第212話:3人の精鋭部隊
「――って感じでさ。村長、めちゃくちゃ恰好よかったんだよ。オレなんか、ずっとドキドキしっぱなしでさ」
「それは僕も思ったよ。あの室長さん、全部見透かしてる感じだったし……よくあんな平然と――」
室長たちが帰った後、すぐにみんなを集めて、事の経緯を説明した。
冬也たちはああ言ってるけど、私自身、半分以上は流されるままに話していた。政府の要人相手に上手くいったほうだと思うが……これは椿の加護による補正だろう。
「なんにしても、政府の対応が思ったよりマトモですね。私、もっと高圧的なのかと思ってました」
「外で待機中の人も穏やかでしたよね。普通にスマホを弄り出したのには笑ってしまいましたが」
話しの最中、別室にいた椿と桜も、外の連中を監視していたらしい。「緊迫した雰囲気はいっさい感じられなかった」と、口を揃えている。
「でも、だからこそ怪しい」
「秋ちゃん……?」
「実際ずっと監視してたし、私たちのことも調べ尽くしてる。とくに不思議なのは、魔石のことと、異世界を行き来できること。これって、現状だと知りようがないよね」
「でも、それは学生村長から……」
「かもしれない。けど、信用するには早いと思う。どっちにしろ、明確な線引きは必要不可欠」
なるほど、たしかに秋穂の意見はもっともだ。こっちはただの素人集団、政府を相手に立ち回れるはずもない。たとえ武力を誇示したところで、いずれは限界がくるだろう。
まあ最悪、日本で活動できなくても構わない。異世界に引きこもればいいだけだ。女神に恩は返したいが、命を賭してまでするつもりはない。
結局この件については、「やれるところまでやる。ダメならさよなら」という結論に至った。
「んじゃ、次は明日の予定についてだ。まずは私の考えを話すから、問題があれば意見を頼む」
そう宣言して、政府への要望や取引についての持論を述べていった。長くなりそうなので、ひとまず表にまとめながら進めていく。
1.国民への村人勧誘を認可してもらう
なんと言っても、まずはコレだろう。そもそも許可が必要なのか、って話だけど……日本で活動する以上、国のお墨付きをもらっておきたい。
2.魔石の取引は政府だけとおこなう
現行の制度に則り、民間他社には一切流さない。わざわざ取り上げる案でもないけど、一応宣言だけはしておく。国内にいる海外勢へのけん制にもなる、と思う。
3.村の自治権を認可してもらう
配信についてだけでなく、村の存在自体を政府公認としてもらう。一部を除いて日本の法律を遵守するが、政府機関の直接介入は受けつけない。将来的には、結界内を異世界特区にできれば最高だ。
4.海外からの要請には一切応じない
さっきもチラッと話したが、海外からの強い要望――政治的圧力が必ずあるはず。そういうのはすべて日本政府を通してもらう。
とはいえこの問題はどう転ぶかわからない。日本の結界が消えたあとは、恐ろしい事態になるやもしれん。――が、いくら考えても答えなんて出ないので、そのときまで棚上げとする。
と、いろいろと穴もありそうだが……それはそれでいいんじゃなかろうか。
そもそも国を相手に、一介のおっさん程度が太刀打ちできるわけがないのだ。武力で解決するのは可能かもしれないが、そんなことをしたところで何も解決しない。敵だけが増え続けておしまいだ。
「だいたいこんな感じなんだが……どう思う?」
「すべて通るかはべつとして、内容自体はいいんじゃない? 結界が消えたあとのことは気になるけど」
そう答えた春香に続いて、ほかの面子も一様に頷いている。なかには「ちょっと条件盛り過ぎ」って声もあったけどね。最終的には「言うだけならタダだし」ってことで話がまとまった。
『気の合う仲間をできるだけ増やそう』
『日本のサブカルをGETしまくろう』
『手に負えなくなったら逃げよう』
とても陳腐で無責任な内容だけど……欲望に忠実で明瞭な方針だとも言える、んだと思う……たぶん。
◇◇◇
翌日の午前9時、約束どおりの時間に、昨日の車が到着する。ただ、今日は1台だけのようで、車に乗っていたのも3人だけだった。
(室長の政樹さんと……2人は新顔だな)
2人とも女性で、歳もかなり若い。鑑定結果に異常はないので、そこまで警戒する必要はないだろう。
それとなぜだかわからないが……3人とも、ずいぶんとラフな格好をしていた。というか、ものすごい薄着だった。冬も真っただ中だと言うのに……風邪をひきそうですごく気になる。
「啓介さん、おはようございます」
「「おはようございます」」
3人はそう言いながら、おもむろに両手を挙げる。いわゆるバンザイのポーズだった。なんのつもりだろうか……その場で静止して動こうとしない。表情も至って真面目な感じだった。
「お、はようございます?」
危うく私も真似しようとしたが、寸でのところで思いとどまる。
「どうぞ、入念に確認を」
「「お願いします」」
なるほど……どうやらボディチェックを要求しているようだ。危なく朝から大恥をかくところだった。
(しかし、これってセクハラになるのだろうか。まさかこのために女性職員を……くっ、これがハニートラップというやつか)
なんて馬鹿なことを考えつつも、遠慮なく確認させてもらった。むろん私ではなく、椿と桜にお任せしている。
「政樹さん、次からは普通の対応で。服装についても厚着で構いません」
「失礼しました。監視の件もありましたし、万全の体制をと思いまして」
開幕の先制攻撃を喰らいつつ、昨日と同じ部屋に案内したあと、軽く雑談を交わしていく。
「ところで、そちらのおふたりは……初めまして、ですよね?」
「はい。今回は私を含め、選りすぐりを揃えてきました」
「選りすぐり……私も含め……?」
なんだろうか。私の好みに合わせて――って、そんなわけがない。たしかに女性陣は素敵だが、おっさんは専門外だ。
「実はわたくしども、無類のファンタジー好きなんですっ。大抵のことなら受け入れられると自負しています!」
「そ、そうですね。なんか政樹さん、昨日と全然印象が……」
「昨日は部下もおりましたので。だからこその人選です、精鋭です!」
「いや、そのふたりも部下なんじゃ……」
政樹の隣にいるふたりも、ウンウンと頷いている。
しかしなるほど、選りすぐりとはそういう意味だったのか。40過ぎたおっさんが、語気を強めて前のめりになっている。思わぬ同志の登場に、つい好感度が上がっていた。
(待てよ、これもトラップの可能性が……)
あまりの変貌ぶりに警戒してしまうが、その後も異世界談議が延々と続いていった――。
結論として、この男は本物……むしろ俺より上だということが判明する。そして女性ふたりも、精鋭の名に恥じぬ語り草だった。
(おいおい、ぜんぜん終わる気配がないんだけど……いや、俺もすごく楽しいけどさ。いい加減、本題に移ってくれ……)




