第122話:村長の決意表明
異世界生活288日目-信仰度:1032pt
勇人たちが村にきて15日が経過
「それではみなさん、村長が今後について話されます。聞き逃すことのないようお願いしますね」
いまこの食堂には、総勢153名の村人が集合している。遺跡ダンジョンに遠征していた者や街にいた商会のメンバーも含めて全員がだ。
――今から5日前、『転移の魔法陣』を村に設置したあと、結界を解除しながら遺跡のダンジョンへと向かった。信仰ptも順調に増え続け、遺跡へ到着する頃には、もう1つ分の魔法陣も難なく設置することができた。
ありがたいことに、『転移の魔法陣』の構造はとてもわかりやすかった。なにせ、ダンジョンにある転移陣とカタチも使い方も同じだったからだ。魔法陣の中央に黒光りした石柱があり、それに触れると発動する。
今後、いろんな場所に設置すれば、石柱に触れたときに複数の行き先が浮かぶのだろう。実際に利用してみた感想は言うまでもない。
(でもあえて言っちゃう。最っ高だ!)
ただし、物資は転送できなかった。装備や手荷物はいいけど、床に置いた資材や馬車なんかは無理だった。まあそれも、空間収納に入れてしまえば問題ないけどね。あと、馬は転移できたので生き物なら大丈夫みたい。
そんなわけで――。今日は全員を集めて、今後の行動計画を発表するところだった。
「集まってくれてありがとう。いまから今後のことを話すんだけど……まずはひとつ、宣言したいことがあるんだ」
全員が私に注目しており、声を発する者は誰一人いない。いつもヤジを飛ばしてくるあのルドルグですら、今日は非常に真面目な顔をしている。
「女神の特典については、ここにいる全員が知ってると思う。そこの掲示板にも張り出してあるしね。――んでこれ、いろんなのがあるけどさ……どれをどう選ぶかは、私の好きなようにする」
そう宣言しても、見る限りでは誰も表情を変えていない。
「もちろん、意見やアドバイスはどんどん言ってくれ。私もぜひ参考にしたい。ただ――最後は私が決める。村のためじゃなく、私の趣味全開で選びたい……んだけど……どう?」
突然「どう?」と問われて、ざわめきが聞こえる。最後が曖昧な表現になってしまい、村人たちもどう答えたらいいか迷っているようだ。
「情けねぇな村長、どうせなら最後まで言い切れよなぁ……。心配しなくても、村長に不満があるヤツなんてひとりもいねぇよ。なぁみんな!」
そう言いながら冬也が席を立つと……それに続けて日本人メンバーが……さらにほかの村人全員が次々と立ち上がる。
「ほれみろっ。忘れてるのか知らんけど、うちの村には忠誠度があるんだぞ? そもそも、不満があるヤツはこの場にいないっての」
「……そりゃそうだよな。みんなもありがとう、座ってくれ」
言われてみればその通りだ。自分で忠誠度を設定し、石橋を叩いてここまで来たんだった。
「よしっ、それじゃあ方針を話すぞ。私がやりたいのは大まかに3つだ」
ひとつ、『教会へは毎日いこう』
ふたつ、『食糧をありったけ貯め込もう』
みっつ、『大森林のど真ん中に大きな街を作ろう』
子どもたちにも伝わるように、わかりやすくしたつもりなんだが……それに対するみんなの反応は、
「なあ、今までとあんまり変わらなくね?」
「でも、街を作るのは新しいんじゃない?」
「そうだけどさ、なんか普通すぎない?」
「まあ、驚きはないわね」
「おれ、もっと残忍なことでもするのかと思ってた」
「あーそれな。オレたちも昨日話してたよ。重大発表があるって聞いたからさ。結構びびってたんだけど……なんか、拍子抜け? みたいな?」
あまり驚いていない。どころか……普通とか拍子抜けなんて言われる始末。見るに見かねた椿が、騒いでいるみんなに声を掛ける。
「んんっ、皆さんお静かにー。村長が続きを話されますよー」
「あー、なんていうか。まああれだ。具体的なことを説明するから聞いてくれ」
いまいち盛り上がりに欠けるなか、詳しい内容を話していった。
<教会へは毎日いこう>
これは文字通りだ。少しでも多くの信仰度を稼ぐために、1日1回お祈りをすること。これだけで毎日150ptは獲得できるのだから、ぜひ協力してほしい。
<食糧をありったけ貯め込もう>
こっちは次の方針とも関連してくるが、いずれ出てくるであろう難民の受け入れ用だ。豊潤な食糧を提供して忠誠度を上げる狙いがある。決して、難民の救助とか人道的な支援が目的じゃない。簡単に言えば、食べ物で釣って村人を増やそうって魂胆だ。
<大森林のど真ん中に大きな街を作ろう>
最後に、これが一番の肝だ。
私の予想だと、そのうち獣人領でもオークが大量発生するだろう。議会が奴隷の解放を拒否した時点で、帝国はすぐに次の一手を打ったはず。
