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異世界村長【書籍発売中】  作者: 七城
第2部 『日本でも村長編』
195/252

第195話:久々の再会

啓太けいた、ひさしぶり。元気してたか?」

「声はたしかにおじさん……でもその見た目はどうしたの? なんか、めちゃくちゃ若くなってるんだけど」

「ああ、これはアレだ。いわゆる異世界チートってヤツだ」

「っ! じゃあやっぱり、おじさんも異世界に行ってたんだね! そうじゃないかと思ってたけど――」


 啓太は俺が若返ったことにずいぶん驚いていたが……異世界帰りということは把握していたらしい。


 ある日、俺の家から風呂釜が消えたこと。1年経ったころに家電が突然無くなったこと。そのときPCがついていて、俺のステータス画面が表示されていたことが理由だと教えてくれた。


 ちなみに俺が失踪して以降、自宅の掃除やら庭の手入れなんかを定期的にしてくれていた。ときおり家の中で変な音がしたり、物の場所が勝手に移動していたりと、心霊現象みたいなことも起こっていたんだと。


「なあ、そのあたりのことも含めて、爺さんも交えて話したいんだが……爺ちゃん、まだ生きてるよな?」 

「うん、相変わらず元気にしてるよ。――爺ちゃーん! 啓介おじさんが帰って来たよー!」

「啓太、ひとまず家に上がっていいか? 今日は連れもいるから紹介したいんだよ。異世界でのことも話したいしな」


 と、桜のほうを一瞥してから家へお邪魔することにした。


「はじめまして啓太くん。私、桜っていいます。異世界では啓介さんと一緒に暮らしていました。よろしくお願いします」

「……あ、ご挨拶が遅れてすみません。甥の啓太です。どうぞ桜さんもあがって下さい」

「ご丁寧にどうも。お邪魔しますね」


 どうやら爺さんは居間にいるらしい。俺の声も聞こえてると思うんだけど……出迎えてくれる気はないようだ。ちょっと寂しい気もするけど、昔から肝の据わった人だったし、まあこんなもんか。


 そんなことを思っていると、啓太がコソコソと耳打ちしてくる。


「ね、ねえおじさん。あのお姉さんて、もしかして恋人なの? まさか他にも……異世界ハーレムしちゃってるとか、ないよね?」

「恋人じゃないしハーレムでもない。今でこそ安定してるけど、最初の頃は結構大変だったんだぞ?」

「じゃあ他に女性関係はないんだね? それを神に誓って言い切れる?」


 啓太はよほど興味があるのか、俺の恋愛事情をしきりに問いただしてくる。


「いや……どうだろうな。誓う対象は神というか女神さまだが……少なくとも不誠実な行動はしてない、はずだ」

「そんな若い体を手に入れといて、すごく怪しいけど……。まあ、とにかくまた会えて嬉しいよ。お帰り、おじさん」

「ああ、ただいま。啓太も元気そうで安心したよ」


(異世界無双の話とかチート能力を聞く前に、いの一番で女性関係を聞いてくるとはな。そういうお年頃になったってことか? 知らんけど)


 ふたりでヒソヒソ話をしながら居間へと向かう。すぐ後ろでは、桜が「全部聞こえてますよ」と口パクをしている。若干、顔がニヤついているのが怖いけど、見なかったことにしてスルーを決め込んだ。



