第186話:女神のお忍び大作戦!?
女神の間から戻って来た私たちは、そのままリビングに集まって会話を続けていた。その場には、さも当たり前かのようにナナーシアさまも同席している。
やはり、地球の存在理由とか、女神のことなんかは、肝心なことになると言葉に出せない。そのもどかしい感じを味わいながらも、楽し気に語らっていた。
「――ところでナナーシアさま、お住まいはどうされますか? なにか神殿みたいなものを建てたほうがいいのでしょうか」
「いえ、その必要はありません。夜は神界へ戻りますので。ひとたび降臨してしまえば、あとは結界内ならどこにでも顕現できますしね」
「なるほど。てっきり神殿とか教会に住まわれるのかと思ってました」
(遠慮している素振りもなし、余計なことはしない方がいいのかな? まあ、もし必要ならそのうち言ってくるか)
「あ、啓介さん。教会といえば……恩恵のことをすっかり忘れてました。ちょっとこちらを見てもらえます?」
私のステータスを展開すると、村ボーナスの部分を指さしている。『女神信仰』の☆が黒く塗りつぶされており、いくつかの部分に変化が生じていた。
(ああ、そういえば……新たな恩恵を与えるって言ってたもんな)
===================
啓介 Lv132 41歳
職業:村長 ナナシ村 ★★★<New>
現在の信仰度:1,271pt
ユニークスキル:村Lv-(3710/5000)
『村長権限』『範囲指定++』
『追放指定』『能力模倣』『閲覧』
『徴収』『物資転送』『念話』『継承+』
『女神の恩恵』
村ボーナス
★ 豊穣の大地
★★ 万能貯蔵庫
★★★ 女神信仰<New>
・結界内に複数の教会を設置できる
※現在の設置数(1/10)<New>
・適性者に職業とスキルを付与
・ステータス閲覧可能
・村人のスキルLv限界値を+1<New>
※解放条件:大地神への祈り、女神降臨
===================
「これが新たな恩恵です。……非常に残念ですが、与えられる恩恵はこれで最後となります」
「すでに十分過ぎるほど頂いていますよ。――にしても、今回もまた凄い進化ですね。教会の設置数にスキルレベルの上限解放ですか……」
教会を10箇所も置けるとなれば、村や街、南の海辺や北の鉱山なんかにも……上手くすれば日本にも置けそうだ。
スキルレベルのほうも複数の人に恩恵がある。街全体の安全にも繋がるので非常にありがたい。
改めて感謝を述べ、しばらくステータス画面を眺めていたとき――女神がよくわからないことを聞いてきた。
「啓介さん、ひとつだけ愚痴をこぼしてもいいですか?」
「え? 突然どうしたんですか?」
「初めて村ボーナスを得たときのこと、覚えていますか?」
「ええ、もちろんです。村に名前をつけて『豊かな土壌』が発現したときですよね。たしか、転移して3日目だったと記憶しています」
あれのおかげで食糧事情が大きく変わったんだ。村の豊作もそうだし、そこで作ったお芋様には色んな意味でずっと世話になっている。
(最初のボーナスだったし、今でも鮮明に思い出せるけど……それがどうしたんだ?)
