第125話:領主との面談
ドラゴとマリアも戻り、軽い昼食を摂ったあとに領主館へと向かった。
領主館は、街の中心から少し北へ行ったところにあるらしい。意外と近かったみたいで、馬車に揺られること10分ほどで到着した。
目に映るのは巨大な門と広い庭園、その奥には洋風建築っぽいお屋敷がある。外壁も堅牢なつくりだし、有事の際の避難所としても機能しそうだ。
馬車に乗ったままのメリナードが門番に話しかけると、すぐさま門扉が開かれる。事前に通達されているようだ。
「おい! お前たち何者だ!」「乗車したままとは、なんたる非礼!」みたいなやり取りを期待したが、現実にはそんなことあるわけがない。そんなイベントは、物語の主人公だけが楽しめる特権なのだ。
そのままお屋敷の前まで進んでいくと――
館の入り口には、執事やメイドが列をなしている。扉の前には領主と思わしき人物が出迎えていた。
(ほえー、実際に見るとこんな感じなのか。みんなビシッとしてるし、ちょっと緊張してきた……あ、尿意が……)
「啓介殿、はじめまして。ケーモスの領主ウルフォクスです。本日はお越しくださり感謝します」
「ナナシ村の村長、啓介と申します。領主様にお会いできて光栄です。なにぶん礼儀作法に疎い身ですが、どうかご容赦ください」
てっきり、最初の挨拶はドラゴにするだろうと思ったが……割とまともそうな人だった。話口調も丁寧だし、かしこまりすぎず威圧感も表にださない。
(しかしウルフォクスって……ウルフ(狼)なのかフォックス(狐)なのか。どっちなんだ? 耳やしっぽを見ると、狼人ぽいけど)
鑑定の結果、種族は狼人の26歳。レベルは45で身体強化Lv4のスキル所持者だった。
「ドラゴ様、マリア様、おひさしぶりです」
「うむ、すっかり領主の顔になりおったの。推挙した儂もひと安心じゃ」
「あなたのアレは推挙って言わないわ。強引にねじ込んだじゃないっ」
「ククッ、まあいいではないか。さあルクス、案内してくれ」
「はい、それではみなさんこちらへ」
なんのこっちゃと思ったら――
ドラゴが退任する少し前、ケーモス領主を独断で入替えたらしい。このルクスと言う人物、もとはドラゴの側近だったようだ。 領主の鞍替えなんて、そうそう出来るもんじゃないはず。「議長時代のドラゴは凄かったんだな」と、今さらながら感心していた。
(おとといの駄々っ子ちゃん劇場。アレを見たあとだからな……ギャップがあり過ぎるわっ)
貴賓室に場所を移した私たちは、高そうなお茶を飲みながら会話を始めていた。この場には、私たちと領主のほかに誰もいない。領主自ら人払いをさせている。
「改めて、今日は来てくれて助かりました。なにせ、議会からの圧力が凄いものでして……。ああそれと、この場でかしこまる必要はありませんよ。村長の人柄はドラゴ様から聞いております。普段通りでかまいません」
「そうでしたか。ドラゴさんとお知り合いだったとは、いま初めて耳にしました」
一瞬言葉に詰まりながら、すかさずドラゴに念話を飛ばす。
『なあドラゴ、こういうことなら先に言っといてよ。無駄に緊張してたんだぞ?』
『クククッ、すまんすまん。ヘタに話すと、情がでるかもと考えてのぉ。儂の知り合いだからと遠慮はいらん。村長の好きなように対処せい』
『そうは言うけどさぁ……。まあいいや、そうさせてもらうよ』
ドラゴは面白半分という感じで笑っている。と、念話を聞いていたメリナードが続いて話しかけていた。
『村長。その様子ですと、領主が交代したのも知らなかったようですね』
『ああ知らなかった。もしかして俺、メリナードに聞いてた?』
『はい、私の名誉のために言わせて頂きますが、交代してすぐにお知らせしましたからね?』
『うわ、マジかよ……』
いかんいかん、こうしているうちにも相手がなにかを話している。今はこっちに集中しないと……。
「――というわけで、食糧の供給量を増やして欲しいとなったんです」
「なるほど……。ところで、以前メリー商会の購入した奴隷を徴収された件。あれは領主様の指示ですか?」
「……はい、その通りです。議会からの命令とはいえ、直接指示をだしたのは私です。本当に申し訳ない」
「どんな命令だったか詳しく聞かせてください」
「ええ、実は――」
そのあと領主が語ったのは次のような内容だった。
・オーク発生からしばらくして、農奴にするための奴隷を全て購入するよう、全ての領主に向けて通達された。その対象は、国民が保有するものも含んでいる。
・購入奴隷の数を報告する義務があり、虚偽の報告は不可能だった。(街にいる真偽眼スキル所持者による監査あり)
・集めた奴隷は、5つの主要都市に分配されて農奴にされた。
「そういうことでしたか。ちなみに、商会から無理やり徴収したのはなぜです?」
「ご存じかも知れませんが、この街は隆之介のお膝元です。影響力も強く、私は当然として、メリー商会にも監視の目がついています」
「たしかに、ほかと同じように扱わないと怪しまれる。あとで使者を送るのも足がつきそうですね」
「ええ、どこで誰が聞いてるか……。隆之介には特殊なスキルがある、と聞いてますしね」
一応、話の筋は通っている。それにこの領主はドラゴのお抱えだ。あとは、隆之介に操られてないかを確認したいが……。
「失礼ですが、領主様の言葉を全て信用するわけにはいきません」
「……そうでしょうね」
「ですので、2つ確認させてください」
「確認ですか? いえ、それで信用が得られるならお願いします」
「ではまず、これを首にかけてください」
そう言いながら『結界のネックレス』を手渡した。
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『結界のネックレス』
結界宝珠をはめ込んだ希少なネックレス
身に着けることで以下の効果を発動する
・認識外の攻撃を弾く結界を展開
(物理攻撃、魔法攻撃、状態異常攻撃)
※結界発動中は宝珠に内蔵する魔素を消費
※村内の魔素を吸収して再充填可能
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仮に洗脳系スキルにかかってるとして、だ。
これで洗脳状態を解除できるかは不明だが、『認識外の攻撃』って解釈するなら有効かもしれない。本人に洗脳の自覚はないだろうからな。
首に下げた状態でしばらく様子を見たが、ネックレスに反応はないし、領主本人の変化もなかった。
「とくに変化はないようですね」
「え? これで終わりですか?」
「はい、ひとつ目の確認はおわりました」
「……そうですか。わかりました」
不思議そうな顔の領主。彼に向かって次の確認をしていく。
「では領主様、次は村人になっていただきます」
「村人? え、どういうこと?」




