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異世界村長【書籍発売中】  作者: 七城
第2部 『日本でも村長編』
203/252

第203話:異世界を撮る。男のロマンも、ある。


 その翌日――


 まだ早朝にもかかわらず、各自が配信の準備に取り掛かっていた。


 チャンネル開設なんかは、すべて樹里たちにお任せ。自宅の居間を配信部屋にして、自由に使ってもらう予定だ。


 無名の新人が動画投稿をしても、いきなり再生数は稼げないと思う。村人誘致を目指すにしても、まずは知名度を上げることが先決だ。

 とにかく目立つ映像、目新しい情報を発信するため、夏希の作った企画書に沿って動画の撮影を開始する。


 初回投稿の目玉は2つ。


 ひとつ目はダンジョン産の魔物だ。これについては、ミノタウロスやオークとの戦闘シーンを撮るつもり。巨大牛に関しては、最後にチラ見せするだけにして、次回に持ち越す作戦らしい。


 情報の小出しは悪手にもなり得るが……日本には存在しないミノやオークだけでも、じゅうぶん迫力のある映像が期待できると思う。


 そしてもうひとつは、女神の街ナナシアの生活風景を流すこと。とくに獣人たちをメインに撮影したい。見世物にするようで申し訳ないが、趣旨をしっかり説明した上で協力してもらう予定だ。



「――ってわけでさ。獣人のみんなにも協力してほしいんだ。もちろん強制じゃないから、無理強いをすることはないよ」

「ふむ。そういうことなら、儂はぜひ協力させて貰おうかの。魔物との闘いとなれば、竜人をおいて適任者はおらんじゃろ?」

「いやまて、蛇人を忘れてもらっては困る。もちろん我らも協力するぞ」


 朝の集会で協力者を募ると、率先して立候補する者がふたり。言わずもがな、竜人のドラゴと蛇人のネイルだ。


 女神への信仰が厚いふたりは、すでに朝から完全武装、やる気満々のご様子だった。たしかに最強種のふたりなら、さぞ迫力のあるシーンが撮れることだろう。


 だが……これだけでは足りない。おっさんだけではダメなのだ。視聴者のニーズを鑑みれば、女性陣の参戦は必須条件と言っても過言ではない。


「おっさんだけのむさくるしい絵はNG」と、夏希の書いた企画書にも注意書きがされている。


「なるほど……夏希嬢の意見もよくわかる。そういうことなら、妻と娘を参戦させようかの」

「そりゃ助かるよ。ぜひ協力を仰ぎたい」


 ほかにも、兎人のロアや魚人のマリアも参加してくれることなった。


 今回、私たち日本人は、顔バレ防止のため後方支援に徹する。『異世界で俺TUEEE』は魅力的に見える一方、シラける恐れも大いにあるからだ。そのあたりの映像は、次回以降、徐々に出していく。


 街での生活風景については、ナナシアの住民みんなが快く応じてくれた。なにも変なことを強要するわけじゃない。普段通りの生活を撮らせてもらうだけだと説明してある。


 夏希の企画書によれば「お風呂回を必ず撮れ」と、赤字で指示してあるが……どうするかは最後に決めようと思う。いきなりチャンネルBANされても困るし、不適切なコンテンツとなれば収益化も不可能になってしまう。


(風呂場の撮影は女性陣に頼むしかないな。俺が撮ったら忠誠度が下がりそうだ……)



◇◇◇


 戦闘シーンを冬也たちに任せ、私と椿は街の撮影を開始する。今日はドラゴの息子も一緒だ。


「ドルト、ダンジョンのほうに回せなくてすまんな。どうしても空からの絵が欲しくてさ」

「村長の役に立てるなら問題ないよ!」

「助かる。それと注文をつけて悪いが、もう少し静かに飛んでくれ。手元がブレるし、ここだけの話……ちょっと怖い」


 ドルトに吊るされながら、さっそく街の全貌を撮っていく。上空からの俯瞰視点をオープニングに使うらしい。


 こうして見ると、ナナシアの街はかなり大きいことがわかる。街全体を覆う結界も、薄っすらとドーム状に見えている。日本にある幻想結界とよく似ているので、話題性としてはかなり有効な絵面だと思う。


「あっ、村長あそこ見て!」

「なんてことだ……これは非常にまずいぞ。現代日本なら逮捕案件だ」


 ドルトの向けた視線の先には――男の夢とロマンが詰まっていた。予期せぬカタチで露天風呂が一望できてしまったのだ。早朝だけあってか、利用者は少ないが……数名の男女が、生まれたままの姿でくつろいでいる。


「アレ全部、その動く絵に残しておけるんだよね? しかもいつでも、何度でも見れちゃうんでしょ?」

「ああそうだ。いつでも何度でも……って違う。これはすぐに消すぞ」


 危うくトンデモない誘導尋問に引っかかるところだった。


「え、なにそれ? こんな遠くにいるのに……まるで目の前にいるみたいだよ」

「これはズーム機能という――じゃなくて! もう少し静かに飛んでくれ! ホバリングのせいで指が当たって……」


 そんな苦しい言いわけをしていると――


 地上で待機している椿の視線が突き刺さった。ナニを映してるかは、わからないはずなのに……ジト目で冷たい視線を送っていた。

 

「ドルト、一旦地上に戻るぞ。緊急事態だ」

「うん? 良くわからないけど……りょうかいっ、急いで戻るね!」

「あっ待て、まだ録画の消去が終わっ――」


 静止を振り払うかのように急降下するドルト。無事に椿のもとへ着陸するが……消去は間に合わなかったようだ。


 ――――


 上空からの映像を撮り直したあとは、産業施設の作業風景を撮影していく。ベリトアの鍛冶屋にはじまり、ルドルグの建築現場、村の農園なんかを次々におさめていった。


 そのほかにも、領主館や学校、訓練風景なんかも押さえつつ……一応、ほんとに念のためとして、大浴場の映像も記録していった。


 もちろん私が撮ったのは男風呂だけだ。女風呂のほうは椿に丸投げしてあるし、録画の確認も許されていない。



 昼を過ぎ、撮影もひと段落したところで、一度日本に転移。撮ってきたデータを渡して夏希に状況報告をおこなう。


「村長おつかれー、何か問題はあった?」

「問題? そんなのあるわけないだろう。極めて順調な撮影だったよ」

「えー、なんか怪しいなぁ」

「そんなことより、そっちの準備は進んでるのか?」

「うん、こっちはバッチリだよ!」


 すでにチャンネル開設は終わっているようで、樹里と武士はさっそく編集作業に取り掛かっている。そんなふたりの後方では、腕組み仁王立ちの夏希が、監督のような雰囲気を醸し出していた。


 常に誰かが喋っていて、会話が途切れることはまったくない。もはや用済みとなった私は、リビングでひとり寛ぐことに――。


(アレが夏希にバレると厄介だ。だが録画は消したと思うし、椿が言いふらすとも考えにくい。よし、問題ない。今日はなにもなかったんだ)


 ――その後、例の動画が残っていたのか。あのとき録音された会話がバレたかどうかは……言及しない方向で進めたい。



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