 そうこうしてるうちに居間へと到着。ふすまを開けて中に入ると――、座椅子にドシリと鎮座する爺さんの姿が映る。眉ひとつ動かさずに、無表情のまま俺を見つめている。


「爺ちゃんただいま、ひさしぶりだね」

「啓介、向こうでも元気にしていたようだな」

「やっぱ全然驚かないんだな。爺ちゃんも元気そうでなによりだよ」

「啓太からいろいろ聞いてたからな。生きてるならそれでいい」


 前に会ったのは2年ほど前になるだろうか。相変わらず見た目が若い……いや、若すぎる。さすがに40代とは言わないが……50代後半と言われても受け入れてしまうほどだ。

 とても90歳には見えないし、俺が子どもの頃とほとんど変化がないようにも思える。


「ひとまず座って寛ぐといい。――んで啓介、隣の娘さんはおまえの嫁さんか?」

「この人は藤堂桜さん、異世界で知り合ってね。それから一緒に暮らしていたんだ。とても頼れる素敵な女性だよ」


 咄嗟のことにどう説明していいか判らず、思いのままを口にする。


「はじめまして、藤堂桜です。残念ながらお付き合いはしていませんが、啓介さんのことは良きパートナーだと思っています」

「ほお……そうかそうか、なるほど。桜さん、儂は祖父の啓蔵です。啓介のこと、よろしく頼みます」

「はい、お任せください。……あっ、あとひとり、椿さんという方とふたりでサポートしてるんですよ。今度紹介にあがりますね」

「ほほぉ、なるほどなるほど。お待ちしてますと伝えてください」


 何を思っているのだろうか。ご満悦の表情で会話を交わすふたり。隣にいる啓太は、肘でグイグイ突いてくるし……。だからハーレムじゃないっての。


 そんな感じで賑やかな会話が続いていき、俺も今日までの出来事を説明していった。


 異世界に家ごと飛ばされたこと。桜や椿、ほかの日本人や現地の人たちと村を作ったこと。なんだかんだあって、女神さまを降臨させて戻ってきたこと。


 どれもこれも突拍子のない話だが、うちの爺さんは平然とした態度で聞いている。普通なら、異世界というだけで怪しむものだが……話すことすべてを受け入れていた。


 疑っている気配はまったく感じなかった。村にある蔵のことや見た目のこともそうだけど、この爺さんにはまだ秘密がありそうな気がする。


 一方、甥っ子の反応は抜群だった。異世界ファンタジー好きだけあって、身を乗り出すように質問攻めをしてくる。そのたびに、桜が誇張気味の注釈を入れるもんだから……結局、ひと区切りつくのに2時間以上かかってしまう。



「――さて、異世界の話はこれくらいにして、こっちのことも教えてくれないかな。ネットでは調べたけど、生の声を聞いておきたいんだ」


 名残惜しそうな啓太をなだめて、日本の話題に移っていく。


 爺さんの口ぶりでは、仕事も学校も、世間の日常は以前と変わりなく回っているらしい。むろん、魔物や魔石関連のせいで激変したこともあるが、普段の生活にはほとんど支障ないと言っている。


 魔物による被害は農作物に集中しているようで、街中ではせいぜいゴミ漁り程度だと知る。この村の被害も聞いたんだけど、魔物は近寄ってこないし、農作物は一度も荒らされてないようだ。


「山から下りてきて、村の近くまでは出てくるがな。こっちの姿を見ると逃げていくし、襲われたこともない。だが――」


 どうやら、魔物に手を出して返り討ちにあった人が何人もいるみたいだ。さすがに死人は出ていないが、大けがを負ったヤツが結構な数いるらしい。


 それに対する世間の反応は様々で、「やはり魔物は危険だ」「一般人が手を出すべきではない」「行政による排除を徹底しろ」などの否定意見と、「怪我は自業自得だろ」「魔石は新たな資源、積極的に魔物を狩るべき」「自分から手を出して返り討ちとか(笑)」という意見もある。


「爺ちゃん、でもアレでしょ? 役場が魔石の買取をしてるんだよね」

「ああ、それなら啓太が詳しいぞ。なにせ、もう何匹も狩ってるからな」


 爺さんはそう言いながら啓太に説明をうながした。


「えっとね。魔物の種類問わず、魔石が1つ2千円だね。素材はもう少し安いかな」

「2千円か……なんか微妙な値段だな」

「そう? 数をこなせばいい収入になるし、レベルアップもついてくるんだから悪くないと思うよ?」

「そんなもんか? てかおまえ、人型のゴブリンとかよく倒せたな。俺も最初は相当きつかったぞ」

「あー、ね。オレがやってるのは兎だけなんだ。さすがにゴブリンは無理、忌避感が半端ないよ。やっぱ小説みたいにはいかないよね」


(なるほど、その気持ちは良くわかる。いくら死体が消えるとはいえ、最初の1体目が一番の難関だよな)


 初めてゴブリンを倒したときのことを思い出す。あのとき、椿だけはケロッとしてたけど……俺と桜は精神的にやられた気がする。


「そういえば啓太、いまレベルアップって言ったよな?」

「うん、それがどうしたの?」

「日本にも、レベルとかステータスを知る術があるのかなと思ってさ」


 レベルがあがる、なんてサラッと言っていたが……鑑定の魔道具でも開発されたのだろうか。


「あー、ないよ。でも、魔物を倒すと身体能力が向上するのは間違いないんだ。実体験してるしね。それに一応、レベルの存在も公表されてるよ」

「帰還者の中には、鑑定スキルを持ってるヤツもいるのか?」

「いるらしいね。でも政府のお抱え状態だから一般人には関係ないね」

「なるほど……やっぱ囲われてるよなぁ」

 

 現状、率先して魔物を狩る人はそれほど多くないようだ。


 銃刀法は変わらず施行されているので、携帯する武器も限られてくる。バットやバールは黙認されているが、街なかや人通りの多い場所で所持してると、普通に通報されるらしい。


 田舎や町はずれの場所以外では、世紀末みたいな恰好の人は見かけないと言っている。逆を言えば、田舎はヒャッハーで溢れている可能性もあるわけだ。そう考えるとちょっと怖い。


「爺ちゃん、啓太。ふたりのことを信用して話すんだが……実は俺、鑑定スキルを持ってるんだ」

「おじさん、それマジ?」

「だからさ。今からちょっと鑑定してみてもいいかな?」


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