第103話:攻略階層と魔物の関連性
1階層の探索を開始した私たち七人。
昼から潜りはじめたにも関わらず、すでに5階層まで到達していた。
「冬也くん、部屋の中にファイター3、アーチャー2よ」
「じゃあ桜さん、また頼みます」
「任せといてっ――」
部屋にいるゴブリンに向かって桜が氷の弾丸を放つ。極限まで出力を押さえた魔法でさえ、この程度の魔物は全て一撃で倒されていく。
これまでに出会った魔物は、ゴブリンや大猪、大蜘蛛といった低ランクのものばかり。4階層に進んでからは、ゴブリン上位種が出現するようになったが、種類もレベルも東の森ダンジョンと全く同じだった。
ダンジョン内部の構造も似通ったもの。巧妙な罠も無いことから、順調すぎるほどに攻略が進んでいく。メンバー全員、油断や慢心は皆無なのだが、それでも予想以上の進行速度を維持していた。
「おっ、ついにボス部屋発見だねー!」
「扉も解放されてますし、あそこの転移陣から地上へ戻れそうです」
「ダンジョン内でも、私の結界が張れれば良かったんだけどな」
「村長、それはさすがに欲張り過ぎだろ」
東の森ダンジョンでもそうだったが、敷地拡張を試しても何の反応もなく、スキルは不発に終わっていた。もしダンジョンでも結界が張れたら、安全な休息と物資転送もできたのに……とても残念だ。
「ダンジョン系の職業っていえば、『ダンジョンマスター』とか『魔王』だよねー」
唐突に、春香がそんなことを言い出した。たしかにダンジョンの支配と言えばその二つを連想するが――。
「オークが出現したのも、案外その日本人が原因だったりして……」
「ん-。完全否定はできないけど、ダンジョンから溢れたわけじゃないし、たぶん違うだろうな」
「ダンジョンマスターとか……わたし、ちょっと憧れるなー」
「春香はソレ系も好きだもんな。正直、俺も嫌いじゃない」
「はい! 雑談はそこまでにして、まずは地上に帰りますよ!」
万が一の事態に備え、全員が戦闘態勢をとった状態で転移陣を起動。桜が石柱に触れると、地面に転移陣が広がっていく。一刻の間があったのちに視界が一瞬ブレた。
「ふぅ……。問題ありません、1階層に戻りましたよ」
「なんとも言えん緊張感があったな。正直、ちょっとビビってた」
ダンジョン経験の少ない私は、階層転移に慣れてないのもあり緊張していたのだ。周りを見ると、みんなは割と余裕のある態度をとっている。メリナードはそんなに経験してないはずなのに……、いつもの落ち着いた表情をしていたよ。
「啓介さんはまだ転移に慣れてませんしね。――それより、肝心の転移できる階層ですけど……5階刻みで、25階層まで行けるみたいです」
「そんな深くまで攻略してたのか……。やはり、古代の獣人はかなりの力を持ってたんだな」
「普通に考えれば、25階層のボスがミノタウロス系の最強種、ってことでしょうね。それを討伐したから地上に湧くようになったと……」
「そして対処できなくなり……西へ逃げるしかなかった。そう考えるのが順当だな」
ここまでの状況からして、オークが地上に湧くようになった原因は、これでほぼ決まりだと思う。
ダンジョンの一定階層攻略により、新種の魔物が解放される仕組みだ。完全に決めつけるのは良くないが、少なくとも関連性は非常に高いはず。
「さあ、今日はもう切り上げて夕食にしましょう」
「そうだな。明日の予定はゆっくり食べながら話し合おう」
獣人領の硬貨発見に始まり、古代の獣人がこの地にいたことも判明、さらにダンジョンも見つけるという大発見祭りの一日となった。
どこまでも連なる大山脈を、古代の獣人たちはどうやって超えたのか。それは今だ謎のままだが――。
世界の秘密に迫る発見に、確かな手ごたえを感じていた。
◇◇◇
異世界生活219日目
東の森探索を開始して6日目
昨日のダンジョン探索により、5階層までの内部状況を確認。村近くのダンジョンと酷似していることが判明する。
一定階層のボス攻略をすると、そこまでに出現した魔物が地上に湧く。これについても、ほぼ間違いないと考えていた。
ただそうなると、2つの懸念事項が浮き彫りになってくる。
ひとつ目は『解放された魔物が湧く範囲』についてだ。攻略したダンジョン周辺のみに湧くのか、それともかなり広範囲にわたって湧くのか。
ケーモス近郊のオーク目撃事例は、今のところ攻略が進んだダンジョンの周辺だけ。そこから徐々に広がっていく可能性もあるけど、いきなり広範囲に湧くわけではないようだ。
とはいえ東の森ダンジョンは、5階層のボスすら攻略されていなかった。それでも周囲にはオークが闊歩している。
