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異世界村長【書籍発売中】  作者: 七城
第1部 『異世界村長編』
128/252

第128話:獣人国にもヤツらが……

異世界生活310日目-270pt



 前回の対策会議から4日が過ぎていた。


 あの日以降も、開拓地を訪れる人は後を絶たない。村人が流す噂もどんどん広まり、移住希望者は日に日に増加している。



 そして、『転移の魔法陣』に必要なポイントも貯まり、今日の昼頃、森の入り口にも1つ設置してしてきたところだ。


 ここに置いた理由はふたつ――


 ひとつは、街から来た人が結界に驚き、引き返さないようにするため。もうひとつの理由は、森の入り口にも見張りを置き、不審者や敵対者の報告をさせるためだった。


 移住者の話によると、「様子見で森まで来たものの、やはり心配になって引き返した」、なんて人が結構いたらしい。そんなわけで、案内人としての役割も兼ねている。


 おかげで全然ポイントが貯まらないけど、これも必要な初期投資、そう考えてケチるのはやめた。私は昔から、手に入れたエリクサーをすぐに消費するタイプなのだ。



 そんなこんなで、開拓も順調に進んでいるところに――予期していた事件の報告が飛び込んできた。


 獣人領の西にある2つの領地で、『オークの大発生』が起きたのだ。


 人道的観点からすると、喜ぶべきではないし、被害にあう人には同情もする。オークに殺される人もでるし、たとえ運よく逃げ延びても、あとに待っているのは苦しい生活だけだ。


 しかし、私にとっては人口を増やすチャンスでもある。被害者たちには悪いけど、「苦情や異議の申し立ては、日本帝国やら獣人議会に言ってくれ」って感じだった。



「啓介さんの予想通りになりましたね。帝国と議会の交渉が決裂して40日ですか……思ったより動きが早いです」

「椿もそう思うか。それだけ、北の勇者たちが優秀ってことだろう。――まあ、王国でも一度やってるしね」

「うちの魔法陣もですけど、賢者の持つ転移魔法が便利なのでしょうね」

「行動の早さから見ても、かなり融通の利く魔法なんだろう」

「この先、ほかの領地でも発生するでしょうか」

「んー、今すぐってのは無いかな。しばらくは様子見すると思うよ、知らんけど」


 所かまわずオークが湧けば、自分たち帝国にも影響がでる。相当な愚か者か、絶対的な自信がない限りはそこまでしないはず――。


「どちらにせよ、私たちのやることは変わりません」

「ああ、もうしばらくしたら忙しくなるぞ。今のうちにしっかり準備しとこう」

「はい! ――ところで、今日の晩には発表されるんですよね?」

「うん。志願者も結構いたし、これで盤石の体制になる」




◇◇◇


 その日の夕方――

 夕食を済ませた村人たちが、食堂に勢揃いしていた。村のみんなも、ここに集められた目的はもう知っている。



「今から開拓地の運営について発表する」


 ここ数日、補佐役に決めた3人と話し合いを続け、ひとまずまとめた結果をゆっくりと伝えていく。


「まず、開拓地の呼称だが――しばらくは『開拓地』のままにする」


「だがしかし、この地の安全は大地神さまの恩恵によるものだ。よって、女神の名前がわかり次第、それにあやかり、正式な名称を決定する」


 正直、いい名前が思い浮かばなかった。ひとまず後で変えやすくするために、今回は固有名称をつけない選択をした。



 次に、開拓地のルールについて。


「ひとつ。移住希望者はすべて受け入れる。人種も問わない。ただし、よからぬ能力を所持している者は別だ。その都度対応する」


「ふたつ。開拓地での素行が悪い者、もしくはやる気のない者は、問答無用で排除する。無傷で追放するか、完全に排除するかは、私の権限で執行する」


「みっつ。いかなる場合も、村人でない者には一切の権限を与えない。私にとっては、村人になった者だけがすべてだ。他を守るつもりもないし、何かあれば平気で切り捨てる。――以上だ」


 これはまさしく、完全なる独裁統治だ。


 もちろん、開拓民を奴隷として扱うつもりはない。衣食住の提供もするし、強制労働もさせない。


 それでも移住者のなかには、人権だなんだと主張する者が必ず現れる。そんなヤツらの忠誠はいつまで経っても上がらないからな。開拓地にいてもらう理由はない。


「ここまでで意見のある者は? 提案でも疑問でもなんでもいいぞ。どんな批判だろうと、一切のお咎めはないと約束する」


 しばらくみんなを見渡すが、誰も手を挙げるものはいない。――次の話に移ろうかと思ったとき、勇人が立ち上がり声を発した。


「村長、開拓民が村人になった場合、その全員をナナシ村に移す予定ですか?」

「いや、そのまま開拓地に住んでもいい。ただその場合、村ボーナスの恩恵は受けられないけどな」

「じゃあ、いま村に住んでる人が開拓地に引っ越したり、戻って来たりするのは可能ですか?」

「当然だ。村人は自由にしていいぞ。さすがに、事前の申出はしてもらうけどな」

「わかりました。僕からは以上です」


(勇人のヤツ、自分はたいして知りたい情報でもないのに……たぶん、ほかに気を使って聞いたんだな)


 案の定、気に入ったほうで生活できるとわかり、結構な数の村人が笑顔になっていた。いずれ発展していけば、開拓地に住みたくなるかもな。

 

 他の意見もないようなので、議題を次に移行する。


「よし次は、部署と人選について発表する。――ああ、そうだ。先に言っておくけど、今回の人選が絶対じゃない。今後、自分の希望があれば遠慮なく伝えてくれ。積極的に登用するし、配置換えも可能だ。今回のはあくまで暫定だからな」


 そう前置きをしてから、開拓地の管理部門と担当者を発表していった。


 情報量が多いので、一覧表を張り出し、それを見ながらみんなに伝えていく。



「最初は開拓地の代表だが、これは当面、私がやるよ。ただし、開拓が進み、街や国の規模になる前には、村の誰かにやってもらう予定だ。誰にするかはそのときに決めよう」


 そう説明すると、ほとんどの人が私を推してくるが……丁重にお断りした。


 これについては、無責任だと思われてもかまわない。最悪、誰かに乗っ取られようがどうでもいいのだ。「村人を増やすこと」、それだけが唯一の目的だからだ。


「次に、各部署の責任者と担当者を発表する。一覧表に書かれているものは前に出てきてくれ。まずは『補佐官』の3名からだ」


 便宜上『補佐官』と呼んでいるが、実質、開拓地を運営する総責任者たちだ。余程のことがない限り、3人の裁量ですべてを決めさせる。



 この3名は、いわば私の分身といってもいい。信頼と対応力、そのどちらも兼ね備えた人材だと自負している。他の部署の責任者もそうだが、「コイツらに裏切られるなら、まあしょうがない。諦めて死んでもいいか」と思えるほどにはどっぷり信用している。

 

 その選ばれた者がスッと立ち上がり――


 自信に満ちた表情で壇上へ上がった。




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