第154話:日本へ帰るのか?(1/2)
異世界生活372日目-43,000pt
女神との対話からはや7日が過ぎ――以降も、村や開拓地の整備は順調に進んでいた。ちなみに、現在の人口なんかはこんな感じだ。
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村の人口:820人(うち日本人112人)
開拓地の人口:1,006人
警備隊:80名
ナナシ軍:70名
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樹里のおかげで道路や居住区の計画は見直され、建設効率もアップしている。それもこれも、「完成時の全体像をみんなで共有している」ってのが大きい。
普通なら、口頭で説明されたり図面を見せられても、よくわからないしイメージも沸きづらい。だが樹里の場合は違う。『模型』のスキルを使うことで、村や開拓地のジオラマを作れてしまうからだ。
樹里が精密な模型を作り、染色工場の面子が着色していく。あれよあれよという間に出来上がったのは――村と開拓地の未来を一望できる、大型の立体模型だった。
「しっかし、何度見ても飽きないよなぁ。しかもこんなばかデカいの……樹里はほんとに天才だわ」
「あー、やっと樹里って呼んでくれましたね。わたし、ずっと気にしてたんですよ! ジュリアとか先生とか、もう恥ずかしくて恥ずかしくて」
「先生はアレかもだけど……ジュリアは別にいいだろ?」
「向こうでは顔出ししてなかったもん。実際、顔を見られながら言われると……ね?」
「まあそうなのかもな、知らんけど」
今は樹里とふたりで、ジオラマ展示のために作った専用の建物にいる。天井とそれを支える柱はあるけど、床は土のまま。周囲は吹き抜けで目隠し板もない。例えていうなら、屋外でやってる相撲会場みたいな感じか? これで伝わるかはわからんけど……。
「呼び方はさておいて――もっと大きなのだって作れますよ? いまのところ、わたしの身長までのサイズならいけます!」
「いや、さすがにそんなスケールで作られても置き場所がな……。これでも十分すぎるよ」
「えー、村の模型はこれでもいいけど、せめて街のヤツは作り直したいなぁ。領主館が完成したら、ど真ん中にドドンっと置かせてほしいなぁ」
そんなことを言いながら、上目遣いでチラチラとこちらを見てくる。
あざといのは百も承知。それでもホイホイつられちゃうのが……おっさんという悲しき生き物なんだ。わかってくれる同志もさぞ多いことだろう。
だが、樹里の企みは失敗したようだ。私が「いいねそれ、飾っちゃうか!」なんてはしゃいだところで、背後から無慈悲な声がかかる。
「啓介さん、そんな大きいものは却下です。樹里さんもですよ。当初の計画通りにお願いしますね」
「「あ、はい……」」
椿の一喝により、我々の計画は一瞬で水の泡と化した。
「まぁ……もう少し小さめのでしたら大丈夫でしょうけど。領主館が完成してから、改めて決めましょう。それより啓介さん、そろそろ出発の時間ですよ?」
「あ、もうそんな時間か。ほかのみんなは現地へ行ってるの?」
「はい、あとは私と啓介さんだけですよ。待たせては悪いですし、早く行きましょう」
どうやら、私を呼びに来てくれたらしい。
(それにしては、あまりにも良いタイミングだったが……。いや、まあそういうことなんだろうな)
◇◇◇
樹里と別れを告げ、椿と一緒に転移陣を使って遺跡ダンジョンへと移動する。すぐに視界が晴れると、目の前には馴染の面子が勢ぞろいしていた。
「おっ、やっと主役のご登場かよ」
「遅刻だよ村長ー、どうせまたアレを見てたんでしょ」
「すまんすまん。待たせて悪かったよ」
ついて早々、冬也と夏希から突っ込みが入る。ここにいるのはふたりのほかに、桜と椿、春香と秋穂、そして杏子と勇人。全員が忠誠99の、名実ともに信用のおける日本人メンバーたちだ。
「主役は遅れて登場するといいますしね。啓介さん、僕はそれほど待ってませんよ。いま来たところです」
「勇人……あなた一番に来てたでしょ」
