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異世界村長【書籍発売中】  作者: 七城
第1部 『異世界村長編』
159/252

第159話:聖女との対話


異世界生活376日目-51,752pt



 転移事件から一夜明け、村のみんなも動揺してるかと思いきや――今日も穏やかな朝を迎えていた。

 普段通り食堂に集まり、ワイワイ言いながら食事をしている。街の話題も当然でるけど、悲観的な話しは聞こえてこなかった。


 当の私も一晩寝たら気持ちがすっかり落ち着いていた。こんな言い方は不謹慎極まりないが……スッキリとした気分だった。


 常々思ってることだけど、村にいると心のモヤモヤが消えていく。不安とか焦燥感が薄れていく感覚、とでも言えばいいのだろうか……。感情が操作されてるような嫌な感じは一切ないので、女神効果なのだと勝手に思い込んでいる。



 そんなことを考えながら朝食を摂っていると、今日の偵察メンバーが私のいるテーブルに集まって来た。その手には朝食を持参している。


「啓介さんおはよ、早いですねー」

「おはようみんな。ちょうどいい、食べながら打合せしようか」


 今日は領主館の偵察をする予定だ。賢者がいなくなったあとの様子や、結界を乗り越えたかを確認しにいく。


 メンバーは隠密役の香菜と探索役のレヴ、集計役の椿に護衛の桜だ。椿と桜のふたりは昨日の夜に偵察を志願していた。香奈には昨日同様に隠密スキルを、レヴには探索スキルで日本人の人口調査をお願いしている。椿がそれを集計して、桜と私は護衛役を務める。


「昨日もちょっと話したけどさ。あれから気になったことはある?」

「村長、我ら兎人の聴覚にはご注意を。帝国に強要されている可能性もあるので」

「あー、最初にあったとき、レヴも村の会話を聞いてたもんな」

「はい。探索スキルは防げますが会話は聞かれてしまいます。話をするなら小声で、それなら問題ありません」

「ありがとう、気をつけるよ」


 真剣な表情のレヴは話を終えると、芋で山盛りになった皿との格闘を再開している。その勢いに圧倒されていると、今度は桜が口を開く。


「レヴさん、そんなに食べて大丈夫なの? ってそれはいいとして、もし勇者や剣聖が出てきた場合、どうしますか?」

「できれば話をしてみたい……が、賢者のこともあるし無理だろうな。敵対するなら改めて作戦を練ろうと思ってる」

「なるほど……転移魔法がない今、慌てる必要はありませんからね。じゃあ、ケーモスの住民は?」

「もし森のほうへ来るようだったら、春香に受け入れを任せるよ。もう全滅してるかもだけどな」


 北の門に集められてるようだが、そのまま逃がすつもりなのか、集めたうえで……なのかはまだわからない。

 そのあとも注意点を共有しつつ、全員の食事が終わったところで出発することになった。




◇◇◇


 領主館への転移を終えると、すぐに外の様子を確認する――。


 昨日よりは全然少ないけど、まだ千人近くの日本人が庭にいた。そのほとんどが武装しており、鑑定結果でもレベル60前後のヤツばかりだった。てっきりここを放棄してると思ったんだが……相手もけっこう図太いらしい。


(隠し玉でもあるんだろうか。これは気をつけないとヤバそうだ)


 外壁を囲った結界については、土魔法で作ったであろう階段状の土壁で橋渡しをしていた。これは予想の範疇だったのでとくに驚きはない。もう結界の意味もないので、すぐに解除しておく。


 庭にいたヤツらは、結界が突然消えたことに驚いていたが、隠密状態の私たちが気づかれることはない。何人かの冒険者が領主館へ走っていくのが見えたので、幹部辺りに報告してるんだと思う。


「桜、これで大物が出てくるかもしれん。いつでも魔法が撃てる準備はしといてくれ。香菜は引き続き隠密を頼む」

「「りょうかいっ」」



 それからたっぷり30分は待っただろうか。レヴと椿に集計を任せ、私も冒険者たちを鑑定しながら待機していた。


 冒険者の職業は様々だが、一番多いのは『戦士』、それに次いで『剣士』や『槍士』、『拳闘士』なんかの近接職が大多数を占めている。確認できた範囲では『治癒士』が10人、各種属性の『魔法使い』が42人も待機していた。


 ほかにも『封術士』『付与術士』『盾士』、なかには『金剛力士』なんていう珍しいヤツもいたけど、二次職っぽいのとかユニークスキル持ちはひとりもいない感じだった。

 あと気になったのは、飛び道具を持ってる人や、『弓使い』「狩人』のような遠距離物理系の職業持ちがひとりもいないことぐらいだろうか。


(ラドたちは最初のころ使ってたよな。弓が存在するのに誰も使わないのは何でなんだ? ……ってまあ、それはどうでもいいか)


