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異世界村長【書籍発売中】  作者: 七城
第2部 『日本でも村長編』
224/252

第224話:シン入者、現る

 椿の副作用もようやくおさまり、村のみんなと昼食を摂っていた。


 正直なところ、私は少し悶々としていたが……椿のほうはケロッとしている。まるでさっきまでの出来事なんて無かったかのようだ。


 それはそうと、椿と桜の協定はまだ続いているらしい。昼食の最中にもヒソヒソと話し合っていた。まあ、なにを話していたのかは想像するに容易い。


 

 とまあ、そんなこんなで午前中はいろいろあったわけだが――、


『村長、山中で不審者を発見しました』


 昼を過ぎてもそれは変わらないようだ。斥候のレヴから念話が入り、下山してきた不審人物がいることを教えてくれた。


 この場にいるメンバーにも念話を繋いで現状を把握する。


『報告助かる。それで今の状況は?』

『3人組が北の山に、それと東にも単身者が。いずれも魔道具らしきものでこちらを覗いています』


 魔道具……たぶんスマホかカメラのことだろう。レヴの見立てによると、全員日本人の男性で、森に潜んで盗撮をしているとのこと。ひとまず監視を続けてもらい、対策室へ連絡をいれることに――。


「みんな、聞いてのとおりだ。今回は計画通りに放置で頼むよ」

「では、私が椎名さんに連絡を」

「あ、椿。できるだけゆっくり捕まえるよう伝えてくれ」

「わかりました」

「撮影班は現地へ。そうだな……とりあえず3人組のほうにしようか」

「「了解っ!」」


 椿には椎名さん経由で自衛隊の助力を、そして撮影班は不審者のところへ向かわせる。


「よぉし、もうひと稼ぎしちゃいますかー!」

「おい、頼むから程々にな? あまりやり過ぎると印象が悪い」

「うんむ、アイドル夏希にお任せあれ!」


 もうお察しのとおり、今回のミッションは盗撮犯の撮影である。捕まるまでの一部始終を動画に上げようって魂胆だ。再発防止の効果を期待しつつ、動画のネタも提供してもらう。そんな一石二鳥を狙っている。


 むろん、模倣犯が増えるケースもありうる。けど一向に構わなかった。それすら動画にすればいいのだ。ネタが増えるだけで実害はほとんどない。せいぜいドローンが上空を飛び交うくらいで――


「あ、ドラゴ。空からの監視を頼めるか」

「もちろん構わんがの。ヤツらを始末せんでええのか?」

「いやいや、それは前にも言ったろ? 日本では犯罪なんだ。理由はどうあれこちらが裁かれる」

「冗談じゃ、むろん心得ておるよ。理解はできんがの」

「ただし、危険と判断したら遠慮なくやってくれ。責任は私がとる」

「うむ、任されよ」


 颯爽と飛び去るドラゴだったが、まだ納得はしてないようだ。倫理観がまったく違う世界、彼らが適応するには時間が必要なんだろう。かつての私たちがそうだったように。



 それからかれこれ1時間――


 すったもんだあったけど、捕物帳については無事に成功した。


 3人組はお縄ちょうだいの末にBADEND。単独犯については……とある事情で無罪放免となった。私たちは現在、家に戻って編集作業の真っ最中だった。


 そこそこいい絵が撮れてるし、結界の有効性についても確認することができた。毎回この程度で済むのなら、むしろウェルカムなのかも、なんてことを考えてしまう。


 まあ、顔バレ身バレを覚悟して果敢に挑戦してくれたらいい。逮捕のおまけもついてくるけどね。


 と、それはさておくとして――。


 生配信2日目にして、この場所は早くも特定されたわけだ。独り身の私は別としても、ほかのメンバーの家族なんかは駆けつけてくるはず。そのときみんながどう対応するのか、そこだけは少し気になっている。


