表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界村長【書籍発売中】  作者: 七城
第1部 『異世界村長編』
122/252

第122話:村長の決意表明

異世界生活288日目-信仰度:1032pt

 勇人たちが村にきて15日が経過


「それではみなさん、村長が今後について話されます。聞き逃すことのないようお願いしますね」


 いまこの食堂には、総勢153名の村人が集合している。遺跡ダンジョンに遠征していた者や街にいた商会のメンバーも含めて全員がだ。



 ――今から5日前、『転移の魔法陣』を村に設置したあと、結界を解除しながら遺跡のダンジョンへと向かった。信仰ptも順調に増え続け、遺跡へ到着する頃には、もう1つ分の魔法陣も難なく設置することができた。


 ありがたいことに、『転移の魔法陣』の構造はとてもわかりやすかった。なにせ、ダンジョンにある転移陣とカタチも使い方も同じだったからだ。魔法陣の中央に黒光りした石柱があり、それに触れると発動する。


 今後、いろんな場所に設置すれば、石柱に触れたときに複数の行き先が浮かぶのだろう。実際に利用してみた感想は言うまでもない。


(でもあえて言っちゃう。最っ高だ!)


 ただし、物資は転送できなかった。装備や手荷物はいいけど、床に置いた資材や馬車なんかは無理だった。まあそれも、空間収納に入れてしまえば問題ないけどね。あと、馬は転移できたので生き物なら大丈夫みたい。



 そんなわけで――。今日は全員を集めて、今後の行動計画を発表するところだった。


 

「集まってくれてありがとう。いまから今後のことを話すんだけど……まずはひとつ、宣言したいことがあるんだ」


 全員が私に注目しており、声を発する者は誰一人いない。いつもヤジを飛ばしてくるあのルドルグですら、今日は非常に真面目な顔をしている。


「女神の特典については、ここにいる全員が知ってると思う。そこの掲示板にも張り出してあるしね。――んでこれ、いろんなのがあるけどさ……どれをどう選ぶかは、私の好きなようにする」


 そう宣言しても、見る限りでは誰も表情を変えていない。


「もちろん、意見やアドバイスはどんどん言ってくれ。私もぜひ参考にしたい。ただ――最後は私が決める。村のためじゃなく、私の趣味全開で選びたい……んだけど……どう?」


 突然「どう?」と問われて、ざわめきが聞こえる。最後が曖昧な表現になってしまい、村人たちもどう答えたらいいか迷っているようだ。


「情けねぇな村長、どうせなら最後まで言い切れよなぁ……。心配しなくても、村長に不満があるヤツなんてひとりもいねぇよ。なぁみんな!」


 そう言いながら冬也が席を立つと……それに続けて日本人メンバーが……さらにほかの村人全員が次々と立ち上がる。


「ほれみろっ。忘れてるのか知らんけど、うちの村には忠誠度があるんだぞ? そもそも、不満があるヤツはこの場にいないっての」

「……そりゃそうだよな。みんなもありがとう、座ってくれ」


 言われてみればその通りだ。自分で忠誠度を設定し、石橋を叩いてここまで来たんだった。


「よしっ、それじゃあ方針を話すぞ。私がやりたいのは大まかに3つだ」


ひとつ、『教会へは毎日いこう』

ふたつ、『食糧をありったけ貯め込もう』 

みっつ、『大森林のど真ん中に大きな街を作ろう』


 子どもたちにも伝わるように、わかりやすくしたつもりなんだが……それに対するみんなの反応は、


「なあ、今までとあんまり変わらなくね?」

「でも、街を作るのは新しいんじゃない?」

「そうだけどさ、なんか普通すぎない?」

「まあ、驚きはないわね」

「おれ、もっと残忍なことでもするのかと思ってた」

「あーそれな。オレたちも昨日話してたよ。重大発表があるって聞いたからさ。結構びびってたんだけど……なんか、拍子抜け? みたいな?」


 あまり驚いていない。どころか……普通とか拍子抜けなんて言われる始末。見るに見かねた椿が、騒いでいるみんなに声を掛ける。


「んんっ、皆さんお静かにー。村長が続きを話されますよー」


「あー、なんていうか。まああれだ。具体的なことを説明するから聞いてくれ」


 いまいち盛り上がりに欠けるなか、詳しい内容を話していった。



<教会へは毎日いこう>


 これは文字通りだ。少しでも多くの信仰度を稼ぐために、1日1回お祈りをすること。これだけで毎日150ptは獲得できるのだから、ぜひ協力してほしい。



<食糧をありったけ貯め込もう>


 こっちは次の方針とも関連してくるが、いずれ出てくるであろう難民の受け入れ用だ。豊潤な食糧を提供して忠誠度を上げる狙いがある。決して、難民の救助とか人道的な支援が目的じゃない。簡単に言えば、食べ物で釣って村人を増やそうって魂胆だ。