 わからんことを悩んでも仕方がない。そう思っていると、ようやく領主館から人が出てくる。間違いない、昨日見た剣聖と聖女だ。そのふたりの登場に合わせて、庭にいた日本人たちも続々と集まっている。


 だがしかし、勇者と思しき人物の姿がどこにもない。何かのスキルで認識できてない可能性もあるので、こちらも警戒を密にしていた。


「啓介さん、昨日の今日で切り札の勇者がいないのはおかしいです。結界の外には絶対出ないで下さいよ」

「ああ、さすがに結界を壊すなんてことはないだろうけど……すぐに転移できるよう準備だけはしておこう」


 椿とレヴにも状況を伝えて、いつでも村へ戻れる体制を整えると……、帝国の日本人たちが結界のほうへと徐々に近づいてきた。その先頭には剣聖と聖女がいる。



「ナナシ村の人、どうせそこにいるんでしょ? 隠れてないで出て来なさいよ、あなたたちと話がしたいわ」


 お互いの距離は20mほどだろうか。聖女はそこで立ち止まると、そう語りかけてきた。


「啓介さん……どうします?」

「そうだな、ひとまず話を聞いてみよう。もちろん結界の中からな」

「わかりました。もし何かあれば――私、迷わず撃ちますからね。啓介さんが止めてもやります」

「了解した。俺もいま冬也たちを呼んだから、聖女と話してるうちに打合せしといてくれ」


 若干ツンとした感じの聖女、その鑑定結果にもおかしいところはない。昨日のアレは見間違いだったのか、それとも何かの秘密があるのか。それは不明のままだが、とりあえず姿を見せることにした。


「私がナナシ村の村長だ。話というのは何かな? 賢者のことだったら謝罪する気はないぞ。敵対者は排除する方針なんだ」


 最初は穏便に行こうかと思ったが、こっちは既にお仲間を殺ってるんだ。いまさら取り繕ったところでたいした意味はない。


「私は日本帝国の聖女よ。まあ、そんな柄じゃないけどね。それと賢者のことはもういいわ、アイツが独断で動いてたのも聞いたから」

「……帝国にはその気がなかったと? 悪いけど、そう簡単には信じられないな。北の門に住民を集めて村のことを調べてたらしいじゃないか」

「ああアレね。別に信じなくてもいいけど、有能なスキル持ちがいないか探してたの。しばらくしたら解放するつもりよ」


 聖女は平然とした表情でそう答えている。賢者が死んだことにも興味がないのか、素っ気ない感じだ。


(有能なスキル、ねぇ。たしかに昨日の賢者も、村への転移は自分の独断だと言ってはいたけど……)


「ちなみに村長さん、賢者の遺体はどうしたの? 連れ帰ったって聞いたんだけど、良かったら教えてくれない?」

「こちらで丁重に弔ったよ。埋葬も済ませたから、今はもう大地に還っているはずだ」

「……そう、ならいいわ」


(あ、いま一瞬しかめっ面、というか舌打ちまでしてたな。やはり心配してたのか? まさか恋仲だったなんてことは……ってそれはないか)


 聖女の年齢は20歳、賢者はたしか42歳だったはず。ないとは言わんが、あの冷めた態度が本当なら、そんな関係ではないのだろう。


「聖女のスキルで生き返っても困るからな。帝国領でオークを湧かせるつもりだったようだけど、計画の邪魔したのは悪かったと思うよ」

「残念だけど、わたしにそんな能力はないわ。まあ、鑑定して知ってるんでしょうけど?」

「それはどうかな……私にはよくわからん」

「あらそう? まあいいけど」


 そんな感じで腹の探り合いをしつつ、しばらくの間はなんでもない会話が進んでいく。既に冬也たちも天幕に到着しているが、一触即発という雰囲気ではなかった。


「ところでさ、実はずっと気になってることがあるんだけど……」

「なにかしら、答えられることならいいのだけれど」


 街や村のことにも全然関係ないんだが……どうしても気になることがある。この疑問のせいで、話し合いにも全く集中できなかったのだ。


 千人の護衛を見渡しながら、今日一番気になってたことを話す。



「ここにいるヤツらって、なんで全員おっさんなの?」




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― 新着の感想 ―
[一言] おっさんがそろっているのは捨て駒だからでしょうかねー 子孫を考えれば若いのは保護しておかないと
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