「ねえ村長、モザイクなしで流しちゃうけど……ほんとにいいの?」

「ん? べつに構わんだろ。夏希がそんなこと気にするなんて珍しいな」

「程ほどにしろって釘を刺されたばっかだし。一応は、ね?」

「なるほど。政樹さんにも確認をとってある。遠慮なく晒していいぞ」

「りょーかいっ」


 彼女は平気な顔をしているけど、家族や友人を見たとき、果たしてどんな決断をするのだろうか。以前は話すのを渋っていたけど、それとなく聞き直してみた。


「あーそれ? わたしは誰とも会わないよ」

「誰ともって……家族ともか?」

「うん。村長が会えって言うなら面会ぐらいはするけどねー。あ、でも絶対村人にはしないでね」

「そうかわかった。覚えておくよ」

「あ、冬也も同じだからよろしくー」


 どういう事情かは聞かないが、夏希も冬也も心に決めているようだ。相変わらず飄々として見えるが、「村人にしないで」ってときだけは語気を強めていた。



◇◇◇


 その日の夕方――、


 例の侵入者動画をアップしたところ、どちらも再生数が伸びまくっていた。とくに単独犯のコメント欄はお祭り騒ぎと化している。


 実はこの人物、登録者数400万人超えの有名配信者だったのだ。普段はキャンプ動画を中心に活動しており、何を隠そう私もファンのひとりである。キャンプを始めたのも彼の動画がキッカケだった。


「ナナーシアさま、本当にご存じなかったんですか?」

「ええ、神界にいたら急に上映会が始まって――。周りの方は知っていたようですけどね」

「なるほど、まさかあの人が来るとは思いもよらず……めちゃくちゃ緊張しましたよ」


 そんな有名人の彼だったが、実はただの人間ではない。その正体、というか中の人は日本の神様である。


 さらに言えば、教会での件を女神に吹き込んだ張本人でもあった。以前、女神に聞いたときも驚いたが、まさか実物に会えるとは思いもしていなかった。


 ちなみに今日は、『女神の村でキャンプしてみた』という企画で訪れたらしい。結局、結界の中には入れなかったし、最後は自衛隊に見つかって逃げていったんだけどね。


 女神も知らなかったようだけど、神界では大々的に告知されていたんだと。結果的にキャンプは失敗に終わるも……この村の注目度は増し、女神の知名度は大きく向上したみたいだ。


 日本の神々には好評だったらしく、「誰が最初に侵入できるか」を競い始めたらしい。ナナーシアさま本人もずいぶんと乗り気だった。

 

「――というわけでして。今後も神入者の出没が予想されます。あ、忖度は絶対にダメですよ! 全力で応戦してください!」

「……それは神々のご指示で?」

「はい、リアルを追求したいそうです」

「神罰のたぐいは? ペナルティーは?」

「一切ありません。この件に関してはすべてが赦されます」


(なんだか面倒なことになってきた。《《神は気まぐれ》》って言葉もあるし……いろいろ気をつけないとな)


「いえいえ、そんな悪いことばかりじゃないですよ?」

「あ、そうでした。聞こえてるんでしたね……」

「神のお気に入りになれば加護だってもらえます。夏希ちゃんみたいに」

「おお、日本の神からも加護が……って、夏希みたいに?」


 なんで夏希が出てくるのか。聞き間違いかと思って問い正したが、やっぱり彼女のことだった。


「日本にいるでしょ? 芸能の女神さま」

「芸能の女神って……たしか岩戸で踊ったとかなんとかの? あ、なるほど、アイドルのスキルだったのはそういう――」


 どうやら夏希のヤツ、まさしく天賦の才を授かったらしい。本人にも伝えてみると、さすがに驚いていたよ。まあそれも一瞬のことで、すぐにいつもの調子に戻っていたけどね。


 ナナーシアさまに駆け寄り、「神界への召喚はいつですか!」と嬉しそうに聞いていた。


『現代ファンタジーの主役は彼女なのかもしれない』


 と、そんなことを感じるおっさんであった。




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