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異世界村長【書籍発売中】  作者: 七城
第2部 『日本でも村長編』
196/252

第196話:爺ちゃん、あんた何者なんだ?

 爺ちゃんと啓太のふたりに対し、鑑定スキルの所持者であることを打ち明ける。身内を勝手に探るのはどうかと思い、先に伝えてから試すことにしたのだ。


 爺ちゃんの得体が知れないこともあり、正直、ちょっとだけビビっている。まあなんにせよ、勝手に鑑定したのを見透かされて嫌われたくはない。


「ってわけでさ。鑑定できることは秘密にしといてくれると助かるよ」

「おじさん、鑑定までやれちゃうのかぁ。村スキルとか女神特典もそうだけど……やっぱり完全にチート無双だよね?」

「チートなのは自覚してるけど、無双ってのは怪しいな。戦闘経験はあまりないし、技量の面ではかなり怪しいぞ」

「まぁそうかもしれないけどさー。それでもじゅうぶん羨ましいよ」



 結局のところ、啓太は自らの鑑定を望んだ。一応、爺さんも頷いてくれたので、早速ふたりのステータスを見てみることに――。


 啓太のほうは至って普通、レベルは3で職業やスキルはなし。結果を本人に伝えたら、ガッツポーズで喜んでいた。


 それより気になるのは爺さんのほうだ。レベルは1で、こちらも同じく職業もスキルもないんだが――。


 ステータスに変な空欄があったり、所どころ文字化けしていたり、いろいろとおかしな面が多い。結局のところ、基本情報以外はほとんど判別できない状態だった。


(上位鑑定でも見抜けないなんて……やっぱ爺さん、只者じゃないな)


 それを正直に伝えてみたのだが、爺さんの反応はずいぶんと素っ気ない。表情ひとつ変えずに「そうか」の一言だけ。

 答える気がないのか、それとも知らないだけなのか。真相は不明だけど、やぶへびになりそうなので言及するのは控えておいた。



 そのあと、日本における魔物の取扱いや、世間の対応について聞き取りをすると――。


 やはり一部では魔物狩りが流行っていて、レベルアップによる力の差が現れている。甥っ子の学校でも、スクールカーストが逆転してたりするらしい。


 それまで目立たなかったクラスメイトが、いまでは頂点に君臨してたりと――ものすごくリアルな成り上がり話を聞かせてくれた。



「さて、と。日本の現状も知れたことだし、そろそろ本題に入りたい」

「おじさん。それって、さっき話してた村人のこと?」

「ああ、今日はこの村の人たちを勧誘しに来たんだ。村人になれば結界で安全確保できるからな」

「職業とスキルがもらえるのも魅力的だよね」

「そうだな。それになにより、啓太も異世界へ行ってみたいだろ?」

「そりゃもちろんだよ! ……でも、なぁ」


 と、嬉しそうな顔をしている半面、歯切れの悪い語尾で爺ちゃんの顔色をうかがう啓太。


(なんだろ? 爺ちゃんに遠慮でもしてるのか?)


 啓太に視線を向けられた爺さんが、神妙な面持ちで返答をしてくる。


「啓介。誘ってくれるのは嬉しいが、儂らは異世界にはいけん。むろん、村人とやらにもなれん」

「え? いや、でもさ……今後、魔物が暴走することだってあるし、一緒にいたほうが安全じゃない?」

「儂らは大丈夫だ。たとえそうなっても対処できる。というかアレだ。この村がそんな状況に陥ることはないから心配しなくてもいい」


 てっきり誘いにのってくれると思ったのだが……爺ちゃんは即答で断ってきた。しかも、異世界に《《行かない》》じゃなくて《《行けない》》と言っている。


「ねえ爺ちゃん、もちろん無理にとは言わないけどさ。なにか行けない理由でもあったりするの?」

「悪いが詳しいことは《《まだ》》話せん。だが……そうだな。1週間後にまた来てくれ。ある程度のことは説明する」


 この感じだと、爺ちゃんも異世界がらみで何かある、もしくは過去にあったのかもしれない。「異世界を知ったお前なら察しろ」と付け加えていた。


 ちなみに甥の啓太は、すでに事情を知らされているっぽい。口をモゴモゴさせながら、俺と爺ちゃんの顔を行ったり来たりしていた。


「わかったよ爺ちゃん。でも……せめてこの村の一部に結界を張らせてほしいんだ。またすぐ来れるように転移陣を置きたい」

「ああ、それなら一向に構わん。適当な場所にいくらでも置けばいい」


 村人にならないと言うなら仕方がない。ひとまず近くの森に結界を張り、転移陣を設置することに決まった。ここなら誰も来ないし、見つかることはないと思う。


 そのあと爺ちゃんは、俺が小さい頃の思い出話なんかを桜に語った。終始、和気藹々という感じで和やかな時間を過ごしていた。


 このあとホームセンターに寄ることを伝えると、車検に出しておいた車を返してくれた。預かってくれたことに感謝しつつ、村の人たちに挨拶をしてからその場を去った。


 


