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異世界村長【書籍発売中】  作者: 七城
第2部 『日本でも村長編』
198/252

第198話:こいつ、誰だっけ?

 翌日、朝の目覚めはすこぶる快調だった。


「おはよう桜、朝食の用意はできてるよ」

「啓介さんおはよう、早いですね」

「もう慣れちゃったよ。異世界での習慣が染みついてるよね」

「私は、体力の回復が早いなって……いろんな意味で実感できたかな」

「あー、それな。昨日は色々あったしなー」

「そういうことじゃないんだけど?」

「いや、わかってるけどさ」


 と、まあこんな感じで、お互い妙に意識し合ったり、ギクシャクするようなこともなかった。



 朝食を手早く済ませ、さっそく関連サイトを漁っていると――偶然、とある動画が目に留まる。


 動画のタイトルは『異世界の結界村』


 一応もうひとりの村長って可能性も……。いや、内容を見る限り、まず間違いなくナナシ村のことだ。動画の投稿者は顔出し配信をしており、どこか見覚えのある男だった。


「なあ、桜。コイツ……どっかで見たことないか?」

「んー、どうかな。そう言われるとたしかにあるような気も……」

「誰だったかな。異世界で知り合ったヤツなのは間違いないけど」


 記憶の片隅には残ってる。けど、それが誰なのかまでは特定できない。


「あっ、思い出した! この人、冬也くんたちと一緒に来た人ですよ!」

「おお、次の日に追放されたヤツかっ」

「ですです。でも、異世界の記憶があるってことは……あのあと、街までたどり着けたんですね」


 あのとき自動追放されたのは3人。少なくとも、そのうちのひとりが生き残っていたらしい。自力でケーモスまでたどり着いたことにも驚いたが、投稿された動画にはもっと驚かされることになる。


 ナナシ村の存在はもちろん、結界のことや自宅のこと。そして……あのとき始末したヤツらのことも語っていたのだ。

 せめてもの救いだったのは、起きた出来事を正確に伝えていること、そして歪曲なく話していることだろうか。


 動画のコメント欄には、清濁あわせた内容が綴られている。賛否の比率は半々くらいで、村を擁護する意見も思いのほか多かった。だが……殺ったことに変わりはない。なかには辛辣な意見も多く寄せられている。


「これは、今後の活動に支障がでるかもしれないな」

「そうでしょうか。別世界のことですし、案外平気なのでは?」

「さすがにそれは甘いだろ。否定的な意見もたくさん出てくるよ」


 動画の再生数はかなりのもんだし、今後もナナシ村の噂は広がっていくだろう。純粋に嫌悪を示す者もいれば、面白がって囃し立てるヤツも大勢いるはずだ。


「じゃあ、日本での勧誘は中止ですか?」

「いや、それとこれとは話が別だ。どうせ異世界に連れていけば、命のやり取りは否が応でも発生する。それを割り切れる人じゃないと、どのみち後が続かないよ」

「なるほど。言い方はアレですけど……事前の選別が必要ですね」


(いずれにせよ、これはあのとき放置した俺のせいだな)


 今さら嘆いても仕方がないので、桜の言葉に頷いてほかの情報にも目を通していった。



◇◇◇


 粗方のことを調べおわり、昼過ぎには異世界へと戻ることに。万能袋のなかに日本製品を収納していく。


 向こうへ持っていけるとは思わないが……ダメで元々、何事も検証は必要だ。両手にも荷物を持ち、異界の門をくぐった――。

 


「ふぅ、ひとまず無事に戻ってこれたな」

「戻ってきた、という表現もおかしなものですけどね」

「でもなんか知らんけど、こっちのほうが落ち着くんだよな」

「あー、それはなんとなく共感できます」


 椿たちに念話を入れると、すぐに自宅へと集まってきた。居残り組のみんなも今日は街にいたらしい。もちろん女神さまも一緒だ。


 一番最初に姿を見せたのは冬也。心配する素振りも見せないが……たぶん、内心ではホッとしてるんだろう。


 なお、手荷物や万能袋の中身についてだが――異世界から持ち出した魔石なんかは入っていたが、残念ながら日本で購入したものは何ひとつ持ってこれなかった。


 入手できるかはさておき、銃火器を取り寄せて異世界無双、なんてのは無理っぽい。だがせめて、食品や家電なんかを持ってこれたら……いや、この件に関しては諦めるほかなさそうだ。