「あのとき……なんで『村ボーナス』なんて命名したんですか? なぜ、画面をちゃんと確認しなかったんですか!」
「ん、どういうこと? 命名? 確認? ナナーシアさまのおっしゃる意味がよくわかりません……」
少し怒り気味にそう問いかけてくる女神。続きの話を聞いて、ようやくその理由が判明した。
転移3日目、ナナシ村と命名したところで『豊かな土壌』を取得した。そのときは「まさに思わぬ収穫だな!」なんて浮かれながら、それを村ボーナスと呼び始めた。
だが実はこのとき――、
私のステータス画面には『大地神の加護』とハッキリ表記されていたらしい。ほかのボーナスも含め、3つの恩恵の正式名称は『大地神の加護』だったと教えてくれた。私が勝手に命名しちゃったせいで、名称が変化してしまったようだ。
「初日、大地神の使徒である椿さんと合流。3日目に大地神の存在をステータスで確認。その後、女神への祈りで確信に至る――これが本来の流れだったんです」
「……それは申し訳ございませんでした。たしかに、ちゃんと画面を確認しなかったかも……」
「結果的には、私に祈ってくれて良かったですけど……あれはマジで危なかったんですよ……」
(女神がマジとか言っちゃうくらいだし、マジで危なかったんだろうな……。あのとき大地に祈っといて、マジで助かったわ)
そのあと、夏希たちからも総ツッコミを受けながら、ひたすら反省するおっさん。いまでこそ笑い話で済んでいるが、女神にとっては死活問題だったと思う。
そんな丁度いいオチもついたところで、そろそろ昼食という時間を迎えていた。女神とは一度別れて、街の食堂に行こうと思ったんだが……ここで誰からともなく、くだらない提案があがった。
その名も、『女神さま、まさかのお忍び!? ドッキリ大作戦!』という馬鹿げた企画だった。
衣服や髪形なんかを変えて、何食わぬ顔をしながら食堂に紛れ込むというものだ。
提案自体は面白いと思う。でもバレたら大騒ぎになるのは必至。私は何度も忠告したんだが……当の本人まで乗り気になってしまい、結局はこの企画が通ってしまったのだ。
とはいえ流石に、このまま食堂に行くなんてことは容認できない。勇人やラド、それにドラゴとかネイルたち、主だったメンバーには事前に念話を入れることにした。もちろん、「街の住民と早く馴染みたい」という女神の意向も込みでだ。
(たしかに親近感はでるかもしれんが――おっさん、このあとどうなっても責任とらないからな……)
◇◇◇
現在、ナナシアの食堂には大勢の村人が集まっている。今日は休日ということもあり、ほとんどの人が揃ってるんじゃないだろうか。そんな食堂の一画に陣取り、女神と一緒に昼食を頂いているところだった。
ちなみに言うと、今のところは奇跡的にもバレてないらしい。若干ソワソワしてる者、チラチラとこちらを見てる者はいるが……確信には至ってない感じだ。
だいたい想像はついていると思うが……同席している連中のなかには、酷く緊張している者たちがいる。そう、女神を厚く信奉している竜人と蛇人だ。プルプルと体を震わせながら冷や汗をかいている。
事前の念話でその正体は知っている。でも、女神の意向でひれ伏すことも出来ない。かと言って気軽に話しかけるわけにもいかない。そんな状態がずっと続き、食事や酒にも全然手を付けていなかった。
「おい、やっぱこれマズいんじゃないか?」
「もうここまで集まってるし、今さらだよ村長。それに――」
私が小声で問いかけると、夏希がすぐに反応して、それっぽい言葉を続ける。
「それにドラゴさんたちもだよ……。普段通り接するのは、ある意味、女神さまの啓示だと思えばどうです? 女神さまの意向に寄りそう大事なお役目を与えられた。そう考えれば、とても名誉なことなんじゃ?」
もの凄い屁理屈だとは思うけど、それを聞いた2種族の面々はハッとした顔で女神のほうを見る。
「私からもぜひお願いします。これを機に、街の方々とも自然に触れあいたいので……協力して頂けるとうれしいです」
「「っ……!」」
言葉巧みな夏希の煽り文句と、当の女神さま直々のお願い。どうやら絶大な効果があったようで、みんな一瞬で目の色を変えていた。若干、恍惚の表情をしている者もいるが……おおむねは使命感に燃えている感じだった。
「ナナー……ではなく、あなたさまのお言葉、このドラゴがしかと賜りました。必ずやご期待に応えてみせましょう!」
「我ら蛇人族も同じく、全身全霊をもってお仕えいたします」
ふたりの決意も固まると――、
食堂の至るところでざわめきが起こる。竜人一家はここにいるし、蛇人は熱源感知で感情の起伏を読み取れる。兎人は聴覚強化でラドからの指示を……と、この時点で全体の3分の1程度にはバレつつあったのだ。
このままでは収拾も尽きそうにないので、ドラゴがひとり、壇上へ上がることになる。どのみちこうなることは予想できたので、私自身に驚きや動揺はない。
まあ、止められなかった後悔は大いにあるが……あとはなるようになれ、だ。




