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異世界村長【書籍発売中】  作者: 七城
第1部 『異世界村長編』
120/252

第120話:穴の開いた下着

異世界生活273日目-信仰度340pt



 翌日、予定通りに昼一番で馬車に乗り込んだ。『隠密』なんかのスキル持ちに見張られていない限りは、たぶん誰にもバレずに門をくぐれたはず――。


 そもそも脱走するわけじゃないのでバレてもいい。これはただの意地悪。隆之介派閥のヤツらを困らせるのが目的だ。


 急に勇者が消え去れば、多少なりとも混乱するし、探し回るだろうからね。「ざまぁ」には程遠いが、せめてもの抵抗にはなるんじゃなかろうか。



 とまあそんなわけで、


 街を出た後はのんびりと馬車に揺られている。私と椿が御者台に乗り、気楽な会話をしながら村へと向かっている最中だった。



「啓介さん、信仰ポイントはどうでした?」

「昨日一日で260pt増えてた。意外と多くて驚いたよ」

「村に帰ったら集計作業を再開しますね」

「ああ、助かるよ」


 信仰ポイントの獲得については、なるべく正確に把握しておきたいところだ。


「ところでさ。椿はどれを取得したらいいと思う?」

「んー、それなんですけど……自分の好きなようにやってください。たぶん、人の意見は聞かないほうがいいと思います」

「それはなぜ?」

「啓介さん、今すごくワクワクしてるでしょ? でも人の意見に左右されると、どんどん面白みが減ります。ポイントだって無制限に入手できるか不明ですしね」


 たしかに、かつてないほどに高揚している。だけど自分だけの都合で決めていいものだろうか……そんな迷いもあり、椿に問いかける。


「俺の好きにしていいってこと?」

「はい、好きな特典を選んで下さい。信仰度を得る手段も、啓介さんの好きなようにやってほしいです」

「えげつない手段をとるかもよ?」

「構いません、私たちはその選択に従いますから。――そろそろ啓介さんも、異世界ファンタジーを満喫しちゃいましょう?」

「それでいいのかな……?」

「いいんです。それに啓介さん、いつも言ってるじゃないですか。村に害がない限り、好きなようにやれって」

「そっか……やって、いいのか。……っよし、やっちゃうか!」

「はい、やっちゃいましょう!」


 こうして私は、魔王への第一歩を踏み出すのであった。勇者を仲間にしたばかりだというのに……。

 ――なんて冗談はさておき、好きなようにやらせてもらおうと思う。世界を牛耳る予定はないけど、信仰ポイントはたくさん欲しい。




◇◇◇


 森の端から村までの結界を解除しながら、無事に村へと帰還した。

 

 オークが侵入してくる気配も全然ないし、奴隷も購入できない。こんな状態で結界があっても意味がないからだ。拡張できる余力もなかったからちょうどいい。


 これで30km分の結界がいつでも張れるようになった。面積に換算すると550m×550mの敷地だ。これだけあれば当分は困らないだろう。



「みんなー、帰ってきたよー!」


 村に到着すると、夏希が村の人たちに声をかけていた。なぜか続々と押し寄せてくる村の女性陣……。まるで夏希の帰還を待ちわびていたかのようだった。


 食堂の入り口に馬車を止めると、荷台にいたみんなが一斉に降りだし、街で購入した品物を運んでいく。勇人が空間収納から荷物を取り出すと、立花と葉月がそれを並べていた。


「あ、勇人さんソレはこっちに出してね。どんどん並べちゃって!」

「うん、ここでいいかな夏希ちゃん。あっ、ちょっとまっ」


 なるほど、あの大量の買い物は女性陣の下着だったのか。まだ並べ終えてないうちから、バーゲンセールが始まっていた。近くにいた勇人の姿はもう見えない……押し寄せる女性陣に埋もれ、完全に押しつぶされていた。


(これも勇者補正のひとつ、ラッキースケベの一種なんだろうか)


「椿、昨日見せてくれた『穴の開いてる』下着。あれって、獣人の尻尾用だったんだね……」

「ふふっ。メリナードさんには頼みにくかったし、この機会に色々購入してきました」

「いやいいんだ。用途がわかって安心したよ……他意はない」


 隣でニヤニヤしている椿をよそに、そっとこの場を離れることにした。



 夕飯の準備ができる頃には、女戦士たちの姿もなくなり、戦場(食堂)には敗北した勇者だけがとり残されていた。まさか勇人も、こんなことで『超回復』を発動するとは思いもしなかっただろう。


