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異世界村長【書籍発売中】  作者: 七城
第2部 『日本でも村長編』
193/252

第193話:幻想結界(ファンタジーゾーン)

 今から3か月ほど前――


 より正確に言うと115日前になるが、もうひとりの村長と異世界人の存在が世間に知れ渡った。


 彼の自宅周辺は、自衛隊により包囲されているらしいが……正直なところ、そこまで拘束力があるとは思えない。敷地の拡張をすれば突破できるし、移動を繰り返せばどうにでもなるはずだ。


 もちろん、彼の持つ村スキルが俺と全然違う可能性もある。それでも結界は張れるわけだし、ヘタを打たなきゃ捕まることはない、と思う。


「さて、続きを見ていくか」

「そうですね。ていうか、この先に書いてあるお題目って、全部すごい内容なんですけど……これ、完全に現代ファンタジーしてません?」

「実は俺もチラ見しちゃったよ。――ひとまず細かいことは抜きにして、概要だけさらっていこうか」



<460日目:市街地での目撃情報>


・未知の生物が市街地でも目撃される。黒いモヤの発生に伴い実体化することも判明。自ら人を襲うことはないが、ゴミ漁りや畑荒らしの被害が頻繁に発生中



<470日目:魔物と魔石の存在>


 この日、以下のような声明が日本政府から発せられる。


・未知の生物の総称を『魔物』と定義する

・魔物を駆除すると『魔石』と呼ばれる魔力の結晶を残す。なお、一部の魔物は素材や食肉も残している

・魔物を駆除することで、自身の身体能力が向上する場合もある。通称:レベルアップ現象

・現在、政府主導により、魔物および魔石の研究が進められている。この研究には異世界帰還者の助力を得ている。また、魔石による燃料資源の生産に成功している

・日本を覆う膜に変化が起きている。色が濃くなり、通過するときに抵抗感を生じる


「この発表ってどうなんでしょう。魔物狩りを助長してる感じがするし、いろいろと軽率過ぎません?」

「まあ、それも今さらだろ? どうせ一部では狩りまくってるだろうし、そんな動画も腐るほどあがってると思うよ」

「隠してもしょうがない、ってことですか。でもココ……こんな声明がよく通りましたね」


 桜が指さすところには、以下のような一文が記されている。


『政府は魔物の駆逐を推奨しない。同時に法的規制をおこなわない。加えて、負傷もしくは死亡に至った場合はすべて自己責任とする』


 いくら襲ってこないとはいえ、不慮の事故だって起こりうる。こんな無責任な内容、普通なら絶対にあり得ない。と、思うのが一般的な解釈だけど……。


「政府主導での研究ってあっただろ? 魔石燃料のヤツ。たぶん、ほぼ実用化レベルまで進んでると思う。それと結界みたいなのも、そのうち通過できなくなるかもな」

「国民の注目がそっちに集まるってことですか?」

「ああ、俺はそうなると思ってるよ」


 日本が世界から隔離されたら、当然、エネルギー問題や食糧問題が出てくる。そのときになって慌てても……時すでに遅しだ。世間の一部がギャーギャー騒いでるうちに、主要な問題はこっちにすり替わるだろう。


『食べる物がない。電気も水道も使えない』


 まさしく死に直結した問題だ。そんな最悪の状況に比べたら、この程度の声明なんて大したことじゃない。


 諸問題への対処を水面下で進めていた政府。来たるべき日に備え、国民の生活を考慮していた政府。

 すべてが思惑通りとはいかなくとも、現実への対処としては間違ってない。まあ、真意のほどはサッパリわからんけど――。



<490日目:海外からの調査団>


・数か月に及ぶ調整の末、海外からの調査団派遣が正式に決まる。一部を除き、日本政府は調査への協力を全面的に承認した


・これは未確定情報だが、調査協力の対価として、希少資源や一部の食糧などを得ているらしい。「すでにかなりの量を確保しているのでは?」と、世間では噂されている



<500日目:幻想結界>


・日本周辺の海域および日本全体を囲うように、薄い膜が完全に固定化される。この時点をもって、膜の呼称が『幻想結界』に決定した。どうでもいいことだが『ファンタジーゾーン』とは、洒落が効いている


