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異世界村長【書籍発売中】  作者: 七城
第2部 『日本でも村長編』
206/252

第206話:初投稿の成果


 集団転移の話がひと区切りついたところで、主題が『日本への帰還』に移行する。死に戻りの条件をはじめ、村人になれば生きたまま帰れることも説明していった――。


 のだが、聖理愛自身は戻るつもりがないようだ。日本が正常に戻ったとしても、こっちにいるほうがよほど安全だと話していた。


 政府に囲われるか、それとも海外に連れ去られるか。いずれにせよロクな目に合わない。いくらスキルを持っていようが、大軍には敵わないし、捕らえる方法なんていくらでもあると言っていた。


「唯一安全なのは、あなたのところだけね。当然、向こうでも村を作るんでしょ?」

「ああ、まだ準備中だけどな」

「仮に日本へ行くとしても、村人になれたらの話になるわ。じゃないとリスクがあり過ぎるもの」

「聖理愛も希望も忠誠度は足りてるんだ。状況を見つつだけど、村人になってもいいんだぞ?」

「そうね、じっくり考えておくわ」

「ああ、期待せずに待ってるよ。――ところで、獣人国との関係は進展したのか?」


 以前、「すべての元凶は隆之介にあり」ってのは聞いたが……これについては順調に世論が動いていた。獣人議会を中心として驚くほど浸透しているようだ。


 そもそも隆之介自身、獣人たちからの支持は薄かった。日本商会の横暴により、職を失った人や移住をした人も数多くいるのだ。

 そうでなくとも被害を被った人は数知れない。国民感情、とくにケーモス住民の恨みはとても強かった。


 それに加えて帝国も次の一手を打っている。


 なんと、北に作った街を、まるごと獣人国へ譲るらしい。規模的にはケーモスと同じくらいなので、追放された住民、そのすべてが移住可能だ。


「ケーモスを占拠したことへの賠償、か」

「これですべてが赦されるとは思わないけど。すでに獣人議会との折り合いもつけているわ」

「それに加えて、食糧とか魔道具も格安販売するんだろ?」

「ええ、落としどころとしては悪くないでしょ?」

「隆之介のせいでごめんなさい。私たちも精いっぱいのことはします、ってことだな。――たしかに悪くない」


 譲渡する街に住んでいる帝国民は、首都であるこの街と、西の街にも移住できる状態。今後はさらに拡張を進めて、日本人の集団転移に備えると説明していた。



 その後もしばらく雑談が続き――そろそろ帰ろうかと考えているとき、聖理愛がおもむろにこんなことを言い出した。


「あ、ちょうどいい機会だし、椿さんとふたりでお話してみたいんだけど……もう少し時間あるかしら?」

「椿とか? べつに時間はあるけど――」


 いきなりどうしたんだと思いながらも、椿のほうを見て返答を待つ。


「それはいいですね。一度じっくり話してみたいと思っていたんです」

「あ、そうなの? なら私は構わないよ。気の済むまで語ってくれ」


 念のため、天幕のある場所から様子を見ていたが……とくに怪しい動きはない。何度かふたりを鑑定しても、ステータスに異常はなかった。


 結局、30分ほど話していただろうか。なぜだかわからんが、椿も聖理愛もスッキリした表情で別れを告げていた。


 帰り際、椿にそれとなく聞いても、話の内容は教えてくれずじまい。ただ、村の大事に関わることではないらしい。


(ふたりに共通の話題なんてあったか? ――いや、あれこれ詮索するのはやめよう。どうせ大したことじゃないだろ、たぶん)