 結局そのまま歓迎会へとなだれ込み、新たな村人の来訪をみんなで祝っていた。


 三人が勇者や剣聖、聖女であることを明かしても、それを気にするようなヤツは誰もいない。ナナシ村にくれば、勇者だろうと議長だろうと、ただの村人なのだ。


「勇人、来て早々災難だったな。いや……ラッキーだったのか?」

「勘弁してくださいよ。危うく窒息するところだったんです……」

「あれ? 勇人の状態異常無効って、窒息にも効くのか?」

「どうなんだろう……って、絶対試しませんよ!」

「まあなんにせよ――ナナシ村へようこそ。しばらくゆっくりしたら、レベル上げにでも励んでくれ」

「はいっ、先ほどラドさんに挨拶してきました。さっそく明日から連れてってもらう予定です!」

「パーティー編成なんかはラドに一任してある。指示にはしっかり従うようにな」

「もちろんです。――それにしても、ここに来てからすごく気分が落ち着きます。これも女神さまの加護なんでしょうか」

「んー、気兼ねなく暮らせる場所を見つけたから?」

「ああたしかに、ここなら何の妨害もありませんしね。誰からの悪意も感じません」

「へぇ。俺にはよくわからんが……勇人の『直感』がそういってるなら間違いなさそうだ」


 勇人はコミュ力も高いみたいで、歓迎会が始まってすぐ、いろんな人に話しかけていた。村人からの受けも良く、とくに女性の人気が高い。勇人に寄り添って回る葉月は、「妻の葉月です!」と、ここぞとばかりにアピールしていて微笑ましかった。


 そんな一方、剣聖の立花はというと……ベリトアとベアーズを捕まえて剣の注文をしていた。


 テーブルに頭を擦り付け、「名工のおふたりに是非とも!」と、懇願している始末だ。鍛冶士のふたりもまんざらではなく、二つ返事で引き受けていた。



「あ、勇人。これだけは念を押しておく」

「啓介さん……? 急に真剣な顔してどうしたんですか?」

「おまえのスキルで『勇者の一撃』ってのがあるだろ? 山をも消し去るってヤツ」

「はい、最近覚えたものですね。まだ一度も使ってませんけど」

「アレな……。大山脈には絶対に、マジで使うなよ。使えば竜が飛んできて殺されるからな」

「え……この世界には竜がいるんですか?」

「ああ、竜人族が言ってたから間違いない」

「竜の怒りに触れるってことですか……」

「そうだ。500年前にいた勇者たちは、それをやらかして殺されたらしい。んで、消された山の跡地がここだ」


 私が真剣な表情で語るもんだから、勇人もかなり緊張している。ヘタにぶっ放されて村が消滅してはかなわん。これだけは執拗に釘を刺しておいた。


「あの、僕って……ここにいて大丈夫なんですか? 勇者ってだけで殺されたりしませんよね?」

「竜は基本、俗世とは不干渉らしい。賢者の杏子がいても問題なかったし、大山脈に手を出さなきゃ大丈夫だ――。たぶん」

「たぶん? 今、たぶんって言いましたよね!」

「言ってない」

「はぁ……不安になってきた。山には近づかないようにしよ……」

「とにかく、だ。『勇者の一撃』はしばらく封印してくれ」

「わかりました。ここでは絶対使いません」



 話は全然変わるけど――、


 信仰度の獲得基準について、また一つ判明した。教会へ祈りを捧げる毎に『1pt』増えることがわかったのだ。


 ただし、一日のうちに同じ人が何度祈ってもダメ、あくまで一日一回の制限がある。とはいえ、村の人口は153人もいるのだ。遠征組は無理でも、全員が毎日祈れば結構なポイントを獲得できる。


 これで村の人口が千人とか5千人に増えたら……敷地増やし放題、転移し放題だ。みんなにも説明をして協力を仰ぐことになりそうだ。


「強制的に祈らせるとは何事ですか!」と、女神のお叱りを受けそうだが……そこはぜひ赦してほしい。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 椿が穴の空いた下着を個人用に確保してそう
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