◇◇◇


 爺ちゃんの村をあとにして――


 久しぶりのドライブを楽しみながら、来た道を戻りつつ車を走らせた。


(助手席に女性を乗せたのなんて何年ぶりだろうか)


 なんてことを思いながらも、若干、ハンドルを持つ手に力が入る。



 自宅を通り過ぎてから、さらに30分くらい走ったところで、繁華街へと到着する。ここも至って平和そのもの、魔物に荒らされた痕跡は一切なかった。


 目的のホームセンターへ到着すると、さっそくお目当てのキャンプコーナーへと直行する。


 一番大きなサイズのタープやテント、ブルーシートなどを購入。これなら魔法陣や貯蔵庫をなんとか隠せると思う。とはいえ、魔法陣が光るときだけはどうしようもないが……。


「よし、お目当てのモノは手に入れたな」

「はい。あとは店内を回りながら、必要な品を揃えておきたいです」

「そうだな。商品の流通とかも確認しつつ見て回ろうか」


 大型のカートを引きながら、日用品コーナーなどを見て回る。


「それにしても、周りが日本人だらけなのも久しぶりですよね」

「ああ。1年ちょっと前までは、この光景が当たり前だったんだよな」

「転移当初は、まさか日本に戻れるだなんて思ってもみませんでした」

「今にして思えば、異世界での生活も悪くないけどな」

「ええ、それは私も同じですよ」


 その後も店内を隈なく回ってみるが――思いのほか品揃えは悪くない。


 幻想結界の存在により、海外からの輸入は止まっているはず……なのだが、食糧や日常品が不足している気配はなかった。大量に買い込む人たちも見かけたが、在庫がなくなるほどではない。


 店内を回っている途中、桜から、大豆類とか油類なんかは品薄だと聞く。食糧自給率については詳しくないが、中には当然、輸入に頼っていた品種もあるだろう。


 一番驚いたのは、大猪や大兎の肉が普通に売られていることだ。しかもかなりの人気商品みたいで、お値段もそこそこ高い。


 成分検査とか安全性の確認とか、日本はめちゃくちゃ厳しいはずなんだけど……。まあ、俺たちも普通に食べてるし、こっちでの扱いがどうだろうが構わない。この状況から見ても、日本は至って平和なことがよくわかる。


 ちなみに、魔物対策の特設コーナーなるものが設置してあったんだ。手に持てる長さの鉄パイプ、携帯用の警報ベル、ベニヤ板と薄鉄板で作った盾っぽいヤツの見本が置かれていた。


「凄いですね。しかも全部売り切れとは……」

「ああ、かなり高額なのにこの売れ行きか。思ってる以上に魔物狩りが流行ってるのかもしれないな」

「ナナシ村産の武器とか、きっと飛ぶように売れますよ!」


 魔鉄の剣とか、いくらで売れますかね? なんてことを言いながら、桜の目が¥マークになっている気がした。


「でもアレ、銃刀法で捕まるんじゃないか? 知らんけど」

「例の冒険者制度に伴って、そのへんの事情も緩和されるそうですよ」

「現代社会に剣を持つ冒険者か……いや、魔物がいるならあり得るよな」

「まさに現代ファンタジー的な?」


 結局、飲料水や日持ちする食品、野菜の種なんかを追加購入したところで、財布の中身が空っぽになった。


 キャッシュコーナーで預金が下ろせるかを試したら、普通にできた。民法上どうなのかは知らないが、まだ死亡者扱いではないらしい。ほかの転移者もたくさん戻ってきてるし……まあそんなもんかと思っておく。


(こりゃあ、銀行に行って現金化しとかないとダメだな。カードだと足がつくし……って、ここで利用しちゃったし今さらか)


 ひとまず上限まで下ろしてからホームセンターをあとにする。


「桜、ちょっと早いけど、繁華街で夕飯でも食べよう」

「はい。あ、ついでに女性ものの衣類を買ってもいいですか?」

「もちろんだ。好きなだけ買ってくれ」


 繁華街に向かって運転しながら、「まるでデートみたいだな」なんて少し浮かれ気分のおっさんであった。


 こういうときは得てして、何かが起こる予兆だとも知らずに……。




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― 新着の感想 ―
[良い点] こうなると主人公が村長に選ばれたのも理由があるのかな
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