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異世界村長【書籍発売中】  作者: 七城
第2部 『日本でも村長編』
216/252

第216話:学生村長との面会


 空の旅を続けること数時間――


 人生初となる軍用ヘリの試乗は、思っていた以上に快適だった。ドラゴにぶら下がっての移動とは安心感が違う。「床があるって素敵だな」と、しみじみ思ったよ……。


 移動の途中、「おい、このヘリはどこに向かってるんだ!?」とか、「予定の方向と違うじゃないか!」みたいな展開もなく――無事に現地へと到着した。


 そもそもどこを飛んでいるのか、今現在の場所はどこなのか、素人の私たちには良くわからない。某有名なタワーをみたとき、ここが関東であることをやっと認識できたくらいだ。


 と、まあそんな感じで――駐屯地に着陸すると、そのまま天幕の中に案内された。やはり市販のモノと違ってかなり大きい。天井も高いし、生地も丈夫そうな感じだった。


「天幕のサイズはいかがです? ご要望通りにしたつもりですが……」

「はい、これならじゅうぶんです。ありがとうございます」

「なら良かった。――では私は一度、彼のところへ行ってきます」

「政樹さん、よろしくお願いします」


 ここから2分も歩けば、学生村長の自宅があるらしい。さっき上空からも確認したけど、彼の家周辺を囲うように自衛隊が包囲している。前情報のとおり、結界は薄い水色であまり目立っていなかった。



 政樹さんが去ったあと、すぐに天幕内を結界で囲う。


 続けて転移陣も設置、これで緊急時の離脱も可能となった。今後どうなるかはわからないけど……学生村長や自衛隊と敵対した場合、拠点としても利用できるだろう。


「なあ、そういえば村長ってさ――」

「ん? どうした冬也」

「もっと派手に暴れてやろうとか、日本でのし上がってやろうとか……考えたことないの?」


 政樹さんを待ってる間、冬也が唐突にそんなことを聞いてくる。


 言ってる意味は分かるけど……なぜ今のタイミングで、どうしてそんな質問をしてくるのか。それを疑問に思ったので聞き返してみる。


「なんでそんなことを思ったんだ?」

「いやだってさ。実際問題、村長の力なら可能だろ? 政府なんかに頼らなくても、日本征服ぐらいならできそうだしさ」

「ん-、それはどうだろうな」

「結界はあるし、自身の能力だって――それこそやりたい放題じゃん?」


 政府との繋がりを嫌ってるんだろうか。それとも能力を抑制する行為に不満があるのか。


「冬也はもっと暴れたいのか?」

「いや、ただ単純に思っただけ。異世界でもそうだったけど、よくそんなに自制できるもんだなぁと」


 なるほど、私が我慢してるんじゃないかと考えているようだ。


「正直に言うと……思ったことはある、それこそ何度もな」

「たとえば?」

「最初に椿たちと会ったとき、ケーモスの街へ行ったとき。――あ、それと日本に帰って来たときもか」

「じゃあ、どうしてやらなかった?」

「いやぁ、それはどうしてだろうな。自分でも良くわからないけど――」


 改めて考えてみても、明確な答えは思いつかない。日本人特有の倫理観なのか……面倒事に巻き込まれたくなかったのか……それともただのヘタレだったのか……。いや、どれも正解だけど違う気がしている。


「ああ、もしかすると――()()()()()()()()()()()、かもな」

「ん? 嫌われたくない?」

「他人にいい恰好をしたい。良い人に思われたい。もっと慕われたい。そんな俗物的なもんだと思う」


 常に余裕ぶった態度をとり、気の合う味方だけにチヤホヤされる。そんなどうしようもない理由が歯止めとなっていた……のだと思う。


「これは言いわけになるけどさ。信用の証として、忠誠度が見えちゃうだろ? アレもあって余計に意識してたところはあるよ」

「なるほど……承認欲求の成果が数値化されますもんね」


 勇人が言ったとおり、数値で見える以上はどうしても意識してしまう。実際、忠誠度が上がると嬉しかったしね。


「冬也、まあそんな感じだ。別に悪いとは微塵も思ってないけどな」

「そっか……でもなんか普通っぽくて安心した」

「なんせ、元はただのおっさんだしな」

「なんだよそれ。今だっておっさんだろ?」

「ああ、違いない」


 これが答えになったのかはわからない。ただ、胸のつかえが取れたような……そんな悪くない気分だった。



◇◇◇


 しばらく天幕の中で待機していると、席を外していた政樹さんが戻ってきた。どうやら面談の準備が整ったらしい。向こうは自分の結界から出る気はないようで、こちらが現地まで出向くことになった。


 室長を筆頭にして、数名の護衛に囲まれながら歩く。冬也と勇人もそうだが、私も丸腰のままだ。とはいえ万能袋を渡してあるので、何かあればすぐに取り出せる。


 全員、結界のネックレスは装備済み、霊薬も複数所持している。不意の攻撃さえ防げれば、後のことはなんとでもなるはずだ。勇人も近くにいるので、毒系統の状態異常も無効化できる。


「着きました。ここが彼の自宅です」


 そんなことを考えているうちに、相手の自宅近くまで到着した。目の前に結界はあるが……目を凝らさないと視認できない。もちろん、不用意に触るなんて愚かな真似はしていない。


 室長はスマホを取り出すと、慣れた手つきで指を動かす。たぶん学生村長にメッセージを入れてるんだろう。いまどきと言えばそれまでだが……なんとなく違和感を感じつつ、その場に待機する。


(いきなり姿を見せないってことはアレか? 相手も警戒心が強いってことでいいのか? それともただ面倒くさ……いや、先入観はなしだ。直接会って確かめよう)


 それから数分もしないうちに、3人の女性が姿を見せる。ひとりは人族、残りのふたりは……犬人と猫人の獣人族だった。


 獣人族のふたりは奴隷のようで、首に隷属の首輪をつけている。レベルはかなり高いが、誰もスキルを所有していなかった。もちろん職業欄もない状態だ。


「初めまして、私は啓介といいます」

「わたしはアイラ、人族よ。政樹が言ってた村長ってのは……あなたでいいのかしら?」

「はい、私が村長です」

「……そう、わかったわ。いま啓吾(けいご)を呼びに行かせるから少し待って」


 人族の子が目くばせすると、奴隷のふたりはすぐに戻っていく。おそらく、当の本人を呼びに行ったのだろう。ついでに人数や武装状態、見た目なんかを確認しに来たんだと思う。


『全員スキルなし、レベルは40前後だ』

『40……結構高いですね』

『村長、あの獣人は奴隷なのか?』

『ああ、なぜかそうみたいだ。結界の中にいるし、たぶん村人だとは思うけど……まだよくわからん』

『さっき啓吾って言ってたけど……まさか親戚とかじゃないよな?』

『全然知らん、名前が似てるのは偶然だろう』


 それからしばらくして、冬也くらいの歳の子が玄関から出てきた。


 その立ち姿は堂々として見える。かといってイキがっているような印象は受けない。もちろん親戚ではないし、初めて見る顔だった。


 まだ警戒をしているのだろうか。玄関前からこちらの様子を眺めたまま立ち尽くしている。真意のほどは不明ながらも、私にとっては好都合だ。


 すぐに鑑定をして能力を確認する。


 

(おっ、やっぱり彼も村長なんだな。でも中身はかなり違うぞ……)


 職業は『村長』でスキルは『村Lv4』。しかしながら、その能力については全く違う内容だった。


 そして啓吾くん――


 村のネーミングセンスがないこともわかってしまった。




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