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異世界村長【書籍発売中】  作者: 七城
第2部 『日本でも村長編』
213/252

第213話:おれ、仕事やめちゃおうかな


 すでに2時間は経っただろうか。異世界談議はとめどなく続いた。


「いやぁ、同年代の方とここまで熱く語ったのは久々ですよ」

「私も同志ができて嬉しいです。それで政樹さん、本題なんですが――」


 椿がお茶のおかわりを出したところで、無理やり話を切り替える。



 日本での村人誘致、魔石の専売、そして村の自治権のことなど、昨日みんなと決めたことから伝えていく。どこまで呑んでくれるかは未知数。決裁にも時間がかかるだろうし、ゆっくりと待つことにしたのだが――。


「なるほどよくわかりました。ご提示の件についてはすべて承諾します」

「え? そんな簡単に決めちゃダメでしょ」


 まさかの即答に思わず素の口調が漏れる。


「なにかご不満が……?」

「いや、不満はないですけど。しかし室長の決定権って……」

「ああ、そのことならご心配なく」


 続く室長の話を聞いて、概ねの流れが理解できた。


 どうやら大臣クラスの中にも同志が潜んでいるらしい。そのやんごとなき方は、誰でも名前を知っている有名な政治家だった。


 政樹さんが室長を務める部署は、その方が主導して設立される。異世界帰還者の動画がアップされてすぐに動いたらしい。

 かなり早い段階で成立して、自分が室長に任命されたと言っている。なお、政樹さんとの関係性は極秘事項なんだと。


 対策室の設立にあたっては、ほぼすべての決定権を委ねられた。どうしても判断しかねる場合のみ、直通でお伺いを立てることになっているそうだ。


「あ、そうなんですね。いずれにせよ、許可して頂けるならありがたい」

「実はその方も、あなたが特別な存在だと睨んでいます。ああ、もちろんいい意味でですよ」


 政府内の裏事情はどうあれ、これは大きな前進である。とくに村の自治権を確保できたのはデカい。異世界人を連れてくる日も、かなり前倒しできそうだ。



 こちらの要望が通ったところで、ほかに気になっている件についても聞いてみることに。まずは学生村長の現状などを、言える範囲で教えてもらう。


 政樹さんの話によれば、現在、彼の自宅周辺は自衛隊により『保護』されている。まあ、実際のところは『隔離』ってことなんだろうが……とくにかく24時間体制で監視している状態。


 そして自宅周辺の結界は、家を中心にして半径20m程度の小規模なものだと判明。彼自身の弁によれば、拡張も縮小もできないらしい。


 これが事実なのか、それともブラフなのかは未だにわからない。ちなみに結界の色は薄い水色で、目を凝らさないと判別できないほど目立たないようだ。


「なるほど……今はそんな状況なんですか」

「彼はほとんど外に出てきません。かと言って、こちらに非協力的、というわけでもありません」

「日本に戻ってから結構経つのに、思いのほか静観してるんですね」

「ええ、普段のやり取りはほとんどコレで」


 そう言いながらスマホを見せる室長。見たこともない通話アプリで、連絡を取り合っているようだ。これはおそらく、政府が独自開発したものだと思われる。


「政樹さん、もし可能ならば――」

「はい、なんでしょう」

「その彼と面会してみたいのですが……」


 政府とも交流しているのなら、私とも会話程度はしてくれると思う。それに話を聞いている限りは大人しそうだし、割とまともな人物なのかもしれない。


 もちろん裏で暗躍していたり、女神と通じている可能性もあるが……直接会ってみるのが一番手っ取り早い。視界に入れば鑑定ができるし、スキルの詳細もわかる。


「そうおっしゃると思い、すでに打診をしております。まあ、彼が了承するかはわかりませんけどね」

「そうでしたか、それはありがたい」



◇◇◇


 学生村長との件を依頼したあと、昼食を挟んで再び話し合いを始める。


 政樹さんたち3人はコンビニ弁当持参だったが、せっかくなのでナナシ村の手料理を振舞っておいた。


「では次に、最近できたダンジョンについて教えてもらえますか?」

「それは政府の運用方針、ということでしょうか」

「はい、その辺りのことも含めて詳しく――」


 現時点で発見されたダンジョンは5つ。東北、関東、中部、近畿、そして北海道に点在している。どの地方でも、わりと人目に付きやすい場所にあると言うが――。


「あれ? でも東北地方にあるダンジョンって、たしか山間部ですよね」

「あれはゴルフ場です。18番グリーンのど真ん中に突然現れました」

「なるほど、それは確かに目立ちますね」


 そして運用については概ね想像どおりだった。自衛隊による隔離対策と入場規制、現在は魔石資源の調達と階層調査に取り掛かっている。ある程度把握したところで、一般開放も予定されているようだ。