「そういうセリフをサラッと言えちゃうところも、勇者たる資質ってヤツかもねー」
「杏子さんも春香さんも……なかなか手厳しいね。まあ男同士なんだし、いいじゃないですか。って、そんなことより啓介さん、今日の話ってのを教えて下さいよ」
「ああ、じゃあさっそく本題にはいろうか。今日みんなに集まってもらったのはな、日本への帰還が確定した件についてだ」
ここ1週間、みんなにどう説明するかずっと考えていた。もちろん、驚かせてやろうって気持ちもあったが……全員の都合が合わず、今日まで間延びしてたってのが一番の理由である。
ちなみにこの場所を選んだのは、ほかの村人に聞かせないため。とくに兎人は聴力強化もあるし、そのつもりはなくても、聞こえてしまうこともあるだろうしね。
立花や葉月、それに他の日本人メンバーも呼んでない。最後の最後まで迷ったが、事がことだけにやめておいた。その結果、信頼が落ちても仕方がないと割り切ることにしたよ。
「女神さまとの話は以前にしたと思うが……ここから言うことは秘密にしてくれ。勇人には悪いけど、立花と葉月にも内緒だ。忠誠が99になったら話すと伝えてほしい」
「はい、大丈夫です。ある程度は察してると思うし、時が来れば解決しますから」
「そうか、じゃあまずは――」
それからは淡々と、次元門(冷蔵庫)のことや地球への往復ができること、帰還の条件についてを詳しく説明していく。
約束通り、女神の目的については一切話してない。話せてしまえるのかを試すこともやめておいた。
「――私から話せることは以上だ。なにか質問とか要望があれば何でも言ってみてくれ。まあ、答えられるかはわからんけど、次に会ったときの参考にもしたいから遠慮なく頼むよ」
私がそう言うと、真っ先に手を上げたのは冬也だった。
「まずは村長の意思を先に聞きたい。女神を降臨させることは決定事項なのか? それと……日本へ帰るつもりでいるのか?」
「ああ、女神さまについては確定事項だ。降臨すると、色々制限が解除されるからな。話せることも増えると言っていた」
「なるほど……じゃあ万が一だけど、女神がラスボス、なんて可能性はないのか? あ、別に疑ってるわけじゃないぞ。あくまで可能性の話な」
冬也の意見はよくわかる。善人ぶってた女神が実は……みたいなことは、もちろん私も考えた。結局、確実に安全だと思える根拠はなかったが……対処は一応考えてある。
「可能性はゼロじゃないよな。だからもしそうなったら、信仰度を集めないようにするつもりだ。所持してるptは全て特典に交換、教会へも行かないし、しばらく魔物狩りもしない」
「あー、顕現を維持するのに1日1,000pt消費するからか。んで、いったん神界へ戻しちゃうわけだな」
「そうだ。まあでも、顕現した時点で手遅れになるんだったらお手上げだけどな」
「それはどうしようもないよな。――んじゃ、日本への帰還は?」
こっちの問題は結構悩みどころだ。女神の目的にも関連してくるし……さて、どう説明したらいいだろう。
「実は、俺にしか知りえない情報もあってな。話すことは禁じられてるから言えないが……いずれは戻るつもりでいる。ただ、向こうに永住というわけじゃない。日本と異世界を行ったり来たりしようと思ってる」
これでうまく伝わったかは不明だが、いかんせん、こう表現するしかない。
「おっ、ついに主人公感でてきたじゃん。世界の命運は俺が握ってる的なヤツ? やっぱ村長に拾ってもらって良かったわ、これ割とマジで」
「んー、どうだろうな。否定はしないが……まあ俺はそんな感じだ。あくまで今のところは、だけどな」
冬也とのやりとりが途切れたところで、ふと周りを見てみると――
桜と夏希は、かなりのしたり顔でうんうんと頷いている。なにやら良からぬ妄想を膨らませているようだ。
ほとんどのヤツは真剣な顔つきで聞いているが、日本に帰れるのが確定したからか、内心ほっとしているようにも感じていた。
「じゃあ次は私からもいいですか?」
私の意思を伝えたところで、今度は桜が手を上げる。
(彼女は俺なんかよりずっと聡いからな。今後の展開も含めていい案をだしてくれそうだ)