「みんな、ただいま。いま帰ったよ」

「村長、なんか普通に戻って来たな? てっきり事件に巻き込まれると思ってたのに……ちょっと拍子抜けしたぞ」


 冬也のヤツ、口では強がっているが……その表情はニッコニコである。


「まあ、な。それよりみんな聞いてくれ。向こうでも現代ファンタジーが始まってたわ」

「お、魔物は? ゴブリンはいたのか?」

「ああ、結構な頻度で見つけたよ。でもな……様子がおかしいんだ」

「おかしいって……なにがだよ?」

「そのあたりのことは――桜、頼むよ。きっと私が説明するよりわかりやすいだろうし」

「では、まず日本の現状とこれまでの経緯から説明しますね」



 村にいる日本人メンバーを全員集めたところで、日本の現状説明が始まる。『転移者の死に戻り現象』『魔物の出現』『幻想結界の存在』など、現代ファンタジーの話をすると全員が驚いていた。


「――と、まあこんなところです。日本が崩壊してるとか、悲惨な状況にはなってません。至って平和な感じでした」

「桜さん、オレたちも早く行ってみたいんですけど……すぐには無理そうですか?」

「ぜんぜん大丈夫だと思うよ。ただ、こっちでの役割もあるからね。長期で行くなら引継ぎはしっかりしておかないと」

「なるほど……わかりました。早めに準備しておきます」


 冬也の話を皮切りにして、日本人メンバーによる質問タイムが始まる。忙しそうな桜を横目に、私は女神さまに問いかけていた。


「ナナーシアさま、今のうちに聞いておきたいことが――」

「はい、私にわかることならなんでも」

「魔物と結界についてなんですが、これってやっぱり太陽と月の女神が関係してますよね?」

「……そうですね。恐らくは――」


 魔物の出現については、ふたりの女神が日本へ来たことが影響している。思念体とはいえ、女神が無理やり顕現したことで、魔物が具現化したらしい。

 

 そして幻想結界のほうは、日本で発生した一連の事象、それを封じ込めるための措置だった。


 結界を張ったのは誰なのかは不明だが……。女神の上位存在、はたまた地球の神々なのかもしれない。ナナーシアさまが地球に行けば、あるいは何かわかるかも、と付け加えていた。


「啓介さん、こっちの話は終わりました」

「桜、助かったよ」


 どうやら質問タイムは終了したようだ。みんなからは、私の行動指針についてを聞かれたらしい。


 日本がファンタジー世界になった以上、まずはしっかり拠点を作ること。そして生活基盤を固めること。この2つが先決だと話しておく。いずれにせよ、慌てる必要はないと伝えた。


「あとさ、ここにいる全員に言っておくことがある」


 そう、これだけは宣言しておかなければならない。


「希望者は日本に戻って、好きにしてくれて構わない。ただし、全て自己責任だ。村を危険に晒した者は容赦なく追放する」


 忠誠度が90以上ないと念話が通じないこと。居場所がわからず、助けにも行けないこと。手に入れた力で無双するもよし、お金を稼ぐもよしだが……捕まっても自分で対処しろと釘を刺した。


「地球で勧誘する日本人には、忠誠度50以上の制限を設けるつもりだ。さらに、忠誠度が90以上になった者しか異世界へ招待しない」


 そもそも現状、日本で勧誘した人を異世界に連れていけないのだ。一度でも異世界へ行ったことがあれば別だけどね。

 異界の門を能力強化すれば可能だが……それを行う時期は当分先になると思う。最低でも、日本での生活環境を確保してからになる。


 あと気になるのは、もうひとりの村長だ。便宜上『学生村長』と呼ぶが、その学生村長の動向を見つつ、今後の方針を決めると説明した。


 ちなみにこれは全然関係ないんだけど……。浴槽の改修工事と大型天幕を注文しといたよ。どちらも1週間後の予定だ。


 そのタイミングに合わせ、女神さまをお連れしようと考えている。





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― 新着の感想 ―
[気になる点] あれ?椿さんとはもう、そういう関係になってたっけ? さすがに一番最初の女性はずっと村長の為に頑張ってた椿さんに報われて欲しかったんだけど。
[良い点] おや,昨晩はお楽しみだったのですね?
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