第132話:ナナシ村、4倍になります。
余裕の態度を見せる8人の冒険者。
そのうちのひとりが剣に手をかけ、引き抜こうとした瞬間――
警備隊による制圧が開始された。
ラドと秋穂が一瞬で詰め寄り、瞬く間に4人を亡き者にする。と同時に残りの4人も、警備隊の手により沈んでいた。たぶん5秒かかってない。たったそれだけの時間ですべてが片付いていた。
門越しにソレを見ていたほかの冒険者たちは、口をあんぐりと開けて立ち尽くしている。目の前で起こった一瞬の出来事に、誰一人として思考が追い付いていないようだ。
(春香のヤツ、門をわざわざ開けてたのはコレを見せるためか)
警備隊の面々は、何事もなかったかのように事後処理をしている。冒険者だった者たちは、門の脇に作ってある大穴に埋められ、丁重に埋葬された――。
「村長、移住希望者の受け入れが完了しました」
「ごくろうさま。椿への引継ぎを頼むよ」
「かしこまりー! ってことで、冒険者のみなさーん。開拓地へようこそっ! 今から統括者のところへ行きますよぉ」
その指示にハッとして動き出す冒険者たち。春香の元へと詰め寄ると、すぐに状況説明を求めていた。要領のいい彼女のことだ。きっと上手に丸め込んでしまうのだろう。
これは後で聞いたことだが、あの8人は街でもかなり有名だったらしい。当然、悪い意味での知名度だけどね……。
パーティのバランスも良く、効率的にレベルを上げてAランクまで成り上がった。ただし素行がすこぶる悪く、ダンジョンの中でも外でも、やりたい放題だった。
そのせいか、彼らが死んだことを気に病む者はひとりもいない。「厄介者がいなくなって街も平和になる」なんて言う冒険者もいた。
なんにしろ、街でどうだったかなんて知ったことじゃない。ここで暴れるようなヤツは村人になれない。ただそれだけだ。
今回の一件により、新たな戦力が増えて警備体制の確認もできた。「早めに経験できて良かったかも」なんて暢気に考えつつ、開拓地はいつもの日常に戻っていった。
◇◇◇
異世界生活330日目-13,750pt
入場門での一件から17日後
あれからというもの――
排除に至るような事件は一度も起きていない。あまりに忠誠度が低すぎて、受入れを拒否した者はいたが……。おおむね穏便な毎日が続いていた。
開拓希望者の数は増え続け、現時点で550人の開拓民を受入れていた。そのうち、めでたく村人になった者が226人。ここ数日は希望者が目減りしているけど、じゅうぶんな成果に満足していた。
移住した者の中には日本人も混じっていて、その割合は1割と言ったところか……。最初に来た香菜たちと、あの事件のときに来た30人がほとんどを占めている。現在、50人ほどが住み着いていた。
ケーモスの街にいる日本人は1,000人程度。果たしてこの数が多いのか少ないのか。問題を起こされては困るし、これくらいがいいのかもしれない。
そんな一方、インフラ整備も順調に進んでいる。約2千人分の長屋を建て終わり、道路や排水路の区画割りもカタチになってきた。
そんなわけで今日からは、本格的な住居を建てる予定だ。と言っても、建てるのはまた長屋なんだけど……。
――開拓地の中心から見て、東西南北の4区画に、それぞれ住宅街を建設する。東の区画にひとり用の住まいを。そのほかの3区画は、家族や仲間内で利用させる予定だ。
これから来るであろう難民の受け入れを考えると、一軒家をのんびり建てるほど余裕はない。だから長屋を建て、人数に合わせて間仕切りをするつもりだ。プライベートを守るため、木材でしっかりと部屋割りをする。
肝心かなめの水源確保は、4区画それぞれに『湧き立つ泉』を設置した。
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<湧き立つ泉:1,000pt>
決して枯れることのない清らかな泉
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ただこの泉、高台には設置できない仕様だった。『斜めに設置して自動水源化』みたいな裏技は使えないようだ。
なにはともあれ、『開拓地のほうは』支障なく運営できている。
◇◇◇
「なあ椿、こんなもんでいいか?」
「いえ、もっと拡げましょう。村人も増えてますし、一気にやったほうがいいと思います」
「じゃあ思い切って拡げよう」
現在、私と椿はナナシ村にいる。村人が予想以上の早さで増え、家を建てるスペースがいよいよ怪しくなってきたのだ。
「今が縦横300mだから……倍の600mにするか。いや待てよ、川と水路に沿って、南北に延ばさないと意味ないか」
「拡張できる敷地はどの程度ですか?」
「10mの道なら38km。正方形なら600mくらいだな」
「でしたら、川を中心にして拡げては? それなら、今ある敷地もそのまま残ります。作った水路も延長する必要ないですしね」
「……なるほど。最終的には、元々あった縦横300m分の敷地が手元に残るってわけだな」
ちょっとわかりづらいかも知れないが……今まで川の西側にあった村が、東側にも、もう1つできる感じだ。そして、南北に150mずつ、さらに広がるイメージをお願いしたい。
南北に流れる川を中心にして、縦横600mで敷地を拡張。川の東にある森が一気に消える。相変わらず、このグワッと広がる瞬間は気持ちがいい。
「よし、このまま固定するぞ」
「私は川の東側を警戒しておきます」
結界の固定をイメージすると、ピタッと点滅が収まる。どうやら問題なく拡張できたようだ。ナナシ村を拡張するのはいつぶりだろうか。
「お疲れさまでした。……にしても広くなりましたね」
「面積は4倍になったからな。これだけあれば当分は平気だろ?」
「はい、農地も思う存分拡張できますし、私もありがたいです」
「しかし拡げたはいいものの……どう開発していこうかな」
現在、川を挟んで西側は、家屋やら畑やらでにぎわっている。それに対して川の東は完全なる更地の状態だ。家を建てるにしても、何をどうすればいいか迷ってしまう。
「――川の西側を家屋と施設に限定して、東側を農業区にするのはどうでしょう。今後敷地を拡げる場合も、必要なほうを大きくすれば……わかりやすいかも?」
「あー、なるほど。完全に分離しちゃうわけか」
「はい。今ある農地は全部潰して、川の東側に作り直しましょう。農民の数もさらに増えましたし、そこまで重労働ではありません」
「そうだな。どのみち農地も拡げないとだし、やるなら今のタイミングがいいかもな」
「作業の割り振りはすべて私がやります。啓介さんは、区画割りの指示だけお願いします」
こうしてナナシ村が大きくなり、次のステージへと移行していく。建設班には申し訳ないが、こっちでも是非頑張ってもらいたい。
「ところで椿、信仰ポイントも貯まって来たしさ。そろそろアレに使っちゃおうかな?」
「んん? 北の鉱山と南の海はいいんですか? 明日、転移の魔法陣を設置しに行くのでは?」
「あ……」
「でも啓介さんの好きなようにして下さい。馬車もありますからね」
「いや――やっぱり魔法陣を先にするよ。うっかり使わなくてよかった……」
「日々の獲得ptも増えましたし、近いうちに選べるといいですね」
「そうだな。毎日楽しみで仕方ないよ」
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<現在の人口>
村 人:380人
開拓民:324人
<1日あたりの獲得pt>
900~980pt
※330日現在の数値
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