第155話:日本へ帰るのか?(2/2)
「じゃあ、私からもいいですか?」
「ああ、遠慮なく言ってほしい」
女神の降臨と日本への帰還について、私の意思を伝えたところで今度は桜が手を上げた。
「さきほど日本へ戻ると言いましたけど……それは啓介さんおひとりで? それとも私たちやこの世界の人たちも連れて、ってことでしょうか」
「今のところは、行きたいヤツだけにするつもりだよ。日本に行くのを強要することはない。とくに獣人たちはな、絶対目立つし干渉されるのは目に見えてる」
「となると、日本でも結界が張れるかがカギになりますね。その辺りのことは聞きましたか?」
「ああ聞いたよ、ザックリとだけどね。結論から言うと、結界も張れるしスキルも使える。身体能力もそのままらしい」
「ほぉ……地球に魔素はないでしょうし、魔石か魔結石を消費して、みたいな感じですかね」
(それもわかっちゃうのね……)
桜が言うように、向こうでは魔石を携帯してればいい。いわゆる電池みたいなものだと女神も言っていた。ただ、地球にも魔素はある。この世界よりもずっと薄いが、たしかに存在してるらしい。
私がそう補足すると、桜がしたり顔ですごいことを言い放つ。
「向こうで魔法をぶっ放したら気持ちいいでしょうね……。ていうか、日本まるごと村に出来ませんかね。ちょっとだけやらかしてみたい気もします」
「なんかアレだな。桜にしては過激な発想だけど……まあ、わからんでもない。ぶっちゃけ、俺もちょっとだけ考えちゃったよ」
日本に行けば異世界ファンタジー好きの同志もたくさんいるし、村人になってくれる人だっているだろう。さすがに芋では釣れないと思うが――獣人、ケモミミ、スキルや魔法が使えるとなれば……十分可能性はある。
日本占領なんてありえないけど、気の合う仲間とワイワイやるのも楽しそうだ。
「まあ、そんな冗談はさておき、私たちのゴールは女神の降臨ってことになりますかね」
「それが全てじゃないけどな。でも実際、その頃になればここも落ち着いてるだろうし、いい目標にはなりそうだ」
「いまのペースでポイントを貯めていくと……椿さんわかります?」
「現在、一日平均が約3,000ptですので、単純計算で330日程度かかります。女神顕現の維持を考えると……ちょうど1年くらいでしょうか」
実際には今後も村人は増えていくだろうし、魔物狩りの規模も大きくなる。案外、半年もしないうちに達成できそうな気もするが――。
「じゃあ、半年くらいでいけるかもですね」
「あ、ああ、それまでには他国の情勢も収まりゃいいけどな」
「勝手に自滅してくれたら最高ですけど……どこかで接触する可能性もありそうです」
「村に手を出すなら容赦しないよ。むろん、穏便に済むのが一番だけどな。でもそれは難しいと思ってる」
相手が誰になるかはわからないけど、いつかは絡んでくるだろう。帝国の実情もわからないし、結界があるとはいえ不安はつきまとう。
「そのときが来たらためらいません。私たちに任せてくださいね」
「ああ、もちろん私も参戦する。みんなもそのつもりで頼むよ」
そんなシリアスシーンもあったが、概ねなごやかな雑談を続けていると、アッという間に昼になってしまった。
「あっ、思い出した。全然関係ないけどさ、開拓地の名前をそろそろ決めないとだわ。女神さまにまつわるものにしようって、俺、前に言ってたよな?」
「それは秘密にすることじゃないですし、食堂に戻ってみんなにも聞いてみたらいかがです?」
「んじゃ、今日はこれくらいにして村に戻ろうか。また気づいたことがあれば念話で聞いてくれ。くれぐれも内密にな」
こうして秘密会議は終わりを迎えた。
――結局、今日の話でハッキリしたのは、「ここにいる全員、日本へ移り住む気がない」ってことだった。
もちろん、帰れると確定したことには喜んでいた。でも、日本で元の生活に戻るつもりはサラサラないらしい。まあ戻ったところで、日常の生活は出来ないだろうという打算も込みだけどね。
メディアのつるし上げに始まり、政府からの干渉や拘束となるのは想像するに容易い。結界の外で生活を送るのは困難だろう。
それでも、大概のことは何とかなるかもしれないが……面倒ごとに巻き込まれるのは間違いない。
しかも、日本に戻れば俺たちは犯罪者扱いだ。黙っていればいいのだろうけど……そのへんの折り合いがとれるかは、戻ってみないとわからない。一応、家族のことなんかも聞いてみたけど、言葉を濁していたので深くは聞かなかったよ。
ちなみに、「日本に帰って誰かに復讐したい!」みたいなヤツは誰もいなかった。気にくわないヤツはいたけど、もうどうでもいいかなって感じらしい。
たぶんこれは、力を持ちすぎたからだと思う。相手を見下してるところも絶対あるし、慢心とか優越感も大いにあるんだと思っている。
(かくいう俺も……ってコレはまずいな。じわじわと勘違いしちゃってるわ。胸糞悪いヤツには絶対なりたくない、もっと気をつけよう)
◇◇◇
その日の晩、開拓地の名称が『ナナシア』に決まった。集まった村人たちの意見を取り入れた結果、満場一致で採用された名前だ。
当面はナナシア開拓地と呼び、町長なり領主なりが決まり次第、格上げするつもりでいる。女神の名前とほとんど同じだが、逆にそれがいいらしい。みんなが納得しているのなら私に異論はない。
女神の聖地『ナナシ村』、そして女神の町『ナナシア』
最初は適当につけたナナシ村も、こうしてみると案外いい感じに思えてきた。
「そういや村長、女神さまへの報告はいいのか? ポイントは消費するけど、もういつでも会えるんだろ?」
「ああ、それは大丈夫、もう知ってるはずだからな。というかアレだぞ? 私たちの言動は全て筒抜けだ。むろん冬也、おまえのこともな」
「え、それって……家の中にいてもか?」
「少なくとも大森林にいる限りは全部だ。女神はいつもお前を見てるぞ」
「そ、そうか……わか、りました」
「冬也よ、これがハーレムの代償ってやつだ。天罰が下らないように気をつけたまえ」
冬也はめちゃくちゃ動揺している。これでおいそれとは悪さもできないだろう。
(ちょうどいい、あとで勇人も呼んで脅しとこうかな。これはまた盛り上がりそうだ)
案の定、勇人も相当慌てていたんだが……よくよく考えたら、自分も見られていることに気づき、3人でビクビクしながら夜空を眺めることになった。




