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異世界村長【書籍発売中】  作者: 七城
第1部 『異世界村長編』
179/252

第179話:フードコート(超でかい)


異世界生活480日目-786,000pt



 あれからしばらく経つのだが、いまだ王国村長の発見には至ってない。


 兎にも角にも、捜索範囲が広すぎるのだ。手掛かりのひとつすらなく、見つかる気配はまったくない。一向に進展しないので、正直なところ諦めかけている。


 仮にナナシ村へ来るにしても、それまでの道中に獣人国なり帝国なりで噂くらいは立つはず。いきなりのご登場、なんてことはまずありえない。警戒はもちろん必要だが、ほかに労力を回すほうがよほど建設的だろう。


 ――と、そんな事情もあったりして、いったん捜索を打ち切り、ここ最近は街の整備に尽力していた。



「やあルドルグ、今日から営業できるらしいね。ほんと、凄いもんを作ってくれたよ。ここまでの規模は日本でも見たことがない」

「儂と樹里の合作だからな! アイツも毎日つきっきりだったぞ!」

「配置や動線も完璧だし、これなら千人は入れるだろうね」

「樹里の想定だと、1階の食堂は千五百までいけるらしいぞ。2階の酒場も千人は入れる」


 設計士の樹里と建築士のルドルグ。職種のこともあってか相性が抜群にいい。解説好きの樹里がいくら熱弁しようとも、ルドルグがへこたれることはない。毎日を共にしているうちに、本音の意見をぶつけ合う仲になっていた。


 今回ナナシアに完成した食堂は、いわゆるフードコートっぽいスタイルになっている。中央のだだっ広い食事スペースの周りを、様々な種類の店舗が囲んでいる。


 肉料理や魚料理の数々に加え、パン屋にピザ屋、丼モノやうどんなんかも作っている。もちろん、一番人気の蒸かし芋は、いつでも出来立てが食べられるようにしてある。


 結界のサイズを調節できるようになったおかげで、狭い空間でも万能貯蔵庫を置けるようになった。貯蔵庫に入れておけば劣化もしないわけで、大量に作り過ぎても廃棄する必要が一切ないのだ。

 

「そういえば、蛇人特製の酒もそろそろなんだろ? ルドルグはそっちのほうが楽しみなんじゃないか?」

「おうよっ、そのために全てを注ぎ込んだからな。今日から毎日飲めると思えば……くぅぅ、ここは儂らにとっての楽園だ!」

「まあ、酒は逃げないんだから程々にな。なんにしてもお疲れさま、私も楽しみにしてるよ」


 今晩の夕食に期待しつつ、ルドルグと挨拶を交わしてから次の区画へと向かう。



 ここの区画にあるのは、学校や訓練所をメインとした教育機関だ。現在、約400人ほどの子どもたちが通っている。教えているのは読み書きと算術、それと戦闘訓練や魔法の体験なんかもやっている。全員同じカリキュラムをこなすわけではなく、本人がやりたいことを習わせていた。


 希望する子には、働きにでることやダンジョン探索も許可してるし、警備隊やナナシ軍への加入も認めた。この世界の常識に当てはめれば、なにもおかしいことではない。一歩外に出れば魔物がいる環境なのだから、むしろこれが普通なのだ。


 校長をメリッサさんに任せ、戦闘指導をウルガンとウルーク兄弟が、魔法の指導を魚人のマリアが仕切っている。算術スキル持ちを筆頭に、数名の日本人も教師として就任していた。

 

「ウルークお疲れさま、お邪魔するよ」

「これは村長、どうぞいくらでも見ていって下さい」


 訓練所にはたくさんの子どもたちが――。講師ひとりが10人くらいを見ている感じか。素振りしたり模擬戦をしたりと、かなり真剣な顔つきで指導を受けていた。


「いつ来ても訓練所は大盛況だな。大半の子が参加してるんじゃない?」

「そうですね。概ね半数くらいでしょうか」

「ほかの子たちは?」

「マリアさんのところです。何と言っても、魔法はみなの憧れですから」

「この前聞いたけど、何人か魔法使いの職業を授かったらしいね」

「ええ、彼女の指導が上手いのもありますし、教え子の集中力がもの凄いんです。本来、魔法を習う機会なんてありませんし、そういう概念もなかったですからね」


 今日までの間に、魚人の子が水魔法を、兎人の子が土魔法を、狐人の子が火魔法を習得している。このあたりは種族的な素養も関係してるのかも知れない。なんにせよ、この調子でどんどん増えてくれると嬉しい。