 この幻想結界について、現時点で判明しているのは以下の通りだ。


・人間、物資、船舶や航空機の出入不可

・海水や海洋生物の通過は可。ただし、魔物の通過は不可

・陸上動物については未検証。鳥類の通過は確認している



<530日目:魔力エネルギーの導入>


・政府による魔物および魔石の研究が進む。異世界帰還者で魔導技師だった者により、魔石燃料なるものが確立される

・原子力、火力、水力にかわる発電技術、ガソリンや石油、ガスなどの代替燃料として利用することを発表した


・さらに、魔物を倒した際に獲得できる魔石を行政が買い取ること。一般人の魔物狩りを認可する方針を発表

・魔石および素材の買取はすべて無税とし、民間での売買および取引は禁止となった。魔力エネルギー関連の技術は、すべて政府の管理下とする


「なあ、発電技術ってのはわからんでもないが……石油の代替燃料って何なんだ? 仮に魔石燃料があっても、魔道具の普及が追いつかないだろ?」

「たしかに……。車のエンジンとか家庭のガスコンロとか、それ専用の魔道具が必要ですよね」


 帯電の魔道具もあるから、電気に関してはまだ理解できる。だが、車の内燃構造とか、コンロの器具なんかは取り換えが必要だ。すべての車両、全世帯への普及なんて「何年先になるんだ?」って話だろう。


「あ、啓介さん。ここに載ってますよ。よくわからないですけど、原油に近いものを生み出すみたい?」

「いやいやいや……。もうそれって、錬金術の領域じゃないか?」

「それは私に聞かれても……。しいて言うなら、魔石そのものを原油に変換してるんじゃ?」

「魔石=魔物の死骸=原油になる、みたいなこと?」

「理屈としては、ですけどね」

「まああれだ、ファンタジーに理屈を求めてもな……。そういうもんだと思っておくか」

「車を魔導エンジンに入れ替えました! 魔導コンロを全世帯に配布しました! なんてオチよりはマシなんじゃ?」

「そうだな、そういうことにしておこう」


 この発表に関しては、日本はもちろん、世界中で様々な議論がなされている。年表にも詳しく書いてあるけど……「それぞれの思惑が」とか「どこそこのしがらみが」なんて内容なので説明は省かせてもらう。


 今日現在に至っても、その騒動は収まっていないらしい。が、国の方針に変化はなく――このまま推し進めるつもりのようだ。



「はぁ……やっと現在に至る、だな」

「なんか、読んだだけでお腹いっぱいって感じです……。正直、何をどう対処すればいいのかわかりません」

「俺もだよ。理解したのは、日本でもファンタジー始まったな、ってことだけだ」

「まあ、あるある展開ですよね」

「これを《《あるある》》なんて言えちゃうんだから……俺たちも相当毒されてるよな」

「でも、異世界経験者としては、延長戦をしてる気分になりません?」

「それはわかる。正直なところ、全然驚いてないんだよな。普通に受け入れちゃってるし」


 幻想結界や魔力エネルギーもそうだし、一般人が冒険者になっていくのも含めて、「なるほどなぁ、そうなんだね」くらいにしか感じない。むしろ、この状況のほうが生きやすいまである。


(まあ、この思考こそが『異世界適正』ってヤツなのかもな)


「よし、今の状況をザックリ整理するぞ。そのあと外へ出てみよう」

「ですね。街の様子も見たいですし、啓介さんのおじいさんにも会ってみたいです!」

「だけどこんな状況だ……じっちゃんたち、無事に生きてるかな」

「人的被害はないみたいだし、大丈夫だと思いますけど?」

「まあそうだよな。きっと元気にしてるはずだ」

「はぁ……。ほんと啓介さんて、隙あらばフラグを立てますよね」

「それがおっさんの悲しき性なんだ。とにかく、現地へ行ってみようじゃないか」

「まあ、啓介さんの立てた旗って……だいたい全部折れちゃうけどねー」


 桜に冷たい視線を向けられ、そっと目をそらすおっさんであった。




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― 新着の感想 ―
[良い点] この世界の日本政府は有能そうでいいですね
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