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異世界村長【書籍発売中】  作者: 七城
第1部 『異世界村長編』
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第11話:ハードルが高い


 トイレの件を話したところ、二人は諸手を上げて賛成していた。水浴びとか魚の採取、その他の有用性を挙げるまでもなかった。


「差し迫った問題だし、今から川まで行ってみよう」

「ここから川までは、東に3分程でした。あの時は慎重に歩いてきたので、距離的には100mくらいだと思います」

 

 念のため、みんなで武器になりそうなものを持ち、結界のきわに立つ。


「じゃあ、敷地の幅を最小の10mに設定して拡げるよ」


 私がそう問うと、佐々宮さんが即座に答えをくれる。


「10mの幅ですと、120m分の道が出来ますね」

「お、結構ギリギリな感じか」


 川がある方角に結界を伸ばすと、範囲内にある木々がスッと消えていく。土地の起伏は少ないみたいで、視界が開けたら、目視で川を確認することができた。これならなんとか届いているような気がする。


「こうやって見るとかなり近いですね。あのときはもっと距離があったような……」

「周囲の警戒をしながらだったしね、木々や植物で視界も悪かったし」

「なるほど、とりあえず川へ向おう」


 三人で川のほうへ進むと2分もかからず到着できた。結界の終点は、ちょうど川の向こう岸で終わっていた。日の出日の入りが日本と同じなら、川は北の方から南に向かって流れている。


「あれ、川の水は結界を通過するんだな」

「木々は消えたのに川はそのままなんて、どういう仕組みでしょう?」

「理由はわからないけど、この程度のご都合展開がないとやってられませんよっ」

「まあ良い結果が出たんだし、とにかく結界を固定するぞ」


 敷地の固定をイメージすると、今まで点滅していた結界がいつものように戻る。


 これで村の土地がかなり広くなった。家を中心に20m×20mの正方形の土地と、そこから東の川へ延びる10m×120mの長方形の土地だ。

 固定する際、家周りについては、円から正方形に形状を変えておいた。土地を少しでも増やすためだ。


「当分の間、水浴びや洗濯、トイレはこの川を利用しよう。幸い、水も綺麗そうだし流れもそこそこある。これなら上手く流れていくだろう」


(下流に住んでる人……もしいるんならごめん) 

 

 そんなことを思いながらも、しばらく川を眺めたあと家に戻った。



「川が近くにあって良かったよ。これで生活のストレスがだいぶ減る」

「ですね、安全地帯が増えたのもかなり安心感があります」

「この後はどうしましょう?」

「そうだな。佐々宮さんは、家庭菜園の整備を頼むよ。藤堂さんは、浴槽やバケツなんかに水を貯めておいてくれ」


 水源の確保ができたところで、さっそく次の行動に移る。はずだったんだが――。

 

「ところで啓介さん」

「うん?」


 突然、名前で呼ばれて驚いた。


「唐突ですが、これからお互いを呼び合うときは、名前にしませんか」

「私は別に構わないが、何か思うところでもあるのか?」

「気持ちとしては、もう少しお互いの距離感を縮めたいから。建前としては、ステータスの表記に合わせる。です」


(なるほどね、断る理由も別にないな)


「わかったよ、佐々宮さんもそれでいいのかな」

「はい。先ほど川で、桜さんとその話をしてましたから」

「じゃあ、これからは名前で呼ばせてもらうよ、椿さん、桜さん」


 少し気恥ずかしいが、そのうち慣れてしまうことだろう。今さらその程度で動じる歳でもない。


「あ、私たちのことは呼び捨てでお願いしますね。村長なんですし」

「なかなかハードルの高いことを言うね。まあわかった……。椿と桜、よろしく」

「よろしくね、啓介さんっ」

「啓介さん、よろしくお願いします」

    

 予期せぬ親睦会みたいになったが、昼食を済ませた後は各自の作業に戻る。私も自分の担当である薪拾いに向かった――。



(……距離感を縮めると来たかぁ)


 せっせと薪集めをしながら先ほどのやり取りを思い出す。ここは結界の外、もちろん周囲への警戒は怠っていない。


 桜は貴重な水魔法を使えるし、異世界知識も豊富だ。随所で的確なアドバイスもくれるし、発言にも媚びた感じがない。そしてなにより、あの極めて高い忠誠値がある。


 椿には農民という職業がある。後々、貴重な存在となっていくだろう。異世界知識はないが、頭の回転はすこぶる良い。今のところ自己主張は少なめだが、思慮深いとも言えるし協調性もある。


 今後、何人の転移者と遭遇するかは不明だが、二人のような人材はとても貴重だ。逆にロクでもない人間は沢山いそうだが……。


(アレについても今晩あたり話しとくか。これだけ信用があればたぶん大丈夫だろう……)


 なんだかんだと2時間くらいは薪拾いに専念し、家の軒下には結構な量の枝が集まった。「これだけあればいいかな」と、切り上げて家に戻ると、桜と椿が食糧の整理をしていた。


「ふたりともご苦労さま」

「あ、啓介さん、ここももう終わるとこですよ」

「言われたとおり、空き部屋に全てまとめておきました」

「そっか。ならちょっと早いけど、夕飯の準備をしちゃおうか」


 まだ15時だが、夜は電気もないので早めに動く。


「冷蔵庫にある肉とかタマゴとか、この際全部使おう。無駄にしちゃうと勿体ない。お米も炊いて、晩ご飯は豪勢にいこう」

「「おおー!」」


 毎回簡素な食事だったから二人とも喜んでいる。当然私もだ。


「火おこしはこっちでするから、二人は米とか肉の下処理を頼むよ。菜園の野菜も使っちゃおうか。あと、倉庫にダッチオーブンがあるから、炊飯にはそれ使ってくれ」

「重い鍋みたいなやつですか?」

「そうそう、見ればすぐわかるよ」

 

 薪は問題なく使えそうだった。自慢のファイヤースターターで種火を起し、簡易かまどを作っていく。


 ――さて、今晩は楽しい夕食になりそうだ。





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