「みんなすごい気迫だし、ここの子たちも負けてないんじゃ?」

「それはもちろん! 何と言っても、卒業認定を受ければあの魔鉄製の武具が贈られますので! こんな待遇、普通じゃ考えられません」

「たしかに……。良質な装備は命に直結するし、私もいい制度だと思う」


 しかし、どこの世界も勉学は不人気のようだ。校長の方針で、毎日1時間は座学に充ててるみたいだし……大丈夫だろうけどね。


「村長はこのあとどちらへ?」

「次は例の場所へ行ってみるよ。今の時間なら空いてるだろうしさ」

「あー、なるほど。私もたまに利用していますよ。文字は読めませんが、あの戦記モノは絵を見るだけでも最高です」

「翻訳が出来ればいいんだけどね。何か手がないか探してみるよ」

「はい、楽しみにしています」



 ウルークや子供たちに別れを告げて、ちょうど話題に上がった娯楽施設へと足を向けた。彼も言っていたとおり、漫画やゲームは獣人にも好評だ。休日には多くの人たちが集まる場所となっている。むろん、日本人の中には入り浸ってるヤツもいた。


 この区画には、漫画やゲームがある大きな遊戯施設のほか、大浴場も併設されている。日本にあったスーパー銭湯みたいな雰囲気で、風呂上りに寛げるように休憩所も設置してある。


 日本のテーブルゲームなんかも用意してあるが、思ったほどの盛り上がりはなかった。まあ、遊び方やルールが知れ渡るまではこんなもんだろう。現在のところ、大人は風呂上がりの一杯(当然お酒類)、子どもは屋外での球技が一番人気となっている。



「「あ、村長おつかれさまです」」


 大浴場の裏手に回ると、10人ほどの村人が働いているところだった。結構な熱気に包まれながら、4基並んだ大型タンクの管理をしている。


「みんなおつかれ、ボイラーの調子はどう? 不具合があれば遠慮なく鍛冶屋に言ってくれよ?」

「とくに問題はありませんよ。まあ、欲を言えば泉の水が自動で汲めれば最高ですけどね」

「蒸気を利用して汲みだせるといいんだがな……。開発には時間がかかりそうなんだよ」

「今のままでもいいですけどね。マリアさんや桜さんが朝晩給水してくれますし、新しく魔法を使える子も増えましたからね」


 このボイラーっぽいもの、仕組みは至ってシンプルだ。超巨大な鍋に水を貯めて、『永遠のともし火』で湯温を調整するだけ。あとは湯舟にお湯を流しておしまい。水魔法使いが不在のときは、『湧き立つ泉』から直接汲み足している。


 ポンプのような魔道具があれば事足りるのだが……今のところ、そんな便利なものは見つかってない。『帯電の魔道具』開発者あたりが作っていることに期待しつつ、ナナシアでも、なんちゃって蒸気機関の開発を進めているところだった。


「とにかく無理はしないように。それと火のもとには注意してほしい」

「いやいや、こんなに楽な仕事は他にないですよ。たった半日で交代、あとは自由時間なんて……逆に申し訳ないくらいです」

「街の衛生面を担う重要な仕事なんだ。いつも感謝してるよ」


 椿の提案により、暑さによる疲労と火気の使用を考慮して、午前と午後の2交代制を採用している。うっかり火事にでもなったら危険だしね。


「光栄です。これからもみんなで頑張りますよ! ――ところで、さっき夏希ちゃんも来ましたけど、今日は何か特別なことでもあるんですか?」

「夏希が? いや、何も知らないけど……なんだろうな」


 みんなが言うには憩いの場へ行ったらしいので、ついでに様子を見に行くことに。



 大浴場を抜け、遊戯施設との中間にある憩いの場に近づくと――どこかで聞いたような懐かしい音がする。



 カンッ、コンッとリズミカルな音が響き、ときおり夏希たちの笑い声が聞こえていた――。




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― 新着の感想 ―
[一言] 軸を中心に回転させる魔道具でもあればポンプはできるんですけどねぇ……
[一言] 仏像彫りですね!
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