第104話:16階層への挑戦
未踏破領域の探索がついに始まった。
16階層に降り立ち周囲を見渡す。――と、私を含め、全員がこれまでとの違いを感じていた。不自然なほどに天井が高いのだ。これはあたかも、この階層に潜む魔物が大型化していることを匂わせていた。
地上にいたミノタウロスの身長は約250cm。だが天井の高さからいくと、もっと巨大な魔物が出てきそうな雰囲気だった。
「急に洞窟の規模がデカくなったな」
「今のところ鑑定では何も引っかからないけど……。それにしても、これだけ天井が高いと、ドラゴさん飛べちゃうんじゃない?」
「じゅうぶん可能じゃな。裏を返せば、飛行する魔物が出てくる可能性もある」
「とにかく、しっかり陣形を確保して進みましょう。冬也くん先導よろしくね」
「打ち合わせ通り、4匹までならその場で対処します。みんなもそのつもりで」
「承知した!」「りょーかいっ」
冬也を先頭にして前衛陣が着実に歩を進めていくと、5分もしないうちに最初の広間が見つかる。学校の体育館くらいのイメージか。これなら大型生物でも余裕で動き回れそうだった。
広間の中央付近には4匹のミノタウロスがいて、なにやら固まって食事をしている風に見えていた。
「ミノタウロス、レベルは70~73、スキルは咆哮と斧術ね。――あらそれと、アイツらが食べているのは『オークの霜降り肉』だってさ」
「ってことは、オークもこの階層に出てくるんだな」
「下層にいるミノタウロスが獲物を狩りに上がって来た、ってケースも考えられますけどね」
「たしかにそうだ。階層を跨がないとは言い切れないわな。……んで、冬也どうする?」
「もちろん先制攻撃する。桜さんの魔法を合図に、前衛四人で一気に突っ込むぞ。そのあと、桜さんは村長のフォロー、秋穂は春香さんの援護を頼む」
「「「了解っ!」」」
返事を返す頃には、既に秋穂が付与魔法をかけ終わっている。
ミノタウロスの足元に向かって凍結系の氷魔法を放つと同時に、前衛の四人が飛び出す。私は一番奥にいるヤツが目標だ。
手前の3体は、座ったままの状態で拘束され藻掻いている。なんとか武器を取ろうとしているが、一瞬で間合いを詰めた冬也とドラゴにより、2体の首が飛んで消える。
少し遅れて春香が迫り一撃を入れようとするが、相手の斧に阻まれた。と、思った矢先、春香の影から秋穂が現れ、無防備な首を一閃してボトリと音がする。
残る1体と対峙する私だけ出遅れたカタチになった。
「村長! 丁度いいから1対1でやってくれ。どれだけ対処できるか確認する」
「危なくなったら助けてくれよ、なっ!」
そう言いながらミノタウロスの利き腕を狙い剣を振り下ろす。
「グオアァァァァ!」
盛大な悲鳴を上げるミノタウロス。その傍らには、武器を握る腕が転がっている。
それを黙って見ているほど余裕はないので、すかさずもう片方の腕も切りつける。魔力を纏った魔鉄の剣は、なんの抵抗もなく腕に吸い込まれ、切り返した剣を胸に一突きして相手の動きを完全に停止させた。
一度間合いを取り、倒れ伏した相手を見る頃には、全身が黒い靄に変化して魔石と肉だけがその場に残った。
「ふぅ、最初少し出遅れた。申し訳ない」
「あの1体だけ影になってたから仕方ないさ。躊躇ない立ち回りだったと思うぞ」
「村長よ、お見事じゃ」
「私も1体外しました。早く軌道変化を習得しないと……」
「そんな特訓もしてるのか。桜の向上心には恐れ入るよ」
そんな会話をしているうちに、警戒役のメリナードがドロップ品を回収してくれたようだ。
洞窟内での初陣にしては、まずまずの結果だったと思う。相手が油断してたとはいえ、4体同時に対処できることを証明した。
その後も、戦闘を繰り返しながら進んでいき、下層への階段を見つけたところで、今日の探索は終了となった。
ミノタウロスは広間にしか現れず、この階層での同時出現数は最大で4体。最初の戦闘がある意味クライマックスだった。たまにオークとも遭遇するが、今となっては何の支障もない。
◇◇◇
異世界生活220日目
東の森調査開始から7日目
今日で調査予定期間の半分が経過する。
最大の目的である『オーク出現の謎』については、ほぼ間違いないであろう程度には解明している。あとは、20階層までに出てくる魔物と、21階層以降に出現する魔物を確認すれば完璧なのだが……。
「この調子でいくと、あと5日足らずで21層に挑めるか微妙だよな。しっかりレベルを上げてからじゃないと、さらに強力な魔物がでた場合、全滅だってありうる」
現状、私以外はミノタウロスよりレベルが低い。有能なスキルの補正があるから相手に引けは取らないけど、できるだけ万全な状態で挑みたかった。
「啓介さん、調査期間をもう少し延ばすことはできませんか? 私も啓介さんの意見に賛成なので、しっかり戦闘経験を積みたいです」
「オレも出来ることならそうしてほしい」
桜と冬也が、滞在期間の延長を申し出てきた。
「村は椿たちがいるし、延長しても問題ないと思う。たださ、移民受け入れのことがなぁ……。そろそろメリマスが奴隷を集め終わってる頃だと思うんだよね」
「ああそっか、そうだよな。村長や春香さんがいないと、そのへんが全然進まないか……。人員補強も大事だもんな」
「ふたりともすまんな。どうせなら今回の調査で全容を把握したいんだけどね……」
「まあ仕方ありませんよ。ギリギリまで粘ってみて、それでもダメそうなら次回に再挑戦しましょう」
そんな感じで話も纏まり、「今日も頑張って挑もう!」と、朝食を摂っていたときだった。
『村長、早朝からすみません。今、少しよろしいですか』
さっき話題に挙げたばかりのメリマスが念話を送ってきた。
『おはようメリマス。私は全然大丈夫だけど、こんな時間に連絡とは、街で何かあったのか?』
『ええ、実は――』
どうやら、街の奴隷に関する話のようだ。
「どうせならみんなで聞こう」と思い、目の前にいる6人と椿にも繋げてから、詳しい事情を聴くことにした。