 異世界帰りの冒険者たちが大活躍しており、こちらもかなりの優遇措置が取られている。今のところ大きなトラブルはなく、好き勝手に暴れるヤツは……やっぱり少なからずいるらしい。


「大きなトラブルがないのって……やはりそういうことですよね?」

「それについてはお答えしかねます。大きな問題は発生していません」


(あー、これは確実にやってるな。ダンジョンの中なら好都合だし、いくらなんでも銃弾は避けれないよね)


 大きな問題が起こる前に、ダンジョン内で処理しているのだろう。口にこそ出さなかったが、政樹は最後まで否定しなかった。


 そのあと、ダンジョンを放置し過ぎると魔物が溢れることを伝える。


 情報の出どころが神様だと言ったら……3人ともすんなりと信じた。というか、目を輝かしながら喰いつき、またも話が脱線していく――。



 ようやく女神関連の説明がおわり、この日最後の議題に移る。その内容は、この村唯一のアクセスルートに、検問所を設置してもらうこと。


 周囲の山から来る侵入者はべつとして、平地を通ってくる一般人や、マスコミなんかを堰き止めて欲しいのだ。当然、私たちも隔離されるわけだが……転移陣を使えばどうとでもなる。


 検問所を置けば、村人を募集した際の受付所としても活用できる。まずは政府が希望者を登録、身元の照会を済ませたあと、おかしなヤツじゃなければ村で忠誠度を確認。こんな感じの二段構えにしたい。


 いきなりトンデモない人数が押し寄せ――なんて可能性もあるだろう。そういった意味も込め、検問所の設置をお願いした次第である。


「なるほど、よくわかりました。そういうことでしたら、この2名を常駐させたいと思います」


 連れてきた部下を見つめる政樹は、「本当は私も一緒に……」と、悔し気な態度を隠しもしなかった。


 快活そうな椎名(しいな)さんと、おっとり目の柚乃(ゆずの)さんは、めちゃくちゃ喜んでおり、思わず政樹さんに抱き着いている。そして政樹のおっさんは、今日一番のだらしない顔を露わにしていた。


(この人、最初のイメージとはだいぶ違ってきたな。秋穂の言ってた警戒も必要だけど、そこはかとなく親近感があるわ)



◇◇◇


 今日予定していた話も済み、ついでに3人が村人になれるかを試すことになった。


 これまでの流れからして、確信めいたものはあったんだ。その予感は見事に的中しており、3人とも忠誠度50を優に超えていた。


 互いの立場もあるので今すぐ村人に――とはいかないが、頃合いを見ながら村に来てもらうつもりだ。さすがに政府関係者を内部に入れると、不和を生み出す原因になりそうだからね。


「まいったな……。できることなら今すぐ村人になりたいです。おれ、仕事辞めちゃおうかな? と、真剣に考えています」

「室長! この際ですから、3人揃って辞めちゃいましょうよ! 柚乃もそれがいいと思わない?」

「とても魅力的な提案だと思う。都合良くみんな独身だし、迷う必要はないよ。だって夢にまで見た異世界へ行けるんだもん」


 3人と共に暮らす日も遠くないだろうな。と、2日にわたる対談がようやく終わりを告げる。



「ではみなさん、またお会いしましょう」

「啓介さん、今日は人生で最高の一日でした。また近いうちに!」

「私たちもまたお邪魔します!」

「早く異世界人に会ってみたい……」


 帰り際、車から持ってきたジュラルミンケースを渡され、札束の山を見たときは驚いた。今後の活動費として提供されたのだが、今回は丁重にお断りしておく。


 その代わり、ゴブリンの魔石を5千個ほど売ることにしたよ。だって現金は必要だからね。


 なんだかんだあったけど、これが今日一番の収穫だったのかもしれない。


(あ、鑑定バイトの件を聞くの忘れてた……)




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