この事実から導かれるのは、『ダンジョン周辺に湧いた魔物も、いずれは広範囲に移動する』ということだ。これについては、首都や人族領の情報が届き次第、総合的に判断するのが最良だろう。
そしてふたつ目は、『どの階層に、どんな魔物が出現するのか』。
強力な魔物を解放してしまえば、戦う術を持たない者の未来はない。魔物に対抗できる一部の強者がいても、全ての生活圏を守るなんてことは到底無理な話だ。結界に覆われているとはいえ、あまりに強力な魔物が付近をうろつく、なんて状況はよろしくない。
幸いにも、と言う表現はいささか不謹慎かもしれないが……。
遺跡のダンジョンは25階層まで解放されている。このダンジョンを調べ、出現する魔物の種類を把握し、自分たちが有効利用することに決めた。
◇◇◇
午前中のうちに、6層から15層までの調査は完了している。
6階層でオークを確認したのち、11階層でオーク上位種の出現を確認、そのあと15階層まで到達。さすがに全階層を順に、ってのは時間がかかり過ぎる。なので転移陣を利用し、魔物の種類を確定することに重点を置いた。
遺跡ダンジョンに出てきた魔物は、種類も出現階層も、東の森ダンジョンと全く同じ。おかげで何の苦も無く調査を済ませていたよ。
「午後からは16階層への挑戦です。ここからは未知の領域なので、1層ずつ着実に進んで行きますよ」
いまは昼食を摂りながら、桜の攻略指針を聞いているところだった。
「順当にいけば、出てくるのはミノタウロスだよな」
「そのはずですけどね……。不測の事態も視野にいれて、万全の状態で挑みたいです」
「だったら、皆のステータスを再確認しておこう。味方の情報を正確に把握するのも大事なことだろ?」
「たしかに啓介さんの言うとおりです。情報共有してから出発しましょう」
ついに始まる未踏破のダンジョン攻略。
互いの能力を確認し合い、装備の最終点検を進めていった――。
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啓介 Lv75
職業:村長 ナナシ村 ★☆☆
ユニークスキル 村Lv9(129/2000)
『村長権限』『範囲指定』『追放指定』
『能力模倣』『閲覧』『徴収』
『物資転送』『念話』『継承』
村ボーナス
★ 豊穣の大地
☆☆ 万能な倉庫
☆☆☆ 女神信仰
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冬也 Lv67
村人:忠誠99
職業:魔剣士
スキル:魔剣術Lv2
剣に魔力を纏わせることが可能となる
体に魔力を纏わせ身体能力を向上する
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桜 Lv66
村人:忠誠99
職業:魔導士
スキル:水魔法Lv4
MPを消費して威力の高い攻撃する
飲用可 形状操作可 温度調整可
スキル:氷魔法Lv2
MPを消費して氷を勢いよく放出する
スキル:火魔法Lv2
MPを消費して火を勢いよく放出する
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春香 Lv63
村人:忠誠99
職業:上級鑑定士
スキル:上級鑑定Lv2
対象を目視することで全てのものを鑑定可能
通常鑑定よりも詳細な鑑定が可能となる
自身に対する鑑定を完全に阻害できる
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秋穂 Lv63
村人:忠誠98
職業:巫女
スキル:治癒魔法Lv4
対象を目視することで、
MPを消費して傷や状態異常、病気を治癒
スキル:付与魔法Lv2
自然回復付与:継続して徐々に傷を治す
身体強化付与:継続して身体能力を強化
※レベル上昇に伴い効果と継続時間が向上
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ドラゴ(ドラグニアス) Lv60
村人:忠誠90
職業:竜闘士
スキル:竜闘術Lv2
竜の力:竜気を纏い全身を強化する
竜の血:竜気により回復を促進させる
竜の翼:翼による飛行が可能となる
竜の咆哮:竜気を放出して攻撃する
※スキルレベル上昇により各効果が向上
大地神の加護
・竜気の吸収速度が大幅に向上する
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メリナード Lv55
村人:忠誠99
職業:商人
スキル:空間収納Lv3
異空間に物を収納できる。※生物不可
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