<大森林のど真ん中に大きな街を作ろう>


 最後に、これが一番の肝だ。

 私の予想だと、そのうち獣人領でもオークが大量発生するだろう。議会が奴隷の解放を拒否した時点で、帝国はすぐに次の一手を打ったはず。


 そこで一番お手軽なのは――王国でやったみたいに、ダンジョンを解放してオークに暴れさせることだ。


『自分の手は汚さずに多くの人を殺す』


 この行為は非道だし外道だと思う。ただ、自国の被害は一切ないまま敵国の戦力だけを減らせる。ある意味もっとも冴えたやり方とも言える。

 

 ってわけで、今のうちから受け入れ地を作ろうという計画だ。


 さっきは「大きな街を」と言ったけど、なにも最初からそれを作る必要はない。難民が集まった結果、村人になれなかった者たちが住み着き、勝手に大きくすればいい。そのうち、忠誠度が上がるヤツもでてくるだろうし、一石二鳥だ。


 食糧や水の支援、雨風がしのげる簡易の長屋、衣服や開拓道具を支給してやれば十分だろう。街に避難した結果、食べ物や寝る場所に困り、いずれ野垂れ死ぬよりは全然マシだろう。


 ――と、説明の途中で桜から質問が飛んできた。


「啓介さん、その街ってどのあたりに作る予定なんです?」

「いろいろ考えたんだが、ラドたちの集落がある場所にする」

「その理由を聞かせてもらえますか」

「そうだな。じゃあ手順も含めて話すよ。それでいい?」

「もちろんです。そのほうが助かります」



1.街のほうにある平原から森に少し入った位置に、北の大山脈から南の海岸までを結界で完全に塞ぐ。こうすることで、現地に湧く魔物以外は、誰も侵入できなくなる。

 ちなみに、交易路がある場所だけは、唯一の入り口として結界を開けておく。


2.森の入り口から元集落までの交易路。この交易路の両サイドに結界を張る。交易路の幅は4mだから、万が一大軍勢が押し寄せてきても、進行は極端に遅くなるし、広域展開もできない。

 しかも、軍勢が交易路で停滞しているうちに、両サイドの結界内から好きなように蹂躙できる。


3.街(予定地)の入口に検問所を作る。いずれはここに兵舎と『女神の水晶像』を置いて、難民のステータス確認と住民登録をする。


4.最後に、村人になれる人を定期的に確認して、忠誠度を満たした者をナナシ村に移住させる。



「――なるほど、大体わかりました。結構良さそうな感じですね。ただ……日本人の難民が来た場合、どうします?」

「厄介なスキル持ち以外は受け入れる。ただし、反抗したり態度の悪いものは問答無用で排除だ」

「ふむふむ……ちなみに排除って、文字通り排除ですか?」

「ああ、完全に消えてもらう。そこだけは絶対に妥協しないぞ」

「私も賛成です。最初の頃にあった襲撃を思うと、同じ日本人が一番危険ですもんね」


 これに関しては、ほかの日本人メンバーも獣人たちも、全員が同意していた。日本人に痛い目みてる人も多いし、当然の結果だろう。


「村長、私からもよろしいでしょうか」

「メリナードか。なんでも聞いてくれ」

「開拓初期のうちは良いとして、ある程度人口が増えた場合、街を管理する者が必要となりましょう。その者の選出はどう考えていますか」

「これから志願者を募るつもりだよ。最悪、私がやってもいいが、出来ればみんなに任せたい」

「なるほど、承知しました」

「まあ、難民が出ればの前提だけどな」

「予想がはずれたとしても、無駄にはなりませんよ。使い道はいくらでもあります」

「ああ、私もそう思ってるよ」


 その他にも、ケーモスの街や南の海、北の鉱山や東のダンジョンへも『転移の魔法陣』を設置する予定であること。タイミングを見て、街との食糧取引を中止することなどを説明していった。



「まあ、今日のところはこれくらいで――。あとは周りの動向を見ながら決めていく。みんなもそのつもりで頼む」


 すると、今度は盛大な拍手が食堂に響いていた。


 誰も私の方針に反対する者は誰もいない。これも今日まで、忠誠度を妥協せず守り通した結果だ。他人から見れば「お前は独裁者だ!」って叩かれるんだろうけど、好きに言わせておけばいい。


 この小さな村で独裁を気取っているくらいが私の性に合ってる。たまたま貰ったスキルのおかげだとしてもだ。


「さて、今日はこのまま休日にしようか。明日からはみんなに頑張ってもらうからよろしく!」

「「「おおー!」」」


 話も終わったところで閉会を宣言する。


「よっしゃ! 長の話も終わったみてぇだし、おめぇら飲むぞっ」

「ルドルグさん、途中からずっとソワソワしてたもんなぁ」

「いやぁ、よく我慢してたよ。なあ爺さん?」 

「うるせぇ! 文句あるヤツは飲ませんぞっ」

「ルド爺のお酒じゃないでしょ! ねえ村長、なんか言ってやってよー」

「まあいいんじゃないか? 明日からコキ使う予定だし、今日が最後の酒かもよ?」

「おいっ、そりゃねぇぞ……せめて毎日一杯、いや二杯だけでもよぉ」


 賑やかな宴会を眺めつつ、明日からの開拓計画を練りこんでいくおっさんであった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