そこで一番お手軽なのは――王国でやったみたいに、ダンジョンを解放してオークに暴れさせることだ。
『自分の手は汚さずに多くの人を殺す』
この行為は非道だし外道だと思う。ただ、自国の被害は一切ないまま敵国の戦力だけを減らせる。ある意味もっとも冴えたやり方とも言える。
ってわけで、今のうちから受け入れ地を作ろうという計画だ。
さっきは「大きな街を」と言ったけど、なにも最初からそれを作る必要はない。難民が集まった結果、村人になれなかった者たちが住み着き、勝手に大きくすればいい。そのうち、忠誠度が上がるヤツもでてくるだろうし、一石二鳥だ。
食糧や水の支援、雨風がしのげる簡易の長屋、衣服や開拓道具を支給してやれば十分だろう。街に避難した結果、食べ物や寝る場所に困り、いずれ野垂れ死ぬよりは全然マシだろう。
――と、説明の途中で桜から質問が飛んできた。
「啓介さん、その街ってどのあたりに作る予定なんです?」
「いろいろ考えたんだが、ラドたちの集落がある場所にする」
「その理由を聞かせてもらえますか」
「そうだな。じゃあ手順も含めて話すよ。それでいい?」
「もちろんです。そのほうが助かります」
1.街のほうにある平原から森に少し入った位置に、北の大山脈から南の海岸までを結界で完全に塞ぐ。こうすることで、現地に湧く魔物以外は、誰も侵入できなくなる。
ちなみに、交易路がある場所だけは、唯一の入り口として結界を開けておく。
2.森の入り口から元集落までの交易路。この交易路の両サイドに結界を張る。交易路の幅は4mだから、万が一大軍勢が押し寄せてきても、進行は極端に遅くなるし、広域展開もできない。
しかも、軍勢が交易路で停滞しているうちに、両サイドの結界内から好きなように蹂躙できる。
3.街(予定地)の入口に検問所を作る。いずれはここに兵舎と『女神の水晶像』を置いて、難民のステータス確認と住民登録をする。
4.最後に、村人になれる人を定期的に確認して、忠誠度を満たした者をナナシ村に移住させる。
「――なるほど、大体わかりました。結構良さそうな感じですね。ただ……日本人の難民が来た場合、どうします?」
「厄介なスキル持ち以外は受け入れる。ただし、反抗したり態度の悪いものは問答無用で排除だ」
「ふむふむ……ちなみに排除って、文字通り排除ですか?」
「ああ、完全に消えてもらう。そこだけは絶対に妥協しないぞ」
「私も賛成です。最初の頃にあった襲撃を思うと、同じ日本人が一番危険ですもんね」
これに関しては、ほかの日本人メンバーも獣人たちも、全員が同意していた。日本人に痛い目みてる人も多いし、当然の結果だろう。
「村長、私からもよろしいでしょうか」
「メリナードか。なんでも聞いてくれ」
「開拓初期のうちは良いとして、ある程度人口が増えた場合、街を管理する者が必要となりましょう。その者の選出はどう考えていますか」
「これから志願者を募るつもりだよ。最悪、私がやってもいいが、出来ればみんなに任せたい」
「なるほど、承知しました」
「まあ、難民が出ればの前提だけどな」
「予想がはずれたとしても、無駄にはなりませんよ。使い道はいくらでもあります」
「ああ、私もそう思ってるよ」
その他にも、ケーモスの街や南の海、北の鉱山や東のダンジョンへも『転移の魔法陣』を設置する予定であること。タイミングを見て、街との食糧取引を中止することなどを説明していった。
「まあ、今日のところはこれくらいで――。あとは周りの動向を見ながら決めていく。みんなもそのつもりで頼む」
すると、今度は盛大な拍手が食堂に響いていた。
誰も私の方針に反対する者は誰もいない。これも今日まで、忠誠度を妥協せず守り通した結果だ。他人から見れば「お前は独裁者だ!」って叩かれるんだろうけど、好きに言わせておけばいい。
この小さな村で独裁を気取っているくらいが私の性に合ってる。たまたま貰ったスキルのおかげだとしてもだ。
「さて、今日はこのまま休日にしようか。明日からはみんなに頑張ってもらうからよろしく!」
「「「おおー!」」」
話も終わったところで閉会を宣言する。
「よっしゃ! 長の話も終わったみてぇだし、おめぇら飲むぞっ」
「ルドルグさん、途中からずっとソワソワしてたもんなぁ」
「いやぁ、よく我慢してたよ。なあ爺さん?」
「うるせぇ! 文句あるヤツは飲ませんぞっ」
「ルド爺のお酒じゃないでしょ! ねえ村長、なんか言ってやってよー」
「まあいいんじゃないか? 明日からコキ使う予定だし、今日が最後の酒かもよ?」
「おいっ、そりゃねぇぞ……せめて毎日一杯、いや二杯だけでもよぉ」
賑やかな宴会を眺めつつ、明日からの開拓計画を練りこんでいくおっさんであった。