◇◇◇


 ナナシアに戻った後、昼食を挟んで再び日本へ移動する。夏希たち動画班は朝一から出張っていたらしく、到着するなり騒ぎ立てていた。


 だいたいの察しはついていたけど、やはり原因は3日前に投稿した動画のことだった。初日こそ再生数はイマイチだったが、昨日の昼あたりから爆発的な伸びを見せはじめた。


 現在の時点で、2つの動画ともに500万再生をゆうに突破している。こうして眺めている今も、カウントが目まぐるしく増加している状態だ。


「ねえねえ! 500万だよ、500万っ。初投稿でこれは伝説だよ!」

「いやー、マジでパないっす! こんなことならオレも映っとけばなぁ……。一躍有名人の仲間入りだったのに!」


 興奮気味の夏希に続き、武士もそんなことを言って盛り上がっている。有名になるのは構わんが、そのぶんリスクも増えるんだけどな。まあ、それをいま言うのは無粋というものだろう。


「ああ、マジで凄いな。私もここまでとは思わなかったよ。樹里もおつかれさま」

「すでに異世界ブームの下地はありましたからね。今回は、ほかのファンタジー関連に便乗したカタチです」

「あれ、樹里はずいぶん冷ややかだな」

「もちろん嬉しいですよ。ただ、ふたりの盛り上がり方が凄すぎて……」

「あー、それは納得。でも実際、客観的な評価としてはどうなの?」

「動画が短めなので、何度も見返してる人が多いんでしょう。それでも、これは大成功の部類ですよ」


 まったく無名のチャンネルが、たった3日でこんなに再生されるとは……世間の異世界ブームはかなりのものなんだろう。


 動画の内容を考えたら、一度広がってしまえばバズる自信はあったようだ。すでに動画についてのスレッドも立っていて、掲示板では様々な考察がされていた。


 それと、気になっていた獣人たちの会話シーンなのだが――。


 これについては普通に日本語として聞こえていた。「日本がファンタジー化したから自動翻訳されている」という意見が多くを占めている。実際どうなのかは知らないけど、聞こえているならとくに問題ない。

 

「ほかにはどんなコメントが多かったんだ?」

「そうですね……。やはり獣人のクオリティについてでしょうか。偽物だって意見もありますけど、ほとんどの人は信じてます」

「たしか、学生村長のところにも獣人がいたはずだ。その映像もあるから受入れやすいんだろう」

「あー、そういえばそんなコメントも結構ありましたね」


 私もチラッと確認したけど、遠目に見えた映像には獣人らしき姿が映っていた。肝心の本人は確認できなかったが……そのうち身バレして晒されそうな気がしている。


 あ、身バレと言えば自分たちもだった。この動画をアップした時点で、自宅の場所はある程度割れてしまうだろう。IPだかなんだかよく知らないが、有識者が本気を出せばあるいは? そうでなくとも、そろそろ何らかの接触はありそうだ。


 すでに爺ちゃんの村へ転移陣を置いてある。捕まる心配はしてないけど、ネット回線や電力供給を絶たれると厄介だ。


(まあ、その時はそのときか)


 樹里曰く、今度は『女神ナナーシア』というタイトルで動画を作成するようだ。当の女神は神界から帰ってこないけど……まあ、慌てずゆっくり進めてくれたらいい。



 初投稿の成功を祝ったところで、このまえ出現したダンジョンの情報収集に取り掛かる。


 公園付近は完全封鎖。自衛隊が駐屯地の構築をしている映像を確認する。それとほかに1箇所、東北地方の山中にもダンジョンが現れたらしい。こちらも同じく政府の管理下に置かれており、近々調査を開始するようだ。


 もしダンジョンが攻略された場合、地上にオークが湧くのだろうか。そこだけが気がかりだった。


(女神さまなら、あるいは知ってるかもしれんが……)


「もちろん知ってますよ!」

「うっわ、びっくりした!」


 急に背後から大きな声が掛かる。全く気配を感じないせいで、思わず心臓が飛び出しそうになる。


「啓介さんに呼ばれたので、わたくし一時帰国して参りましたよ」

「そんなことよりナナーシアさま、今の絶対わざとですよね……」


 以前もこんなことがあったけど……今回は女神の間じゃないのだ。本当に死んじゃうからマジでやめてほしい。



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