっていた。いい意味でも悪い意味でも、話題性には事欠かない日々だ。
メディアは大々的に取り上げ、テレビをつければ村の話題で溢れかえっている。ネットでは掲示板が荒れに荒れ、至るところで村のスレが乱立した。
さらに政府公認ということもあり、村の情報開示を要求する声が日に日に高まっていた。
当然、否定的な意見も数多く存在する。未知の種族に対する危険性を訴えたり、「異世界資源の独占を許すな」なんて見当違いなことを主張するヤツも現れた。
と、言いたい放題の奴らは放っておくとして……そろそろ次の燃料投下と行きたいところだ。
「――ということで、いよいよ村人の募集条件を公表します」
カメラに向かって啖呵を切る私は、現在リハーサルの真っ最中。となりには樹里と夏希がいて、解説用の資料を広げながらアシスタントをしている。
「はい、1回止めてください。村長、もっとフランクにいきましょうよ」
「樹里、そうは言うけど……さすがに印象悪くない?」
「かもしれないですけど、お堅すぎるのも善し悪しです」
「いやでもなぁ、話す内容が結構エグいしさー」
そもそも今回は炎上を覚悟している。なにせ発表する内容が辛辣だからね。村の規則を聞いた人、その大部分はきっとこう思うはず。
『この村の村長は自分本位の独裁者だ。はぁ? 忠誠度? 村人差別までして、いったい何様のつもりだ!』
と、これは少々言い過ぎかもしれないが……少なくとも、村の生活を知らない外野はそう捉えるだろう。
私だって立場が逆なら、つい疑いの目を向けてしまう。これに加えてタメぐちというのは、火に油が過ぎるのではないか。そう説明してみたんだが……。
「そんなヤツらは無視です。むしろ振るい分けができて好都合ですよ」
「まあ、そうかもしれんが……」
「賛同者は一定数いますから。忠誠度のことも理解を示してます」
樹里の意見はごもっとも、中途半端な気持ちで来られても困る。つい自分を良く見せようと――これじゃダメだ。
「わかった。もう一回、最初から頼む」
「いいですねー、その感じでいきましょう。どん底からスタートすれば、それ以上は下がりませんよ!」
「いや、どん底って……手厳しいね」
そんな発破をかけられながら、リハーサルもひととおり終了。いよいよライブ配信がスタートする。できるだけ自然体を意識しながら、まずは新生ナナーシア村の規則について語っていった。
<ナナーシア村の規則>
・村長と村の安全が最優先。いかなる場合も最終決定権は村長にある
・村が得た収入は共有資産となる。ただし、すべての所有権は村長が持つ
・村を危険に晒した場合は追放処分とする
・独断による敷地外行動はすべて自己責任、村はいっさい関知しない
・スマホやパソコン等、電子機器の持ち込みは原則禁止とする
「これは異世界で採用しているルールと同じものだ。日本でも変える予定はない。やれ独裁者だのディストピアだの、そんなことを言うヤツはご遠慮願うよ。というか……忠誠度が足りなくて、そもそも村人になれない」
いきなりヘイトを貯める私だったが……。都合のいい言葉を並べた挙句、あとから不満がでて忠誠度が下がった、なんてのは御免被る。私の振る舞いについては、実際村に住んでから判断してほしい。
当たり前のことながら、この時点でのコメントは荒れに荒れまくっている。マジマジ見るとメンタルがやられるので、すべて無視することにした。正直、胃が痛くてたまらない。
「じゃあ次に、村人になるための条件について話すよ。あ、これとは別に、政府側の条件もあるからね。そっちの発表も近々あると思う」
<村人の加入条件>
・異世界ファンタジーが大好物な人、異世界人との共存に肯定的な人
・村人になるには忠誠度が50以上必要。村人になっても、忠誠度が50未満になれば自動的に追放される
・忠誠度90以上の者には、異世界との往来を許可する予定がある
「知ってのとおり、村人になれば職業とスキルが授けられる。それぞれ適正にあった仕事をしてもらう予定だ。希望の配属先があれば考慮するので、遠慮なく言って欲しい」
さっきまでとは打って変わり、意欲的なコメントが殺到する。なかでも忠誠度についてと、異世界転移の質問が多いようだ。
まずは忠誠度の解説するため、区分表を画面に表示していく。
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『忠誠度について』
下限は0上限は99
忠誠値は様々な要因により上下変動する
90-99
村長に絶対の心服を置いている状態
70-89
村長にかなり高い信頼を置いている状態
50-69
村長にある程度の信頼を置いている状態
30-49
村長に信頼を置いていない状態
10-29
村長にかなりの不信を持っている状態
0-9
村長に殺意を持っている状態
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「見てのとおり、忠誠度50以上ってのは、私を信用している状態だ。いきなりは難しいだろうけど、今後の配信を通じて判断してほしい。異世界との往来に関しては、村にいるみんなも同じ条件だよ」
区分表を見た視聴者の感想は――
『まあ、無難な選別ラインか』
『異世界への道のりは遠そうだ』
『忠誠度9以下、ヤバ過ぎだろ』
みたいな感じ。それからしばらくの間は、前向きなコメントを拾いながら質問に答えていった。
もっとも多かったのは、「忠誠度を上げる方法」「忠誠度が下がる事例」「過去に追放者がいるのか」の3つだった。もちろんこれらは、建設的な意見を拾い上げた結果だ。相変わらず、文句や不満を漏らす声も多い。
基本的に、余程のことがなければ忠誠度は下がらない。村で生活していれば自然に上がっていく。追放者は過去に3名だけだと答えておいた。
◇◇◇
個別の質問に答えながら、配信もいよいよ終盤を迎える。そろそろ締めに入ろうかというところで、とある件について触れてみた――。
「あーあと、異世界にいる生存者のことを話しておくよ。それ関係の意見も多いみたいだしね」
正直なところ、コメントを拾うのも面倒だった。でも否定的、というか御心配の声があまりにも多かったのだ。さすがにスルーしたまま配信を終了できない。
『異世界に残された人を助けないのか』
『なぜ探さないのか。連れ帰らないのか』
『せめて身元だけでも調べるべきだ』
なんともありがたいことに、人情味あふれるコメントがたくさん寄せられていた。あかの他人を心配し、これまたあかの他人に救助をゆだねる。ありがた過ぎて、思わず「いい迷惑だ」と答えてしまいたくなる。
ちなみに行方不明者の親族には、政府から多額の見舞金が支払われている。それこそ一生安泰だと思える金額が、だ。そういった人からのコメントは、目を通す限りは見当たらない。
「結論から言うと、村人以外を助けるつもりはない。さっき話した『異界の門』は、村人だけが通れるものだ。日本帝国への勧誘も今のところ予定していない。理由は様々だが、村の機密を話すつもりは毛頭ない」
ないない尽くしの言葉責めに、阿鼻叫喚となるコメント欄。それを無視して配信の最後を締めくくる。
「村と私の安全が最優先、この方針は今後も変わりません。村を危険に晒す行為はできないと断言しておきます。――応募してくれる方は、それを承知でお越しください。待ってます」
視聴者の反応は兎も角として、言うべきことはすべて言い切った。反省は大いにあるけど、後悔は微塵もない。
「あとはもう、なるようになってくれ」
そう開き直って、椿のもとへ駆け寄るおっさんだった。




